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OCDコラム

OCDコラム

家族が出来る支援・してはいけない手助け


OCDは、本人にとって苦痛であることはもちろんですが、一緒に住む家族にとっても、患者さんの苦しむ姿を見ることはつらいものです。
家族として、そのような苦しみを何とかしてあげたいと思うのも無理はありません。しかし、家族の愛情が、かえって患者さんの症状に巻き込まれてしまう結果になることもあります。
今回のコラムでは、家族は、どのように接したらいいのかポイントをまとめました。


目次
§1 家族がわかってあげることは必要でしょうか?
§2 家族との関係は発症に影響するでしょうか?
§3 家族の強迫症状への巻き込み
§4 家族と本人の領域を分けて考える


§1 家族がわかってあげることは必要でしょうか?

「家族には病気のことをわかってほしい」というOCDの患者さんの声をよく耳にします。同時に、「家族であっても他者がOCDを理解することは難しい」という声も実際多くあります

OCDについての正しい知識は、本人はもちろんですが、家族にも知っておいていただけると、症状の悪化や誤解を防ぐことに役立ちます。しかし、入浴や点検に時間がかかるというような行動に現れる症状の場合は、家族にもわかりやすいのですが、OCDは精神疾患ですので、そのような行動に現れるだけでなく、本人の頭の中には、いろいろな考えや感情が生じていて、その部分は、やはり他者にはわかりにくいものです。

たとえば、手を洗うという行動(強迫行為)をしているときでも、何が気になって洗っているのか、どのように洗えば気が済むのかといった考え(強迫観念)は、人によってさまざまです。このように本人の考えや感情といった内面については、聞いてみないとわかりません。

そして、家族から見ると、強迫行為は簡単にやめられそうに見えるのに、なぜやめないのだろうと思うかもしれません。しかし、他人から見たら意味のないようなことでも、コントロールすることが困難であることもOCDの特徴です。ですから、やめろと説得しても、簡単にやめられるものでもありません。[1]

また、強迫行為中はとても神経を集中していることが多いため、「家族によけいなことを言われたり、邪魔されたりすると、また最初からすべての行動をやり直すことになってしまう」という意見も多く聞きます。

このようなOCDの特徴を、家族が理解しておくと、本人とのあつれきを減らすことに役立つかもしれません。しかし、周囲の人が症状を理解することには限界もあります。精神科医でも、患者さんの症状を正確に理解することは難しい面もあるのですから、一般の人が難しいと感じることは無理もありません。

本人も家族も、症状を推測で判断しないことが大切です。インターネットの情報も玉石混合ですし、OCDは人によって症状やその程度など状況がさまざまですから、インターネットや本などの情報が自分に必ずしも当てはまるとは限りません。理想としては、根拠の確かな情報をもとに、ご家族と自分の状況について話し合えるといいのです。


§2 家族との関係は発症に影響するでしょうか?

親は育て方に問題があったからOCDを発症したのではないかと自分を責めたり、それが原因となり家族でもめるケースがよく見られます
親から子に伝わるものは、遺伝子的なものもあれば、しつけや教育、習慣といった一緒に暮らしていくなかで伝わるものもあります。子どもの脳や精神が形成されていくには、どちらも影響を与えるのですが、それがOCDの発症の原因かというと、くわしいことはわかっていません。[2]

一般的に、OCDでは、発症の原因を探しても、症状の改善にはむすびつきにくく、それより、「今」できることを考え、薬物療法や認知行動療法など治療に目を向けるようにしていきます。


§3 家族の強迫症状への巻き込み

OCDは、自分だけで症状を抱えようとする自己完結型と、周囲の人を強迫行為に巻き込む巻き込み型とがあるといわれています。[3]
巻き込み型の場合、家族の対応がたいへん重要になります。

巻き込み型の例
・本人が汚いという場所を、家族が代わりに掃除をしてあげる
・本人の要求に従って、帰宅した際には家族も着替えたり、手を洗ったりする
・本人が強迫症状によって、ひんぱんに着替えた衣類や、使ったタオルを家族が洗濯して、常にきれいなものを用意してあげる
・本人が外出することが大変なので、家族が代わりに買い物に行ってあげる
・本人が不安に感じるものを、家族が確認して、大丈夫だと言ってあげる

強迫症状は、本人の頭の中で強迫観念が浮かび、それによって強迫行為をしたいという衝動が起きます。その衝動にかられて強迫行為をすると、一時的に安心は得られても、次に同じような場面に出会うと、また強迫行為をしたくなるという悪循環となり、症状が強化されていきます。



OCDは、悪化すると本人の生活を支配していきますが、巻き込み型の場合、その延長で、家族にも、強迫行為のルールに従うよう求めるようになります。家族が強迫症状に巻き込まれると、本人だけで強迫行為をするよりも、一時的な安心感は強まりますし、さらに広範囲に徹底して行為ができるため、このような習慣を続けるほど、強迫症状も強まっていきます。

巻き込みは、英語ではaccommodation(家族が本人に何かをしてあげること)と呼ぶことが多いのですが、家族の巻き込みを減らしたことで、治療成績が向上したという報告があります。[4]

このような巻き込みは、いったん習慣になってしまうと、家族の側がよくないとわかっても、やめることが難しくなることがあります。家族が支援をやめようとすると、本人が抵抗したり、感情が激しくなってしまうことがあるのです。

本人にこのようなOCDの悪化のしくみを理解してもらったうえで、家族がしてあげていることをできるだけ減らしていくのが理想的です。症状と巻き込まれの経過を簡単でいいので記録しておくと、その関係を説明するのに役立ちます。
しかし、家族だけでは、強迫症状への巻き込まれを回避できないことも多く、その場合、家族も認知行動療法に参加し、そのなかで解決していけるといいでしょう。[5]

また、家族が本人の要求に応じない場合、物に当たったり、人に暴力をふるうケースもあります。暴力は、どのような理由であれ許されるものではありません。そのようなことが起こってしまったら、まず家族は自分の身の安全を確保して、地域の専門家などへ相談してください。


§4 家族と本人の領域を分けて考える

OCDは、一緒に暮らしている家族にも、ストレスをもたらします。
たとえば、トイレや洗面所など、家族みんなが共有する場所では、本人が長時間専有してしまうことで不自由が生じたり、その使い方をめぐってトラブルになる家庭もあります。本人が適切な治療を受け、症状を軽減することが、根本的な改善になるのですが、それまでの間も、ストレスをお互いに減らして生活したいものです。

家族が本人と共有する部分が多いと、その分、トラブルが生じる可能性が高くなるので、生活スペースを分けることが可能ならば、そのほうがいいでしょう。しかし、通常の住宅では、部屋数も限られ洗面所や浴室が複数あるということもあまりないでしょうから、そのような対策ができる家庭は限られてしまいます。

精神面で、本人の領域と家族の領域とを分けたほうがいい場合もあります。本人の主体性と家族の主体性とがあまり分かれておらず、精神的にも経済的にも依存性が高い関係ほど、強迫症状への巻き込みが増す傾向が見られるためです。

たとえば、医療機関へ初めて受診することは、本人にとっては大きな変化です。しかも、受診したとしても100%改善できるという保証はないので、大半の人が不安を感じます。その一方で症状を何とかしたいという気持ちもあり、両方の気持ちの板挟みになって、決断に時間がかかることもよくあります。さまざまな葛藤のあげく、「病気をよくしたい」という気持ちが勝ると、治療意欲が生まれてきます。しかし、本人が治療を受けなくても、家族に依存して生活できる状況なら、いつまでたっても、治療に踏み出せずに過ごしてしまうことにもなりかねません。

本人が小学生くらいなら、親のいうことをある程度聞くでしょうが、思春期を経て成人となるうちに、親とは異なる自己も育ってくるので、相手の考えは、他人がそうは変えられなくなります。そのため、本人が受診を拒んだ場合、どうしたらいいか困るケースもあります。

受診するように親が説得して、本人の気持ちを変えさせたいというのは、本人の主体性の領域に踏み込んだ考えです。しかし、家族が、強迫症状に巻き込まれたり、高額の光熱費を払わせられることで、困っていることを本人に伝えることは、家族の主体性の領域です。そのような家族が困っている部分は、はっきりと主張してもいいのではないでしょうか。ただ、その解決策のために家族は受診を強いるのではなく、どうしたらいいか疑問を提示し、答えは本人に見つけてもらえばいいのです。

このようにお互いの主体性の領域を分けて考えていくと、巻き込みを防ぐこともでき、お互いのストレスの軽減にも役立ちます。主体性を分けるというと難しく感じるかもしれませんが、要は、家族以外の人には決してしないような接し方をしている部分に対しては、他人と接するときのように精神的な距離を開けてみます。相手を変えようというのではなく、まず自分の対応を変える方法です。

家族の関わり方については、第71回コラムでも家族のための行動療法として、取り上げていますので、参考にしてください。
本人がひきこもり、未受診のケースについては、次回のコラムで取り上げる予定です。



*引用・参考
[1] リー・ベア著「強迫性障害からの脱出」第10章家族、友人、そして協力者のためにp327- 晶文社2000年
[2] 原田誠一編「強迫性障害治療ハンドブック」金剛出版2006年
[3] 成田善弘著「強迫性障害 病態と治療」2002年
[4] Lisa J. Merlo, Heather D. Lehmkuhl, Gary R. Geffken, and Eric A. Storch, Decreased Family Accommodation Associated with Improved Therapy Outcome in Pediatric Obsessive-Compulsive Disorder, J Consult Clin Psychol. 2009 April; 77(2): 355?360.
[5] 上島国利編集代表「エキスパートによる強迫性障害(OCD)治療ブック」星和書店2010年