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OCDコラム

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うつ病・気分障害とOCD


一生のうちに16人に1人がうつ病を経験するといわれます。また、OCDの患者さんでは、約20~30%の人が併発するといわれています(→第3回コラム)。うつ病というと、通常「うつ病・うつ状態」のみを呈する単極性うつ病をいい、双極性障害や非定型うつ病などとまとめて気分障害と呼ぶのが正式の病名です。うつ病というほどではなくても、気分の落ち込みが激しい「うつ状態」を経験する人も少なくありません。
以前にもこのコラムでは第47回でうつ病の一般的な特徴を、第48回で治療や対処の方法について紹介しました。今回は、OCDと併発した気分障害の特徴について紹介します。


目次
§1 うつ症状があっても止められないOCD症状
§2 OCDと併発する気分障害の種類
§3 薬の効果
§4 対処のポイント


§1 うつ症状があっても止められないOCD症状

OCDの方では、最初にOCDの症状があって、二次的にうつ病を併発するというタイプが多いといわれています(*1)

強迫行為などOCDの症状は、とても疲れるものです。OCD症状が重くなればなるほど、ほかのことをする気力がなくなってしまいます。年齢に関わらず、疲れて、布団やソファーで、何をするともなく長時間ボーっとしている人も多いようです。

それだけ疲れてしまえば、強迫行為も治まるのではないかと、周囲の人は思うかもしれませんが、それができるくらいなら苦労はありません。たとえば、トイレに行くたびに儀式行為をしている人は、どんなに疲れていても、それをしたい衝動に襲われます。

入浴や外出のたびに強迫行為をしているという人では、強迫行為を引き起こすこれらの行動を敬遠しがちです。入浴を敬遠している人では、お風呂に入っていない自分を人がどのように思うのか気になり、なおさら外出を避けるようになります。しかし、このような回避も強迫行為なのです。避けていても強迫観念が治るわけではなく、かえって悪化してしまう場合もあります。

うつ病のような気分障害では、日内変動といって、一日のなかで気分の波があります。朝や夕方など人によって異なりますが、憂鬱な時間帯とそれほどでもない時間帯とが現れます。嫌な考えが頭から離れず夜間に眠れない人もいます。入浴や洗面の場面でOCD症状が起こる人では、家族と顔を合わす時間帯での利用を避けるということにもなります。このような状況下では、生活のリズムが乱れていくと考えられます。

また、引きこもりがちな生活を送り、昼夜逆転した不規則な生活になると、睡眠、食事、排泄にも支障が出がちです。同時に、強迫症状にも時間的な歯止めがなくなります。結果、心身ともに疲弊して、うつ病の症状を重くさせることにもなりかねません。それはうつ病の症状には疲労、睡眠障害、体重の増減といった身体症状もあるためです。強迫症状も、うつ症状も、コントロールが困難になると、さらに悪循環にはまっていくということは共通しています。

強迫症状は不快な感情を伴いがちですので、そのような生活が続くと、気分が落ち込みやすく、自分の行為に自信がなくなり、罪悪感悲観的といった考えに傾きやすくなります。その結果、OCDの患者さんでも、うつ病の診断基準に該当する項目が増えてしまうのです。(⇒第47回コラム)


§2 OCDと併発する気分障害の種類

気分障害は、いくつかの種類に分けられます(*2)

●大うつ病
いわゆるうつ病です。子どもから高齢者まで幅広い年齢で発症します。

第70回コラム「ストレスによる身体の症状と対処法」で触れたように、大事な人を失った、重い病気にかかったなど、大きなストレスとなる出来事を契機にうつ病を発症する人は少なくありません。また、更年期のように身体の変化が発症につながることもあります。

●双極性障害
躁うつ病ともいわれ、OCDを併発する人もいます。多くの場合躁状態とうつ状態が交互に現れます。

躁状態の程度には軽重の幅があり、重い場合では、気分が高揚して感情的になり、通常の判断では考えられないぐらい買い物をしたり、仕事や創作に度を超してのめりこむようになったりします。

しかし、なかには、軽躁状態といって変化があまり現れない人もいます。このタイプは、普段に比べ仕事がスムースに進み、人からの頼まれごとなどをどんどん引き受けてしまっているうちに、つい無理をしてしまい、再びうつ症状に陥るということになります。その場合、大うつ病との見分けが難しくなります。また、双極性障害は、青年期に発症する人が多いのも特徴です。

●気分変調性障害
抑うつ感が、ほぼ1日中続く日が多く、その状態が2年以上続いている場合、気分変調性障害が考えられます。若い時期に発症することが多く、小児や青年では抑うつ感よりもイライラ感であることが多いといわれています。小児の気分変調障害は、そのような状態が1年続く場合と定義されています。

また、ほかの気分障害に比べて、うつ症状がそれほどはっきりしていません。自分に自信が持てず、失敗やトラブルに弱く傷つきやすい。薬だけの治療では、治療効果が得られにくいことも特徴です。

●非定型うつ病
1日に10時間以上寝ても、昼間眠くなる(過眠)、気分の不調を鎮めたくて食べ過ぎてしまう(過食)、手足が鉛のように麻痺して重い感覚がある、などの特徴的な症状が現れます。一般的な睡眠障害や摂食障害ではなく、気分の症状が元になっています。また、仕事中などに症状が出るものの、本人が好きなことをしているときには比較的症状が目立たないことが多いようです。そのため、周囲からなまけているのではないかと誤解されやすい面もあります。自意識が過剰であるとか、対人関係に敏感であるといったことも気分に影響を与えやすくなります。

以上のように、うつ病というと、「活動的ではない」というイメージを持つ人も多いと思いますが、そうではないタイプの気分障害もあり、外見からは非常にわかりにくいケースもあります。

また、OCDの患者さんのなかには、病気について調べていくうちに、「この病気にも該当するのでは」と、不安になってしまう人がいます。病気の診断は、医師が適切な治療を行うためにするものであり、ただ病名のレッテルを貼っても意味がありません。一人で考え込まずに必ず専門医に相談してください。


§3 薬の効果

OCDの治療では、抗うつ薬のうち、セロトニンという神経伝達物質に作用するSSRIもしくはクロミプラミンが使われます。これらは抗うつ薬ですから、抑うつ症状に対しても効果が期待できます。

OCDの患者さんでは、脳内の神経細胞から放出されたセロトニンを、隣接する神経細胞が再び取り込む際に使われる物質(セロトニン・トランスポーター) が減少しているということが、2009年、独立行政法人放射線医学総合研究所から報告されました。大脳の島皮質という領域でセロトニン・トランスポーターを測定し、OCDの患者さんと健常者とで比較したところ、OCDの患者さんでは減少がみられるという結果が得られました(*3)。セロトニンとOCDとの関係は、研究が進み、徐々に解明されつつあります。

一方、セロトニンの働きだけがOCDの原因とは考えにくく、SSRIやクロミプラミンといった薬だけでは改善が難しい人もいます。双極性障害、気分変調性障害、非定型うつ病では、これらセロトニンに働きかける抗うつ薬以外の薬に効果があることもあります。抗うつ薬には、ノルアドレナリンという神経伝達物質に作用する薬もあります。

また、気分安定薬は、興奮を落ち着かせ、気分の変動を抑えるための薬で、双極性障害の治療によく使われます。


§4 対処のポイント

◆併発のつらさ
うつ病とOCD、どちらかだけでもつらいのに、併発していたら、そのつらさはいかばかりでしょう。OCDだけを発症している患者さんは、どちらかというと生への願望が強く、自傷行為は比較的少ないのですが、うつ病の症状が重いと、治療や自分自身の将来に限界を感じ、自傷・他害の衝動が出る場合もあります。

これらの症状が重くなると、日常生活で本人ができることも限られてきます。そのときの患者さんの様子を車にたとえると、ローギアでずっと運転しているようなもので、人によっては、エンストして動けなくなってしまうこともあるそうです。そのため、主治医に相談しながらも、本人も状況をできるだけ客観的に理解して、まずは悪化させない配慮が大事です。何も生産的な活動をしていなくても、そのようなつらい状況を生き抜いているだけでも、人間として価値のあることなのです。

◆休養も大切だけれど
一般的なうつ病では休養が大切です。そして、周囲の人の励ましが、逆効果になってしまうことが多いものです。

強迫症状はとても疲れるので、その疲労をとるためには、ある程度の休養は必要です。しかし、強迫症状を回避したいという動機から、家や部屋に閉じこもって休むことは、先ほど述べたように逆効果です。また、一人暮らしの人などでは、休養することイコール他人や社会との接点がなくなってしまうことにもなりかねません。

気分変調性障害や非定型のうつ病を併発している人は、病気の期間と比例して、対人関係に対して苦手意識を強くもっている場合があります。治療者と相談しつつ、精神療法を取り入れたり、生活のバランスが崩れないようなアドバイスを受けられると理想的です。気分障害への精神療法としては、認知行動療法や対人関係療法などがあります。あせらずに治療に取り組めるといいですね。


●参考文献
*1 松永寿人 「Obsessive-compulsive spectrum disorders(強迫スペクトラム障害)の概念と今後の展望」 精神科治療学 Vol.22 No.5 星和書店 2007年 P499-507
*2 野村総一郎(著) 「専門医が教えるうつ病」 幻冬舎 2008年
*3 菅野巖、須原哲也、松本良平 「【陽電子断層撮像装置による強迫性障害の病態解明研究】強迫性障害患者の脳内ではセロトニンを神経細胞内に取り込むタンパク質が減少する」 独立行政法人 放射線医学総合研究所プレス発表 2009年
http://www.nirs.go.jp/news/press/2009/12_25.shtml