トップOCDコラム > 第68回
OCDコラム

OCDコラム

OCDと社交不安障害(SAD)


社交不安障害という病気を知っていますか?
人前に出ると緊張してしまい、うまく話せない人っていますよね。
ですが、極度に赤面したり、大量の汗をかいたり、体が震えるといった身体変化があれば、それは社交不安障害かもしれません。
今回は、社交不安障害の基礎知識を、OCDの人が知っておきたいことも含めて紹介します。


目次
§1 社交不安障害ってどんな病気?
§2 昔からあった対人恐怖
§3 社交不安障害の治療
§4 早期治療が大切な理由
§5 OCDの人が知っておきたいこと


§1 社交不安障害ってどんな病気?

人前に出て、上がってしまった経験を持つ人は少なくないでしょう。ふだんはそれほど上がらないけれど、結婚式のスピーチなどでは緊張でシドロモドロに……という人もいるかもしれません。このような日頃の生活とはかけ離れた場面での緊張は誰しもあるはずです。また、小学校高学年から中学生ぐらいの異性を意識し始める頃には、異性の前に出るだけで緊張して、赤面してしまうということを、多くの人が体験しています。しかし、そうした思春期に特有の自意識過剰や上がり症は、年齢とともに次第に治まっていくといわれます。

ところが、こうした傾向が、大人になっても治まらない人がいます。なかには、人に見られていることを意識するだけで極度に緊張し、体が震えるなどの身体症状が出たり、そのことで人に変に思われないかと、後々まで気に病んだりする人もいます。そのため、人と会う場面を避け、研究発表など人前で話さなくてはいけないことがある日は学校や会社を休んでしまう人もいます。大勢の人の前で話したり、人に見られながら何かを行うことへの不安や恐怖が非常に強く、生活に支障を来すような場合は、社交不安障害という病気が考えられます。

社交不安障害のおもな症状は、次のようなものです。

●対人恐怖・・・大勢の人の前で話したり、会議で意見をいったり、権威ある人と対面する場面で、過度に緊張してしまう。たくさんの汗をかく、口が渇く、体が震える、めまいや動悸がするなどの身体症状が出る。それを人にどう思われるかと悩み、再びそのような症状が出ることを恐れ、人と対面することを避けるようになる。

●赤面恐怖・・・上記と同じような場面で、緊張すると顔が真っ赤になってしまう。また、自分が赤面してしまうことへの強い不安と恐れがある。

●スピーチ恐怖・・・人前で話をするときに、上がってしまい声が震えたり、どもったりしてうまく話すことができない。人前で話すことに対する強い不安と恐れがある(吃音恐怖)。

●視線恐怖・・・人に見られていると思うと緊張して、電話をしたり、人前で何かを行ったりすることができない。

●会食恐怖・嘔吐恐怖・・・人前では緊張して、食事がのどを通らない。また、緊張しすぎて嘔吐するのではないかという強い不安がある。

●書痙(しょけい)・・・受付や窓口で書類などを書く場合、人に見られていると緊張で手が震え、うまく字を書くことができない。

●自己臭恐怖・・・人と会うときに、自分の体臭や口臭が人に不快感を与えているのではないかという強い不安がある。


しかし、このような不安や恐れがあったとしても、本人があまり苦痛を感じずに生活している場合は、問題ありません。専業主婦や学生など、公衆の面前に出る機会が少ないために、問題にならずにすむこともあります。しかし、学校を卒業して就職すると、職種によっては人前に出ることが避けられない状況になることもあります。

30代のビジネスマンの中にも、人前で話すことの不安や恐怖から会社を休んでしまうような例があります。実務経験が豊富で要職についている人でも、重要な仕事の場面でスピーチをしなければならないときなど、その1カ月も前からスピーチで失敗をしないかという不安が頭から離れず、その苦痛から日常生活に支障を来すこともあるそうです。

あるクリニックに、結婚披露宴や同窓会などで、ナイフとフォークを使って食事をすることに強い苦痛を感じて悩んでいる専業主婦の方が受診に訪れたそうです。この方の場合、テーブルマナーを知っているかどうかということとは関係なく、心の中にある「人に見られていることへの強い不安と恐怖」が問題でした。

しかし、対人恐怖や赤面恐怖があったとしても、それが社交不安障害なのかどうかは、精神科、心療内科で医師の診断をあおぐ必要があります。問診などから、DSM*などの診断基準に基づいて診断が行われます。



§2 昔からあった対人恐怖

昔から対人恐怖や赤面恐怖に悩む人はいました。日本では、失敗を恥と考える「恥の文化」の伝統があることから、対人恐怖は日本人に特有のものと考えられ、特に若い男性に多いものとして、精神医学の分野でも以前から研究されていました。

しかし、このような症状は、病気ではなくその人の性格が原因で起こるものと一般的には思われてきました。内気、はにかみ屋、緊張しやすい、自意識過剰、神経質などの性格によるものと思われていたのです。そのため、悩みながらも「性格の問題だから」とあきらめたり、「自分は弱い性格だ」と悩んだりして、人と接する場面を避けて生活をする人も多かったと思われます。

「赤面・どもり治します」などと書かれた張り紙を街中で見たことがある人もいるかもしれませんが、このような広告は戦前からあり、現在でも見かけることがあります。これまで、対人恐怖をもつ人のなかには、民間の心理カウンセリングに相談に行ったり、話し方教室などに通ったりする人も多かったのではないかと推測されています。

このように、性格の問題とされてきた対人恐怖が、病気と認識され治療の対象になったのは、最近のことです。DSMでは、これらの症状は、不安障害のひとつの社会恐怖(Social Phobia)、また社交不安障害(Social Anxiety Disorder)と分類されています。

日本では最近まで、社交不安障害は英語名の "Social Anxiety Disorder"を直訳した「社会不安障害」という名称で呼ばれていましたが、「社会不安」という言葉には誤解も多いことから、2008年に日本精神神経学会において、より実態に近い表現の「社交不安障害」という名称に変更されました。2008年に行われた変更なので、本やウェブサイトでは、まだ「社会不安障害」という名称が残っているかと思います。

社交不安障害は英語名の"Social Anxiety Disorder"の頭文字をとって、「SAD(エス・エー・ディー)」と呼ばれることもあります。


§3 社交不安障害の治療

社交不安障害の治療には、薬物療法認知行動療法が行われます。薬物療法には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)という抗うつ薬が使われます。SSRIは強迫性障害の治療薬としても使われますが⇒(OCDの治療法―薬物療法)、2005年から、社交不安障害にも適用になりました。
 
社交不安障害の人は、脳の扁桃体という部分が非常に過敏になっていることがわかっています。扁桃体は、恐怖や不安、緊張などの情動との関連が深いと考えられています。ほかに、脳の帯状回、大脳基底核も、社交不安障害では過剰に働いています。SSRIは、脳内のセロトニンという神経伝達物質に作用することで、セロトニンのバランスを保ち、不安や緊張の発生を抑制すると考えられます。




このほか、症状によっては抗不安薬も使われます。身体症状が強い場合は、身体症状を抑制する薬が使われることもあります。

これら薬物療法に加え、精神療法の一つである認知行動療法では、病気と治療法についての理解を深める心理教育を行い、人と接する場合の考え方(認知)に働きかけたり、不安な状況に対して実際に行動に起こしたりと、徐々にその状況に慣れて自信をつけていくという働きかけを行います。

治療によって、不安や恐怖が軽減され、対人場面でも強い身体症状が出なくなると、次第にそれぞれの場面において対処することができるようになります。今回は大丈夫だった、今までできなかったけれどできるようになった、という成功体験を積み重ね、行動パターンが身に付くと、薬の服用をやめた後も不安の軽減が持続するようになります。

社交不安障害は、どの程度の割合で治るのでしょうか。2005年に行われた調査では、社交不安障害と診断された265名を対象に、52週の薬物治療をした結果、全体の87%の人が「非常によくなった」「よくなった」「ややよくなった」ことを実感したと報告しています。現在、社交不安障害は比較的治りやすい病気であると考える専門家が増えています。



§4 早期治療が大切な理由

社交不安障害は、ほかの病気との合併が多い病気です。慢性的な不安や恐怖のために脳の働きが低下し、うつ病を併発したり、アルコールで不安をやわらげようとした結果、アルコール依存症を併発することがあります。パニック障害、全般性不安障害、そしてOCDとの関連性も指摘されています。

治療をしないまま人と対面する状況を避けていると、社会生活が制限され、極端な場合は現在の生活、将来の生活ビジョンの変更を余儀なくされ、経済的にも支障が出てくることが考えられます。

たとえば、対人恐怖のために異性とつきあうことができず、結婚したいのにできないという場合もあるでしょう。かつては親戚や会社の上司が世話をしてくれる見合いというシステムがよく活用されていましたが、現在では見合い結婚をする人は減り、結婚は男女の自由意志に任されたもの、恋愛によるものがほとんどとなっています。このような時代に、対人恐怖はそのまま恋愛や結婚への障壁になってしまいます。

また、就職しても、その後会社を休みがちになり、引きこもりになる人もおり、そのなかには少なからず社交不安障害の人がいるだろうと推測されています。NPO法人「全国ひきこもりKHJ親の会」が600家族に対して行ったアンケート調査によると、ひきこもりの人が抱える「外へ出たいが出られない心理」には、「人目・他人の言動を気にする」が80%、「人に会うことを避ける」が80%となっており、社交不安障害と共通した要素があることがわかります。

いま、不登校を含む引きこもりの人口は、163万人ともいわれており、年齢的には20代後半から30代と高年齢化してきています。それに伴い親の年齢も50代から60代と高齢化しています。引きこもり自体は病気ではありませんが、長年引きこもることによって、うつ病やアルコール依存症を発症する場合もあります。

引きこもりの原因は社交不安障害に限りませんが、心当たりがあるならば病院で診断してもらうことも一考です。治療することで社会に出られるようになるのであれば、治療を行うことの意義は大きいといえます。



§5 OCDの人が知っておきたいこと

OCDと共存する疾患で、もっとも多いのはうつ病(→OCDコラム第3回)ですが、社交性障害を併発している人も少なくありません。

OCDの人でも、人と接することが苦手だったり、人と会うと緊張したり、人と目を合わせることに不安があるという方は多いようです。だからといって、必ずしも社交不安障害であるとは限りません。人前で強迫症状が出てしまうのではないかといったOCDによる理由で、人前に出るのが苦手な人もいます。また、強迫症状に1日何時間も取られてしまった結果、疲れてしまい、社交的な場面へはとても出て行けないという人も少なくないはずです。

もともと広汎性発達障害を抱えている人が、OCDを併発することは珍しくありません。広汎性発達障害の症状には、人との関わりのなかで問題となることがあります。具体的には、人と目を合わせられない、人の気持ちや意図を理解することが難しい、人との関わりのなかで、場面に応じて対応するのが難しい、集団においては、誰が誰に話しているか理解できない、といった症状です。もともとこのような特性があるために、人前に出ると過剰に緊張したり、不安が生じたりしてしまう人がいます。

このように、社交が苦手であったとしても、その背景となるものはさまざまです。したがって、必ず専門医に相談して診断をしてもらうことが大切です。




*注釈
*DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)――アメリカ精神医学会が定めた精神障害を診断するときの指針。DSMは、現在もっとも普及した精神障害の診断の手引書である。日本語にすれば、「精神障害の診断と統計の手引き」となる。


*参考文献
山田和夫/著 『不安・うつは必ず治る』 勉誠出版 2008年
貝谷久宣/監修 『社会不安障害のすべてがわかる本』 講談社健康ライブラリーイラスト版 2006年


*参考リンク
SAD NET
NPO法人全国ひきこもりKHJ親の会