トップOCDコラム > 第73回
OCDコラム

OCDコラム

OCD治療の現在とこれから
日本不安障害学会 第2回学術大会レポート


2010年3月6日、7日、日本不安障害学会の第2回学術大会が大阪で開催されました。OCD(強迫性障害)を含む不安障害に関して、医師や研究者から、多くの報告がされました。
OCDについては、4月1日配信のメールマガジンでもご紹介したように、市民公開講座として「手洗いや確認を止められない!! 強迫性障害という病気について」と題した講演があり、兵庫医科大学病院精神科神経科主任教授(学会開催時は大阪市立大学大学院医学研究科 神経精神医学)の松永寿人先生がお話しされました。
医師・研究者向けには、「強迫性障害治療の現在とこれから」と題したシンポジウムが行われました。こちらは、市民公開講座でも講演された松永寿人先生が企画したもので、松永先生と京都第二赤十字病院心療内科(精神科)の多賀千明先生が座長を務めました。
今回のコラムでは、そのシンポジウムで報告されたことがらを紹介します。専門家向けにお話しされたものですので、すこし難しい内容になりますが、できるだけわかりやすく紹介します。


目次
§1 OCDの行動療法の現況と課題
§2 児童・青年期OCDの治療
§3 強迫性障害における心理教育
§4 OCDの薬物療法の現況と今後
§5 現在の強迫性障害に対する統合的治療と今後


§1 OCDの行動療法の現況と課題
――講演 中尾智博先生(九州大学大学院 医学研究院 精神病態医学)


行動療法は、OCDの成立には不安を介した不適切な学習が関与していることを示しました。それを理解したうえで、不適切な学習を解除し、生活しやすい行動を学習していくという治療プロセスになっています。行動療法では、準備の段階で問題となっている行動、強迫症状、環境がどのような状態にあるのか、詳しく分析・評価してから、治療を行います。行動療法には、いくつかの治療技法がありますが、OCDの行動療法としてよく選択されるものに、曝露反応妨害法があります。(⇒OCDの治療法>行動療法)

講演では、演者の中尾智博先生の病院で行われている行動療法について説明がありました。こちらの病院は外来と入院でそれぞれ行動療法を実施しています。外来での行動療法プログラムでは、セッション(セッションとは、精神療法の面接回数のこと)を通じて、病状の評価面接、心理教育、曝露反応妨害法の課題を設定し、これらを繰り返し行います。症状が重い方やほかの精神疾患を合併している方、不合理感が少なく薬物療法や曝露反応妨害法の効果がみられない方などでは、入院して行動療法を行うケースも多々あるといいます。

OCD症状が病気として世間で知られるようになり、受診者が増えてきましたが、そのわりに、OCDの患者さんに対して行動療法を積極的に行っている医療機関は、まだまだ少なく、入院できる医療機関もかなり不足しているのが実情だそうです。今後、行動療法を実施できる治療者の育成とともに、外来、入院それぞれにおける行動療法プログラムを実施できる医療機関を増やしていくことが急務だそうです。


§2 児童・青年期OCDの治療
――講演 金生由紀子先生(東京大学医学部附属病院 こころの発達診療部)


OCDの発症年齢は、10歳前後と21歳前後にピークがありますが、半数以上の人は18歳以下の年齢で発症しています。それにもかかわらず、大人になって初めてOCDと診断されることがしばしばあるということは、子ども時代に発症しても、受診に結びついていないという問題があると金生先生は指摘します。それには、子どものOCDがよく知られていなかったり、子どもがOCD症状を隠そうとしたりすることが関係していると考えられるそうです。

児童期、青年期のOCDでも、汚染の恐怖と洗浄、何度も確認してしまう行為のように、大人と似た症状が多くあります。しかし、児童期、青年期に顕著にみられる特徴として、強迫観念よりも強迫行為のほうが現れやすいこと、自我違和的とは限らない(症状に対して、大人ほど不合理であるという感じがしない)こと、家族への巻き込みが著しいこと、チックや発達障害を併発しているケースが多いことが挙げられると金生先生はいいます。

とくに児童期、青年期では、ほかのこころの病気との鑑別が大切なのですが、それは必ずしも簡単なことではありません。また、子どもの場合では、治療者は患者さんの発達歴や生活環境などの情報を収集することも非常に重要になります。

治療は、大人の場合と同様に、薬物療法と認知行動療法が基本になります。ただ、それだけではうまく行かないこともあるため、心理教育を含めて、家族へのはたらきかけが重要になります。子どものOCDは親や周囲の人を巻き込んでいることが多く、家族の役割が大きいためです。また、学校生活にも影響がでている場合では、学校への環境調整が必要になることもあります。


§3 強迫性障害における心理教育:その実際と臨床的意義
――講演 中前貴先生(京都府立医科大学大学院 医学研究科 精神機能病態学)


OCDにおける心理教育には、次の2つの重要な意味があります。

① 患者が、病気についての正しい知識をもち、医師の説明を理解し、納得のいく治療を選ぶ(インフォームド・コンセント *1)。

② 治療への動機づけ。症状を自分の人格とは切り離して考える(外在化)ことによって意識を変える、そこから患者さんと家族は症状への対処法を学ぶ。

これらを学ぶことが、その後の治療に大きな影響を与えます。

薬による治療を始めるときにも、あらかじめ服用する薬について説明をしっかりしておくことで、患者さんは正しく服薬できるそうです。説明では、薬の効果が現れるまでには2~4週間かかるなど治療の見通し、薬の副作用や服薬を中断すると再発しやすいこと、残念ながら改善率には限界があることなどを話します。このようにマイナスの情報も含めて説明することで、薬に対する過剰な期待や不安が軽減されるそうです。

行動療法が、どのような療法なのか知らない患者さんも多いため、治療への動機づけの面からも治療開始時の心理教育は重要です。「悪循環だと思いながらも強迫行為を続けていて、強迫症状がエスカレートしていった経験がありませんか」と尋ねると、ほとんどの患者さんが「わかります」と同意するそうです。中前先生は、そのような説明から治療の動機づけへとつなげていくそうです。

また、病気になったのは親の育て方が悪かったからではないか、本人の性格が原因ではないかと、患者さんや家族が自責の念を感じていたり悲観的になったりしているときに心理教育は重要なはたらきをします。また、それらが原因で家族関係が悪くなっている場合にも有効だそうです。

家族が強迫行為に加担している場合は治療効果が低くなります。そのようなケースでは、家族にも強迫行為の悪循環について説明し、どこから儀式を手伝わないようにしていくか、患者と家族と治療者とで話し合い、ともに理解をすることが治療をスムースにするそうです。家族がよき理解者となることで、治療が進み、長期的にもよい結果をもたらすそうです。

ほかにも、中前先生の病院で行っている5日間短期入院プログラムの紹介がありました。


§4 OCDの薬物療法の現況と今後
――講演 住谷さつき先生(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 精神医学分野)


OCDの薬物療法では、まずSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)といったセロトニンに作用する抗うつ薬をしっかりと服用することになります。OCDの治療では、うつ病の治療より高用量を使い、十分な期間服用することが必要と考えられています。

一般に、SSRIのみで可能な症例は40~60%といわれ、SSRIのみで改善しない場合は、そこにリスペリドン、オランザピンなどの抗精神病薬を少量加えることで、改善することがある程度の割合であるそうです。

ただし、海外では6種類のSSRIが販売されているのに対し、日本では、OCDの薬として保険が適用されているものは、フルボキサミンとパロキセチンの2種類だけです。セルトラリンというSSRIは、OCDでは保険適用となっていません。また、1日に使用できる用量も、日本は海外に比べて低く設定されていることも、OCDの薬物療法の今後の課題だそうです。


§5 現在の強迫性障害に対する統合的治療と今後
――講演 松永寿人先生(大阪市立大学大学院医学研究科 神経精神医学/当時)


これまでの講演で話されたように、OCDの主要な治療は、薬物治療、認知行動療法、心理教育を組み合わせた統合的治療だそうです。また、薬物療法を先に行い、まず併発する抑うつや不安などをある程度抑え、次に動機づけを強化した後に、認知行動療法を行うという段階的な方法は効率的であるといわれています。このようなステップを踏むことで患者さんは治療についていきやすいそうです。しかし、OCDの患者さんのなかには、この方法が向かない人もおり、症状の特徴をよく洞察し、治療法を選択すべきだと松永先生は語ります。

OCDの症状には多様性があり、近年では、症状軸によって、個々の患者さんの症状パターンをみていくという方法が研究されています。症状軸は、①汚染/洗浄、②対称性/整理整頓/繰り返される儀式行為、③禁断的(攻撃的)思考/確認、④保存の4つが考えられています。

たとえば、対称性/整理整頓/繰り返される儀式行為は、比較的若い年齢で発症したり、チック障害を併発したりすることが多く、強迫性緩慢である場合もあります。また、保存の要因が強いと、強迫性溜めこみと呼ばれる状態になっていることがあります。保存という症状に対しては、通常の薬物療法では効果が得られにくいといわれています。

患者さんの反応は人それぞれで、それに合った治療法も決して一律ではありません。また、改善効果にも限界はあります。しかし、だからこそ、新たな治療法がさらに開発されることが待たれる状況であると松永先生は語られました。


●参考
日本不安障害学会「不安障害研究Vol.2 No.1 2010」p99-121

●注釈
*1 インフォームド・コンセント ……情報を得たうえでの合意。医療者が治療についての情報を患者や家族に説明し、治療を受ける側が合意したうえで治療を受けることが望ましいとされる。日本では1997年に医療法で説明義務が明文化された。