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トラウマとOCD(強迫性障害)


犯罪、事故、災害など、予想もしない出来事に出合うと、心に強い衝撃を受けることがあり、そのようなことから、トラウマとなり精神疾患に至ることがあります。昨年の東日本大震災直後から、トラウマの問題は震災関連の心のケアの重点課題となっています。
トラウマによる精神疾患の代表的なものにPTSD(心的外傷後ストレス障害)がありますが、PTSDとOCDとは共通する面があり、治療者がトラウマ体験の有無を聞いていないと区別が難しい場合もあります。今回のコラムでは、それらの点についてまとめました。


目次
§1 トラウマとPTSD
§2 PTSDとOCDの似ている点、区別が難しい点
§3 身体の症状
§4 PTSDなどトラウマの焦点をあてた治療


§1 トラウマとPTSD

犯罪や事故、災害といった生命の危機を感じる出来事に遭遇すると、心は強い衝撃を受けます。それほど衝撃が強くなければ、通常、人は何とか自力で回復していくことができますが、あまりにも衝撃が強く、これまでの方法では回復が難しいほど心に傷を負ってしまうことをトラウマ(心的外傷)といいます。

そのようなトラウマを負うことによって、精神疾患となる人もいます。その代表的なものが急性ストレス障害(ASD)心的外傷後ストレス障害(PTSD)です。

ASDは、衝撃的な体験後、ただちに症状が現れ(4週間以内)、2日~4週間続いた場合です。一方、PTSDは、症状が1ヵ月以上続いた場合に診断されます。症状については、後で詳細に述べますので、そこを参照してください。また、その他にも、トラウマによってうつ病不安障害アルコール関連障害へとつながることがあります。[1]

アメリカでの調査によると、トラウマ体験は、人口の約60%の人が一生のうちに一度は出合うそうです。アメリカでは、軍隊での戦争体験によってトラウマを負った人も含まれています。しかし、トラウマを体験した人のすべてが、心の病気となるのではなく、何らかの方法でいつの間にか解消されている人も少なくありません。アメリカでのPTSDの発生率は、8~14%です。[2]

トラウマによってPTSDになる人とならない人がいますが、その違いは、その人の性格の弱さに起因すると断定できるものではありません。トラウマやPTSDに対する知識をもたないがゆえの誤解によって、二次的に精神的な被害を受けてしまう人もいます。それよりも、PTSDにさせないためには、トラウマ体験をした後、「信頼できる人が身近にいて、支えてあげることが大事」であると認識することが必要です。[3]

世間では、トラウマという言葉が、広い意味で使われることがあります。たとえば、「中学生のころ、みんなの前で、失敗をしてすごく恥ずかしい思いをした」という体験をトラウマと表現する人もいますが、そのような体験は診断基準に照らし合わせた場合、トラウマではありません。

現在のトラウマの診断基準では、「生命の危機にさらされるような犯罪、事故、災害、戦争の体験や、性的な暴行」などの体験によるものです。

もちろん、この診断基準以外のつらい体験でも、精神への影響が深刻な場合があります。たとえば、家庭での虐待やいじめに、長期間さらされた場合などを複雑性トラウマと呼んだり、診断基準のすべてではないが、部分的に該当する場合を部分トラウマと考え、治療が必要であると唱える専門家もいます。[4][5]

PTSDの主な症状:[1]

①再体験

出来事に関する映像、記憶、知覚が、自分の意に反して、繰り返し襲ってきて、思い起こしてしまう。
恐ろしい光景が夢に繰り返し現れる(小さい子の場合、内容がはっきりせず、出来事と関連した恐ろしいイメージである場合もある)。
出来事が再び起こっているかのような感覚、フラッシュバック(*1)が起こる。

②回避・感覚の麻痺

トラウマと関連した考え、感情、人物、場所を避けようとする。
トラウマに関する重要な場面が思い出せない。
自宅以外での活動を避ける。他人との接点が減り社会から孤立する。
愛情など肯定的な感情や将来への期待を抱きにくくなる。

③覚醒亢進

なかなか眠れなかったり、十分な睡眠が取れなかったりする。
イライラしたり、怒りやすくなったりする。
物事に集中することが困難になる。
警戒心が過剰になり、ささいなことにひどく驚く。

PTSDは、上記の症状によって、精神的な苦痛が激しく、日常生活に著しく支障をきたしている場合をいいます。


§2 PTSDとOCDの似ている点、区別が難しい点

PTSDの症状には、OCDと似ている部分があります。そのため、本人からトラウマ体験の有無を聞いていないと、現れる症状を見ただけではPTSDかOCDかの区別が難しい場合もあります。

繰り返される嫌な記憶と感覚
自分の意に反して、PTSDでは、事件の記憶や映像が、意識にひんぱんによぎったり、フラッシュバックとして突然、再び同じ体験をしたような感覚に襲われたりします。

OCDにおける強迫観念も、本人の意に反して、繰り返し思い浮かんできて気を紛らわすなどコントロールができないものなので、その点がPTSDと共通しています。

しかし、一般的なトラウマによる再体験では、映像が突如として現れ、鮮明で再体験しているかのような強い感覚が伴うことが多く、その点が強迫観念とは異なります。

回避
PTSDの患者さんは、原因となった出来事を思い起こしそうな場所、人物を避けるようになります。たとえば、男性に被害を受けた女性が、似たような背格好の男性を警戒し避けるようになったり、夜間、事件に遭った人は、夜の外出を避けたくなります。このような行動は、被害の状況によっては無理もない面があります。

しかし、人によっては、回避が過剰となり、成人の男性はすべて恐ろしいと感じてしまう、17日につらい出来事を体験したから17という数字がつくものはすべてダメになる、N市で嫌なことが起こったので、N市に住んでいる人はみんな嫌いとなってしまうことがあります。そうなると、より強迫的な症状となり、現実の生活に支障をきたす範囲も増してきます。

確認への影響
たとえば、背後から人に襲われた経験をもつと、自分の後ろに誰かいないか頻繁に確認をしたり、部屋の戸締りがしっかりできているか何度も確認するようになることがあります。このような行動も強迫行為と似ています。

洗浄への影響
たとえば、性的な被害を受けた人が、そのときに着ていた服をすべて捨てようとしたり、自分の体が汚れたような気がして、それ以降、洗浄の行為が過剰になることがあります。これも強迫症状に似ています。

出来事を連想される場所、それに通じるようなものはすべて汚れていると感じて、過剰に洗ったり、遠ざけたりしないではいられなくなる人もいます。

他者への告白と理解
他者からは、症状がわかりにくいという点もPTSDとOCDは共通しています。人に打ち明けにくい面も両者にはありますが、とくにトラウマ体験は、事件や被害の内容によっては、よほど信頼できる人にしか話せないことも多く、家族にも話せずに1人で苦しみを抱えていたということも珍しくありません。
どちらも警戒心が強くなる疾患ですが、トラウマ体験が事件など人間を介して起こった場合、他人への警戒心が強くなります。そのような理由からも、患者さんは治療者に強迫的な症状については話せても、つらかった出来事そのものについては話せないということもあります。


§3 身体の症状

PTSDの症状に、夜間に十分な睡眠が取れないというものがあります。日中も気分がふさぎ込み、引きこもり気味の生活になり、活動への意欲や食欲も低下するため、うつ病・抑うつ状態と似た症状も起こり、うつ病を併発することがあります。

また、PTSDでは、恐怖に対して敏感になってしまうため、すぐに心臓がドキドキしたり、体が緊張しやすくなります。

恐怖に襲われると、発汗、震え、息苦しさなど身体的な症状が現れる人もいます。そのため、パニック障害を心配する人もいます。しかし、OCDでもPTSDでも、身体的な反応が現れることは珍しくありません。

パニック障害の診断基準では、OCDやPTSDなど他の不安障害として説明できるものは除外することになっています。

また、パニック障害の発症頻度は、女性は男性の3倍であるということがわかっています。[6]女性のほうが、不安障害による身体的な症状が現れやすい傾向があります。


§4 PTSDなどトラウマに焦点をあてた治療

トラウマ体験によって大きな衝撃を受けてから概ね1カ月間は、精神的に影響を受けてしまうことは自然なことです。この時期は、信頼できる家族や知人による支えとともに、適度に距離を置いた見守りが大切であり、急いで治療や介入をするべきではないといわれています。

しかし、トラウマ体験をして強迫的な症状が見られる人は、トラウマ体験から年月がたっている場合が大半です。そのため、ここでは、まずPTSDの治療法を簡単に紹介します。

薬物療法
PTSDについてのイギリスのガイドライン(*2)では、PTSDは薬物療法だけで完治するものではないが、精神療法を行う上で、薬物療法が必要な場合には使用するようにと書かれています。[7]

抗うつ薬:SSRI、NaSSA、三環系抗うつ薬。(*3)
睡眠薬:トラウマによる睡眠の障害を抱える人への催眠作用として使用する。

精神療法
治療効果が科学的に検証されているのは次の2つです。どちらも、嫌な過去の記憶に関連することに、あえて直面していくという点が共通しています。

認知行動療法持続エクスポージャー(持続曝露療法、PE)という技法が中心となります。持続エクスポージャーでは、あえて、つらいトラウマ体験を患者さんにできるだけ詳しく語ってもらい、想像のなかで直面する想像型エクスポージャーを行ったり、回避をしているつらい体験を想起させる場所や物に、実際に接近していく現実型エクスポージャーを行ったりします。
眼球運動による脱感作と再処理(EMDR)*4):治療者が、患者さんの眼の前で指を一定の速度で動かし、患者さんがその動きを目で追う眼球運動を行いつつ、トラウマ体験を思い出して語っていくという精神療法です。

PTSDの治療は、OCDの治療と共通する部分も多く、適切な治療が行われれば、寛解が期待できます。

しかし、日本では、抗うつ薬も精神療法も、PTSDの治療として正式に保険診療が認められているものはありません。そのため、日本では、PTSDと診断がついても、うつ病・うつ状態などの病状に対して抗うつ薬が処方されているようです。抗不安薬は、PTSDのような不安障害(神経症)に広く処方できることもあり、使われることがあります。

ここではイギリスのガイドラインを元にまとめましたが、そこにはトラウマ体験から1ヵ月以上たつ場合、トラウマに焦点をあてた認知行動療法は、1回あたり通常90分を要し、それを8~12回行うと書かれています。[7]

持続エクスポージャーは、十分な時間をかけて行う必要があるためですが、このように時間をかけて行う治療は日本の通常の外来診療では困難なのが実状です。PTSDへの持続エクスポージャー(PE)やEMDRも、専門家向けの研修が行われ、徐々に日本でも普及しつつありますが、実際に患者さんに対処できる専門家は限られます。

また、トラウマ体験がきっかけとなって、強迫症状が現れている場合、PTSDとOCDの治療は共通する部分があるため、薬物療法としては抗うつ薬、精神療法としてはエクスポージャーを患者さんの状況に合わせて用いることができると理想的です。しかし、OCDとPTSDの双方の精神療法ができる専門家を探すのは、極めて難しいのが現状です。

昨年の東日本大震災のような大きな災害があると心のケアが問題となり、さまざまな心理的な支援が行われるようになりました。しかし、トラウマ体験は、日々報道されるような事件・事故によってもダメージを被害者にもたらすことがあり、人知れず、悩んでいる人がいます。人に話したくない、思い起こしたくもないというトラウマの性質上、PTSDの方々が治療の普及を訴えて声を上げることは難しい面があります。しかし、PTSDの治療を必要としている人は決して少なくありません。したがって今後、適切な治療が普及し、多くの人の手が届くものになってほしいと切に願います。


*注釈

*1
フラッシュバック――過去のトラウマ体験が、本人の意図とはかかわりなく、カメラのフラッシュのように瞬間的に、鮮明に思い出され、それが実際の感覚とはかい離して、現実に起こっているかのように映像や感覚によって体験されるもの。
*2
イギリスのガイドライン――イギリスでは医療、保健を国営の国民保健サービス(NHS)として行っている。NHSでは、疾患ごとに治療効果のデータを集積し、その根拠(エビデンス)を元に有効な治療法を検証している。そして、専門家によって、疾患ごとにガイドラインが作られ、公開されている。http://www.nice.org.uk/
*3
SSRI、NaSSA、三環系抗うつ薬――これらは、精神科の治療で使われる抗うつ薬の種類である。イギリスではそれぞれ、パロキセチン、ミルタザピン、アミトリプチリンが使われている。ただし、日本ではPTSDに対する保険適応はされていない。
*4
眼球運動による脱感作と再処理(EMDR)――PTSDでは、トラウマとなった出来事の記憶が脳でうまく処理されていないために、症状が生じると考えられる。EMDRでは、治療者が指を一定のリズムで動かし、それを患者さんが見ながら、トラウマの体験を思い出していき、それによって患者さんのなかで、記憶の処理が進むと考えられている。日本EMDR学会のホームページに、EMDR治療者リストが掲載されている。http://www.emdr.jp/


*参考文献
[1]American Psychiatric Association[著]、高橋三郎、大野裕、染矢俊幸[訳]「DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引 新訂版」医学書院(2003年)
[2]エドナ・フォア、エリザベス・A・ヘンリー、バーバラ・O・ロスバウム[著]金吉晴、小西聖子[監訳]「PTSDの持続エクスポージャー療法」星和書店(2009年)
[3]水島広子[著]「対人関係療法でなおすトラウマ・PTSD」創元社(2011年)
[4]飛鳥井望[監修]「PTSDとトラウマのすべてがわかる本」講談社(2007年)
[5]飛鳥井望[著]「PTSDの臨床研究 理論と実践」金剛出版(2008年)
[6]貝谷久宣、山中学、梅景正「不安と抑うつ-パニック性不安うつ病の疫病概念」日本女性心身医学会雑誌 Journal of JSPOG,Vol. 7, No.1, pp.108-114, (2002年)
[7]NICE Guideline: Post-traumatic stress disorder (PTSD) (CG26) (2005年)