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OCDコラム

OCDコラム

強迫性障害(OCD)の行動療法に取り組みたいあなたへ
~2つの学習とその解除

西川公平(CBTセンター所長、専門行動療法士)


今回は、滋賀と福井に拠点をもつカウンセリングルーム CBTセンター所長の西川公平さんにご寄稿いただきました。西川さんは、対人関係や家族関係の問題を抱えている人やうつ病、パニック障害、強迫性障害、ストレス関連疾患などをお持ちの人々へカウンセリングや行動療法、家族療法を行っています。また、企業のメンタルヘルスや休職/復職支援なども行っており、日々、生きにくさを感じる方々と向き合っていらっしゃいます。

こちらのサイトでは、これまでも認知行動療法の方法や考え方について紹介させていただきました。また、座談会のコラムでは、同療法を受けた体験を参加者の方に具体的に語っていただいています。今回は、行動療法を行う立場の方からのお話です。強迫性障害の治療における行動療法に取り組みたいと考えている方々へ、どのようなお話をしていただけるでしょうか。


目次
§1 はじめに:OCDと行動療法の話
§2 学習からみたOCD① 嫌な気持ちがわき出る学習
§3 学習からみたOCD② 強迫がいつまでも長引く学習
§4 不都合な学習の解除:曝露法と反応妨害法の実例
§5 最後に:ご家族の方へ


§1 はじめに:OCDと行動療法の話

強迫性障害(以下OCD)という病気は、我々行動療法士にとっては親しみ深い病気です。なぜならOCDには行動療法がよく効くからです。もちろん行動療法は何もかもに効くわけではなく、例えばうつ病などでは薬物療法のほうが往々にしてよい治療効果が得られます。しかし、OCDにはなぜか行動療法がとてもフィットします。次にお会いする患者さんがOCDだとわかると、「ラッキー、治る」とさえ思います。

薬物療法は薬を飲んでいる間は確かに強迫症状を軽減しますが、飲むのを止めると症状が悪化するなど、単独の治療としては難しいという印象があります。おそらく薬物療法だけでスッキリすんなり治る人もたくさんいるのでしょうが、そうではない人が我々行動療法家の目の前に来るわけです。また、そうではない人がいるから、このようなホームページが見られているのでしょう。

お薬が著効を示さなかったOCDの方が、行動療法によって回復することは多く、そのような結果にお医者さんは気をよくして、ますますOCDの方を心理士に紹介することになります。したがって我々行動療法士はたくさんのOCDの方と面接することになるのです。

いま、あなたがカウンセリングを受けていて、担当のカウンセラーが、「ウンウン」とうなずきながら話を聞いてくれて「よく頑張ってますね」と肯定的に接してくれているとしたら、きっとあなたの気持ちは休まって癒されると思います。しかし、その方法ではOCDは治りません。また子ども時代のことや親子関係、さまざまな人間関係の困難などについて、あなたの気持ちや考えを当て推量でいろいろ言われることもあるかもしれませんが、そのような方法でもOCDは治りません。OCDに有効な治療として実証されているのは、今のところ(認知)行動療法と薬物療法だけです

しかし、悲しいことに行動療法がOCDの治療に役立つことはあまり知られていませんし、日本できちんとこの療法をできる人も少なく、正確な作用機序も誤解されています。作用機序がわからなくても、教科書通りの患者さんに教科書通りに行えばいいじゃないかと思われるかも知れませんが、たいてい教科書どおりではないのです。

特に多いのは慣れ(:順化、Habituation)を機序と誤解している例です。OCDの治療は慣れとは無関係です。

結局、専門的な行動療法を受ける機会はなかなかありません。そのような不便を少しでも改善しようと、行動療法を自分でもできる本(セルフヘルプブック)が出ていたり、こうしてホームページにいろいろな情報が載っていたりします。そういう“自分で行動療法をしてみよう”という方のために、何か情報を提供できればと思います。

このホームページにもOCDの治療についてあれこれ載っていますが、特に行動療法によるOCD治療のカギである、「自分に不都合な2つの学習(*1)とその解除」について述べたいと思います。なぜなら、この2つの学習が混同されていて、区別することはとても重要に思えるからです。
(*注1 ここでの“学習”とは、心理学の用語で、我々と環境との関わり、法則という意味で使用しています。)


§2 学習からみたOCD① 嫌な気持ちがわき出る学習

1つ目の不都合な学習は「あるきっかけで、嫌な考えや気持ちが自動的に湧いてくる」学習で、この湧いてくるものを強迫観念と呼んでいます。これはパブロフの犬と同じような条件反射です。この条件反射を解くことが治療となります。次に例を出してみましょう。


さて、例に挙げた「その犬は、どうしてベルが鳴ると唾液が出るのか」という理由については説明を省略します。なぜならOCDの治療は、病気になったときに起こった出来事をあれこれ聞いていくことで治療するわけではないからです。発病したからにはきっとそれなりに嫌なことがあったのかもしれませんし、実はなかったのかもしれませんが、それは治療にさほど関係がありません。どうしても知りたい方は「パブロフの犬」で調べてみてください。

それより知りたいのは「その犬は、どうすればベルが鳴っても唾液が出なくなるのか」です。実はそれは簡単で、「何も与えずベルをひたすら鳴らし続ける」ことで唾液は出なくなります。

ちょっと簡単な実験をしてみましょう。我々日本人は「うめぼし」という言葉で唾液が出るという条件反射を持っています。うめぼしと言っても唾液が出なくなるためには、その刺激をひたすら与えるようにします。すなわち「うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし、うめぼし……(×1000)」と言ってみてください。全然唾液は出なくなります。むしろ、のどはカラカラです。

ということは、OCDは、自分の嫌な気持ちが出てくるきっかけの刺激をひたすら繰り返し浴びれば治るのか? 答えはYes ! そうすればOCDは治ります。こういった方法を『曝露法』、あるいは『エクスポージャー法』と呼んでいます。


§3 学習からみたOCD② 強迫がいつまでも長引く学習

ところが、一方でOCDを何十年も患っている人がいるように、長く症状が続く病気なのには、わけがあります。それがもう1つの不都合な学習です。

2つ目の学習は、1つ目で出てきた嫌な気持ちを早く何とか帳消しにしようとアレコレする、そんな行為に関する学習です。そのうち、どんどんそのような帳消しにする行為が“止められない止まらない状態”になってしまいます。


ちょっと頭の中で架空の実験をしてみましょう。先ほど「うめぼしと言うと、唾液が出る」という話をしました。唾液なんて出たって別にどうってことありませんが、ここでは“唾液が出るのがとても嫌で、不快で、気持ち悪い。絶対唾液を出したくない”と思っているとします。そうすると道は2つです。「うめぼし」と言わない(きっかけを避ける)か、「うめぼし」と「うめぼし」の間に、酸っぱくないものを入れる(帳消しにする行為)ことです。つまり、「うめぼし、マシュマロ、うめぼし、チョコレート、ジャム、うめぼし、大福、月見だんご、大判焼き、うめぼし、イチゴ大福、くず饅頭、シュークリーム、プリン……etc.」みたいな感じです。

なんだか大変そうですが、OCDの方の特徴である「何度も同じことを考えたり、確かめたり、洗ったり、繰り返してしまう」というのは、イヤな気持ちを和らげるために、その気持ちと反対に思えることをしているのです。この状態で「うめぼし」とそれと反対の甘いものを合計1000回言ったとしても、全然不都合は解消されず、やはり唾液が出続けます。結局その場その場で帳消しにして、嫌な気持ちを和らげることが本来の治療の成り立ちをジャマしてしまうわけです。

このような「嫌な気分をちょっとマシにしてくれるけど、結果として強迫を治す邪魔をしてしまうようなやり方」を強迫行為と呼んでいます。見て確かめたり、手を洗ったりと実際に行動に移す強迫行為もあれば、「大丈夫、平気だ。安全だ。きれいだ」と頭の中で唱えたり、ぐーっと我慢したり耐えたりするような頭の中でする強迫行為もあります。手を洗うのを止めて除菌ティッシュで拭くようにしても、結局同じことですから治療は成り立ちませんし、手を洗うのを止めて「大丈夫」と言い聞かせながら汚さを我慢するようにしても、やはり同じことですから治療は成り立ちません。強迫症状に慣れるために、「手洗いせずに我慢してください」という表現は、行動療法ではありません。

治療では、嫌なことを避けたり、嫌な気持ちを帳消しにする行為をしないようにすることが重要になってきます。これを『反応妨害法』と呼んでいます。


§4 不都合な学習の解除:曝露法と反応妨害法の実例

OCDの治療は以下の2つからなっています。

曝露法:わざと嫌な気分になる引き金をひく
反応妨害法:嫌な気持ちを帳消しにする行為をやめる

これらを合わせて『曝露反応妨害法E/RP)』と呼んでいます。曝露すれば成り立つはずの学習解除をジャマするのが強迫行為で、それを反応妨害で留め置かないと治療が成立しないのです。

例えば、不潔恐怖の方なのに、「病院で汚いものにどれだけ触れても平気」という方がいらっしゃいます。これは家に帰って洗うからであって、要するにE/RPは不成立です。あるいは確認強迫で、どれだけ反応妨害をしても薄皮をはぐような感じで、どんどん新しい確認強迫が出現するという方がいます。これは曝露が成り立っていないからで、やはりE/RPは不成立となります。

多くのOCDの方は、最初にこのE/RPをするとき「ものすごくいやーな感じ」がします。これは副作用ですが、その“いやーな感じ”が強ければ強いほど、OCDによく効く部分なんだろうと類推できます。“良薬は口に苦し”といった感じでしょうか。

まず、何を治療のターゲットに選ぶかについてはあんまり嫌すぎて出来なくても困るし、あんまりハードルが低過ぎても意味がないので、全体の症状のなかで、それなりの塩梅(あんばい)の強度、つまり嫌さ加減を選んでやっていきます。大体4つか5つぐらいのきっかけに上手く触れることが出来て、それを帳消しにせずに済めば、治療はほぼ終了です。OCDの方は一見たくさんの症状がありますが、不都合な学習の種類としては多くないので、いくつかの主だった症状をやって行けば、それに似たような多くの症状も一緒によくなります。

OCDは、お薬を飲みながらであろうがなかろうが、学習解除が正しく成立すれば治ります。治らないときは治療者と患者が互いに学習を何か勘違いしているか、学習の解除について誤解しているなど、何かしら成立していないのです。

逆に、自分の部屋や入院先のベッドでただ薬を飲んでいるだけで、曝露も反応妨害もしなければ決して治りません。OCDという病気は、お薬が自然に治してくれるというよりは、お薬の補助を受けて自分であれこれやっていくことで病気を治すというタイプと思われます。このような方法が唯一の方法です。「このままじゃいけない、何とか自分を変えていかないと」という思いを持って、E/RPをはじめいろいろ試してみることが重要です。

行動療法は最初に『よくなるために試してみること』が大事で、試してみた結果をもとにさらにいろいろなことを試してみるようになり、ついに完治に至るという流れになっています。

やってみる前にあれこれ思っていることは、実際やってみるとたいてい正しくありません。それが正しいか正しくないかということも、まずやってみてからでないとわからないのです。幸いOCDの人には「こんなことやっている自分は変だ」という気持ちがある程度あり、「何とかよくなりたい」と思っている人がほとんどです。

古いことわざに「馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を飲ますことはできない」とあるように、最終的に根気強く治療していくのは本人ですし、専門家にできることは治療のおぜん立てに過ぎないのです。

以下の表に曝露や反応妨害の例を挙げておきます。
効果的な曝露や反応妨害が何か、最初からわかっているといいのですが、現実的には治療の途中でよりよい方向へ転換しながら絞り込んでいきます。患者さんもコツがわかってくると「こういう風にやったほうが、OCDが嫌がると思う」などと協力的になります。

治療者と患者さんが手に手を取ってOCDという病気に立ち向かえば、大体のところ上手くいきます。


§5 最後に:ご家族の方へ

世界保健機関はOCDを「長らく人を苦しめる10大疾患」と見なしているぐらいで、本人はとても苦しい思いをしています。家族が苦しんでいるのを見るのは辛いので(あるいは時間がかかるので、面倒なので、怒られるので)、ときどきOCDの症状を肩代わり(例えば代わりに拭いたり、確認したり、大丈夫だよと言ってあげたり)する場合があります。しかし、家族の肩代わりは残念なことに強迫症状を維持・悪化させることはあっても、改善することはありません。

これまでの経緯があるので、いきなりは無理でしょうが、徐々に肩代わりを止めていくことが、真に本人のためになります。一時恨まれるかも知れませんが……。

罪を憎んで人を憎まずじゃないですが、悪いのは病気であって本人ではないので、病気に苦しめられている本人をできるだけ気持ちや生活の上でサポートしながら、決して強迫の肩代わりをしないようにしましょう。アメリカなどでは「“あなた”のことを愛しているの。だから“あなたを苦しめている病気”の手伝いはできないの」と表現されていますが、日本人だと照れくさいですね。でもまあ、そんな感じです。



滋賀・福井のカウンセリングルーム CBTセンター
http://cbtcenter.jp/

*参考文献
○ Jランメロ.Nトールネケ著/松見淳子監修/武藤崇・米山直樹監訳『臨床行動分析のABC』(2009年/日本評論社)
○ RJ.コーレンバーグ著/大河内浩人訳『機能分析心理療法』(2007年/金剛出版)
○ J.S.マーチ著/原井宏明・岡嶋美代訳『認知行動療法による子どもの強迫性障害治療プログラム』(2008年/岩崎学術出版社)