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OCDコラム

OCDコラム

OCDの発症年齢は比較的若い。
若いから、治療の先に時間がある。


前々回のコラムでは、サッカーのデイヴィッド・ベッカム選手がOCDを告白したことを紹介しました。ベッカム選手の症状は、試合中にはまったく顔を出さないようです。では、ベッカム選手は、OCDの治療を受けるために病院を受診したのでしょうか? それとも、選手としての生活には支障がないので、まだ受診をしていないのでしょうか? もうひとつ気になるのは、31歳のベッカム選手の症状は、いつ頃から発症したのかということです。


●さまざまな研究からわかること

OCDを発症する年齢は人によってさまざまですが、これまでに行われてきたいくつかの調査研究から、OCDは、比較的若いうちに発症する病気であることがわかっています。これは、うつ病が、働き盛りの男性や、更年期にさしかかった女性、高齢者に多いといわれるのに比べても特徴的です。

海外の研究を見てみると、イスラエルのテルアビブ大学教授、ジョセフ・ゾハー博士とイギリスのスチュアート・モンゴメリー博士による著作『強迫性障害』では、「OCDの発症年齢は、平均して19歳~20歳」としています。ある研究では、「成人患者の30~50%は、児童期から青年期に発症したということが見出された」といいます。

ずいぶん曖昧な数字のようですが、それはOCD特有の事情のため。OCDの場合、症状を自覚してから初めて病院を受診するまでに、何年もかかる人が多いのです。この調査は過去にさかのぼって調査する方法(レトロスペクティブ研究)だったため、本人の記憶が信頼できるものであるかどうかによっては、この率はもっと高い可能性もあるのだそうです。

また、若いうちの発病が多いことを示すものとして、アメリカの高校生を対象にした調査では、2%の有病率が報告された(Flamentら、1988年)こと、またイスラエルの16~17歳の陸軍新兵を対象にした調査では、有病率は3.6%だったことが挙げられています(Zoharら、1992年)。

そのほかにもさまざまな研究報告がありますが、共通して指摘されているのは、男性のほうが女性よりも発症年齢が低いということです。だいたい男性は19~20歳、女性は20~25歳とする研究が多く、日本でも、OCD研究会の成田善弘先生による「平均発症年齢は男性18.9歳、女性24.7歳」という報告があります(1988年)。

ハーバード医科大学の心理学準教授リー・ベアーの著作『強迫性障害からの脱出』では、「OCDの多くは、思春期の終わりから青年期の始まりの25歳までの間で、ストレスのある時に発症しやすい。非常に重症のうつ病に合併して生じる場合を除けば、高齢になって発症することはほとんどない」としています。


●子供の症状を見つける

このように、若いうちの発症が多いOCDですが、当然のこと、そのうちの何割かは、小学生や中学生のうちに発症していると考えられます。大人の場合と同様、子供の場合も、症状を親や周りの人たちに隠している間は、病気と気づかれないままに推移します。症状が重くなり、勉強や日常生活に支障が来してきた時点で初めて親が気づいて、病院や専門機関に相談をするという場合がほとんどでしょう。大人であれば、症状を抱えながらも、OCDについて書かれた本を読むなどして情報を得、自分の症状を客観的にとらえることも可能でしょう。なかには自分で病院を探そうとする人だっているかもしれません。でも子供の場合は、まず家族がなんとか判断をして、治療への道をつけてあげるほかにはありません。家族は、子供を観察した印象や、子供の訴えをもとに対応するほかはありませんから、なかには正しい診断をもらうまでに、内科や小児科を受診して遠回りをしてしまう場合も出てくるでしょう⇒(第11回OCDコラム:「OCDと診断されるまで」)。OCDという病気の正しい知識がまだまだ知られていない現在では、周りの理解を得るという役目も、家族の肩にかかってきます。そして、家族や本人にとって一番心配なのは、学業や将来への影響です。


●仕事や将来設計はどうなる?

成人してから発症した場合も、将来への心配という点では同じです。若いということは、職場ではまだ新人。どんな仕事をしている場合でも、その分野での第一歩、第二歩を踏み出して、未来への足固めをする時期にあたります。確認する、順番を守るなどの強迫儀式に時間をとられて、仕事に集中できなくなるのは困ります。汚染恐怖のために職場に行くことができなくなったら、休職をしなければなりません。恋愛や結婚への影響もあるかもしれません。

いずれの場合も、本人の生活の場が強迫症状のために限定されていったときには、家族が本人の生活を守らなくてはなりません。なんといっても、誰もがベッカムのような天才というわけではありません。やっかいな症状に苦しむ本人を支えるのは、家族の愛情と思いやりと、経済的支援ということになります。ですから、家族の役割はとても大切なのです。

ここで知っておきたいのは、もしOCDの治療のために仕事ができなくなり、経済的に支障を来すようならば、その間の生活を支援するさまざまな福祉制度があるということです。現行の制度についてはすでにご紹介しましたが(⇒第7回第8回コラム)、「障害者自立支援法」の施行に伴い、平成18年10月からサービスの体系が変わりますので、各自治体の福祉窓口に相談をしてください。


●症状はいつ治る?

では、若いうちにOCDになったら、一生涯、この病気のために苦しまなければいけないのか? これがOCDに悩む人にとって、一番知りたい問題でしょう。本当のところ、どうなのでしょうか? ――もしこれを読んでくれているあなたが強迫症状に悩む一人なら、その答えは、人によってさまざまです。症状の程度も、薬との相性も、身体的条件もそれぞれ違うからです。答えは自分で探すほかありません。

といっても、たった一人で答えを探せ、という意味ではありません。前出のモンゴメリー博士とゾハー博士は、「多くの患者で、OCDは憎悪に伴って変動する慢性的な経過を持つことが明らかになっている」、つまり、OCDは慢性の病気であるとしていますが、同時に、「多くの患者が、自分たちの症状は医学的治療が容易であることに気づいていない」。ここ15年で強迫症状に効果のある薬が認定され、新しい治療法の進歩によって、「患者の生活の質が改善される望みが高まってきた」と書いています。

いま、生活習慣病などの慢性の病気では、「病気を治すのは医者」という考え方は過去のものになり、「病気は医者と患者が協力して治すもの」という考え方に移ってきています。もし勇気を出して病院・クリニックの門をくぐり、あなたを理解してくれる治療者と出会えたならば、二人三脚で治療をするという道が目の前に開かれています。

もちろん、治療によって、症状がほぼ治まり、完治する人もいれば、完治しない人もいるでしょう。でもいったい、どこまで治ったことを完治と言うのでしょうか。ベッカム選手の活躍ぶりを見てもわかるように、軽い症状であれば、OCDは、病気でない人との境界が、かなり曖昧です。日常生活に支障のない程度に症状が抑えられたならば、もう一度学業や仕事に戻って将来への歩みを続けることは十分可能ですし、実際に、多くの人がそうやっています。若いうちの発病を悲観するよりも、治療によって、これからの人生に豊かな時間が生まれる可能性を見つめて行きたいものです。


参考文献:
『強迫性障害』 スチュアート・モンゴメリー、ジョゼフ・ゾハー/著 OCD研究会/訳 1999年
『強迫性障害 病態と治療』 成田善弘/著 医学書院 2002年
『強迫性障害からの脱出』 リー・ベアー/著 晶文社 2000年