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OCDコラム

OCDコラム

市民講演会レポート
不安の医学~強迫性障害について


医療法人和楽会では、毎年、名古屋で「不安の医学」という、不安に関連した精神科の病気についての市民講演会を開催しています。今年のテーマは強迫性障害で、さる4月19日(土)、名古屋市中区役所ホールにおいて行われました。和楽会が経営するなごやメンタルクリニックの院長に、OCDの治療で屈指の実績のある原井宏明医師が就任されたことを記念して、このテーマに決まったそうです。

講演会では、専門の先生方による講演と、治療を体験されたご家族へのインタビューとがありました。先生方のお話は、臨床の現場での多くの体験を踏まえた内容でしたし、ご家族の方から語られる内容も、治療者とともに知恵を絞って難関を突破してきた跡がうかがえ、貴重なものでした。

■プログラム
主催側として挨拶する貝谷久宣先生
主催側として挨拶する貝谷久宣先生
  1. 開会挨拶
    医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣先生
  2. 「強迫性障害とその周辺の病気」
    東京大学医学部心療内科 名誉教授 久保木富房先生
  3. 癒しの音楽
    ヴァイオリン/田中 美帆、ピアノ/田中 京子
  4. 「強迫性障害の治療と家族:行動療法への動機づけ」
    なごやメンタルクリニック 院長 原井宏明先生
  5. 強迫性障害の闘病体験談  患者さんのご家族
    インタビュアー/なごやメンタルクリニック心理士 岡嶋美代先生
  6. 閉会挨拶
    医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣先生

●強迫性障害とその周辺の病気

強迫性障害について講演する久保木富房先生
強迫性障害について講演する久保木富房先生
「わかっちゃいるけどやめられない症候群」。これは、今回お話いただいた久保木先生と不安・抑うつ臨床研究会によって編集された書籍『強迫性障害』の副題です。この副題のように、強迫性障害の患者さんは、本人も「どこかおかしい」「こんなに時間をかけてバカバカしい」と思っています。でも、止められない病気なのです。

強迫性障害で典型的な症状は、何度も手を洗ってしまうような不潔恐怖や、何度も鍵を点検してしまうような確認です。これは、何かに汚染されてしまうことや、事故や危険から身を守るための動機に基づくもので、これを安全確保行動と呼びます。しかし、それが度を超えて、日常生活に支障をきたしてしまっているのが強迫性障害です。

このような典型的な症状のほかに、強迫性障害とその周辺の病気には、いろいろなものがあるそうです。その1つが摂食障害⇒第25回コラム)です。摂食障害は、若い女性に多い拒食症や過食症の総称です。女性ホルモンと体脂肪とは密接な関係があります。思春期の女性は、体脂肪が急激に増加するため食欲が旺盛で、ダイエットをするのは難しいそうです。そのような状況にも関わらず、無理なダイエットを徹底的に継続させてしまうことが、摂食障害の発症には不可欠で、その徹底的な継続の要因の一つとして、強迫傾向があるそうです。

過敏性腸症候群は、下痢、便秘、腹痛のために登校や出社ができない病気です。日本人には比較的多く、排便の問題に強迫的になっている人が多いそうです。

その他にも、チック(意識していないのに顔の筋肉などがピクッと動いてしまう症状)、抜毛癖(髪などの体毛をつい抜いてしまい、止めるのが難しい)、書痙(しょけい:緊張する場面で字を書く時に手が震えてしまう)など、多くの病気・症状があるそうです。

■参考書籍: 久保木富房、不安・抑うつ臨床研究会/編 
『強迫性障害 ―わかっちゃいるけどやめられない症候群』 日本評論社 1999年



●強迫性障害の治療と家族:行動療法への動機づけ

行動療法を中心とした講演は原井宏明先生
行動療法を中心とした講演は原井宏明先生
なごやメンタルクリニックの原井宏明先生は、強迫性障害への行動療法の経験が非常に豊かな医師です。治療で本人と家族が目指すポイントとして、次の3点を挙げていました。

① OCDを認識する。
② 希望を持てるようになる。
③ 適切な治療と対処を選べるようになる。

これらに対し、実例を紹介しつつ、説明されました。
実例は16歳の女性で、不潔恐怖の方です。原井先生を受診する前、本人は、家族が持ち込む物にも耐えられなくなりました。そこで、家族は専用の部屋を用意して、物を持ち込まないようにしました。また、家で作った食事が食べられなくなりました。そこで、家族は弁当を買って用意するようになりました。トイレにも行けなくなり、紙おむつをするようになりました。家族としては、本人のためを思ってした行動ですが、OCDの症状は、かえって悪化していったのです。

この方の治療では、OCDを正しく認識することから始まりました。本人には、本当の敵は自分の周りの汚れではなく、自分自身の中にいることを、まず知ってもらいました。家族には、本人がするべきことは本人がして、家族が儀式を代行してしまうのはよくないことを理解してもらいました。

OCDの行動療法の基本は、エクスポージャー(E、曝露とも呼ばれる)と儀式妨害(RP)、略してE/RPです。エクスポージャーは、強迫観念をもたらす不快なものにあえて向き合い、十分な時間触れることで、かえって不快感が和らいでいくことを体験するものです。儀式妨害は、強迫儀式や回避を一切行わないことです。

家族が強迫儀式を代行してしまうことは、このE/RPの逆をしていたことになります。E/RPのような行動療法を行う場合は特に、治療者が選択肢を示し、本人が自分でそれを選ぶことが大切だそうです。

現在、OCDの症状があることで、よい面と、その状況を変えた方がいい面について、それぞれ理由を聞きます。そしてそれらを比べて、どちらがよいかを本人が選びます。このような方法を用いて、治療への動機づけを行っていくそうです。

【集団集中治療プログラム】
なごやメンタルクリニックでは、行動療法を効率的に行うために、集団集中治療プログラムというものを行っています。今回の実例の方も、そのプログラムを利用されたそうです。集団集中治療プログラムは、OCDの患者さんがグループで、治療者とともに3日間(2日間でも可)E/RPを体験するものです。

「なごやメンタルクリニック強迫性障害治療プログラム」については、原井先生のホームページに載っています。
http://homepage1.nifty.com/hharai/

また、自助グループ「OCDの会」による冊子『とらわれからの自由』第3号に、集中プログラムの感想などが掲載されています。

OCDの会のホームページ
http://ocd-2004.hp.infoseek.co.jp/


●強迫性障害の闘病体験談

講演の合間に音楽が演奏されました
講演の合間に音楽が演奏されました
体験を語ってくれた方は、OCDの治療を体験したお子さんを持つお母様2人でした。本人は参加されませんでしたが、仮名で、あきちゃん(初診時9歳)、マリちゃん(初診時5歳)の2人です。2人とも、行動療法を体験しました。ただ、お子さんに行動療法を行う場合、大人とは違う工夫が必要だったようです。

行動療法では、セルフモニタリングと言って、症状に関する状況を自宅で記録してもらうことをしますが、それはお母様がしていたそうです。そして、原井先生のお話にあったように、OCDを本人が認識することが大切です。そこで、治療では、本人を困らせる本当に悪いものや、治ったらどうなりたいかなどを、本人にとってイメージしやすいものに例えたり、文字や絵で描いて表現してもらったりしました。これで、本人だけでなく、家族や治療者も、その思いを共有することができます。

こうして、本人が理解し、結果的には自分でエクスポージャーをすると選択したのですが、そこまでの過程は、お子さんが泣いたり、葛藤があったようです。

本人が治療現場でエクスポージャーを体験した後は、自宅でも治療者なしでそれを行います。マリちゃんの場合、宿泊先のホテルで入浴中、スポンジに苦手な汚物が付くというハプニングがあったそうです。「悪いことは起こったとき考えればいい」と、お母様は治療者に言われていたそうですが、本当に起こったときどうすればいいかは聞いていなかったので、あわてたそうです。でも、お母様と本人とで、何とか乗り切ったとのことでした。

当時の治療者であり、今回、インタビュアーを務めた岡嶋先生は、エクスポージャーの体験談の後、マリちゃんのお母様に、「とても上手な行動療法家ですね」とおっしゃっていました。行動療法は、本人もしくは家族が受け身でばかりいる治療法ではなく、治療者がいない場面でも、1人でできるくらい習得するのが理想ですので、本人とお母様がすばらしく理解できた好事例であったと思います。

あきちゃんとマリちゃんが描いた絵は、前記の「OCDの会」ホームページにある会員作品室に掲載されています。


●聴講後の感想

OCDの一般向けの講演会というのは、めったにありません。それだけで十分に価値があり、私が会場でお会いした方だけでも、遠くから新幹線などで来られた方が何名かいました。

そして、OCDを体験したご家族の話が直接聞ける機会というのも、一般の方にはなかなかありません。お子さんが病気であった頃は、さぞ大変であったろうと思うのですが、そのような体験を、多くの方の前で話していただけたこと自体、すばらしいものです。OCDのような病気の治療には、当事者側から治療に一歩踏み込むことが大事だと思うのですが、そのような体験が、会場の皆さんに伝わること自体に意義があったように思いました。

医療法人和楽会では、「不安の医学」の講演会を、名古屋の他、東京、横浜でも開催しています。毎年、テーマとなる病気が違いますが、下記のホームページに、その情報が掲載されていますので、関心のある方はチェックしてみてください。

医療法人和楽会ホームページ
http://www.fuanclinic.com/index.html

なごやメンタルクリニック
http://www.fuanclinic.com/info_nmc/menu_ing.htm