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OCDコラム

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心の病気と食事の関係

『うつは食事で治そう』など、心の病気と食事について書かれた書籍が多く発行されています。本サイトの読者のなかにも、OCDの人によい食事というのはあるのだろうかと、気になっている方がいるかもしれません。
そこで今回は、心の状態と食事の関係について考えてみましょう。


目次
§1 食べ物は薬ではない
§2 栄養素の代謝はミクロの世界
§3 トリプトファンをとればセロトニンが増える?
§4 食生活は気分や感情に影響を与える
§5 何をどれだけ食べるといいか
§6 情報に惑わされない


§1 食べ物は薬ではない

10年ほど前、テレビ番組で食品がもたらす健康効果がひんぱんに取り上げられ、評判を呼んだことがありました。納豆のネバネバ成分に血行をよくする効果があると特集されると、全国のスーパーで納豆が売り切れになるなどの現象が相次ぎました。この頃から、体に油がつきにくい食用油など、「トクホ(特定保健用食品)」と呼ばれる厚生労働省から認可された食品が多数発売されるようになりました。日常的にサプリメントを摂取している人も多くなってきました。

食品には、薬のように病気を治す作用はありませんが、長期的な摂取で、体を健康な状態に保つ作用があります。わかりやすい例では、高血圧と塩分の関係があります。塩分(ナトリウム)を過剰にとることは血圧を高めるとわかっているので、高血圧の人、高血圧予備軍は、減塩することで、血圧を下げることが期待できます。このように、科学的に証明された事実に基づいて、病院では、栄養による治療「栄養療法」も行われています。

特定保健用食品は、高血圧や高血糖、骨粗しょう症など、体に問題を抱える人を対象にした商品が多く発売されていますが、心の病気に向いた特定保健用食品はありません。また、インターネットなどを検索すると「うつ病に効果的なサプリメント」などたくさんの情報を目にしますが、これらは科学的に証明されたものではありません。サプリメントとは、通常の食事だけでは、不足しがちな栄養素を補うものですから、薬のようには考えないほうがよいでしょう。



§2 栄養素の代謝はミクロの世界

私たちが口から摂取した食べ物は、胃で消化され小腸で吸収され、さまざまな酵素やホルモンのはたらきにより、体に必要な栄養成分に分解され、生命活動のエネルギーをつくりだしたり、別の成分に合成されて、体をつくる材料になったりします。また、ある成分は体の調子を整えてくれます。そして、不要なものは排泄されます。

こうした体内で行われる栄養素の代謝(化学反応による体内での利用)は、たいへん複雑なメカニズムで行われています。たとえば、デンプンなどの糖質がブドウ糖に変換するときにはビタミンB1が必要だったり、タンパク質がアミノ酸に分解するときにはビタミンB群のひとつであるビオチンが必要だったりと、さまざまな栄養素が補酵素としてはたらきます。ですから、何かによい作用があるらしいからといって、その食品を単品でとったり、サプリメントでとったりしても、体の中でうまく作用してくれるかどうかはわかりません。

このような化学反応が行われている人体内の環境条件は、人によっても年齢、体の大きさや運動量の差によっても違いますし、男女差によってホルモンの分泌も違います。また、食品には、摂取のメリットと同時に、過剰摂取のデメリットもあります。ビタミンやミネラルもサプリメントなどのかたちで過剰にとると、害が現れることもわかっています。「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということを理解しておきましょう。


§3 トリプトファンをとればセロトニンが増える?

うつ病の人やOCDの人は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンという物質が、うまくはたらいていないことが知られています(⇒OCDの原因)。ここでは、セロトニンとトリプトファンの関係についてすこし考えてみましょう。

セロトニンは、トリプトファンというアミノ酸の一種から体内で合成され、脳や腸などに運ばれます。そこで、トリプトファンをたくさんとれば、セロトニンがたくさんつくられて、OCDの症状改善に役立つのではないかと考える人もいるかもしれませんが、残念ながら効果は期待できません。

OCDは、神経伝達物質がうまくはたらかないことが病因のひとつとされていますが、それは、セロトニンの「量」だけの問題ではなく、神経細胞間で情報を伝達する「はたらき」の問題でもある、ということです。OCDの薬物療法で使われるSSRIという薬は、神経細胞間にあるセロトニンを活用して、セロトニンの減少を防止します。しかし、食品からセロトニンをつくる材料を摂取しても、セロトニンが増えたとか、症状が改善したという、科学的な証明はいまのところありません。また、トリプトファンをとっても、その多くは体内のいろいろなところで別のタンパク質として使われ、脳の神経伝達物質として使われるのはごく微量です。国立健康・栄養研究所のサイトによれば、これまでの研究で、うつ病治療中の人にトリプトファンを投与することで症状の改善効果があったとする報告がある一方、効果がみられなかったという報告もあります。

トリプトファンは、タンパク質からつくられるアミノ酸で、牛乳やチーズ、バナナなどに多く含まれています。これらの食べ物を日常的にとることで、「知らず知らずのうちにセロトニンの材料を体に補給している」と考え、まずは毎日の食事内容を充実させていくとよいのではないでしょうか。

現在の栄養学で、精神神経系に作用すると考えられている栄養素は、トリプトファンのほかにもありますが、それは、あくまでも食品中に含まれている栄養素の話です。単品でたくさんとろうと思わず、毎日の食事で、これらの食品をバランスよく食べるようにしましょう。

下表に、現在の栄養学で、精神神経系に作用するとされている栄養素と、それが多く含まれている食品を挙げましたので参考にしてください。




§4 食生活は気分や感情に影響を与える

また、栄養だけではなく、毎日の食事のとり方が、気分や感情など、心の状態に影響を与えるといわれています。食事は、睡眠とともに、人間の一日の生体リズムをつくる要素のひとつだからです。

人間は、朝目覚め、日中に活動し、夜休むという生体リズムで生活しています。これをコントロールしているのは、脳内視床下部にある、体内時計と呼ばれるはたらきです。朝目覚めて、一日の活動を始める態勢になるための一番大きな要素は日光です。太陽の光を感知することによって、脳内のセロトニンという物質が刺激され、覚醒します。それとともに、朝、食事をとることも、覚醒のリズムをつくります。人の体温は、眠っている夜間にもっとも低くなりますが、食事をとると、消化が始まり、血行が促進されて体温が上昇し、活動する態勢になります。ですから、一日を快調に過ごすリズムをつくるためにも、朝食はとったほうがよいのです。

また、脳をはたらかすエネルギー源は、ブドウ糖だけです。脳は眠っている間も活動しているので、目が覚めたとき、エネルギー源であるブドウ糖は不足ぎみになっています。ブドウ糖は、糖質からつくられますので、糖質を朝ごはんにとることは大切です。ごはんやパン、麺類、イモ類などに含まれる糖質のデンプンは、ブドウ糖がたくさん結合したもので、果物にもブドウ糖が含まれています。

朝食をとるかとらないかでは、勉強や作業に対する集中力に差がでるという調査結果が、多数あります。一人暮らしの人や忙しい人も、おにぎり1個、あるいはトースト1枚と果物だけでもいいので、朝食を食べるようにしましょう。朝から体が冷えて動くのがおっくうだったり、なんとなくやる気が出ないというような気分は、もしかしたら、朝食を抜いていることが原因かもしれません。

また、私たちは食事をしてもしばらくたつと、空腹になります。これは、血液中のブドウ糖の量(血糖値)が減り、それが脳の摂食中枢を刺激するためです。空腹時は胃が縮み、自律神経の交感神経が優位になるので、神経は緊張しがちになります。一方、食事をとると胃壁が広がり、自律神経は副交感神経が優位になって、リラックスに傾きます。また、血糖値がある程度上がると、脳の満腹中枢にその情報が伝えられ、食欲は治まります。

空腹感をストレスと感じる度合いには個人差がありますので、一概にはいえませんが、一般に、空腹を感じるとイライラし、怒りっぽくなりがちです。逆に、元気がなくなり、沈んだ気分になる人もいます。なかには、そんな気分を解消しようと、ケーキやアイスクリーム、クッキーなど、甘いものを間食してしまう人もいるかもしれません。

「おいしい」という味覚は快感でもあり、胃がふくらむとリラックスしますから、食べることは一時的なストレスの解消になります。しかし、精製された砂糖や小麦粉などを使った甘いお菓子類は、食べると急激に血糖値を上げるので、それに反応して、すい臓から血糖値を下げるインスリンが放出され、血糖値を下げます。こうした血糖値の乱高下が、情緒を不安定にすると警鐘する専門家もいます。

気分や感情は、食事の内容によっても変わってきます。加工食品やファストフードが中心の食生活だと、満腹感は得られても、体が必要としている栄養素が十分に摂取できていない場合があります。なぜなら、食材に含まれるビタミン、ミネラルなどの栄養素は、保存や加工の過程で失われてしまうものが多いからです。このような食品からは、糖質と脂質はとれていても、ビタミン、ミネラルや抗酸化物質、食物繊維などの体の調子を整える栄養素が不足しがちになります。また、加工食品には、保存や加工のために化学的に合成された添加物が加えられています。それらは厚生労働省によって体に安全と認められた範囲内の量で使われていて、微量ではありますが、せっかくとったビタミンやミネラルが、それらを体内で代謝するために消費されてしまいます。

いつもなんとなく調子が悪い、やる気が出ない、食べても元気が出ない、皮膚がカサカサしている、よく口内炎になる、疲れがとれにくいなどの自覚がある人は、一度、食習慣を見直してみるといいかもしれません。

OCDの方のサポート活動をしている精神保健福祉士の有園正俊さんは、著作『よくわかる強迫性障害』のなかで、OCDで治療中の人や回復期の人は、「ストレスとうまくつきあう」ことが大切だと書いています。OCDの人は、強迫行為に労力を使い、疲れてしまうことも多いことでしょう。食べ物や食事の場面に関係した強迫観念がある人もいるかもしれませんが、家族にも協力してもらい、できるだけ食事内容を充実させ、生活リズムが乱れないようにして、病気とつきあえるように体調を整えましょう。


§5 何をどれだけ食べるといいか

毎日の食事では、どのようなものをどれだけ食べればよいのでしょうか。食事には、国や民族によって長い間に培われてきた食習慣があり、民族や人種によって、体内の消化酵素が違います。日本人は長い間、ごはんを主食にし、おかずとして魚や肉、野菜などを食べてきました。これは生活習慣病になりにくく、健康を維持するのに適した食事法だということが、現在では世界的にも認められています。

現在の栄養学を基本に、私たちが摂取するといい食べ物の適量の基準は「日本人の栄養摂取基準」として定められており、厚生労働省のサイトなどで見ることができます。病院や高齢者施設などでは、管理栄養士が、利用者の体の状態に合った食事を考えてくれます。しかし、家庭で、毎日の食事の栄養価を計るのは、なかなか難しいでしょう。そこで、栄養学の専門家は、次のような食べ方を推奨しています。




主食としてごはんを1膳、またはパンを1枚、それに、主になるおかずとして、肉、魚、卵などの動物性食品を食べます。1~2品の副菜と汁物には、おもに野菜類やイモ類、豆類、キノコ、海藻類などを使います。タンパク質を補うために、副菜に動物性食品や大豆製品を使えば、アミノ酸のバランスもよくなります。こうすれば、主食の糖質から活動のエネルギー源を得て、おかずからはタンパク質と、多くのビタミン、ミネラル、その他の栄養素を得ることができます。

1日3食、こうした食事の構成ができれば理想的ですが、朝など忙しいときは、トーストにチーズかハムやゆで卵に、レタスやキュウリなどの野菜を少し添えるだけでも、「糖質+動物性タンパク質+ビタミン、ミネラルその他の栄養素」をとれます。これだけでも、毎日続ければ、食事からとるタンパク質、ビタミン、ミネラルその他の栄養素の量が違ってきます。外食をするときも、できるだけ単品ではなく定食にし、お弁当も食品の種類が多いものにしましょう。

食べてストレスを解消する回数は、以前よりも減っているでしょうか。気分の揺れは、以前よりも穏やかになっているでしょうか。イライラしたり、不安だったり、症状に振り回されている時間は少し減ってきたでしょうか。もし、前よりも落ち着いてきているようなら、その食生活は、あなたにとってよいものだということでしょう。OCDの症状が激しく、つらい思いをしている人も、症状に振り回されていない時間は、イライラやストレスが少ないほうがよいはずです。


§6 情報に惑わされない

食品中の成分が、人の体や心にどのように作用するのかはまだわかっていないことが多く、新たに発見された効果は、メーカーなどにより大きく宣伝されがちです。私たちはつい、そのような情報に引きずられがちです。しかし、テレビや雑誌などのメディアや、メーカー発の情報には、誇張も多いということを頭に入れておきましょう。

あまり厳密に考えず、上記のように、複数の皿をそろえた食事で、いろいろな食品(できるだけ新鮮なもの)をまんべんなく食べ、太りすぎないように気をつけていれば十分です。もちろん、自分で調理することが楽しいのならそれも息抜きになるでしょう。ただし、忙しかったり、いつも食事をつくってくれる人が疲れたりしているようなら、出来合いのものを買ってもよいのです。できる範囲の工夫で、毎日の食事の時間を楽しいものにしましょう。それも心の栄養になるかもしれません。



*参考サイト
文部科学省 五訂日本食品標準成分表

厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2010年版)

独立行政法人 国立健康・栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報



*参考文献
中村丁次/監修 『栄養の基本がわかる図解事典』 成美堂出版 2010年
中村丁次/著 『食べかた上手』 幻冬舎 2003年
香川芳子/著 『五訂増補食品成分表』 女子栄養大学出版部 2009年
上島国利 /監修 有園正俊/著 『こころのクスリBOOKS よくわかる強迫性障害』 主婦の友社 2010年