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OCDによるひきこもりと未受診


OCDの人のなかには、病気が一因となりひきこもりの状態になる人がいます。また、ひきこもっているうちに強迫症状が現れてくる人もいます。
ひきこもりには、スーパーやコンビニでの買い物程度の外出ならできる人から、強迫症状によってすべての外出が困難な人もいます。外出自体が困難なケースでは、本人が専門家に相談することも難しくなります。問題は長期化するので、家族もとても困ります。
現状では、そこへ相談すればうまくいくという支援制度が整っているわけではないのですが、考えられる対処法をまとめました。


目次
§1 ひきこもりと精神疾患
§2 過去につらい経験をしている人もいる
§3 病者の役割と経済的な負担
§4 不安よりも何とかしたい気持ちを大切に


§1 ひきこもりと精神疾患

2001年に厚生労働省がまとめたガイドライン[1]によると、ひきこもりは次のように定義されています。


2010年に厚生労働省が報告した15~39歳の人を対象としたひきこもりの実態調査[2]によると、ひきこもりをしている人のうち、30代が占める割合は45.7%でした。また、ひきこもりを始めた年齢は、約3分の2の人が20代以降と回答しており、30代以降も23.7%いました。

ひきこもりのきっかけとなった出来事としては、「職場になじめなかった」23.7%、「病気」23.7%の回答があり、正社員としての職業経験がある人も少なくありません。

ひきこもりも、不登校や進学の失敗がきっかけとなった若者の問題とは限らず、年齢が広がってきていることがわかります。

「ひきこもり」は状態をあらわす言葉なので、精神疾患を抱えているとは限りません。しかし、2011年2月に行われた国際シンポジウム「ひきこもりとネット依存」で発表された調査結果では、日本を含む8カ国の精神科医239人が、ひきこもりの7割に対し精神疾患と診断できると回答したそうです。[3]

7割という回答は、厚生労働省の調査で、病気がひきこもるきっかけだと自覚している人の割合(23.7%)に比べて大きいことから、ひきこもりになった後、精神疾患を発病した人や、本人が精神疾患という自覚がない人もある程度の割合いることが推測できます。

ひきこもりで精神疾患を抱えていると思われる場合、病気に対する正しい判断が必要です。それは精神疾患を伴わないひきこもりやニート*1の人向けの支援が、精神疾患を有する人に対しても有効な支援であるとは限りませんし、OCDと思われる症状があっても、症状の判断は専門医でないと難しい場合もあるためです。精神疾患を抱えているかどうかを診断するには、本人が直接受診しないとできないのですが、本人が外出できない場合には、家族だけでも病気の可能性や対処法などについて相談することは可能です。精神科の医療機関や保健所などへ相談することをお勧めします。


§2 過去につらい経験をしている人もいる

ひきこもりの研究で有名な精神科医の斎藤環先生は、ひきこもりには「大ざっぱに分けるなら、対人恐怖でひきこもるタイプと、強迫行為によってひきこもるタイプがあるように思います」と、座談会の記事で述べています。また、「強迫傾向に関しては、パーソナリティ障害*2レベルから強迫性障害のレベルまでさまざまな事例があると思います。どうもひきこもり生活が長くなってきますと、どうしても強迫傾向が増悪するようで、もともと強迫性障害があったのか、あるいは二次的に出てきたものか見分けがつきにくいところがあります」とも書かれています。[4]

周囲の人は、ひきこもりの状態を何とか解決してほしいと、とかくこれから先のことに目が行きがちです。一方、本人たちはそのような状態に至るまでにつらい経験をしてきたという人も少なくないため、なかなか先のことには目がいかないところがあります。いじめ、嫌がらせ、暴力、セクハラなどの経験をした人も珍しくなく、ほかの人には話しづらい内容であるため、だれにも打ち明けられず、一人で悩み、痛みを抱えていたということもあります。

受診して症状を治してほしい、外に出られるようになってほしい、社会復帰してほしいと、願う家族の気持ちは、本人にも、一緒に住んでいれば、痛いほど伝わっているはずです。しかし、強迫症状があると、自分から動くことが難しい場合もあります。ご家族は本人の気持ちをくみつつ、今できることを探していかれると理想的です。


§3 病者の役割と経済的な負担

強迫症状に悩みながらも、外出できないため、初めて精神科を受診するまでに何年もかかる人もいれば、過去に何度か受診してみたが、治療がうまくいかったために、そのままひきこもりになっているという人もいます。

ひきこもりの人の生活は、家族が面倒をみている場合がほとんどです。そのような状態が、長く続けば、家族の精神的、経済的な負担も増大します。未成年の場合、親には保護者として養育の責任がありますが、本人が成人の場合、親はどこまで養わなくてはならないのでしょう? 難しい問題ですが、その参考になるのが、アメリカの社会学者・パーソンズが提唱した病者の役割という考え方です。これは、健康が損なわれた病気全般を想定しているため、OCDのような精神疾患では当てはまりにくい部分もありますが、その概要を簡単に紹介します。[5]

①病者は正規の社会的役割を免除される
――病気によって、仕事や学校を休むことが許されるということです。
②病者は、病気になったという状態・立場について責任を負わない
――病者は好んで病気になったのではないので、周囲の人もその点を責めることはしません。
③病者は、できるだけ回復しようと努力しなければならない
――ただし、精神疾患では、回復が難しい場合もあります。
④病者は専門的援助を求め、医師に協力しなければならない
――病者は独力で治すことはできないのだから、専門家による支援が必要となります。

この考え方に当てはめれば、病者はひきこもりであることもやむをえないと考えることも可能です。しかし、本人が診断を受けたことがなく病気であるのか定かではないのに、社会的な役割を免除されたり家族に養ってもらったりするのは、どのような事情によるものでしょう。

OCDの場合、受診すれば100パーセント改善するとは限りませんし、専門家に受診すること自体が難しい人もいるので、回復に努めるといっても、そう簡単ではないことは十分考えられます。成人になっても親の養育が不可欠であるといった状況には、何らかの事情があるかもしれません。

できれば、家族で、そのような本人の抱えている状況や、なぜ家族が経済面を含め支援をする必要があるのかを、それぞれの立場や役割について話し合えるとよいかと思います。ただし、難しい問題なので簡単に答えが出ないかもしれません。しかし、話し合いを回避しているうちに、親が高齢化してしまうケースもみられるので、そうなる前に、話しておくべきだろうと思います。

強迫症状は、子どものうちは、自然に消失することもあるのですが、年齢が増すにつれて、自然に治る可能性はほとんどなくなります。認知行動療法を独力で学び、改善できたという人もなかにはいますが少数です。OCD患者の約80パーセントの人は専門家による支援が必要という報告もあります。[6]

本人が受診を望まない場合、家族が説得して受診させるのは困難なことがあります。家族のいうことに、本人が反発すると、かえって持論を守ることに頑なになり、話し合いにならなくなることもあります。その場合、前回の第86回コラムにも書いたように、本人と家族の領域とを分けて考えることが役に立ちます。本人が負うべきことを、家族が肩代わりしていると、困難は軽減され、本人の悩みは薄らぎますので、現実に向き合わず、受診にも踏み出せない状態が続いてしまうことがあります。

そのため、経済面の問題についても、お互いの主体性を分けて考えてみます。本人を変えようというのではなく、家族は自分の問題として、「いつまで経済的な支援をしなければいけないのか?」と困っている状況を、本人に相談してみてはいかがでしょう。非難したり、解決するには病院へ行くしかないと決めつけたりせずに、ただ質問を投げかけます。このような話し方なら、困っているのは家族のほうで、本人は援助を求められた立場になるので、敵対的な話し合いとは異なってくるはずです。


§4 不安よりも何とかしたい気持ちを大切に

OCDの患者さんにとっては、受診に向けて一歩踏み出すことは、非常に勇気がいるものです。
受診によって必ずよい結果になるという保証はないため、不安をもつ人もいれば、精神科そのものに先入観をもっている場合もあります。

精神科に対する先入観を解消するには、以前コラムで紹介したことがらを参考にしていただけたらと思います。

・初めて精神科の病院、クリニックにかかることが不安な人には
――第84回コラム「初めてメンタルクリニックへ行くとき不安に思う、あれこれ」

・精神科の薬の副作用が怖いと不安な人には
――第55回コラム「薬(SSRI)を効果的に利用するコツ」

OCDコラムの座談会や体験記では、実際に通院した経験のある人の話も紹介しています。実際の体験を通して感じたこと、どう次への一歩を踏み出したのかなど具体的にお話いただいていますので、参考になるのではないでしょうか。体験を話してくれた皆さんも、最初からうまく病院に通ったわけではなく、さまざまな不安を抱えたまま、次のステップに踏み出したという人が少なくありません。

また、症状のために、予約時間に間に合うように外出することが難しかったり、電車やバスに乗ること自体が困難な人います。しかし、本人に受診したいという動機があること自体、一歩踏み出しているのです。そのような場合には、家族も本人の気持ちを尊重して、初めのうちは予約時間に間に合うよう通院を援助してあげるといい場合もあります。

患者さんの心のなかには、外へ出ることへの不安もあるでしょうが、現状抱えている苦痛を何とかしたいという気持ちも、どこかにあるはずです。不安に目を向けるより、その何とかしたいという気持ちを大切にしてください。



*注釈
*1 ニート――15~34歳で、就業、修学をしていない若年無業者のこと。独身者が対象となるが、家事手伝いの女性を含めるかどうかは、調査法によって異なる。

*2 パーソナリティ障害――パーソナリティとは、人格、性格、個性という意味。そして、パーソナリティ障害とは、そのようなパーソナリティの偏りが著しく、自分の感情が不安定で衝動的で、周囲の人とトラブルが多く、社会に適応することが非常に難しい状態となっている精神疾患をいう。パーソナリティ障害のなかで、性格の強迫的な面が問題となっているものが、強迫性パーソナリティ障害である。


*引用・参考
[1] 厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」平成13年
[2] 内閣府「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」平成22年
[3] 毎日新聞 2011年2月20日「ひきこもり:精神科医の7割「精神疾患と診断」8カ国調査」久木田照子
[4] 村尾泰弘編集「現代のエスプリ別冊 うつの時代シリーズ ひきこもる若者たち」至文堂2005年
[5] 水島広子「臨床家のための対人関係療法入門ガイド」創元社2009年
[6] Christine Purdon, Ph.D., David A. Clark, Ph.D., Overcoming Obsessive Thoughts: How to Gain Control of Your OCD, New Harbinger Publications, Inc.: 2005年