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OCD体験者有園正俊さんと一緒に「外へ出ませんか?」


2005年11月に発売されたある本が、精神医療や福祉関係者の間で、ひそかに評判になっています。それは、精神保健福祉士の有園正俊さんが書いた『外へ出ませんか』という本です。「外出がおっくうな人のために」と副題がつけられたこの本は、かつて強迫症状を発症し、外出が難しくなった体験をもつ筆者が、自らの体験に基づいて書いたものです。

●確認強迫のために外出が困難に

有園さんは、イラストレーターとして活躍していた15年ほど前、何事も確認しないではいられないなどの症状のために、外出することが困難になりました。

たとえば、大事なものを捨てていないかと気になり、ゴミをすべて点検しないと捨てることができないので、家の中にゴミがどんどんたまっていきます。外出しようとしても、着ている服になにかついていないかと気になり、その点検・確認行為に疲れて、歩き続けることができなかったそうです。

たまったゴミにカビが生えると、今度はカビの汚染が気になり、何度も手洗いをしたり、物を消毒したりするようになりました。また、自分のミスがもとで、誰かに多大な迷惑をかけてしまうのではという、加害恐怖もありました。そんな自分の状態は、何らかの心の病気ではないかと思い、病院に行くことも考えましたが、行こうにも、その外出自体がはなはだ困難な状態だったそうです。

そんな有園さんが、「少しずつでも外に出よう」と自らを励ましたのは、当時の仕事先に迷惑をかけてしまっていたことに加え、家が引越しをすることになったためでした。切羽詰った事情から、有園さんは、まず自分の生活を改善しようとしました。「なんとか、少しでも元気だった頃の生活に戻そうと思ったのです」。


●外出が生活にリズムをつくって

自宅でイラストを描く仕事が中心だった当時の生活は、時間的についルーズになり、昼夜逆転の生活をしていた時期もあったそうです。そこで、確認行為はありましたが、1日1回は日中に外出することを心がけました。

「最初は本当に、家から100メートルぐらいしか出られませんでした。それから徐々に距離を伸ばしていって、郵便を出すとか、銀行でお金をおろすとか、以前のようにやれることが、少しずつ増えていったんです」

そのほかに、ゴミを少しずつ捨てるなど、毎日、自分で課題としたことを、全部ではなくても、いくつかずつでもこなすようにしました。「そのような日課を果たすことで、日々の不安が軽減し、生活にリズムを取り戻すことにもなっていったと思います」と有園さん。本当に遅々としたペースで、七転び八起きではありましたが、やれることが増えていったことが、将来への希望にもつながったといいます。

1年ほどかかって、やっと図書館に行くことができるようになった有園さんは、森田療法*について書かれた本を読み、自分の症状が、当時「強迫神経症」として書かれていた患者の症例と、ほぼ同じであると知りました。

インターネットもなかった当時のこと、有園さんは、強迫神経症や不安に関するさまざまな本を参考にしながら、その後数年かけて、強迫症状を克服していきました。「発病前、理工学部の学生だった頃は、英語の論文なども読んでおり、もともと調べることは好きだったせいもあります」と有園さん。


●病気を体験して、人生観が変わった

その後、ネットを通じていろいろな悩みをもつ人たちと知り合うなかで、有園さんは「不安をあるがままに受け入れ、できる範囲で、できることを実行していく」という森田療法の考え方は、OCDの人だけでなく、いろいろな悩みをもつ人にも応用できるのではないかと考えるようになりました。そんなとき、ネットの掲示板で、引きこもりの人と出会いました。

そこで、自分の経験から、引きこもりの人に役立ててほしいことや伝えたいことを、写真と文章でまとめ、自分のサイトで公開しました。それが「外へ出ませんか。」というコーナーです。本は、このコーナーのコンテンツをもとに、資料や解説を加えてまとめられたものです。

有園さんのサイト「外へ出ませんか。――外出が苦手な人のためのバーチャル散歩」
http://kyou89.fc2web.com/out/out_1j.htm

元気になった後、勉強してホームヘルパーと精神保健福祉士の資格を取得した有園さんは、2002年から1年半、三鷹市の精神障害者の小規模通所授産施設で指導員を務め、現在も美術を教えています。イラストレーターの仕事をやめたわけではありませんが、将来的には精神福祉の分野で活動することを考えています。

「20代のころは、かっこいいデザインをすることが夢でした。ところが、自分がこういう体験をしてみて、ものの見方が変わりましたね。そういうことよりも、かつての自分と同じ悩みをもつ人たちに、自分の体験を知らせたい。もっと人の役に立つことをしたいという気持ちのほうが強くなりました」


●無理しなくても、自分のペースで、できることを。

本の帯には、こんな呼びかけが書かれています。
いろいろ辛い経験をしてきた人もいるでしょう。
でも、このままじゃまずいと思っている人、
私と一緒にバーチャル散歩をしてみませんか?
本は10のステップから成り立っており、最初のステップは、
家の扉を開けてみるところから始まります。
まず、トビラだけ開けるというのは、いかがですか?
まだ外に出なくてもかまいません。
有園さんのあたたかい呼びかけが続きます。
だれかと会うかもしれない?
中には、人が怖いと感じる人がいるかもしれませんね。
……(中略)……

学校や仕事に行ってないんじゃないかと、思う人がいても、かまうことなし!

頁を進めると、そこには有園さんが外を歩きながらみつけた道端の光景が、写真で、ひとこま、ひとこま、絵本のように表れてきます。写真のそばには、有園さんが外を歩いて感じたことや、読者へのメッセージが、短い詩のようなことばで添えられています。

最後のステップまでを読み通したとき、有園さんと一緒に近所の道を歩き、1年間かけて、外を散歩できるようになったような気分を味わえることでしょう。


●外出ができない理由は、人によりさまざま

本は読売新聞や毎日放送などでも紹介され、そのたびに、外出できない悩みを持つ人から、メールや掲示板にメッセージが送られてきます。そうした反響が「うれしいですね」と言う有園さん。メッセージには、まめに答えを書いているそうですが、いつも感じるのは、OCDの場合、同じ病気でも症状や悩みは人によりさまざまであるということ。

「自分にとってよかったことが、相手にあてはまるかどうかはわかりません。また、メールや掲示板でわかる情報は限られていますので、相談にのることはできません。その人の参考になりそうな情報を、少し書くだけです」

この本で有園さんは、外出がおっくうな人は、まず専門家に相談することを考えてみてほしい、と勧めています。そして、次の4つのケースを挙げ、それぞれの場合に対して相談先の探し方をガイドしています。

1)心の病気によるケース
2)身体の病気や障害により不安があるケース
3)ひきこもり**のケース
4)その他のケース
3)の「ひきこもり」といわれる人たちのなかには、心の病気の人もいれば、そうでない人もいます。長い間外出をしないために、人と会うことに不安が生じるケースもあり、病気なのかそうでないのかの判別は、難しい場合もあります。

どんな場合であっても、この本を読んだことをきっかけに、公的機関や医療施設に相談をしたり、あるいは自分で外への一歩を踏み出すことになったなら、有園さんが過去のつらい体験をもとに作った作品が、元・患者から現役患者への、かけがえのない“贈り物”として生かされることになるのでしょう。

有園さんのサイト「強迫性障害(強迫神経症)の案内板」
http://kyou89.fc2web.com/index.htm


■注釈:
森田療法*――慈恵医大精神科の教授だった森田正馬(もりた・まさたけ)が、1919年に編み出した神経症への治療法。患者は入院し、最初の1週間は寝床に寝て過ごす。その後は軽作業を行い、日記をつけて自分の行動を振り返る。不安や恐怖をありのままに受け入れながら、できることを行うというもので、現在も日本の多くの精神科で行われており、通院で治療が受けられる病院もある。
ひきこもり**――2003年7月に厚生労働省より「ひきこもり対応ガイドライン」が発表されて以来、行政による支援の対象になっており、保健所や精神保健福祉センターなどで相談を受け付けている。