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OCDコラム

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これもOCD(強迫性障害)? Vol.2
~読み書きの場面での強迫症状、質問癖、強迫性緩慢ほか


前回にひき続き、強迫性障害の症状のさまざまな現れ方についてご紹介します。
まず、読み書きをするときに強迫症状が現れる場合、知りたいという思いから生じる行為が過剰となる場合、メモやデジタルカメラなどで過剰に記録する場合を紹介します。
そして、書籍『僕は人生を巻き戻す』の主人公を例に、やり直しの強迫行為、頭の中の考えだけの強迫行為、頭の中の強迫行為によって動作がゆっくり見える強迫性緩慢(かんまん)を取り上げます。


目次
§1 読み書きの場面での強迫症状と問題点
§2 知りたい行為が過剰
§3 メモ、デジカメなどによる記録が過剰
§4 時間を巻き戻すために階段を後ろ向きで降りる
§5 頭の中の強迫行為と強迫性緩慢
§6 まとめ


§1 読み書きの場面での強迫症状と問題点

強迫症状があるため、本を読むことが苦手という人は珍しくありません。本を読むときに気になってしまう内容は人によってさまざまですが、「何度も同じところを繰り返し読んでしまい、なかなか先に進むことができない」という話を、患者さんからよく聞きます。何でもない言葉でもきちんと正確に理解できているか、重要なところを読み落としていないかなどが気になる人もいれば、1ページ読んだら、念のためにもう一度1行目に戻らなくてはならないというルールを自ら課している人もいます。

文字を書く際も、きちんと書けているか気になって、書いては消して、消しては書いてを何度も繰り返してしまう人もいます。そのために、紙が破れてしまいテスト中に、困った体験をした人もいます。

また、授業中、黒板の字を写すときに、自分で定めた儀式により間に合わない人、書きそびれた部分があると、その部分が大事なことであるように思い、気になって気になって仕方がないという人もいます。

このような強迫症状を児童や生徒が抱えていると、本当は十分な学力があっても、テストの結果に正しく反映されず、低い評価になってしまうことがあります。また、知能検査でも同様で、強迫症状によって本来の能力が発揮できないと、IQが低くみなされてしまい、動作に時間がかかることや成績が悪いことすべてが、知能的な遅れが問題であると誤解されてしまうことがあります。


§2 知りたい行為が過剰

好奇心や知識欲から知りたいのではなく、「大事なことを聞きもらしてしまうのではないか」「知っていないと大きな損や後悔をするのでは」という思いが過剰(強迫観念)で、何でも知りたがるという人がいます。強迫行為としては、本やインターネットで調べる、人に聞く・質問する、電話で問い合わせる、知りたいことに関連した情報を大量に集めるなどが限度を超えて行われます。

例1:知りたい行為が過剰なケース
薬品や洗剤などの安全性が気になり、メーカーなどに問い合わせているうちに、「もしかしたら……こんな場合はどうなるのだろうか?」「別の場面では違うのだろうか?」などと次々に疑問が湧いてきて、何度も同じような質問や問い合わせをしてしまいます。しかし、いくら質問を繰り返しても納得も安心も得られません。質問の多さから相手の人に不審がられると、よけいプレッシャーを感じて苦しくなってしまいます。


§3 メモ、デジカメなどによる記録が過剰

確認の強迫行為のために、メモやデジカメ、コピーを使って過剰に記録を残す人がいます。後で強迫観念が生じて不安になったときに、これらを見返せば安心できるからです。ほかには、買い物のレシートを持ち帰る目的がきちんと料金を払ったことの証明として、後々確認したいという人もいます。

また、先ほど述べましたように、知りたい行為が高じて、メモやデジカメで記録を残すことまで過剰になる人もいます。さらに、記録した紙類を整理できなかったり、捨てることが苦手だったりするため、どんどん溜めこんでしまう人もいます。


§4 時間を巻き戻すために階段を後ろ向きで降りる

『僕は人生を巻き戻す』[1]というノンフィクションがありますが、その主人公であるアメリカに住むエド・ザインさんは、自分のした動作を完璧に覚えていて、まるでビデオを逆回しするように、その動作をやり直さなくてはいられないという強迫症状に悩まされていました。

彼は高校時代から、ビデオで気に行ったシーンを何度も巻き戻して見るようになりました。11歳のときに母を亡くした体験から、彼は死(Death)という言葉を避けるようになります。ビデオを見ていて、登場人物が「Dのつく言葉」を話す場面があると、その場面が偶数回映し出されるように巻き戻すという儀式をするようになりました。ほかには、道路を左折することが不吉であると感じできなくなりました。本を読むときにも強迫症状が現れるといいます。

やがて、彼は、“時が流れる先に「死」がある”と考えるようになり、時間を巻き戻すために、日常、行った動作を、もう一度完璧に巻き戻すという儀式を行うようになりました。たとえば、階段を上ったら、そこから同じ姿勢で後ろ向きに階段を下りなければなりませんでした。40キロの道のりを後ろ向きのまま早足で歩いて戻ったこともありました。まるでビデオを逆回転させたかのような動作です。40キロを後ろ向きで歩いたときは、夜の7時から歩き出し帰ってきたのは明け方近くだったそうです。

彼は、次第に自宅の地下室に閉じこもるようになりました。歯磨きやシャワーをするにも、歯ブラシに置いた指の位置や動かし方など、正確に記憶し巻き戻すように再現しなくてはいられず、ついに歯磨きもシャワーもできなくなってしまいました。

その後、エド・ザインさんは、マイケル・ジェイクという一人の医師との出会いをきっかけに、自らのOCDを克服していきました。

エド・ザインさんほど、一度行った行為を過剰にやり直そうとする強迫行為をもっている人は少ないかもしれませんが、部分的には似た症状を抱えている人はいます。

例2:やり直しの強迫行為
日常生活のさまざまな動作を何度も同じ手順でやり直したくなります。たとえば、ドアの開閉や食器をテーブルに置くとき、容器のふたを閉めるときなどに現れます。
自分の日常的な動作を、細かい動きまできちんと記憶しないといけないと思ってしまいます。
自分の動作に対して、「これでいいのか」「どこか間違っていないか」と常に気にして、実際に動作へ移すまでに時間がかかる。また、自分の動作に対する自信のなさから、やり直したくなってしまうことがあります。

明らかな失敗というわけではなく、不安が強いとも限らないのに、何度も同じ行動を繰り返したいという衝動が強くなってしまう場合がありますが、これは他人から見ると、なぜそんな行動を繰り返すのかわかりにくく、本人にとっても、行為をコントロールできずに苦しむことになります。


§5 頭の中の強迫行為と強迫性緩慢

動作をやり直すという強迫行為を、主に頭の中で行っている人もいます。例2で紹介したようなことを、頭の中でシミュレーションしたり、きちんとできるようにあれこれ考えたりしているので、実際の動作を行うまでに時間が非常にかかります。このような様子は、他人から見ると動作にとりかかる動きが、とてもゆっくりしているように見えてしまうので、強迫性緩慢(かんまん)といいます。運動機能が損なわれているわけではないので、強迫症状にとらわれていないときの動作の速度には問題ありません。

また、以前のコラムで、目に見える強迫行為がない、頭の中の考えによる強迫症状である「強迫思考」を紹介しました(第75回コラム)。「強迫思考」「強迫観念」「頭の中の強迫行為」と似たような言葉なので、どう違うのかと不思議に思う人もいるでしょう。簡単に解説していますので、ご参考ください。

強  迫  観  念――
意識してではなく自動的に繰り返し思い浮かんでしまう嫌な感情を伴った考えをいう
頭の中の強迫行為――
強迫観念を打ち消そうとしたり、それから逃れて安心を求めるために、自分で意識して行う考えをいう

強  迫  思  考――
頭の中で強迫観念と強迫行為とが繰り返されているもの

例3:頭の中で行う強迫行為
頭の中で悪い考えや記憶(強迫観念)を打ち消そうとする
悪いことが思い浮かんだら逆によいことを思い浮かべる(中和
頭の中できちんとできているか確認する(メンタルチェッキング
頭の中で自分の決めたルール・儀式を行う、呪文を唱える
頭の中で数・回数を数える
頭の中で今までにしたことのある気になる動作を繰り返す。今後の動作がうまくいくように頭の中でシミュレーションする

また、外見からわかる強迫行為オバート)と、外見からはわからない頭の中での強迫行為カバート)とに分ける考え方もあります。OCDの患者さんは、どちらの強迫行為も抱えている人が多数です。頭の中の強迫行為(カバート)のみという人は少数派です。[2]

【加害不安の場合】
自動車を運転していて、実際には何もぶつかっていないのに、もしかしたら何かと接触したのではという強迫観念が浮かんできたとします。そのときの強迫行為を、カバートとオバートとに分けると次のようです。
□そのまま運転を続けるが、頭の中で何もなかったか何度も思い返して確認する
――目に見えない強迫行為(カバート
□気になって実際に現場に戻って確認してしまう
――目に見える強迫行為(オバート

【中和の場合】
歩いているときに縁起が悪いと思っている左側を通ってしまった。
□次は右側を通らなければいけない――目に見える強迫行為(オバート
縁起の悪い考えが頭をよぎった。
□逆に縁起のいいことを思い浮かべる――目に見えない強迫行為(カバート

ここで述べている「オバート」や「カバート」「強迫性緩慢」という言葉は、患者さんの外見から見た状態を表すものです。

OCDの患者さんの家族は、外見からわかる強迫行為については、それを目にするたびに「止めてほしい」「どうにか症状が軽減してほしい」と思います。一方、頭の中の考えによる強迫症状については、理解しにくいため見落とされがちです。しかし、OCDの症状は人によってさまざまで、目に見えようが見えなかろうが患者さんを深く苦しめている場合があります。


§6 まとめ

OCDの患者さんの家族は、外見からわかる強迫行為については、それを目にするたびに「止めてほしい」「どうにか症状が軽減してほしい」と思います。一方、頭の中の考えによる強迫症状については、理解しにくいため見落とされがちです。しかし、OCDの症状は人によってさまざまで、目に見えようが見えなかろうが患者さんを深く苦しめている場合があります。

OCDの場合は、精神的な苦痛や不安を伴い、苦痛や不安を解消して安心したいがために行ったり、繰り返す必要がないのに繰り返したいという衝動が止まらなかったりといった強迫的な心理状態から、このような行為を行います。

このような心理状態は、OCDの患者さんに共通する傾向にあり、今回紹介した症状と同じ体験をしたことがなくても、気持ちはわかるという人も少なくないと思われます。

また、今回取り上げた症状のなかに、「私にも当てはまる」「今までこういう症状に悩むのは自分だけかと思っていた」と思ってもらえ、少しでも心が軽くなることがあれば、今回のコラムを企画してよかったと思います。


*参考文献
[1] テリー・マフィー[著]、仁木めぐみ[訳]『僕は人生を巻き戻す』文藝春秋(2009年)
[2] 原田誠一[編]『強迫性障害治療ハンドブック』金剛出版(2006年)p22、Y-BOCS症状評価リストp381-383