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ストレスによる身体の症状と対処法


ストレスはOCD発症の要因にもなり、発症後では、ストレスが症状を重くする場合もあります。このコラムをご覧の方のなかには、ストレスによる精神や身体の症状を経験したことがある人もいらっしゃるでしょう。
多くの人が体験しているにもかかわらず、ストレスと身体、精神の関連性のくわしいメカニズムは、まだあまりわかっていません。
今回は、心身症や自律神経失調症を中心に、ストレス関連の病気やストレスへの対処方法について紹介します。


目次
§1 OCDとストレス
§2 ストレス反応のしくみ
§3 ストレスが身体に現れる病気
§4 治療
§5 ストレスへの対処法


§1 OCDとストレス

OCDは、ストレスだけが原因で発症する病気ではありません。さまざまな要因が関連して発症すると考えられており、原因は特定されていません。ただ、何らかのストレスとなる出来事がきっかけとなって発症することが多いようです。

このような出来事によって、心身がリラックスできずに、過度に緊張したり不安を抱えたりする経験をした人が多くいます。そして、このような悩みを誰にも相談できずに、自分なりにあれこれ対処しているうちに、悩みは解消されないまま強迫症状が出現してしまうこともあります。現在、強迫行為に家族を巻き込んでしまっている人も、初めは一人で悩みを抱えていたということが多いようです。

また、物事への対処法にこだわりを強く持っている人が、それまではそのような傾向を癖と認識していた場合であっても、先ほど挙げた「ストレスの原因となる出来事」をきっかけとして、強迫症状になるというケースもみられます。

そして、OCDを既に発症している人が、ストレスとなる出来事を経験することによって、症状が悪化することもあります。また、強迫行為は、患者さん自身にとっても、不合理でやりたくないのに、やらざるをえないと感じて行っているものです。そのため、強迫行為を行うと非常に疲れるのですが、その疲れは有意義な活動によるものとは違い、本人にとってもどこか不本意なため、症状そのものがストレスを与えます。


§2 ストレス反応のしくみ

ストレスという言葉は、一般的には、何らかの刺激によって、負担が過剰になっている状態を指して使われます。ストレスを引き起こす刺激を「ストレッサー」といいますが、これらには、騒音や温度などの環境や他者との人間関係のように外から加えられるものと、体の痛みのように自分の内側から生じるものとがあります。

ストレス刺激による負担に対し、そこから回復しバランスを取ろうとする働きをストレス反応といいます。

ストレス刺激は、まずに伝わります。大脳の内側にある大脳辺縁系は、動物の本能的欲求や感情に大きく関わる部位ですが、ストレス刺激が大脳辺縁系に伝わり、アドレナリンなどの神経伝達物質(*1)の分泌に影響を与えるため、精神的にも身体的にも変化が現れます。

ストレス反応が過剰になると、精神面では、不安感や緊張感が増し、イライラして落ち着かなかったり、怒りっぽくなったり、考え方が悲観的になったり、他人や自分を責めたりします。

次に、身体的な変化は、脳と体の各部をつなぎ、全体の働きを調整する次の3つの仕組みを経由して生じます。

●自律神経系……身体には、心臓の鼓動や血液の循環、食べ物の消化、呼吸のように、人が意識しなくても自動的に行われている働きがあります。この働きの自動操縦を行っているのが自律神経です。

●内分泌系(ホルモン)……血液や体液を通じて体内を循環し、ほかの組織の機能を特異的に調節する物質です。ホルモンのなかには、アドレナリンやセロトニンのように、神経細胞を通り、神経伝達物質として使われるものがあります。ただし、神経が瞬間的な情報を伝えるのに対し、主に血管を通じて運ばれるホルモンは、伝わる速度が遅くてもよい身体の機能の調整に使われます。

●免疫系……菌、ウイルスのような異物から身体を守るしくみです。血液に含まれる白血球やリンパ液に含まれるリンパ球のほかに、唾液、涙、鼻水、胃酸なども、生体を防御する働きをもっています。

これら3つは、いずれも脳の視床下部を経た情報によって、コントロールされています。しかし、ストレスによって、普段は意識せずに自動的に行われているこれらの働きがうまく作動しないことがあります。たとえば、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者さんで、涙が止まらなくなる人がいますが、これも心理的な原因によって身体に症状が出てしまうもので、視床下部が関係していると考えられています。


§3 ストレスが身体に現れる病気

ストレスによる身体の病気には、次のようなものがあります。

●心身症
心身症は、身体の病気ですが、症状の発症や悪化に心理的な要因が関係しているものの総称です。次に述べる自律神経失調症に比べ、特定の臓器や部位に集中して症状が現れることに使われることが多いのですが、重複する面もあります。
心身症の病気には、主に次のようなものがあります。

気管支喘息、胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、緊張性頭痛、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチ、更年期障害、月経異常など

●自律神経失調症
自律神経には、緊張や不安を高める交感神経と、その逆の作用をする副交感神経の2つがあり拮抗して働いています。この2つのバランスが乱れることによって、身体の臓器や部位は検査しても異常がないのに、さまざまな症状が現れるのが自律神経失調症です。原因には、過度のストレスのほか生活習慣の乱れ、環境の変化などがあげられます。

自律神経は全身に張り巡らされているので、その症状も身体のいたるところに出る可能性があります。主な症状に次のようなものがあります。

頭痛、動悸、過換気症状、めまい、便秘、下痢、吐き気、冷え、しびれ、食欲不振、疲れやすい

●内分泌系の疾患
女性はホルモンの変化によって、身体や精神に影響を受けやすい特徴があります。そのため、女性ホルモンの分泌量が大きく変化する妊娠、出産、閉経前後などの時期には、身体や精神に不調が起こり、ストレスにも影響されやすくなることがあります。また、このような時期に、OCD症状が現れたり、OCDが悪化することもあります。

●免疫系疾患
ストレスが多いと風邪にかかりやすくなると聞いたことはありませんか。ストレス刺激は免疫担当細胞の機能を低下させるということが、近年解明されつつあります。風邪は万病の元といいますが、つきつめれば、ストレスこそが万病の元ということになります。


§4 治療

ストレスと関連のある病気であっても、まずは内科や整形外科などを受診するのではないでしょうか。それらの科で異常が見当たらない場合、多くは心療内科の対象となります。ただし、ほかの病気や大きな病気の前兆ということも考えられますので、一概に自己判断はせず、必ず医師による診断を受けてください。自律神経系の病気では、必要に応じて自律神経機能検査、心理検査などを利用し、総合的に診断されます。

●薬物療法
ストレスと関連の深い病気には、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬が処方されることがあります。自律神経調整薬という脳の視床下部に働きかける薬や、自律神経末梢作用薬といって、自律神経の末端に働きかける薬が用いられることもあります。

心身症の症状を緩和するためには、内科などでよく処方される薬が用いられます。たとえば、過敏性腸症候群という病気は、緊張する場面や電車での移動中にトイレに行きたくなったり、おなかが痛くなったりしますが、その症状は人によって、下痢、便秘、その両方を繰り返す、おなかにガスがたまるなど、違いがあります。ストレスが腸内のセロトニンを刺激して下痢や腹痛を引き起こす場合では、セロトニン神経に働いて症状を抑える薬が用いられます。

女性ホルモンが身体の不調に関係する場合、女性ホルモンを補充したり、ビタミン剤によって脳下垂体に働きかけホルモンの分泌を促すこともあります。

●心理療法(カウンセリング)
担当する医師、心理士によって、その方法はさまざまですが、患者さんの気持ちを受容し、共感、支持する心理療法が多いようです。

ストレスへの対応としては、似たようなストレス刺激を受けても平気な人と、大きく反応する人とがいるように、個人の考え方、受け止め方によって病気を発症するかしないかの違いが起こります。考え方(認知)に変化を持たせるのが認知行動療法です。また、人間関係への心理的アプローチとしては、対人関係療法(*2)交流分析(*3)などがあります。これらはストレスそのものを回避するのではなく、ストレスの上手な受け止め方を気づかせるものです

また、環境調整といって、たとえば、病気がある程度改善し、職場復帰するときに、いきなり以前のようにフルタイムで働くのは無理という場合、職場の人を含めて相談し、就業時間や仕事の内容などを調整してもらうようなことが、うつ病などでは行われることがありますが、これはOCDの人にとってもストレスを軽減するのに有効な場合があります。

●生活指導・相談
生活のリズム、飲食の習慣、運動不足、経済状態などが、ストレスに関係することも多いので、それらの面についても医師や心理士、ときには医療ソーシャルワーカーが相談に乗ることがあります。


§5 ストレスへの対処法

ストレスの対処法としては、ストレスゼロとまでにはならなくても、過剰にならずに、ストレスとうまく付き合っていくストレス・マネージメントという方法が研究されています。

●人間関係を活かす
ストレスを自分一人で抱え過ぎないということが大事です。信頼できる人に話してみることで気持ちが和らぎ、別の視点に気づき、客観的に判断できるということもあります。

苦手な人との関係では、当事者間で何とかできればよいのですが、第三者に相談し、間に入ってもらったほうが解決しやすい場合もあります。また、専門的な判断が必要な場合は、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に意見を求めたり、職場なら上司や担当者、学校なら先生やスクールカウンセラーを経由して支援を受けたほうがよいこともあります。

●リラクセーション
リラクセーションとは、意図的に身体の筋肉をゆるめることで、緊張を強いられた脳の働きを変化させることをいいます。単にのんびりと寝ている状態を指すのではなく、ストレスで緊張しているのとは正反対の状態を、あえて作り出すのです。

心理療法でこのような効果をもたらすものに、筋弛緩法自律訓練法があります。また、瞑想やヨガ、呼吸法、アロマセラピーなどでもリラクセーション効果が得られるものがあります。ただ、これらは1回だけでは効果が持続しません。緊張しやすい体質の人は、ふだんの生活に取り入れるとよいでしょう。

●ストレス発散
音楽、スポーツなど好きなことをして、その人なりのストレスを発散できるとよいでしょう。OCDの症状に悩まされていると、趣味どころではないと思われるかもしれませんが、いくらかでも強迫症状へのとらわれが減ればストレスも軽減されます。

また、本格的なスポーツではなくても、ちょっと外出して歩いたり、自転車に乗ったり、ストレッチをするというように、手軽にできるところから始められるとよいでしょう。スポーツや外出は、ストレス発散だけではなく全身の機能を高めることができます。

また、おいしいものを食べたり、お酒を飲んだりということも、ストレス解消に役立つことがありますが、「過ぎたるはなお及ばざるが如し」で、ほどほどが大切です。飲みすぎ、食べ過ぎで生活習慣病になってしまっては元も子もありません。ご自分にあったストレス解消法を見つけ、ストレスと上手にさよならできるとよいですね。


●注釈
*1 神経伝達物質――神経細胞は、わずかな隙間(シナプス)を開けて接していて、そこで情報のやり取りをしている。神経細胞の末端から分泌され、隣の神経細胞の受容体に情報を伝える物質が、神経伝達物質である。アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン、ギャバなど多数ある。

*2 対人関係療法――当初はうつ病の治療として開発された精神療法。患者が症状に影響を与える社会的、対人関係的な状況を理解し、それへの新しい対処法に移行できるよう支援する。治療者は、重要な他者との現在の関係に焦点を当て、患者にとって中立というよりむしろ味方となり、予め設定した期間の中で、積極的に介入するのが特徴である。アメリカではうつ病の治療として効果が実証され、ガイドラインでも有効な治療法として位置づけられている。

*3 交流分析――1950年代に開発された、対人関係の問題解決を目的とした精神療法。対人関係でのコミュニケーションにおいて、自我の状態に着目して、問題を生じさせている他者とのコミュニケーションの交流パターンを特定し、改善しようというものである。

●参考文献
『専門医が治す! 自律神経失調症』久保木富房/監修 伊藤克人、宮坂菜穂子/編 高橋書店 2009年
『ストレスに負けない生活 ―心・身体・脳のセルフケア』熊野宏昭/著 ちくま新書 2007年