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OCDコラム

OCDコラム

OCDの本棚――(3)
体験記、ほか


患者さんやご家族が読める、一般向けに書かれたOCD(強迫性障害)の本を、3回に分けて紹介しています。
今回紹介する本は、1冊を除いて、OCDを体験した人が書かれた本です。
精神科の病気は、実際に病気を体験した本人や家族だからこそ、どのような思いであったのか、実感を持って伝えられる面があります。そして、そのような本は、当事者にとって、わかりやすいという声を、たびたび聞きます。

ただし、OCDは、人それぞれ症状が違う面もあるため、本に書かれた体験が、そのまま誰にでも当てはまるとは限りません。また、本によっては、筆者が医学の専門家ではないため、体験に自分なりの解釈や推測が加わっていたり、科学的な根拠を踏まえているとは言えない部分も見られますので注意が必要です。

しかし、とかく一人で悩むことの多いのがOCDです。本を通じて、「このような思いをしているのは自分だけではない」と感じたり、改善した人からヒントを得られたりする可能性もあるのではないでしょうか。


それぞれの本の内容を、次の目的別に紹介します。

目的1 OCDの基本的なことを知るには

目的2 OCDをより詳しく知るには

目的3 認知行動療法について知るには

目的4 子どものOCDについて知るには

目的5 ほかの人の体験を知るには

目的6 ほかの病気が併存している人には

今回は、目的5目的6から6冊を紹介します。


目的5ほかの人の体験を知るには
――「こんなことで悩んでいるのは自分だけだ」。そんな不安が、強迫性障害に悩む当事者の心を、さらに苦しめる場合があります。でも、安心してください。同じような症状に悩み、そして克服した人たちはたくさんいます。体験者の書いた本から、あなたにも役に立つヒントがみつかるかもしれません。

『実体験に基づく強迫性障害の鉄則35』
⑪『実体験に基づく強迫性障害の鉄則35』
丸数字は、前々回(OCDコラム第60回)からの通し番号です。

田村浩二/著
文芸社(2001年)945円  
        注……値段はすべて税込み価格です。 

実体験から編み出した、症状とつきあうヒント集

著者は、長年、強迫性障害に悩まされてきて、それを克服した人です。その体験から感じたこと、有効であると思ったことが、35項目書かれています。

OCDの症状は、強迫観念に従い強迫行為を繰り返していくことで悪循環となっていきます。著者の田村さんは、その強迫観念が起こったときはどのような心理なのか、その罠にはまらずに、強迫行為をしないようにするために、自分はどうしていったかということを中心に書いています。

この本に書かれていることは、認知行動療法やその技法である曝露反応妨害(ばくろはんのうぼうがい)(⇒第52回コラム)そのものではありませんが、それらに通じる部分も多くあります。

たとえば、鉄則19に、「強迫観念に襲われている時は、放っておけば、その強い衝動がいつまでも続くように思われるが、それは錯覚である。どんなに強い恐怖感や不安感でも必ず治まる」とあります。これは、曝露反応妨害で目指すものと同じです。

著者が試行錯誤し体得していったポイントと、そのとき考えたことを、自分の言葉で表現しているので、読者に伝わりやすいでしょう。専門書とは違い当事者の視点で語られているのです。また、総ページが84ページで、それを35の項目に分けているので、各項目は短くまとめられていて、読みやすい本になっています。


『強迫性障害は治ります!』
⑫『強迫性障害は治ります!』
田村浩二
ハート出版(2005年)1,365円

OCDと正面から向き合った筆者の人生ドラマ

強迫性障害を克服した筆者の個人史が詳しく書かれている本です。生まれた環境、母親がもしかしたらうつ病だったかもしれないこと、結婚をして子どもを持つまで、そして発病に至るまでが書かれていて、大変興味深く読めます。「強迫ワールド」と題された漫画もついていて、当事者ではないけれど強迫性障害を理解したいという人にもおすすめです。

サブタイトルは「ある体験者の苦悩と快復した喜びの報告」。快復のためにはどうしたらいいのか、また、本人の努力だけでなく、支えてくれる人も必要だということが書かれています。田村さんの場合、支えてくれた人は、妻でした。

結婚して、一緒に生活していく中で、妻に強迫症状が知られるようになったのですが、その後、どのようなやりとりで妻が病気を理解していったのか、どのように支えてくれたのかも綴られています。本の最後は、息子への呼びかけで終わっています。これは、病気から逃げないで人生を作っていく上で、とても参考になる本でしょう。こういう本はなかなかありません。人生ドラマとして読んでも勇気づけられます。

田村さんがOCDになったのは、まだ強迫性障害が「強迫神経症」と呼ばれていた時代です。今と違って、治療法はまだ確立しておらず、田村さんも自分なりに工夫して病気を克服するほかなかったのです。⑪や⑬と同様に、強迫行為をしないためのヒントも書かれていて、参考になるでしょう。

田村さんは、非常に努力家で勉強熱心な方のようです。資格を取るなど、前向きにキャリアを開拓しています。森田療法では、神経症になる人は、もともと生への欲望が強く、そのような人は、「かくあるべき」という目標を高く掲げるため、現実とのギャップがストレスになり発病するという考え方がされます。田村さんの生き方も、そうしたことを思わせます。

本著の中の「強迫性障害になりやすい6つの性格」は田村さん個人の見解によるものですが、経験者の話として、説得力を持っています。


『強迫性障害・聞きたいこと知りたいこと』
⑬『強迫性障害・聞きたいこと知りたいこと』
田村浩二/著
星和書店(2008年)1,470円

体験者の実感に基づく言葉が共感を呼ぶ

強迫性障害の症例集と、Q&Aで構成されています。いろいろな症例が紹介されており、38項のQ&Aがあります。「強迫性障害は治りますか?」「仕事は休んだほうがよいですか?」など、患者さんの多くが感じるであろう病気についての疑問や悩みを、具体的に挙げています。

「はじめに」で、筆者が「私はあくまでも医師でもなければ、カウンセラーでもありません。ただのサラリーマンです。」と述べているように、医療の専門家ではないものの、当事者だからこそ、同じ症状に悩む人には共感が得られるところも多いと思います。医療者は、病気に関する知識はあっても、自分が体験したわけではないので、症状については間接的にしか知りません。田村さんの描写は、体験者ならではの実感なので、そこが共感されるのでしょう。

たとえばこの本では、「強迫観念に攻撃されたらこうしよう」と、強迫観念を擬人化しています。強迫観念は、自分の内部から湧き出るものですが、一方で、自分の意思に反した面もあり、嫌々ながら強く迫られるような気がするものです。その感覚を擬人化して表しています。

強迫観念を「こんなふうにやりすごせばいい」という対処法のコツは、認知行動療法と通ずるものがあります。専門家が書いた本では、グラフなどの数値で不安の変化などを示しますが、田村さんの本は、数値の代わりに、どういう心理になるのかを体験者の言葉で語っています。

ただし、この本では、アドバイスするときなど体験の範囲以外のことについては、「と思います」という推測の表現で語られています。

著者の考えで、「治すのは自分で、薬はその補助」という言葉がありますが、これは、⑤の本(⇒第60回コラム)で紹介した「薬は浮き輪の役割を果たす」という比喩とも共通した考えです。


『とらわれからの自由 ~不確かな未来から確かな今へ~』
⑭『とらわれからの自由 ~不確かな未来から確かな
  今へ~』
No.1(2005年)、No.2(2006年)、No.3(2007年)、No.4(2008年)
OCDの会 文集編集委員会/発行 各400円+送料

行動療法を受けた人たちの体験文集

OCDの会(⇒OCDコラム 第10,11,12,37,50回)という強迫性障害の自助グループが作っている冊子です。

現在、なごやメンタルクリニックの院長である原井宏明先生と、心理療法士の岡嶋美代先生のもと行動療法を受けた方と、そのご家族の感想が中心にまとめられています。No.1~3は、両先生が熊本県の国立病院機構菊池病院で診療されていた頃の内容です。現在、菊池病院ではこのような治療を行っていません。

なごやメンタルクリニックでは、強迫性障害に対して、短期集中の外来治療プログラム (エクスポージャーと儀式妨害)を行っており、No.4は、その治療を受けた方の感想が中心となっています。

日本では、強迫性障害の患者さんが行動療法を受けて改善できた体験について書いた文章は、なかなか目にする機会がありません。ですから、この感想文集は、貴重な情報です。

患者さんやご家族が、経験豊かな両先生による行動療法に懸命に取り組み、その効果をつかんでいった様子がうかがえます。

書店では扱っていませんが、OCDの会のホームページの「商品購入フォーム」から申し込むことができます。


目的6 ほかの病気が併存している人には
―― OCDの人は純粋にOCDだけと闘っているのではなく、ほかの心の症状でも悩んでいる人は少なくありません。ここでは、ほかの病気とOCDについて取り上げている本を紹介します。不安障害と、発達障害です。

『こころのりんしょうa・la・carte Vol. 25 No.3 不安障害』
⑮『こころのりんしょうa・la・carte Vol. 25
  No.3 不安障害』
中村敬/編
星和書店(2006年9月)1,680円 

対人恐怖などの不安障害に悩む人に

OCDで、対人恐怖(社会(社交)不安障害)やパニック発作を経験したことがある方もいるでしょう。そんな方にこそ読んでいただきたい1冊です。OCD、社会(社交)不安障害、パニック障害、恐怖症、外傷後ストレス障害(PTSD)などを、現在の診断基準では不安障害(Anxiety Disorder)というグループで分類します。かつては神経症(ノイローゼ)と言われていたもので、治療の現場では、現在でも「神経症」という言葉も使われています。

この本は、東京慈恵会医科大学 森田療法センターのセンター長、中村敬先生が監修されているので、森田療法についての内容が多くなっています。森田療法は、対人恐怖などの不安障害の人が多く受けられるようですが、OCDで森田療法を受ける人は少数派でしょう。同療法は、OCDにはあまり適応しないとされています。

しかし、人前に出ると極度に緊張する、電車に乗れない、電話でうまく話せない、などの強い不安による症状を持っている人には、とても参考になるでしょう。「不安とは何か」などの考え方だけでなく、「どうして薬で不安が治まるのか」など、不安障害に対する最新の治療法について、初心者にもわかるように、やさしく書かれているからです。

不安に対する、薬物療法と精神療法の違い、不安障害に適応する薬であるSSRIと、精神療法の併用、また副作用などの情報も参考になるでしょう。また、Q&A集では、「どの病院へ行ったらいい?」「薬を飲むのが不安ですが」など具体的な例が多いので、役に立つと思います。


『私たち、発達障害と生きてます 出会い、そして再生へ』
⑯『私たち、発達障害と生きてます 
  出会い、そして再生へ』
高森 明、木下千紗子、南雲明彦、高橋今日子、片岡麻美、橙山 緑、鈴木大和、
アハメッド敦子/共著 ぶどう社(2008年)1,785円

自分を愛することの大切さを知る

高機能自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(AD/HD)、学習障害(LD)、ディスレクシア(読字障害)など、さまざまな発達障害を持つ8人の当事者が
書いた本です。強迫性障害に関しては、本サイトにも何度か登場してくれた南雲明彦さん(⇒第35回、49回コラム)の体験の中に書かれています。

本の構成は3部に分かれ、「1 発達障害と出会った!」「2 生きる上でのさまざまな困難」「3 私たちのサバイバル」として、それぞれの当事者が自分の体験を書いています。

発達障害は、強迫性障害と同じく、まだまだ社会の認知度が低い障害です。ですから、当事者も自分の障害を正しく認識していないケースがあり、そのため「なぜ自分はこんなこともできないのか」と、周囲との違いに苦しむことがしばしばです。それを、「これが自分の特性」と認識し、ありのままの自分を受け入れて生きることができるようになるまでには、それぞれの人にそれぞれの長い葛藤がありました。

南雲さんの場合、転機になったのは、「自分のことをきちんと受けとめてくれる人たちに出会えた」ことだったそうです。

ディスレクシアを抱えながら、自分なりの工夫と「ごまかし」で、なんとか学校生活を乗り切ってきた南雲さんが、受験勉強の中で疲れ果てたとき、二次障害の強迫性障害を併発し、家から出ることができない状態が2年間続きました。不潔恐怖のため、ホコリを見なくてすむように布団をかぶり、手洗いは時に3時間にも及んだそうです。

「自分は生きている価値がない」とまで思いつめ、自傷行為に及んだことも。そんな自己否定、自己卑下の状態から抜け出し、「自分らしく生きていこう!」という自己肯定へと大転換を遂げるまでには、支えてくれる人たちとの出会いが必要でした。そして、「自分から逃げない」という南雲さん自身の決意も……。

「できる部分も、できない部分も、まるごと自分」。そんな「かけがえのない自分を愛すること」の大切さは、発達障害であれ、強迫性障害であれ、あるいは知的障害や身体障害であれ、同じではないでしょうか。苦しみを経て、いま、同じ悩みを持つ子どもたちのために発言を続ける南雲さん。その言葉は、一人ひとりの人の胸に届けたい、珠玉の言葉です。