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OCDコラム

OCDコラム

「うつ病」にならないために
1―うつ病のサインを見分ける



OCDは、他の心の病気と併存する場合がありますが、なかでもうつ病は、統計上、最も併存率の高い病気です。
強迫のつらい症状とつきあう毎日のなかで、時には気持ちが落ち込むこともあるかもしれません。
でも、落ち込みに沈む時間を、あまり長引かせないようにしたいものです。
うつ病は、早めに気づいて治療することが肝心。
そこで、うつ病の基礎知識を2回に分けて紹介します。
第1回は、早期発見の仕方です。

目次
§1  うつ病とはどんな病気?
§2  うつ病になる原因
§3  うつ病を見分ける12のサイン
§4  自分でできる「うつ度」チェック表
§5  うつ病が疑われたら


§1  うつ病とはどんな病気?

最近、うつ病になる人が増えているという話を聞いたことがあるかもしれません。日本ではこの10年ほど、働き盛りの人や若い人のうつ病が増加していて、問題になっています。厚生労働省の研究班が2003年に発表したデータによれば、日本人では成人の6.5%、15人に1人がうつ病を経験しているとされています。うつ病は誰でもかかる可能性のある「心の風邪」と言われることもあります。

しかし、風邪もこじらせると肺炎などの重病につながるように、「心の風邪だから」とたかをくくって放置しておくと、深刻な症状に陥る場合もあります。OCDの人の場合、それでなくても強迫観念や強迫儀式に神経をすり減らして、心が疲れていることが多いことでしょう。そこにうつ病が併存すると、OCDの治療にも、生活にも、よくない影響が出ます。だからこそ、うつ病の兆しには早めに気づいて、早めに治療を受けることが肝心です。

人間は誰でも、なにか悲しいことがあったり、仕事や人間関係で強いストレスを受けたりすれば、落ち込んだりふさぎこむことがあるものですが、健康ならば、時間がたつにつれて気持ちが回復し、「また元気にがんばっていこう」という気持ちになれるものです。ところが、いつまでたっても回復せず、元気な状態に戻らなくなってしまうことがあります。これが「うつ状態」です。そして、気持ちの落ち込みがより深く、2週間以上たっても回復しなければ、「うつ病」の可能性が出てきます。この2点があてはまるかどうかが、「うつ状態」と「うつ病」を見分けるひとつのポイントになります。

うつ病になると、何に対しても意欲がわかず、これまで好きだったこともやる気がなくなったりします。朝もなかなか起きられず、会社や学校に行くのが嫌になったり、人に会うことも苦痛に感じられたりします。そして、すべてに対して関心が低下します。このような状態がさらに悪化すると、「世の中のことはすべて意味がない」と、何事も悲観的に考えるようになり、さらには「生きていたってしょうがない」と、自殺を考えるようになる場合があります。

うつ病の症状は心だけでなく、体にも現れ、肩こりやめまい、頭痛、食欲低下といった身体症状が出ることがあります。内科的には原因が特定できない身体症状がある場合にも、うつ病が疑われます。

うつ病の身体症状

不眠胸の圧迫感全身の倦怠感
腹部膨満感、胃のもたれ頭痛、頭重感体のしびれ
微熱息切れ、動悸首や肩のこり
下痢、便秘かすみ目、めまい生理不順、ED
耳鳴り

§2  うつ病になる原因

うつ病は、ストレスが原因になって発病するものと思われていることが多いようです。しかし現在の医学では、ストレスはうつ病を発病するきっかけにはなりますが、それだけが原因でうつ病になるわけではない、と考えられています。ストレスと重なって発病すると考えられる原因のひとつは、脳内の神経伝達物質の働きが悪くなることです。

OCDでは、脳内で神経細胞と神経細胞の間にあるセロトニンという神経伝達物質が減少していることがわかっていますが(⇒OCDとは?―OCDの原因)、うつ病でも同じような仕組みで、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が減少していることがわかっています。なんらかの原因で、これらの神経伝達物質の代謝がうまくいかなくなり、神経細胞と神経細胞の間で、意志や意欲などにかかわる信号が伝達されにくくなってしまうため、気分が落ち込んだり、意欲が低下するのではないかと考えられています。

うつ病になるきっかけには、親しい人との死別・離別などの喪失体験、昇進、降格、失業、仕事の失敗などの職業上の問題、子どもの就職・結婚、家庭内の不和などの家族関係の問題、貧困などの経済問題と、人生で起こるいろいろな出来事が考えられます。ですから、「五月病(進学や就職した後、環境が変わったことに適応できない)」「産後うつ病(マタニティ・ブルーとも言い、出産後のホルモンの変調によるもの)」など、さまざまなライフ・イベントに応じた心の変調が、うつ病の症状とされています。

心や体の病気も、ストレスの一因になります。もちろん、OCDの症状も、ストレスの一因になる場合があります。しかし、OCDならば全員がうつ病になりやすいわけではありませんし、うつ病が併存したからといって、病気から回復できなくなるというわけではありません。うつ病になる原因は、ひとつには特定できないことが多いのだそうです。原因探しをするよりも、まずは淡々と、治療に専念することが大切です。


§3  うつ病を見分ける12のサイン

うつ病は本人が気づかないままでいたり、調子が優れないと思っても我慢している場合も多いのです。本人だけでなく、家族や周囲の人が、できるだけ早く異変に気づいてあげることが大事です。うつ病の人が発するサインを挙げますので、参考にしてください。

自覚症状1――誰とも会いたくない

無理やり人と会ってもつらいだけで、黙りこくってしまいます。電話に出たり、メールを見ようという気にもなれません。
●周りの人は……これまでつきあいのよかった人が誘いを断るようになったり、電話やメールへの返信が来なくなったときは要注意です。

自覚症状2――今まで興味のあったことにまったく関心が持てない

無気力になって、いつも見ていた野球中継を見なくなったり、好きで続けてきたことにも関心がなくなり、それどころか嫌気がさしてしまいます。
●周りの人は……「いつもやっていたことをしなくなる」ということが、ひとつのポイントになります。

自覚症状3――仕事や勉強をやる気が起こらない

ただ疲れているだけなら一晩眠ればやる気(意欲)が出てくるものですが、いくら眠ってもやる気が起きません。がんばって机に向かってもやる気が起きず、やり始めても続きません。
●周りの人は……生真面目で完璧主義だった人が急にやる気を見せなくなったり、それが長く続くようなときは要注意です。

自覚症状4――極端に仕事の能率が落ちてしまった

判断力や思考力がにぶり、論理的に物事が考えられなくなって、集中力が落ちます。
●周りの人は……あまり長い期間、能率が上がらない状態が続くようなときは要注意です。

自覚症状5――なぜかむなしい気分が抜けない

なんの理由もなくむなしい気分が続き、いつまでたっても回復しません。
●周りの人は……「何をやっても意味がない」「すべて自分が悪いんだ」など、悲観的な言葉を頻繁に発するようになったら要注意です。

自覚症状6――ほんの些細なことでも判断できない

仕事上の決断だけでなく、夕食を何にするかといった些細なことまで決められなくなります。かと思うと、会社を辞めてしまうなど、重大なことをあっさり決めてしまったりします。
●周りの人は……日頃の言動と比べてあまりにもおかしな決断をするようになったら要注意です。

自覚症状7――寝つきが悪い、早朝に目が覚める

睡眠障害は、うつ病に多くみられる症状のひとつです。
●周りの人は……疲れが抜けず食欲不振になったり、体重が減って顔色が悪くなったりしていたら、「最近、よく眠れている?」と尋ねてみましょう。

自覚症状8――朝がつらく、夕方にかけて少し気分的に楽になる

"朝のつらさ"も、うつ病の症状のひとつです。会社や学校に行く気が起こらないのに、行かなければならないという気持ちの狭間で苦しいのです。
●周りの人は……とくに朝、沈んでいる表情をしていたり、あまりにも元気がない様子が続くときは要注意です。「夕方は普通にしているから大丈夫だな」、と安心しないように。

自覚症状9――理由もなくからだがだるい、重い

疲れるようなことは何もしていないのに、どうしようもなく疲れを覚え、階段を上がっただけで動悸が起こるなど、いつもよりも体のだるさがひどい状態が続きます。
●周りの人は……以前よりも動きが遅く、ものぐさに見えたり、それまできちんとこぎれいな服装をしていた人が、身だしなみに注意をはらわなくなったりしたら要注意です。

自覚症状10――何を食べてもおいしいと思えない

以前好きだったものを食べたいと思わなくなったり、好きでもないものを義務感から食べたりします。食べても味がしなかったり、胃のもたれ、むかつきを感じる人もいます。
●周りの人は……それまでとは食べ物の好みが変わったら要注意です。

自覚症状11――記憶力が極端に低下した

質問されてもすぐに答えられなかったり、ついさっきの約束も思い出せなかったりします。
●周りの人は……いま言ったことを何度も聞き返したり、「心ここにあらず」といった様子が見えたら要注意です。

自覚症状12――異性に対する興味や性欲が減退してきた

男性の場合はEDになったり、女性の場合は月経不順になったりします。
●周りの人は……夫婦やカップルの場合は、パートナーに興味がなくなったら要注意です。


§4  自分でできる「うつ度」チェック表

次に紹介する問診表は、南フロリダ大学のシーハン教授らが多くの欧米の精神科医と意見交換をして作成したものです。信頼度が高いと評価され、世界的に使われています。ただし、このようなテストは、「うつ病かどうか」の判定をするものではありません。「病院に行く必要があるかどうか」を考えるときの目安に使ってください。

「MINI問診表」

A1  この2週間以上、毎日のように、ほとんど一日中ずっと憂うつであったり、沈んだ気持ちでいましたか?

はい・いいえ

A2  この2週間以上、ほとんどのことに興味がなくなっていたり、大抵いつもなら楽しめていたことが楽しめなくなっていましたか?

はい・いいえ
A1またはA2のどちらか、また両方が「はい」である場合、A3以降に進む。
A1、はA2がともに「いいえ」の場合、うつ病ではないと思われます。

A3  〔エピソード現在〕  この2週間以上、憂うつであったり、ほとんどのことに興味がなくなっていた場合、あなたは……

a    毎日のように、食欲が低下、または増加していましたか?  または、自分では意識しないうちに、体重が減少、または増加しましたか?

はい・いいえ

b    毎晩のように、睡眠に問題(たとえば、寝つきが悪い、真夜中に目が覚める、朝早く目覚める、寝すぎてしまうなど)がありましたか?

はい・いいえ

c    毎日のように、普段に比べて話し方や動作が鈍くなったり、静かに座っていられなくなりましたか?

はい・いいえ

d    毎日のように、疲れを感じたり、または気力がないと感じましたか?

はい・いいえ

e    毎日のように、自分には価値がないと感じたり、または罪の意識を感じたりしましたか?

はい・いいえ

f    毎日のように、集中したり決断したりすることが難しいと感じましたか?

はい・いいえ

g    自分を傷つけたり自殺をすることや、死んでいればよかったと繰り返し考えましたか?

はい・いいえ

★A1~A3(a~g)の回答に、少なくともA1かA2のどちらかを含んで、5つ以上「はい」がある?

はい・いいえ
「M.I.N.I.精神疾患簡易構造化面接法」(星和書店)より
最後の問い(★)が「はい」の場合、うつ病の疑いがあります。他の情報と総合的に考え、早めに専門医に受診することをお勧めします。
「いいえ」の場合は、うつ病ではないと思われます。


§5  うつ病が疑われたら

もしいま、OCDで治療を受けているなら、いつもかかっている主治医の先生に相談し、自分の今の気持ちや心身の状態を正直に話しましょう。先生は問診によって、うつ病かどうかを診断してくれるはずです。

その際、できれば家族か親しい人が一緒についていくとよいでしょう。うつ病になると、判断力や記憶力がにぶってしまい、はっきりと説明ができなくなる場合があります。そんな場合に、本人に代わって、いつ頃からどんな症状が見られるかを医師に伝えることができます。また、家族や周囲の人が、今後の生活の注意や通院について聞いておくことは、大きなサポートになります。

初めて受診する場合、病院は、OCDと同じく、「精神科」「精神神経科」「神経精神科」「心療内科」「メンタルクリニック」と書かれたところを受診してください。「神経内科」は、脳や脊髄の神経など体の病気を治療する科ですので、間違えないようにしてください。また、最初から大きな大学病院などである必要はなく、家から通いやすい病院・クリニックをおすすめします。もし特別な検査や治療が必要な場合は、そこで紹介状を書いてもらって、大きな病院に受診することができます。

*次回は、「うつ病の治療法・予防法」を紹介します。


●参考文献
上島国利(本サイト監修者)・著  『うつ病かな?と思ったときに読む本』  小学館文庫  2005年