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OCDコラム

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パニック障害、それと誤解されやすい病気


パニック障害は、OCDと同じく不安障害に分類されています。
パニック障害の治療や対処法はOCDと似た面もありますが、違った面もあります。
また、パニック発作では動悸や呼吸が激しくなったりしますが、このような症状はほかの病気にもあり、誤解されることがしばしばあります。
今回は、パニック障害について、症状や治療などの基礎知識と、なるべくOCDの患者さんにも共通する注意点やアドバイスをまとめました。


目次
§1 パニック障害ってどんな病気
§2 発症の仕組みと治療
§3 それってパニック障害?
§4 病院選びのポイント


§1 パニック障害ってどんな病気

パニック障害は、身体の病気ではないのに、動悸や発汗、窒息感、死ぬのではないかという強い不安などを伴うパニック発作を起こします。このような体験をすると、また同じような発作を起こすのでは? という不安(予期不安)に襲われ、日常生活に支障をきたしてしまいます。たとえば、電車に乗ったときに、突然、心臓の鼓動が激しく、息苦しくなり、このまま死んでしまうのではという強い恐怖を感じるパニック発作を起こすと、「次もこのような状態になったらどうしよう」という不安が生じ、電車に乗れない、家から出られないという状況になったりします。

パニック障害は、OCDと同じ不安障害に分類されています。不安、恐怖、苦痛も伴いますが、パニック発作が起こることが診断の際の必要条件になっています。DSMの診断基準では、次の症状のうち4つ以上が突然現れ、10分以内にその頂点に達するものをパニック発作としています。

1 動悸、心悸亢進、心拍数の増加
2 発汗
3 身体の震え
4 息切れ感、息苦しさ
5 窒息感
6 胸の痛みまたは胸部の不快感
7 嘔気(吐き気)または腹部の不快感
8 めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、気が遠くなる感じ
9 現実感の消失、離人症状(精神活動が自分のものである、自分がしているという意識が障害され、すべてがピンと感じられない)
10 コントロールを失うことへの恐怖、気が狂うことに対する恐怖
11 死ぬことに対する恐怖
12 身体の異常感覚(感覚麻痺、うずき)
13 冷感または熱感


これらの症状は、身体の病気や薬の作用によるものではなく、精神的な要因から生じています。身体の病気ではありませんから、パニック発作によって、死に至ることはありません。

パニック障害では、80%以上の人が広場恐怖を伴うといわれています。広場恐怖とは、症状の名前であって病名ではありません。「広場」というと天安門広場やモスクワの赤の広場などを思い浮かべますが、この場合の「広場」とはそのような場所を指すのではなく、そこで発作が起きたら、逃げるに逃げられない、救急車などの助けも呼べなくて困るというような場所をいいます。電車や飛行機などもそうですし、人混みの中や橋の上などの場合もあります。また、エレベーターの中や、歯科医院や美容院で椅子に座っているといった狭い場所の場合もあります。

予期不安から、パニック発作が起きそうな場所を回避したり、どうしても行かなくてはならないときには、誰かに一緒に行ってもらったりする人もいます。OCDの人でも、強迫症状のために苦手な場所を回避したり、誰かに同伴してもらったりということがありますが、それと似ています。ただ、いずれの場合も、回避や同伴は、根本的な症状の解決にはならず、回避の習慣が長引けば、なおさら恐怖や苦痛が増すという悪循環になりがちです。



§2 発症の仕組みと治療

人は、危険を目や耳から感じると、それが大脳基底核の扁桃体という部位に伝わり、そこで恐怖のような情動が生じると考えられています。扁桃体が恐怖を感じると、脳のほかの部位に伝わり、精神状態が変化します。また、自律神経を通じて、体全体の緊張が増し、脈拍が上がり、恐怖を与える対象からすぐに逃げたり、攻撃したりできる態勢になります。

不安や恐怖を伴う不安障害では、こうした反応の仕組みに誤作動が生じ、本当は危険ではないのに、身体や精神に危険を察知したときの反応が出て、それを自分で解消できないまま混乱してしまうと考えられます。パニック障害では、その身体や精神の反応がパニック発作になってしまうのです。

そして、パニック障害では、脳内のノルアドレナリン、セロトニン、ギャバという3種類の神経伝達物質が関係するという説があります。そこで、パニック障害の治療は、これらの部位に働きかけるような薬物療法認知行動療法が有効とされます。治療法は、OCDなどのほかの不安障害と共通している点が多くあります。


●薬物療法

治療には抗うつ薬抗不安薬がよく使われます。抗うつ薬として、現在、第一選択肢となっているのは、セロトニンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)⇒(OCDの治療法―薬物療法)です。ほかには、三環系やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)という抗うつ薬が使われることもあります。抗うつ薬は、いずれも毎日、処方された量を服用しますが、OCDと同様、効果が出るまでには数週間程度かかります。

抗不安薬としては、ベンゾジアゼピン系のものがよく使われています。ベンゾジアゼピン系の薬物は、神経伝達物質のギャバに働きかけ、不安を緩和します。抗不安薬は、抗うつ薬ほど、効果が出るまでに時間はかかりません。ただし、抗不安薬には多くの種類があり、薬によって効き方や作用する時間に差があります。そのため、抗不安薬は抗うつ薬の効果が出るまでの間に使ったり、不安が強いときや発作を起こしそうなときに頓服のように使ったりします。また、外出の際に持ち歩くことで安心感を得られることがあります。


●認知行動療法

認知行動療法は、OCDの場合と同様に、曝露(エクスポージャー)という技法が有効です。まず心理教育を行い、パニック障害発症の仕組み、パニックが起きた場合の対処法、認知行動療法の説明などを学びます。そして、広場恐怖を伴うパニック障害の人に対しては、発作が起こりそうで避けていた場所に、あえて行かせたり、電車に乗らせたりします。そこでパニック発作が起きなければ、そのような状況に対して平常でいられるということを実際の体験を通して確認します。


●その他

パニック障害では、ストレスや過度の緊張も原因になりますから、睡眠休養の時間を確保することが大切です。OCD同様パニック障害でも、うつ病を併発する人は多く、場合によっては、職場や学校を休んだほうがよい場合もありますので、そのようなことも医師に相談されるとよいでしょう。

リラクセーション法自律訓練法と呼ばれるものが有効な場合もあります。これらは、身体の筋肉の緊張をゆるめることによって、自律神経に働きかけ、精神的にリラックスした状態を作るものです。リラックスといっても、睡眠中のリラックス状態とは異なり、起きている時間にあえてこのような状態を作ることによって、緊張しやすい体質を緩和するようにします。



§3 それってパニック障害?

パニック障害は、ほかの病気や症状と誤解されることがあります。

1 いわゆるパニックを起こしてしまった……

OCDの患者さんでも、強迫行為がうまくいかなかったり、家族ともめたりして、混乱からパニックを起こしてしまったという声を聞くことがあります。しかし、先ほど挙げた症状のパニック発作が伴っていなければ、パニック障害ではありません。

ただ、パニック障害や非定型のうつ病の人では、怒りやすくなったり、キレやすくなったりするということがあり、これは「アンガーアタック(怒り発作)」と呼ばれます。パニック障害の場合、神経が興奮しやすくなっていて、ほかの人から見たらささいなことでも過剰な反応をしてしまうことがあるのです。


2 人混みが嫌い、電車に乗れない……

人混みの中に行きたくないとか、電車や飛行機に怖くて乗れないというのも、パニック発作を伴わなければ、パニック障害ではありません。OCDの患者さんでは、不潔な環境や確認事項が気になって、人混みや乗り物が苦手という人もいます。


3 突然、呼吸が激しくなって苦しい……

過呼吸症候群といって、突然呼吸が速くなり、苦しくなるという過呼吸状態が続き、めまいや不安に陥る病気があります。これも、パニック障害と混同されやすいのですが、別の病気です。ただし、パニック障害と併発することはあります。

過呼吸症候群は、心身症の一つです。心身症は、身体の疾患であっても、その原因がストレスのような心理的なものである病気の総称です。パニック障害には、神経伝達物質が大きく関係するので、それに作用する薬の効果が期待できます。しかし、過呼吸症候群は、そうではありません。どちらの場合でも、医師の診断を受けることが大切です。


4 自律神経失調症や更年期障害

精神と身体に関連して症状が出る自律神経失調症更年期障害でも、パニック障害と似たような症状が現れることがあります。自律神経とは、意識しなくても自動的に体のいろいろな機能を操作している神経です。自律神経失調症とは、その自律神経のバランスが崩れることで、体の臓器には問題がないのに、身体や精神の不調が現れる病気の総称です。

女性の場合、40代から50代にかけて、卵巣の機能が衰え、女性ホルモンの量が減少します。そのために、自律神経の働きや情動まで影響を受け、さまざまな不調が現れることがあります。これを更年期障害といいます。男性でも更年期症状が出る人がいます。



§4 病院選びのポイント

パニック障害は、ほかの不安障害と同様に、精神科の対象となる病気です。受診する場合、できればパニック障害に詳しい医師に診てもらえるとよいでしょう。下記の参考文献にある『パニック障害の治療ガイドライン』ができたのも最近のことですし、どの先生でも治療経験が豊富という病気ではありません。ただ、OCDに詳しい先生なら、パニック障害にも詳しい先生が多いようです。

パニック障害は身体症状を伴うので、心療内科でも治療可能な場合があります。身体の症状があっても、内科的な検査では異常が見つからないことが条件ですが、異常の疑いがあれば、内科など精神科以外の受診が必要となる場合も考えられます。そのため、いずれの科であれ、心身を総合的に判断できる医師に出会えると理想的です。最近は、精神科でも心療内科でも、精神療法やカウンセリングを取り入れている施設が増えてきています。

パニック障害で、電車やバスを利用して通院するのが難しい人も少なくありません。しかし、適切な治療をすれば改善していく病気ですので、初めは親しい人と一緒に出かけて受診して、通院に慣れて症状も改善してきたら一人で通うという方法も考えられます。




*注釈
*DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)――アメリカ精神医学会が定めた精神障害を診断するときの指針。DSMは、現在もっとも普及した精神障害の診断の手引書である。日本語にすれば、「精神障害の診断と統計の手引き」となる。


*参考文献
『パニック障害の治療ガイドライン』 厚生労働省こころの健康科学研究事業・パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定に関する研究班 2008年
『パニック障害 治療・ケアに役立つ実例集』 貝谷久宜/監修 主婦の友社 2008年


*参考リンク
パニック障害プラザ