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第7回OCD研究会レポート
「退院後1年の経過調査から見えてきたもの。治療効果を維持するためには?


去る11月5日、大阪・千里にて、本サイトを主催するOCD研究会の第7回研究会が開催されました。全国からOCDの研究をしている医師・精神医学者・臨床心理士などが集まって開催される、OCD専門の研究会です。今年も100名近い参加者が集い、白熱した議論が繰り広げられました。

取り上げられたテーマは、診断・治療をめぐる問題から症例研究、脳内代謝の評価、副作用、合併症、行動療法などの治療法の研究、子どもの強迫をめぐる報告までと、多岐にわたりました。それぞれ専門的な内容であり、研究途上段階での発表も多いため、残念ながら、そのすべてをここでご紹介できませんが、今回は、患者さんやご家族の参考になりそうな研究についてご紹介します。

熱心な研究発表が繰り広げられた会場。写真の特別講演では「発達障害に伴うOCD」をテーマに、3人の専門家が講演し、ディスカッションを行いました。壇上は左から杉山登志郎先生(あいち小児保健医療総合センター心療内科)、十一元三先生(京都大学医学部保健学科)、金生由紀子先生(北里大学大学院医療系研究科 医療人間科学群 発達精神医学)。右端は座長の大野裕先生(慶応義塾大学保健管理センター)。


●肥前精神医療センターが、患者の退院1年後の経過について調査

OCDを含めて、こころの病気の治療には、患者のもつ生活習慣や患者の生活環境が重要な影響を及ぼす場合がしばしばあります。通院しながら投薬などの治療を受けている間は、一緒に暮らす家族との関係が影響する場合がありますし、社会復帰の段階では、学校・職場などに戻るタイミングや、その学校・職場の環境も重要な要素となってきます。

国立病院機構肥前精神医療センターの宮川明美先生、飯倉康郎先生、久留米大学大学院心理学研究科の山本理真子先生が行った研究は、回復期にある患者が、生活習慣や生活環境によりどのような影響を受けるかを知るために、大変参考になるものでした。発表者は宮川明美先生でした。

宮川先生たちは、主に強迫症状を訴えて同院を受診し、初めて入院治療を行った患者73名を対象に、退院した時点と、退院して1年たった時点での病状の変化を調査しました。対象となった患者は診断名がOCDのみの患者だけではなく、OCDのほかに合併症をもつグループも含まれています。それぞれの患者の退院後の生活については、カルテ調査と、主治医への聞き取り調査を行いました。

ちなみに、国立病院機構肥前精神医療センターは、旧称を国立肥前療養所といい、昭和20年に創立された精神科の病院です。国の精神医療政策の基幹病院のひとつとして、医療だけでなく研究・研修機能ももっています。「小児・思春期外来」や「発達障害外来」など8つの専門外来があり、強迫症状を訴える患者には、「神経症・ストレス外来」で対応しています。

独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター ホームページ
http://www.hosp.go.jp/~hizen/index.html


●治療効果を維持した患者は、《主治医との面接》と《服薬》が規則的だった

調査によれば、どの患者グループでも、治療効果を維持できた患者に共通していたのは、《主治医との面接》《服薬》が規則的に行われていたということでした。

このことは、当たり前といえば当たり前のようですが、《OCDは、正しい治療を受けて、医師の指導を守り、きちんと服薬を続ければ治療効果が上がる病気》であることを裏付けるかのような調査結果といえます。

とくに、診断名がOCDであるグループと、合併症をもつOCDのグループでは、両グループ合わせて35名のうち20名(57%)が、治療効果を維持していました。また、5名(14%)は治療を終結していました。合計71%が、良好な結果を示していたことになります。

治療を終えた5名は、その時点で全員が社会復帰を果たしていました。この5名については、その後、病院に受診をしていないことから、「症状が再燃していないと考えられる」と、この研究では報告しています。


●《生活環境を無理に変えない》人は経過が良好だった

治療効果を維持した人は、社会復帰に際して本人が慎重で、主治医とよく相談をしていたり、家族も本人に無理な期待をしないため、生活環境に無理な変化がなかった人たちでした。


●症状悪化の要因のひとつは、《生活環境の無理な変化》

しかし、上記の2つのグループでも、強迫症状が悪化していた人もいました。悪化した人は、薬の服用が不規則でした。また、社会復帰に際して生活環境の急激な変化があり、そのことが、強迫症状を悪化させるきっかけとなっていた人もいました。

合併症をもつグループでは、合併症の悪化が強迫症状の悪化の誘因になっているケースもありました。


●《家族の巻き込み》も症状悪化の要因になっていた

悪化した人の調査から、悪化の要因のひとつとして浮かび上がってきたのは、家族が強迫症状に再び巻き込まれていたことです。そのため、生活のなかでの反応妨害⇒(OCDの治療法 行動療法)が不徹底になり、強迫症状に歯止めがかからなくなっていました。

OCDに特有の「家族の巻き込み」現象は、不潔・汚染恐怖のために部屋を掃除したり、数を数えて確認したりする強迫行為を、自分で行うだけでなく、家族にも手伝わせることです。本人に繰り返し強迫行為の手助けを求められた家族が、ついつい手伝ってしまい、それが無制限になってしまうと、反応妨害ができなくなってしまいます。

こんな場合の家族の対応については、第9回コラム⇒(病院に行きたがらないOCD患者に対して、家族はどう接すればいい?)を参考にしてください。

一部には、親などキーパーソンや主治医との安定した関係が結べず、これらの関係が悪化するたびに抑うつ的となり、強迫症状が悪化する患者群もいました。そのため、「これらキーパーソンとの関係が安定していることも重要な要因と考えられた」とも報告されていました。


●この研究報告から参考にできること

現在、OCDの原因は、脳神経の情報伝達ネットワークの機能障害であるという考え方が主流となっています。⇒(OCDとは? OCDの原因)そこで、薬物療法と行動療法が治療法として採用されています。⇒(OCDの治療法)

しかし、この研究報告からは、病気を治していくのに必要なものは、適切な治療を受けることに加えて、《面接・服薬を続けようという本人の意志》、そして《まわりの人のサポート》も大切だということがうかがえます。

この研究報告を参考に、前向きに治療に取り組みたいものです。


参考:第7回OCD研究会
一般講演:セッション2-2 「強迫症状を主訴として当院で入院治療を受けた患者の退院後1年転帰」
宮川明美、飯倉康郎(独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター)
山本理真子(久留米大学大学院心理学研究科)

飯倉康郎・著 『強迫性障害の治療ガイド』(二瓶社)