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OCDと認知行動療法
その2 曝露反応妨害法
有園正俊 OCDお話会主宰・精神保健福祉士


OCDの認知行動療法で、よく用いられる技法が曝露反応妨害法です。
ただ、曝露反応妨害法といっても、実際には、治療者(医師や心理士)や医療機関の事情、患者さんの病状によって、やり方はさまざまです。
そこで、その標準的なあらましを、「患者さんはこういうときこう思う」というコメントを交えつつ紹介します。
また、すべてのOCDの患者さんに曝露反応妨害法が適しているとは限りません。そのような場合もあることをご理解の上、お読みください。



目次
§1 曝露反応妨害法とは
§2 初回からの標準的な流れ
§3 セルフモニタリング
§4 いよいよ曝露反応妨害法
§5 利用のためのポイント



§1 曝露反応妨害法とは

曝露
(ばくろ)
エクスポージャーとも言います。
OCDの症状のために不安・苦痛をもたらすものに直面しても、不安・苦痛が自然に減るということを学びます。
反応妨害儀式妨害とも呼ばれます。
強迫行為をしたくなっても、あえて行わないことで、悪循環に戻らずに大丈夫であるということを学んでいきます。

たとえば、不潔恐怖の人が、汚いと思うものに実際に(ちょっとだけでも)触ってみて、苦痛や恐怖が徐々に減っていくのを体験するのが「曝露」です。そして、その後、手を洗ったりしないようにすることが「反応妨害」です。強迫観念と強迫行為とが組み合わさって悪循環となっている人が多いので、曝露反応妨害法として一緒に行われることが多いです。

不潔恐怖の人が、手を洗わないようにするために、不潔恐怖を感じる物に面と向かうこと自体を避けてしまうのは、回避といい、これは反応妨害ではありません。

こう書くと、これだけで怖く感じるという人や、「こんなこと私にはできない」と思ってしまう方も多いでしょう。でも、ご安心を。治療にあたっては、いきなり曝露を行うのではなく、そこに至るまでに、次のような段階をたどるのが標準的です。


§2 初回からの標準的な流れ

① 初回の面接   ①治療者が医師なら初診、心理士ならインテークという初回の面接があります。そこで治療者は患者さんからの訴えを聞き、患者さんの抱えている状況について、いろいろと質問をして調べます。
② アセスメント   ②初回以降も何回か、さらに症状を調べます。この段階を、初期評価アセスメントなどと呼びます。セルフモニタリングといって、自宅での症状の様子を用紙に記録してきてもらい、それを評価に利用することも多いです。
③ 心理教育   ③認知行動療法が適当と判断されたら、患者さんや家族に対して治療法と病気についての説明が行われます。これを心理教育といいます。たとえばエイズ恐怖の人であれば、エイズに対する正しい知識が必要なので、患者さんとのやり取りの中で、患者さんが危険を過大視しているところがあれば、正しい知識を共有できるように検討していきます。
④ 治療計画作成   ④治療者が患者さんと信頼関係(治療同盟)を築き、曝露反応妨害法の治療計画協同で作成します。治療計画では、たとえば、どのような目標から曝露を始めるかを決めます。できそうなものから段階的に行うこともあれば、その人の生活に支障を来しているものに焦点を当てることもあり、ケースによってさまざまです。計画ができ、患者さんがそれに同意したら、曝露反応妨害法を行います。
 

実際には、この間に薬を併用することも多いです。また、認知への働きかけなど、他の技法が取り入れられることもあります。


§3 セルフモニタリング

セルフモニタリング(自己観察)とは、患者さんが、自分の症状などを観察して、紙に記録するものです。たとえば、専用の用紙を自宅に持ち帰って、その表に、症状のあった日時、症状の内容、苦痛の度合いなどを書きます。

この苦痛の度合いとして、主観的不安(もしくは苦痛)尺度(SUD)がよく用いられます。最高に不安・苦痛な状態を100点、不安・苦痛がまったくない状態を0点として、それに比べたら今の状態は何点かを評価する方法です。

セルフモニタリングは、アセスメントの段階でも利用しますし、曝露反応妨害法を、自宅でホームワーク(宿題)として行う場合にも利用されます。

アセスメントの段階では、患者さんに症状に関する状況を書いてきてもらい、その結果を検討することで、治療者は認知行動療法をどのようにして始めていったらいいかなどを判断します。

セルフモニタリングの記録を元に、症状をSUDの大きさによって並べた不安階層表を作ることも多いです。これによって、曝露反応妨害法をどこから始めるかなどの治療計画を立てます。

たまに、アセスメントの段階で、患者さんが「紙に書いてきてって言われたけれど、症状のために書けない」と言い、治療がそこで止まってしまうことがあります。しかし、これは患者さんが自宅でどの症状にどのくらい時間がかかり、どのくらい苦痛かなどという状況を、治療者が知ることが、主な目的なのです。患者さんが子どもだったり、症状のために自分で書けない場合は、家族が記録してもよい場合があるので、書けない事情を治療者に話してみてください。

セルフモニタリングは、患者さんにとって、自分がとらわれていた状況を紙に書いてみることで、よりわかるようになるという効果もあります。これは、家計簿をつけてみることで、家計の状況がよくわかるのに似ています。

そして、ホームワークの段階では、次の診察日に、治療者と患者さんとでその記録した結果を見ることで、治療の進行具合を共有し、検討することができます。また、患者さんにとっては、記録を保存し、読み返すことで、症状の改善度合いがわかるので、治療への動機を持ち続ける上での励みになります。ですから、できれば自宅にコピーを保存しておくことをおすすめします。


§4 いよいよ曝露反応妨害法

曝露反応妨害法では、<不安を感じる対象に直面して、強迫行為などをしなくても、苦痛や恐怖が自然と減ってくることを学ぶ>のがポイントです。

苦痛や恐怖が自然と減っていくということには、次の2つの面があります(参照)。

1つは、1回の曝露で、不安の対象に直面しているうちに、時間とともに、そのような怖さが自然と減っていくことです。

治療計画に沿って行うので、何に直面するかは、その人の症状によって異なります。たとえば不潔恐怖の人で、地面にカバンを置けない人は、それにチャレンジして、カバンの地面についた面を拭いたりしないようにします。外のトイレが苦手な人は、今まで避けていたトイレに行ってみたりします。戸締りの確認がひどい人は、カギを閉めた後、点検をしないで過ごすという反応妨害を練習します。

また、加害恐怖のように、直接曝露ができないものでも、加害の場面を想像し、その最悪の場合をわざと考えて、強迫観念と向き合うという、「最悪のストーリー」という技法も用いられることがあります。

曝露では、強迫の症状を打ち消そうとすると、かえって苦痛や恐怖は増します。まず強迫の衝動を、しばらく共存するくらいの気持ちで受け入れます。そして、放置する感じです。そのような曝露を行い、SUDを測ります。たとえば、曝露を始めた瞬間はSUDが90だったけれど、20分後には、それに比べると70、という具合です。

このような治療法をしたからといって、すぐには不安・苦痛がゼロという状態にはなりません。ゆっくりと不安・苦痛が減ってくるのですが、SUDを使わないと、その減ってくる感覚をつかむことが難しいのです。以前、「行動療法に挑戦したが、うまくいかなかった」という方にくわしく話を聞いたら、その人の受けた治療では、このSUDを用いていなかったということがありました。

図 曝露による時間と不安・苦痛の変化

曝露による時間と不安・苦痛の変化

もう1つの面は、そのような曝露を何日も、何週間も行い、回数を重ねることによって、恐怖や緊張が弱まり、平気なことが習慣になっていくことです。

ただ、習慣になるには、外来で行っているだけでは回数が足りません。そこで、宿題(ホームワーク)として自宅で行い、次の外来で、結果を治療者に報告するという方法を取ることが多いです。


§5 利用のためのポイント

曝露反応妨害法は、患者さんが心理教育によって頭で理解したことを、実際に体を動かして、その効果を体験していく感じです。車の運転を覚えるのに、学科の授業だけでは無理なように、実技が大事です。最初は誰しも勇気がいるものですが、すでに医学的に効果が確認されている治療法ですから、まずは専門家を探して問い合わせてみることからでも、行動に移してみてはいかがでしょうか。

*第3回では、実際に治療を受けた方の感想を交えながら、実際に利用する際のポイントを補足します。


●参考文献
[1] 飯倉康郎(編著) 『強迫性障害の行動療法』 金剛出版 2005年 [2] 原田誠一(編) 『強迫性障害治療ハンドブック』 金剛出版 2006年 [3] ダン J.スタイン (編)  島悟・高野知樹・荒武優(監訳) 
『不安障害臨床マニュアル』 日本評論社 2007年
[4] 伊藤絵美(著) 『認知療法・認知行動療法カウンセリング初級ワークショップ』
星和書店 2005年