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OCDコラム

OCDコラム

OCDと睡眠、そして生活のリズム



皆さん、夜は眠れますか?
強迫性障害(OCD)でとらわれが激しいときは、強迫症状が深夜にまでおよび、睡眠時間が削られてしまうことがあります。また、朝が苦手で、起きるのが遅くなってしまう人もいます。このような生活がしばらく続くと、生活のリズムが昼夜逆転してしまいます。
最近の研究で、睡眠のメカニズムと体内時計との関係が、少しずつ解明されてきました。そこで、今回は睡眠の問題に関する科学的な情報と、それにOCDならではの事情が影響している面をまとめました。


目次
§1 OCDに奪われる睡眠時間と生活のリズム
§2 睡眠が大切な理由
§3 体内時計と生活のリズム
§4 睡眠の問題も精神科の主治医に相談を
§5 OCDならではの苦労
§6 睡眠に対する考え方


§1 OCDに奪われる睡眠時間と生活のリズム

OCDのために、強迫観念、強迫行為に多くの時間をとられてしまう人がいます。なかには、それが深夜に及び、明け方までかかったことがあるという人もいます。
また、症状によっては、朝、外出の準備に時間がかかるので、夜の明けないうちから起きだすという人もいます。
このように、睡眠時間が極端に削られてしまう状態では、健康を害することもありますので、医師に相談してください。

OCDによって、睡眠時間と生活のリズムが乱れることは、他の理由でも起こります。
学校や職場に出かけて、日中、行うべきことがある人は、それが強迫症状の時間的な歯止めとなります。しかし、そのような予定がないとそのまま強迫観念や行為から離れられないことが間々あります。

家族と一緒に住んでいて、入浴等に関する強迫症状が伴う場合、生活の時間帯を深夜にずらすことで、家族への気兼ねが減ります。また、家族ともめていたり、理不尽な話ですが、不潔恐怖の対象が家族の誰かであるという場合では、家族との接触を減らす意味でも深夜型の生活の方が都合がよいようです。テレビを見たり、自分の好きなことをするにも、深夜の方が気分的に楽であることが多いようです。このような気持ちが発端となって、生活のリズムがずれて、それがOCDの症状とともに習慣になってしまうことがあるのです。

また、抑うつのような状態にあると、朝が苦手になる人も多いようです。うつ症状は睡眠と関係することも多いのですが、そうでなくても、朝起きたとき、また今日もOCDの症状と一日付き合うのかと思うと、気分も重たくなりがちです。



§2 睡眠が大切な理由

睡眠には大脳を休ませ、精神的な疲労をとる働きがあります。体を横にすることで、体の疲れはある程度とれますが、脳の疲れはそれだけではとれません。

また、内臓や血管、リンパ腺などに分布し体のさまざまな機能を自動的に調整してくれる自律神経にも睡眠は関係しています。自律神経には、交感神経と副交感神経の2つがあり、交感神経は体の各部が活動的になるよう働きかけ、副交感神経はその逆に鎮静的になるよう働きかけます。自動車のアクセルとブレーキのような関係です。
交感神経よりも副交感神経が優位になるのは、睡眠中やリラックスしているときです。しかし、これらの神経のバランスが崩れると自律神経失調症状として、身体にさまざまな不調が現れます。睡眠障害もその一つです。また、ストレスが強いと、交感神経がなかなか抑えられず、リラックスすることができません。
ですから、ストレスや緊張の強い精神疾患を持つ人にとって、睡眠はとても大切なのです。

また、身体面でも睡眠は大切です。成長ホルモンは睡眠中に分泌されるので、成長期の子どもにとって睡眠がいかに重要かはいうまでもありませんが、成長期ではなくても、身体の細胞を修復、再生する働きが、成長ホルモンにはあるそうですから、十分な睡眠をとることは健康的な身体を維持することにつながります。

そのため、睡眠不足が慢性化すると、精神面でも身体面でも問題が生じます。
精神面では集中力困難、イライラ感、やる気のなさが現れてきますし、身体面では、疲労感、痛み、体重減少などの症状が見られるようになります。

では、どのくらい眠れば十分な睡眠時間といえるのでしょうか。必要な睡眠時間は、個人個人によって異なります。また、年齢、季節によっても異なるので、一概に何時間眠れば十分とはいえませんが、極端な睡眠不足は問題です。

しかし、寝れば寝るほど健康にいいというわけではありません。
OCDの人の中には、起きていて症状にとらわれるよりも、寝ていた方がましと考え、長時間寝て過ごす人もいます。しかし、これは心理的に、強迫症状への回避にこそなれ、このような生活を続けていても強迫観念が減るというものではありません。




§3 体内時計と生活のリズム

睡眠のリズムは、体内時計に大きく関係します。
起きた直後の太陽光を目がキャッチすると、それが脳の体内時計に伝わります。それを合図に体内時計は、地球の昼夜の時間のリズムと合うようにリセットされます。リセットされてからの12~13時間を日中の活動時間と認知して、私たちの身体はそれに適した状態に保たれます。しかし、14時間くらいたつと、メラトニンというホルモンの分泌が始まり、次第に体温が下がり、眠気が出て、寝る準備が始まります。体内時計は、脳以外にも、身体の各部にあるそうです。

そのため、生活のリズムが崩れると、活動時間と休息時間があいまいになり、心身の状態が効率の悪いものとなります。また、強迫症状を伴った昼夜逆転の生活が、習慣になってしまうと生活リズムの改善が難しくなりますし、社会への参加や生活の自立にも支障をきたします。

それから、強迫症状のために、引きこもりになってしまったり、起きても窓や雨戸を開けるのが困難という人もいます。起きても、室内照明の明るさだけだと、体内時計のリセットが適切に行われずに、寝る時間が遅くなってしまうこともあるそうです。



§4 睡眠の問題も精神科の主治医に相談を

精神疾患を持つ人にとって、睡眠や生活のリズムは大切です。何らかの問題を感じているときは、主治医に相談してみてはいかがでしょうか。

精神科の薬では、飲むと眠くなるものもあるので、そのような薬は寝る前に飲むように処方してもらうと生活しやすいことがあります。逆に、強迫症状が原因で深夜型など不規則な生活になっている場合は、服薬の時間を大幅にずらしてしまうのはよくないので、主治医に話してみた方がいいでしょう。

また、睡眠不足が、身体の痛みや不調によるのではなく、睡眠自体に問題があるものを睡眠障害といい、これは次の4つに分類されます。

① 眠れない(不眠症)……夜寝つきが悪い、眠りを維持できない、熟睡ができないために、心身に不調が起こります。

② 日中眠い(過眠症)……夜眠っているにもかかわらず、日中に強い眠気が生じ起きているのが困難になります。ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群もこれに含まれます。

③ 眠る時間がずれる(睡眠・覚醒リズム障害)……睡眠・覚醒のリズムと、体内時計のリズムが合わないため、通常の時間帯に睡眠がとれません。

④ 眠っているときの問題……寝ぼけ、夢遊病、悪い夢に悩まされる、金縛りなど。

日本では睡眠科という診療科は正式にはありませんが、不眠症外来のような専門外来や睡眠障害専門のクリニックなどは、徐々に増えてきました。また、日本では、長く睡眠障害を精神科・神経科で診てきましたが、他の精神疾患を抱えていない人で睡眠障害の症状が重い場合や、特殊なケースと考えられる場合には、睡眠障害の専門医を受診した方がいい場合もあるそうです。



§5 OCDならではの苦労

OCDの患者さんは、起きている間は、強迫症状のために非常に疲れていて、横になれば眠れるという人は少なくありません。 一方で、OCDの患者さんによっては、次のような睡眠を妨げる要因を抱えている人もいます。

① 部屋が散らかっていて、寝る場所をきちんと確保できない
強迫症状としてため込みのある人では、部屋の中に物があふれていることもあります。また、ため込みの症状がない場合でも、その他の強迫症状のせいで部屋の片付けまで手が回らないという人は案外多いものです。

② 布団を干さず、シーツや毛布などの洗たくができず、同じものをずっと使っている
不潔恐怖の人の中には、外に洗たく物を干すこと自体、恐怖に感じる人がいます。また、シーツなど布の面積の大きいものだと、洗たくして干していても、シーツの一部が地面に触れるのではと、気が気でなくなる人もいます。

③ 強迫行為のためトイレの時間がかかるので、寝ている間はトイレを我慢する
睡眠中にトイレに行かないようにするため、寝る前に水分を控えるなど、自分なりの工夫をしている人もいます。しかし、睡眠中は意外と汗をかくもので、とくに夏場では脱水症状を起こしたりすることもあります。

このように、なかなか他の人にいいにくい苦労を背負いがちなのが、OCDの辛いところです。これらが原因で快適な睡眠が得られないこともあります。ただし、このような状態だからといって、家族がそれを手伝うことは、OCDの症状に影響する場合もあるので、簡単には判断できません。



§6 睡眠に対する考え方

睡眠は生命維持にとってきわめて大切な機能であるため、そう簡単に意思の力で、コントロールできないようになっていると考えた方がいいそうです。
また、「寝なければならない」「熟睡しなくてはダメだ」と考えすぎると、かえって無理が生じ、リラックスできません。

OCDの患者さんの中には、実際には「~した方がいい」程度に受け止めればよいものを「しなければならない」と過剰に厳しく考えるなど、「ほどほど」ができないという人がいます。
したがって、世間に出回っている、睡眠についてのさまざまな健康法をOCDの患者さんに勧めてよいかは考慮しなければなりません。快適な睡眠の効果が得られるまで、とことんやってしまったり、就寝時の環境や寝具が自分にぴったりあっているかが必要以上に気になり、それがかえって強迫症状になってしまうことがあるためです。

「早寝早起き」は昔からいわれている健康法ですが、早寝をしようとしても、寝る時間は既にその日起きたときに、ほぼ設定されてしまっているので、なかなか寝られないことが多いはずです。ですから、早寝早起きを実行するには、むしろ、努力して早起きを最初に実行したほうが、早寝にも結び付くそうです。




*参考
『眠りの悩み相談室』粂和彦/著 ちくま新書2007年
『睡眠障害』樋口輝彦、不安・抑うつ臨床研究会/編著 日本評論社2004年