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OCDコラム

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東日本大震災~そのときOCDの患者さんは


2011年3月11日に起きた東日本大震災は、未だかつてない大きな犠牲と被害をもたらしました。今もなお福島第一原子力発電所の事故による放射線の問題は解決途上にあります。これら一連の天災、人災が、人々の精神に与えた影響ははかり知れません。
このコラムでは、被災地での精神面での人々への影響と支援、その周辺地域でのOCDの方々の体験などをまとめました。


目次
§1 被災地~精神面への影響と支援
§2 被災地以外の地域~OCDの患者さん
§3 放射線の問題
§4 あとがき


§1 被災地~精神面への影響と支援

東日本大震災の直後に起こった津波では、沿岸部の多くの人々は生死に関わる危機にさらされ、身近な人々、家屋、職場などを失いました。非常に辛い体験です。このような体験は、身体的にも精神的にも、経済的にも深刻な影響を与えました。

この後、さまざまな支援活動が行われましたが、精神面については、地域の医療機関、保健所などとともに、各地から派遣された専門家を含む心のケアチームによる支援活動が行われました。

心のケアチームは、精神科の医師、看護師、保健師、心理士、精神保健福祉士などの専門職が、地元の関係団体と連携してチームを作り、被災した各地を訪問して支援活動をしてきました。それらの報告[1,2]などから、東日本大震災が与えた精神面への影響を、時の経過とともにまとめます。

【震災直後】
震災直後は、まず自分や身近な人の命を守り、安全を確保することが第一でした。
未だかつて経験したことがない大災害であり、津波の後も余震がひんぱんに起こり、3月とはいえ、寒さも厳しく、不安でつらい日々を過ごされたのだろうと思います。

【しばらくして】
その後、地域の人々には、失ったもののあまりの大きさや、厳しい災害によってもたらされた悲しみなどのつらい感情、ストレスも非常に大きなものとなっていきました。このような状況から、不眠、抑うつ、急性ストレス障害(ASD)(*1などの精神症状が現れる人もいました。

急性ストレス障害とは、生死に関わるような出来事によって大きなストレスを受け、不安が高まり、精神が不安定になったり、不眠になったり、恐ろしい光景が意識に繰り返し湧き起こり、苦痛を感じるというものです。恐ろしい場面は、夢に現れることもあります。

また、悲しみや恐怖を連想させるものに対する感覚が過敏になったり、落ち着かずイライラする時間が増えたりします。今回のような大きな出来事に遭遇すると、悲しみがあまりに強く、泣くことすらできないことがあります。しかし、しばらく時間がたつにつれ、涙が止まらなくなってしまうこともあります。

この期間は、テレビの報道番組で、災害の様子が何度も映し出され、それを見ることで、つらい記憶を思い起こしてしまう人もいました。このような映像に少しでも苦痛を感じる人、特に小さなお子さんは、それらを放映する番組などは見ないほうがよいようです。ラジオのような音による情報のほうが、苦痛を呼び戻す恐れは少なくなります。

大きな余震がいつ起こるかもわからず、着の身着のまま避難所で生活している状況では、不安が高まったり、熟睡が困難になることは、どなたにでも起こりうることです。まして、震災前から精神的な疾患を抱えていて避難所のような特殊な環境で生活することが困難な人は、不安や不調が重症化する可能性が高くなります。

医療機関や役所などが被害を負って、機能するまでに時間がかかったところも数多くありました。また、被災者支援に従事する自治体の職員も、自分自身が被災者だったり、家族を亡くしたりしている方もいました。このような方は、職責と個人の思いの間で心が大きく揺れ動いたことと思います。かつてない惨状を目撃したことによる精神の不調を抱えている人もおり、精神的なケアが必要となるケースがありました。

医療機関が十分に機能しないという事実は、そこを利用している人々に不安をもたらし、心身に影響を及ぼしました。精神科を受診している患者さんのなかには、普段から飲んでいる薬の入手が難しくなったりもしました、このようなケースに対応するのも心のケアチームの仕事で、避難所の巡回、訪問診療など医療的な活動が行われました。

【震災後 数か月が過ぎるころ】
このような災害後の精神的な不調が長期に及ぶと、精神的な疲労がたまり、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)(*2)、アルコール依存といった精神疾患につながることもあります。そのため、それぞれの病気に即した予防や、早期発見をして専門家につなぐ精神保健の活動が大切となっているそうです。


§2 被災地以外の地域~OCDの患者さん


今回の地震では、関東などでも、震度6、5を記録し、火災や液状化、家屋の倒壊などの被害があった地域もあれば、鉄道が夜遅くまで止まり帰宅困難者が多数生じたなどさまざまな被害がありました。その後も、ひんぱんに起こる余震、原発事故の問題など、人々への不安は、長期に及びました。

「この震災をきっかけに、精神面に影響があった」という声は、多くの人から聞かれました。ここでは、OCDの患者さんが東日本大震災の体験から感じたことをご紹介します。
  • 不眠
  • 緊急地震速報の音を聞くたびに怖くなった
  • 強迫症状が増した
  • 抑うつ(以前からうつ症状を併発している人が重くなったケースも含む)
  • 精神状態が不安定になり、不安にとらわれることが増えた
  • 強迫症状に家族を巻き込むことが増えた

東日本大震災後、自分も何か役に立ちたいと思った人も多かったようですが、OCDの患者さんのなかには、支援したいという思いをもつ一方、仕事や日常生活も十分にできない自分の状態を振り返り、情けなくなってしまったり、自責の念を感じたという人もいました。ある人は、自分ができることとして、家族を危険から回避させるためにと、インターネットで情報を集めているうちに、その行為を止めることができなくなり、不眠になってしまったそうです。

このようにOCDの患者さんのなかには、不安が伴うと、コントロールが効かなくなってしまう場合があります。

また、震災後、全国で被災された人々に配慮して自粛ムードが過剰になった時期がありましたが、ある人は強迫思考へのとらわれもあり、被災された人に反感を持たれそうな考えや雑念が頭の中でふとよぎっただけで、申し訳なく思い、苦しくなってしまったそうです。実際には被災された人が気にしないような事柄でも罪悪感を覚えてしまったようです。

震災後、不足が懸念されるガソリンや日用品の買い占めが問題になりましたが、トイレットペーパーなど強迫行為で、大量に使うものを、入手することが大変だったという声も聞かれました。OCDの患者さんのなかには、症状が重く自宅にこもりがちな人も多く、計画停電が、強迫行為に影響を及ぼし大変だったとか、停電中は何もできなかったため、苦痛だったという人もいました。


§3 放射線の問題

福島第一原子力発電所の事故では、過剰に警戒し不安が募ったOCDの患者さんもいました。

震災以前から放射線が苦手で、原発のある地域には近寄らないという人がいました。その人などは、やはり不安が募ったそうです。ほかのOCDの患者さんにも、震災以降、放射線に関連したものに強迫症状が現れるようになった人がいます。特に、妊娠中や乳幼児を抱える人が、自分自身への被害よりも、子どもの将来を心配して、警戒が増したようでした。

放射線や原発に関連した地名や商品名を見ただけで警戒してしまう人もいます。首都圏に暮らしていながら、震災以降、雨にたくさんの放射線が含まれているのではと思い、警戒するようになったという人もいました。科学的には、微量な放射線は地球上のどこにでもあり、ある量を超えなければ人体への危険は低いといわれています。雨水などがたまる側溝の周辺で放射線量の測定値が高いというニュースもありましたが、その後、測定値は基準以内になりました。日常生活で「わずかでも雨にあたってはいけない」と警戒するのは過剰です。

原発施設がある地域に住んでいる人からすれば差別的な考えですが、強迫症状というのは不合理なもので、たとえば、お母さんが触ったものは平気だけれど、お父さんが触ったものは汚れたと感じるといったように、患者さん自身も理屈ではある程度おかしいとわかっていても、強迫症状のほうが強く強迫行為を止められなくなってしまうことがあります。

しかし、放射線に対する心配は、次のようなOCDの強迫観念に似ている部分があります。

■肉眼で見えないものが気になる
OCDでは、バイ菌のように肉眼で見えないものへの恐怖や、汚物、薬品などが目に見えないくらいの微量でも残っていたら許せないということがよくあるのですが、これは放射線に対する心配にも通じます。

■安全への疑い
これまで「原発は安全」といわれてきましたが、これに強い疑問をもつ人が増えました。OCDも、発症前はあまり気にとめていなかったことに対して、「これまでのやり方で大丈夫だろうか」と、疑念を抱くようになります。

■強い不安
OCDも放射線も、どちらも不安や恐怖などの強い感情を伴います。

そして、放射線について「避ける」「徹底的に調べる」などの行為をしたくなり、それが過剰になると強迫行為に似てきます。自分でコントロールできないほどになるとOCDの範囲になる場合もあります。


§4 あとがき

今回のコラムを書く前に、現地で支援活動をされてきた人々の講演を聞いたり、報道記録や映像を見て、災害当時のすさまじさを改めて感じました。

被災され、かけがいのない人や思い出の品を失い、衣食住にも医療にも困窮していた方々の状況と比べれば、その周辺地域にお住いのOCDの患者さんの考えは、ギャップがあり過ぎると感じた方もいるかもしれません。

しかし、OCDというのは、現実以上に過剰な不安にとらわれ、震災のように大変な状況に出遭っても、そう簡単に強迫行為を止められない、変えられるものではないのが特徴です。ほかの人からすると、理解しがたく、そこが患者さんにとっても悩ましい点です。そのため、被災された地域のOCDの患者さんは、さぞや大変な生活であったろうと思われます。あの日から1年が経ちましたが、改めて心よりお見舞いを申し上げます。

東日本大震災の支援では、心のケアを含め、阪神・淡路大震災での多くの教訓が活かされていることに気づかされました。一般の方向けの情報には、次のようなものがあります。


*心のケアのための情報

東日本大震災心理支援センター
http://www.jpsc.biz/
(社)日本臨床心理士会、(社)日本心理臨床学会、(財)日本臨床心理士資格認定協会によって運営されている。被災した現地での支援や、東日本大震災心の相談電話などの活動を行っている。

災害時の「こころのケア」の手引き
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/video/leaf/files/saigai.pdf
東京都福祉保健局による災害時の精神面への対処法をわかりやすくまとめたリーフレット。

東北地方太平洋沖地震メンタルヘルス情報サイト
http://www.ncnp.go.jp/mental_info/index.html
独立行政法人国立精神・神経医療研究センターによる東北地方太平洋沖地震メンタルヘルス情報サイト。医療関係者向けと一般向けのリンクが掲載されている。


*注釈

*1
急性ストレス障害(ASD)――生死に関わるような大きな出来事や強い恐怖をもらす体験によって、精神的な不調が生じたもの。感覚の麻痺、ぼーっとしたり、注意が散漫になる、出来事を思い起こす映像や考えが何度も頭をよぎったり、夢に見る、フラッシュバックなどの再体験をさせられる、睡眠障害、出来事に関するものを過度に警戒し、避けるという症状が現れます。このような症状が、出来事の体験から4週間以内に生じ、2日~4週間続いた場合です。
*2
心的外傷後ストレス障害(PTSD)――急性ストレス障害のような症状が1ヵ月以上続いた場合に診断されます。


*参考文献
[1]加藤寛、最相葉月「心のケア 阪神・淡路大震災から東北へ」講談社現代新書(2011年)
[2]飛鳥井望、桑原斉、丹羽真一、齋藤真理、門脇裕美子、「第4回日本不安障害学会学術大会抄録集」シンポジウム8, p95-98