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OCDコラム

OCDコラム

OCDの本棚――(1)
OCDの基本的な情報を知るために


OCD(強迫性障害)について知りたいと思って、本を探したことがある人も多いことでしょう。でも、OCDについて書かれた本は少ないですね。
やっと見つけても、難しい専門書では読むのが大変です。
そこで、いま手に入るOCDの本で、皆さんに推薦できる本を選んでみました。
目的別に、3回に分けて紹介します。


はじめに――どんな本を選べばよいか

今回紹介するのは、専門家のために書かれた本ではなく、一般の患者さんや、強迫症状に悩んでいる方、またそのご家族などが読んで役に立つ本です。信頼できて、役に立つ本かどうかを判断する目安として、OCD書評委員会では、次のような基準を設定しました。

1 根拠が科学的である
2 内容が個人の体験か事実に基づいている
3 わかりやすい

それぞれの本の内容を、次の目的別に紹介します。

目的1 OCDの基本的なことを知るには

目的2 OCDをより詳しく知るには

目的3 認知行動療法について知るには

目的4 子どものOCDについて知るには

目的5 ほかの人の体験を知るには

目的6 ほかの病気が併存している人には

今回は、目的1目的2から6冊を紹介します。


目的1 OCDの基本的なことを知るには
――OCDの正しい知識を得るには、専門家が科学的な根拠に基づいて書いた本を読みましょう。そのために役立つ本を選びました。

強迫性障害のすべてがわかる本
① 『健康ライブラリー イラスト版
 強迫性障害のすべてがわかる本』
原田誠一/監修 
講談社(2008年) 1,260円  注……値段はすべて税込み価格です。 

イラストつきでわかりやすい

タイトルどおり、強迫性障害のすべてがわかるように、いろいろな面から全般的に説明してある本です。強迫性障害全般について知りたい人におすすめです。OCDは家族や他人にわかってもらうことが難しい病気ですから、周囲の人にわかってほしい場合にも役に立つと思います。イラストや図が多いので、本を読むのが苦手な人にも読みやすいと思います。

短い文章の中で、ポイントをきちんと抑えてあります。監修者は強迫性障害や認知行動療法について詳しい医師で、科学的根拠を踏まえた内容になっています。症状の特徴や治療法についての説明もあります。特に推奨されるのは、本人や家族がとまどったり、誤解したり、誤解されたりしがちなポイントについての解説が多いことです。家族が巻き込まれている場合の対応のように、家族のあり方や、日常生活の過ごし方なども、イラストによってひと目でわかります。


強迫性障害は怖くない ―正しい知識と治療―
② 強迫性障害は怖くない ―正しい知識と治療―』
上島国利/編、太田有光、宍倉久里江/著
アークメディア (2001年) 2,310円

日本の医師が書いた日本人のためのOCDの本

編者は、このサイトを監修していただいているOCD研究会の代表世話人、上島国利先生です。強迫性障害について、日本の医師の立場から、症状や治療など、広い範囲をわかりやすく解説した本です。ページ数も132ページとさほど多くないので、強迫性障害とはどんな病気なのかを理解するのに便利です。

一般向けの本ですが、診断基準や、症状の評価尺度のような、日本の専門家が使用しているものも紹介されています。また、強迫性障害に併発しやすい疾患の説明のページも比較的多く、要点を押さえたものとなっています。そして、付録の「家族を考える」には、家族を巻き込む16歳の高校生と、強迫症状のため離婚の危機に陥った32歳の主婦の2つの事例が載っています。これは日本人の事例なので、実感としてわかりやすいと思います。

強迫性障害
③ 『強迫性障害』
P・D・シルバ、スタンレー・ラックマン/著 貝谷久宣/訳 
ライフ・サイエンス(2002年) 2,625円

病気への正確な理解を助ける

最初に、「強迫性障害とは何か」と病気の説明から始まり、標準的な治療法の解説と、少ないページ数でひととおりのことがまとめられており、病気について正しい知識を得たいという人におすすめできる本です。
原書は、オックスフォード大学出版局の「The Facts」シリーズという、疾患ごとに1冊ずつ、一般向けに正しい医学の情報をまとめた本で、この『強迫性障害』は、1998年の改訂版を翻訳したものです。一般向けとはいえ、専門家にとっても読み応えがあるほど、高度で正確な内容です。

ただ、訳語に「中和*1」、「反芻*2」、「顕性儀式*3」、「原発性強迫性動作緩慢*4」のような、一般の人になじみのない専門用語がいくつか使われています。また、図もあまりなく、大学の教科書のような印象なので、そのような文章が苦手な人にとっては読みづらいかもしれません。

注意してほしいのは、原書はフルボキサミンなどのSSRIが日本でまだ発売されていない、1998年時点の内容のため、薬物療法についての情報が古いことです。また、行動療法については、多くの情報がそれぞれ簡潔にまとめられているものの、日本ではまだ行動療法を行う医療機関が少ないですし、医療の状況も違うので、この本に書かれているような治療プログラムが日本でも受けられるとは限らない部分もあります。


目的2 OCDをより詳しく知るには
――基礎的な知識だけでなく、特定の症状について詳しく書かれていたり、独自の治療法や症例など、より幅広い視点からOCDをとらえた本を選びました。

妄想に取り憑かれる人々
④『妄想に取り憑かれる人々』
リー・ベア/著 渡辺由佳里/訳 
日経BP社(2001年) 1,470円 

頭の中だけの強迫症状について書かれた本

強迫性障害の症状には、手を洗うなどの他人の目にも見える強迫行為ではなく、頭の中だけで強迫観念や強迫行為が生じるものがあります。たとえば、嫌な考えを打ち消そうと、逆に良い言葉を良い回数になるまで思い浮かべるような行為は、「認知的儀式」、または「メンタル・チェッキング」と呼ばれます。

また、自分の意思に反した考え(侵入思考)がこびりついて離れないものを、「強迫表象」、「雑念恐怖」などと呼ぶこともあります。この本では、そのような意に反した考えを「おぞましい想念」と訳していますが、それは強迫性障害のほかに、産じょく期以降のうつ病、トゥレット症候群、心的外傷ストレス性障害(PTSD)などでも起こることが書かれています。

リー・ベアはアメリカの心理学者で、強迫性障害やその関連疾患の世界的権威です。この本には、たくさんの患者さんの実例が紹介されています。ただ、どうしてもアメリカの例なので、キリスト教での「神への冒とく」といった観念や、性に対する観念などは、日本とは文化が違うようで、少し身近に感じられないところはあるかもしれません。

この本は、一般的な読み物として翻訳・編集されているため、教科書的な本よりも、一般読者にはわかりやすくなっていると思います。一般向けの本で、このような症状を扱い、日本語で読めるものは、今のところこれしかありません。専門家向けの翻訳書では『強迫観念の治療』(世論時報社)、『侵入思考』(星和書店)がありますが、それらは非常に専門的です。

不安でたまらない人たちへ -やっかいで病的な癖を治す
⑤ 『不安でたまらない人たちへ
 -やっかいで病的な癖を治す』
ジェフリー・M・シュウォーツ/著 吉田利子/訳 
草思社(1998年) 1,995円

考えの切り替え方を提唱

著者は、脳画像の研究から、強迫性障害は脳の機能の異常によるもので、行動療法によってその異常が改善されることを唱えた精神医学者です。強迫性障害の患者さんの脳は、特定の部位が過剰に活動し、脳の機能に鍵がかかったように特定の症状にとらわれてしまいます。この状態を著者は「Brain lock(脳の錠)」と呼び、原書はこれがタイトルです。

著者が当時所属していたアメリカのUCLA医学部チームは、この脳の錠を解くために、自分でできるわかりやすい認知行動療法として、オリジナルな4段階方式自己療法を開発しました。

4段階方式自己療法とは、OCDは脳の機能のアンバランスによるものだという知識を支えにして、自分の不安や衝動を額面どおりに受け取るのをやめ、他の有意義な行動へと関心の焦点を移していくことを、4段階に分けて行うものです。この本は、その4段階方式の説明が主です。一般に行われている強迫性障害での認知行動療法とは、ずいぶん異なる面が多いので、そのような本を期待する人には向かないかもしれません。

また、4段階方式を行う初期には、薬物療法(SSRIやクロミプラミン)を併用し、症状を和らげたことで、患者の多く(ほぼ半分から3分の2)が、関心の焦点を楽に移せるようになったそうです。そのような経験から、著者は、「薬は、子どもに水泳を教えるときの浮き輪と同じ役割を果たす」と書いています。恐怖を軽減して、楽に浮いている間に、泳ぎを覚えるという意味です。

本書が日本で出版された頃は、OCDの本があまりなく、読んだ患者さんも多かったのですが、この方法のおかげでうまくいったという人もいれば、読んでもあまりピンとこなかったという人もいます。ボリュームのある本なので、読むのはけっこう大変で、章ごとに必ず症例が載っていますが、やはりアメリカの事例なのでピンとこないことも多いかもしれません。人によって向き不向きがあると思います。


手を洗うのが止められない 強迫性障害
⑥ 『手を洗うのが止められない 強迫性障害』
ジュディス・ラパポート/著 中村苑子、木島由里子/訳 
晶文社(1996年) 2,957円

OCD治療の歴史がわかる医学エッセイ

著者はアメリカ国立精神衛生研究所の小児精神科主任です。精神分析学を中心に学んで医師になったのですが、1990年代に、OCDの治療薬であるSSRIの臨床試験が行われ、OCDは脳機能の障害だとわかってきました。この本は、ちょうどその頃に、臨床医でもある著者の視点で書かれたエッセイです。

新しい抗うつ薬が次々と開発され、臨床試験を経て市場に出回り、脳内物質の働きや脳の構造が次第に明らかになってくる中で、著者自身が強迫性障害という新しい病気の概念に開眼していくプロセスを書いています。一臨床医の目から見た、抗うつ薬開発史のような面もあります。

トゥレット症候群とOCDの関係や脳の病気が心にどのように影響するかについても見解を述べ、行動療法についても触れています。しかし、文章はエッセイのような、やさしい語り口です。本書にも多くの症例が出てきますが、ほかの本と違うのは、著者が臨床医として、患者への共感をもって、あたたかく患者さんたちを見守っている感じが、文章から伝わってくるところです。

あとがきを読むと、訳者も自分の息子がOCDのために悩み、40代半ばで大学に入りなおして心理学を学んだ人です。子どもの心の症状は、家族、なかでも母親との関係から説明されることが多いので、訳者は子どもの「強迫神経症(当時の病名)」は自分のせいだと、自分を責めていたそうです。そんなとき、アメリカで評判になっているこの本を紹介されて読み、「やっと息子の症状が理解でき、長年のわだかまりがとける思い」だったといいます。

アメリカでは、この本がベストセラーになったことによって、OCDで受診する人が増えたとも書かれています。映画にもなった『レナードの朝』の著者、オリバー・サックス博士も「深く心を動かされた」と評したということです。医学読み物として読んでもおもしろく読めるのではないでしょうか。


●注釈
*1 中和……強迫観念を不合理な考えや強迫行為で打ち消そうとすること。

*2 反芻……特定の話題やテーマについて、収穫のない堂々めぐりの思考を、本人の意思に反して延々と続けること。

*3 顕性儀式……顕性(けんせい)は、医学用語で、症状が表に出て明らかになったものという意味。外見でわかる強迫行為のこと。

*4 原発性強迫性動作緩慢……原発性は、医学用語で、二次的ではなく、元々の疾患が原因となって起こる症状という意味。緩慢(かんまん)は、「ゆっくりとした」という意味。強迫性障害によって、動きがゆっくりに見える症状。