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OCDコラム

OCDコラム

思春期の子どものOCD
―臨床心理士からのアドバイス―

浦野さやか (洗足カウンセリングセンター所属、臨床心理士、精神保健福祉士)


2010年10月の第79回コラムに続いて、学校現場でスクールカウンセラーとして活躍する浦野さやか先生に、臨床心理士としての立場からアドバイスをいただきます。
思春期にOCDを発症した場合、OCDの症状に対処しながら、思春期特有の問題にも立ち向かわなければなりません。そこには、どんな心の課題があるのでしょうか。
今、思春期の子どもについて悩んでいる親御さんや、学校の先生方に参考にしていただければと思います。
すでに思春期を乗り越えた当事者の方々は、このコラムを参考に、自分と家族のことを振り返ってみてはいかがでしょうか。


目次
はじめに
§1 思春期はいつごろ始まっていつごろ終わるのか
§2 思春期の内面的な特徴
§3 思春期の心の課題
§4 思春期にOCDを発症すると
§5 親としてのかかわり:現実面のサポート
§6 親としてのかかわり:心理的な面のサポート
おわりに「思春期の子どもをサポートする方へ」


はじめに

OCDの発症は20歳前後がもっとも多いといわれていますが、中学生や高校生のころに発症することも少なくありません。また、発症は20歳代でも、子どものころから強迫的な傾向があったという患者さんもいます。

さて、大人になった皆さんは、ご自分の思春期はどのような時期だったか、思い返すことができますか?
成長期にある子どもは心身ともに変化が著しく、非常に多感で繊細です。一見、ふてぶてしく、生意気に見える態度をとることもありますが、本人は、自分の心と体に起こる変化に翻弄されているようなところがあるのです。思春期は、本人も保護者もその激しい情緒の嵐にさらされ、一般的に、安定した関わりが難しい時期でもあります。

今回のコラムでは、思春期を中心に、成長期の子どもがOCDを発症した場合、どのように病気を理解し向き合っていけばいいのかをお伝えしたいと思います。



§1 思春期はいつごろ始まっていつごろ終わるのか

いわゆる思春期とは、どのくらいの時期を指すのでしょうか? 思春期のはじまりは、第二次性徴です。まず体の変化が始まり、それに引き起こされるようにして、心の変化が始まります。

一般に、小学校高学年のころから、思春期の前触れのような変化が始まります。体の変化が見え隠れするとともに、本人もうまく把握できないモヤモヤした感覚があるようです。漠然とした不安感やイライラ感は、不登校や問題行動として表出されることもあります。

中学生ぐらいになると、はっきりと自分の心と体の変化を経験します。しかし、それらの変化を、うまく言葉で説明することやコントロールすることはできず、むしろそれらの変化に翻弄されながら、毎日を何とか乗り越えていくようなところがあります。親からの自立と依存という背反するテーマを巡って、葛藤が深まる時期でもあります。

高校生ぐらいになると、自分の変化を言葉にして伝えることが、少し上手になります。また、心の中の変化について、本人が少しコントロールできるようにもなります。しかし、親離れのテーマや異性とのつきあい方、自分らしさについての模索は、まだまだ続きます。

大学生ぐらいになると、心理学的には思春期から青年期へと入り、心の安定性が見られるようになります。

個人差もありますが、一般的に、思春期らしさが強く現れるのは12~13歳ごろから17~18歳ごろといえるかもしれません。



§2 思春期の内面的な特徴

では、思春期にはどのような心の変化があるのでしょうか。主な変化を次の5つにまとめてみました。

1)第二次性徴と性衝動の高まり

身体的成熟とともに、男性らしい体つき・女性らしい体つきになってきます。このような身体的な変化を、気持ちのレベルで上手に受け止めていくことが大切です。変化に戸惑ったとき、身近にそれらのことについて打ち明けられる人がいるかどうか、打ち明けた相手がしっかり受け止めてくれるかということが、とても大切になってきます。

思春期に性衝動をうまく心の中に位置づけられないと、性的なことを極端に汚いと感じたり、恥ずかしいことと感じて罪悪感が強くなったりします。それがOCDの発症のきっかけになることもあります。


2)自意識の高まり

自分というものに過剰に関心を持ち、人からどう見られているのか、どう思われているのかを気にするようになります。「電車のなかや人とすれ違うとき、みんなが自分を見ているような気がする」と訴える中学生もよくいます。ご自身の思春期を振り返ってみて、このように感じた時期はありませんでしたか?

こうした気持ちがあまりに高まると、対人的な不安が強くなり、人に会うことが難しくなったり、外出を嫌がったりすることがあります。学校では、多くの子どもや大人に囲まれて生活します。対人的な不安が強くなると、学校生活が苦痛になります。


3)親離れの始まり、反抗期の始まり

小学校ぐらいまでは、「お父さんやお母さんのいうことは正しい」「お父さんお母さんは何でも知っている」と、自分の親を絶対視している子どもが多いのですが、中学生ぐらいから、一人の人間として親を相対化して見るようになります。

また、この頃、自分の意見や価値観をもち始めるため、親と意見が対立したり、親が完璧な存在ではないことに腹を立てて、非難したりするようになります。保護者の方が一番戸惑うのは、この時期の子どもの反抗ではないでしょうか。

子どもは保護者に対して秘密をもったり反抗したりしながら、徐々に親離れを始めます。自分なりに考えて、さまざまなことに対処していこうとしますが、内心は不安と心細さもあり、現実的な生活も、心理的にも、まだまだ親に依存している状態です。


4)自分らしさの始まり

上記のように、親と衝突したり、距離を置いたり、ときには反社会的な行動をしたりと、試行錯誤をしながら、誰かの真似ではない「自分らしさ」を模索します。多くの場合、小さいころは、「お父さんみたいになりたい」「お母さんみたいになりたい」というように、なりたい人物像が保護者であることが多いのですが、次第に、芸能人や漫画・アニメの登場人物、身近なあこがれの人など、保護者以外の人をモデルにしながら、自分らしさを求めていきます。ある程度一貫した自分らしさができあがるのは、大学生ぐらいの時期です。


5)友人関係の変化

中学生のころは、同世代の同性の友だちとの親密なつきあいのなかで自分を見つめていきます。この時期の友人関係は、お互いの共通点や類似性をとても重視した関係性で、そのような関係によって、親離れから引き起こされる心細さや不安感を補おうとします。思春期のお互いの悩みを打ち明けるなかで、信頼関係を築いていきます。

高校生ぐらいになると、また少し友人関係の質が変わります。それは、お互いの価値観や生き方の違いを認めたうえで、信頼関係を深める関係です。また、同性に向かっていた親密さの欲求が、異性にも向かい始めます。異性との関係性のなかで、自分の女性らしさ、男性らしさを発見します。



§3 思春期の心の課題

思春期は、それまで経験したことのなかった激しい情緒を経験し、本人もそれをうまく理解できずに振り回されてしまうような、そんな状態から始まります。

思春期を通して、自分の心身の変化を感じとり、それによって引き起こされる不安や心細さを、初めは人を攻撃したり、一人で落ち込んだりというように「行動」によって表しますが、徐々に、その気持ちを信頼できる人との間で「言葉」で表現できるようになります。そして、その言葉を使って「考えられるようになる」こと、それが精神的に成熟してゆく過程です。これは、心の病気の治療のプロセスとも重なる部分があります。

そのプロセスを経験していくなかで、ほかの誰でもない「私」という感覚を生み出すこと。それが、思春期の心の課題です。


§4 思春期にOCDを発症すると

思春期の心の混乱は、OCDの発症のきっかけになることがあります。性衝動をどのように心に位置づけるかという課題や、他者と自分との信頼関係をうまく築けるかどうかなど、難しい心の課題がたくさんあるからです。思春期にOCDなどの精神的な疾患を発症すると、思春期の心の課題に取り組むのと並行して、病気についての理解や治療にも取り組まなければなりません。

自分らしさを形成するうえで、自身のOCDの症状をどのように理解するのか、これはとても大きなテーマだと思います。OCDの症状に完全に飲み込まれてしまうと、「ほかの人達とは違う病気の自分」「いつも不安で無力な自分」という孤独で否定的な自己イメージができあがってしまいます。

また、思春期にOCDを発症した場合、日常生活でも治療をしていくうえでも、保護者からのサポートが必要不可欠ですが、一方では、思春期は大人に自分の考えや気持ちを知られるのを極端に嫌がる時期でもありますから、上手に悩みを打ち明けて頼ることが難しい場合が多いようです。

思春期の子どもは、まだ家庭や学校などの環境への依存が大きいので、生活環境を過ごしやすく工夫してあげるだけでも、かなり気持ちが落ち着くことがあります。そのためには、本人と症状について話し合うことが必要なのですが、思春期では、そのような話し合いをもちにくいという点も悩ましいところです。

思春期の子どもは変化のスピードが早く、また、考えていることや感じていることがコロコロと変わります。発言や行動に一貫性がないことがたくさんあります。また、自分の気持ちを上手に把握して言葉にすることが難しいため、「どうしたの?」「何をイライラしているの?」と質問しても「別に」「普通」「微妙」という短い返事ばかり。関わるのがとても難しいですね。


§5 親としてのかかわり:現実面のサポート

このような難しさを抱えた思春期の子どもに、どのように関わり、サポートするのがよいのか、現実的な側面と心理的な側面に分けてお伝えしたいと思います。現実的な側面としては、日常生活の世話と同時に、①通院のサポート、②薬の管理、③関係機関との連携、が挙げられます。

①通院のサポート
病院には誰が行っていますか? 診察室に入るときに、どのように入るのがいいでしょうか? 保護者と本人が一緒に入りますか? 別々に入りますか? 誰が主に話をしていますか?

思春期の子どもの場合、上手に言葉で自分のことを説明するのが難しいことがあります。医師にうまく情報を伝えることができないため、代わりに保護者がずっと話をしていて、横で本人がうつむいているということがあります。まずは「本人がどのように受診することを望んでいるのか?」その気持ちがなにより大切です。本人の希望を尊重し、不足する部分を保護者の方がサポートしてあげてください。

医師への説明はスムーズでなくてもいいのです。まずは、本人が気持ちや考えを伝える努力をすること。保護者はそれを支えてあげることです。また、本人の緊張があまりにも強くて、「うまく話せないから助けて欲しい」といった場合は、保護者が説明をしますが、その場合でも、本人にその内容でよいのか確認をしながら説明をされるとよいでしょう。


②薬の管理
思春期の患者さんの場合、薬の管理を保護者に委ねることが多いと思われます。服薬の仕方を間違えると危険ですので、保護者が管理することは大切なことです。それを嫌がる子どももいますが、その場合は医師とともに、薬の管理方法を、薬の危険性も含めて話し合うとよいでしょう。


③関係機関との連携
学校やその他の連携機関(⇒第79回コラム参照)との連絡や調整は、主に保護者が行っていると思います。思春期の子どもの多くは、どのようなサポートが自分に必要で、何をするべきか、よく分からない段階にいます。そういう場合は、保護者がうまく連携機関を子どもに紹介して、つなげていくとよいと思います。


§6 親としてのかかわり:心理的な面のサポート

心理的な側面のサポートとしては、①OCDに関する知識を共有する、②保護者が子どもに対して先走った行動に出ない(子どもの心や生活領域に対して侵入的にならない)、③子どもを「見守る」という姿勢(保護者の側の不安に耐える強さ)です。


①知識の共有
子どもがOCDを発症した場合、まずは病気について一緒に勉強すること、知識を共有すること、間違った知識をもたないように注意することが必要です。正しい知識を得ることによって、OCDの症状に心が完全に巻き込まれてしまうことを防ぎます。

正しい知識は、病気を治療し、症状をコントロールしていこうとする健康な心の部分を育てるのにとても大きな役割を果たします。最近はインターネットなどで情報を得ることができますが、それらの情報には、質のよいものと悪いものとがあります。思春期の子どもはまだ情報の質の善し悪しがわからないため、誤った情報に翻弄されてしまうこともありますので、注意しましょう。


②保護者が先走らない(子どもの心に侵入的にならない)
小学生のころまでは、保護者が子どもより先にいろいろと案じて、子どもを守るというスタンスでもいいと思います。しかし、思春期になると、本人の意思や価値観がはっきりしてきますので、子どもの気持ちを知らないままに保護者が先に動いてしまうと、逆に本人の苦痛になることがあります。

本人の不安定な気持ちや悩みに対して「じゃあ、こうすればいいじゃない」「ああすれば済むことじゃない」というかたちで解決しようとするのは、せっかく自分らしい解決法を見つけようとしている本人の心にずかずかと入り込んで、結果、本人の悩みや考えを潰してしまうことになります。

むしろ、本人らしい解決法が見つかるように、本人の悩みや不安感・イライラ感を理解し、一緒に悩んであげるぐらいの距離がちょうどよいのかもしれません。問題解決そのものをサポートするのではなく、問題解決しようと苦しむ気持ちをサポートすることが一番です。


③見守る姿勢で
これは②とも関連するのですが、思春期の子どもを抱える保護者にも心の課題があります。それは、子どもと向きあうなかで、自分の心に沸き上がってくる不安やいらだち・あせりに、耐えるということです。子どもの未熟さ、子どもの怒りや不安感に保護者の方が耐えられず、すぐに何とか解決してしまおうとするパターンが多いように感じます。すると、②の例のように、本人に対して侵入的になってしまうのです。

保護者は、自分の心にある不安やつらさを、子どもを何とかすることによって解決しようとしないで、ある程度自分で抱えることが大切です。それが難しいときには、専門家や信頼できる周囲の人に相談をしながら、自分で抱えられるようになるようにしましょう。


おわりに「思春期の子どもをサポートする方へ」

成人の方をカウンセリングしていて、いつも感じることがあります。それは、どれだけ大変な思春期を過ごしてきても、その時期に自分に関わり続け、見守り続けてくれた大人がいた、という経験は、その後の人間関係に、とてもいい影響を与えているということです。おそらくその経験は、人を信じること、つらいときに決して一人にならずに、誰かを上手に頼ることを教えてくれるものだと思います。思春期は非常に繊細で難しい時期ですが、大切な時期でもあるのです。

私がカウンセリングをさせてもらった成人の多くが、「思春期に混乱した自分を見守っていてくれた大人に対して、感謝の言葉を口にすることができなかった」といいます。「それどころか反抗してばかりで、大変迷惑をかけた」と。今、思春期の子どもに向き合っている保護者や学校の先生方も、たくさんいらっしゃると思います。問題がなかなか改善しなかったり、反抗が強くて見守り続けることがつらいと思われるときもあると思います。でも、今の皆さんの努力は、子どもたちの将来にとって、決して無駄ではないということを覚えていていただけるとうれしいです。

ほかにも、次のことを覚えておいていただけたらと思います。

* 子どもの年齢が小さい場合、OCD以外に、発達障害の可能性も考えられます。OCDの症状によく似た行動が見られる発達障害もありますので、鑑別が必要です。主治医の先生によく相談してください。

* 思春期は非常に変化の激しい時期です。OCDを発症していなくても、一過性でOCDの症状が見られることもあります。その場合、思春期の混乱が過ぎると、少しずつ落ち着いていくことが多いようです。