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物が捨てられない!
「強迫的溜めこみ」の心理と改善への道

強迫性障害(OCD)の人のなかには、物を過剰に収集したり、物を捨てることができなかったりした結果、家の内外にあふれるほど物が溜まってしまうことがあります。
これは「強迫的溜めこみ(compulsive hoarding)」という症状で、強迫行為のひとつです。
溜めこみ(hoarding)自体は、OCD特有の症状とは限らず、ほかの精神疾患の人の場合でもみられます。
ときどき、テレビなどで「ごみ屋敷」が報道されますが、そういう例の中には、強迫性障害の人もいるのではないかと考えられます。
日本では、強迫的溜めこみについての一般向けの情報がほとんどありません。
そこで今回は、海外の情報を参考に、その理解につながるようご紹介します。


目次
§1 強迫的溜めこみとは?
§2 強迫的溜めこみの心理
§3 その他の特徴
§4 受診と治療の難しさ


§1 強迫的溜めこみとは?

強迫的溜めこみには、次の3つの面があります。

  ① 物を集めすぎる
  ② 整理できない
  ③ 捨てられない

そして、強迫的溜めこみの定義は、次の3つの基準がすべてあてはまる場合です(*1)




このように、強迫的溜めこみとは、短くまとめると、≪人が物に支配されてしまう病気≫といえます。

溜めこみ自体は、OCD特有の症状ということではありません。うつ病のために物を片付ける余裕や気力がなくなる人もいますし、双極性障害の人が、躁状態のときに、やたらと買い物をしてしまうこともあります。そのほか、統合失調症、不安障害、発達障害(注意欠陥/多動性障害=AD/HDなど)、認知症、依存症、衝動制御障害、パーソナリティ障害、摂食障害などでも、溜めこみに陥ってしまう人がいます。

溜めこみが強迫的なものとされるのは、先ほど紹介した定義にあるように、ほかのOCD症状と同様に精神的な苦痛を伴い、日常生活に著しく支障をきたしていることが条件になります。ですから、趣味のコレクションが膨大になって置き場所に困っているような人の場合は、強い不安や苦痛が伴わないので、強迫的溜めこみではありません。また、買い物に依存的でやめられない場合は、快楽的な面もあるので、OCDなのか衝動制御障害なのか、診断が難しいこともあります。

国際的な診断基準においても、強迫的溜めこみを、OCDの一種とするか、それとは別のグループとして分類すべきか、議論が行われています。脳画像を用いた研究によって、強迫的溜めこみの患者さんと、それ以外のタイプのOCDの患者さんの脳では、脳の活動の過剰な部位に違いが見られるという研究報告もあります。強迫的溜めこみと、それ以外のOCDの各タイプによる違いは、まだわからない面も多いのですが、いずれにせよ、現在の研究では、脳の機能の異常によって生じる疾患であるとされています(*2)


§2 強迫的溜めこみの心理

溜めこみをする人に対して周囲の人は、まずその状態を何とかしたいと思うでしょう。しかし、溜め込みという状況は同じであっても、問題を抱える本人の心理はさまざまです。強迫的溜めこみは精神の病気なので、心理面の理解が大切です。よくあるケースは、次のようなものです。

<集めてしまう心理>
買わなかったり、拾わなかったりすることで不安が生じ、気が気ではいられなくなります。集めるのが習慣になってしまうと、それが無意味だとある程度わかっていても、やめることができなくなります。なかには、そのような行為をした後で、罪悪感やいらだち、怒りを感じる人もいます。そして、収集にとらわれるあまり、深夜になっても家に帰らなかったり、仕事や家事など本来すべき行為に時間が割けなくなったりする人もいます。

●溜めこみでは、本、雑誌、新聞、チラシ、レシートなどの紙類を集める人が最も多いといわれています。また、ゴミ置き場から、修理すれば使えると思って物を集めてきたものの、そのまま置きっぱなしというケースもよくあります。しかし、収集するときは、この機会を逃すと、これから先、二度と手に入らないような気がしたり、あとで必要になって後悔するような気がします

●衣類や日用品など、既に十分に家にあったとしても、まだ集めたくなります。集めてきても、雑然と放ってあるだけなので、家にどのくらいの物があるのか把握できていない人もいますし、十分にあるとわかっていても収集がやめられない人もいます。

<整理できない・捨てられない心理>
●物を整理したり、捨てたりするにも、相当な量が溜まってしまうと、その行為自体が非常に負担になるので、敬遠しがちになります。また、どのように整理したり捨てたりしたらよいか、順序立てて考えること自体が難しい人もいます。

●汚染恐怖・洗浄や確認などの強迫症状がある人は、これらの症状にとらわれ疲れてしまい、片づけるエネルギーがなくなり、それらの強迫症状への回避によって捨てられないこともあります。

●確認や数えるなどの強迫行為がある場合、物を処分するときに、そのような症状が現れて片づけが困難になる人もいます。

●自分の行動に自信が持てず、何かを決断することが困難になることもあります。自ら決断した行為によって、大事なものを失ってしまうのではないか、不幸なことが起きるのではないかという不安がつきまといます。その結果、病気になる前のように物をポイポイ捨てることができなくなってしまうのです。

●汚染恐怖の強迫観念があるため、物に触ることが困難で、そこが自分にとって汚い領域に思えるために、放置した結果、物が溜まってしまう人もいます。

●物を集めるきっかけとして、友だちがいなく、孤独であったことを挙げる人もいます。そのような人にとって、元々は物が孤独感を埋める支えであったのですから、それが過剰な状態になっても、個々の物に対して愛着があり、捨てることに抵抗を感じます。買ってきたままほとんど使っていないものでも、捨てるのは嫌がります。

●溜めこみをする人は、他人に自分の物を勝手に触られたり、処分されたりすることを嫌がります。自分の強迫観念や儀式のルールが冒され、その後に起こるであろう不安や苦痛を考えるとたまらないからです。そのため、ゴミ処分業者に頼むのも抵抗があることが多いようです。


§3 その他の特徴

OCDの患者さんのうち、何かを溜めこんだり、保存する(saving)強迫行為がある人は、調査によって違いがありますが、17~42%の割合といわれています(*3)

強迫的溜めこみの患者さんには、年配の人も多くいます。発症年齢はさまざまで、思春期の頃からそのような症状がある人もいます。子どもの場合、家族と一緒に住んでいたり、本人の収入もないので、収集は成人ほど深刻にはならないことが多いようです。ただ、汚染恐怖・洗浄や確認などの強迫症状に関連して、部屋が片付かなくなり、家族が片づけるのも非常に嫌がるという場合があります。

強迫的溜めこみの程度はさまざまで、深刻な場合では命の危険すら生じます。また、二次的な被害も現れます。寝る場所が確保できなくなったり、日常生活のさまざまな場面に支障をきたしたりして、身体の健康に影響を及ぼすことがあります。特に高齢者では、身体への影響が深刻になる人が多いという報告があります。

溜めこんで物が増えすぎた結果、カビや雑菌が繁殖する、悪臭がする、害虫が増えるなど不衛生な環境になることがしばしばあります。動物を飼っていたり拾ってきたりした結果、衛生面がさらに劣悪になる場合もあります。溜めこんだ物の重量で床が抜けたり、家屋が傾いたりすることもあります。このような事態に及ぶと家族も非常に強いストレスを感じます。そして、自宅の外にまで影響が及ぶと、近隣から苦情が出て、問題が深刻になっていきます。


§4 受診と治療の難しさ

強迫的溜めこみを抱える人は、ほかのタイプのOCDの人に比べ、自分の症状が病気である、また事態が深刻であるという認識が低いといわれます。なかには一般的なOCD症状を併せもち、不安や苦痛が強い人もいますが、一般的には、不安や苦痛がそれほどでもない人も少なくありません。そのため、自ら医療機関を受診する割合も、ほかのタイプのOCDの人よりも低いと考えられます。強迫的溜めこみでは、本人が受診し、治療を受けることが難しい場合が多いと考えたほうがいいでしょう。

溜めこんだ状態を見て、周囲の人は、何とかしなくては! 受診をさせなくては! と思うでしょう。しかし、それを本人に強いても、かえって抵抗されることが多いのではないでしょうか。強迫的溜めこみといっても、上記のように、本人にはそれなりの考え(心理)があるからです。対応する人は、そうした本人の心理を否定せずに、聞いて受け止め、本人との信頼関係を作ることができると理想的です。

強迫的溜めこみの治療も、基本は薬物療法と認知行動療法です。ただ、ほかのタイプのOCDの症状に比べ、通常の治療方法では、改善の割合が低いようです。そのため、海外では、強迫的溜めこみに向けた専門の治療プログラムを行っている医療機関があります。

しかし日本では、現在、そのような溜めこみを対象にした専門治療を正式に行っているところはないようです。ですから、治療機関を探すことは難題です。強迫的溜めこみといってもいろいろな状態の人がいるので、一概にはいえませんが、強迫性障害の治療にくわしい医師に相談することで、改善の糸口が見つかる可能性が高いと思われます。

事前に家族が医師に相談した場合、治療によって期待できる効果を聞いて、本人に伝えます。その上で、本人が、このままの生活でいい点と、このままでは困る点や受診したほうがいい点とを比べます。これは「動機づけ面接」といって、本人に受診を前提に説得するのではなく、本人が決断しやすいように援助する方法です。海外では、強迫的溜めこみの患者さんに対しても、この方法を取り入れている専門家がいます(*1、*2)

強迫的溜めこみは改善率がある程度限られるので、治療の効果を過剰に期待すると、かえって通院が続かないことも考えられます。しかし、何もしなければ悪化することが考えられますので、「いくらかでも改善できればいい」くらいに考えて、治療するほうがいいかもしれません。

早く日本でも、強迫的溜めこみに対して、医療面での支援が整備され、社会の理解が進むことが望まれます。


●参考文献
*1 David F. Tolin, Randy O. Frost, Gail Steketee, Buried in Treasures: Help for Compulsive Acquiring, Saving, and Hoarding, Oxford University Press, 2007
*2 International OCD Foundation Compulsive Hoarding Website
  http://www.ocfoundation.info/hoarding/
 (国際OCD財団による強迫的溜めこみのページで、多くの専門家による記事が掲載されています。)
*3 仙波純一  「強迫性障害の亜型としての"Compulsive Hoarding"(強迫的ためこみ)」 『精神科治療学』 Vol. 22 No. 6 Jun. p633-638 星和書店 2007年