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OCDコラム

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OCDを経験する人の割合



強迫症/強迫性障害(OCD)を経験した人の割合は、どのくらいなのでしょうか。調査を行った時点で、調査対象とした集団の中でのある疾患を経験した人の割合を有病率といいます。実は日本では、一般人口に対するOCDの有病率について確かな調査が行われていません。書籍やインターネットで目にする有病率は、海外での研究調査を元に紹介したものと思われます。今回のコラムでは、有病率に関する文献を調べ、実際の数値について検証しました。



目次
§1 世界でのOCDの有病率
§2 アメリカでの有病率と重症度、受診率との関係
§3 厚生労働省の患者調査
§4 日本でもOCDの有病率の調査を



§1 世界でのOCDの有病率

健康な人を含め社会全体を対象として、病気の状況を調査することを疫学といいます。また、調査対象となる集団(地域、年齢層などで分ける)で、調査の時点で疾患を経験したことがある人の割合を有病率といいます。疫学での有病率の調査では、集団が一般人口に近いものとなるよう調査に協力してくれる人を無作為に選んで行います。
また、有病率には、生涯有病率と12カ月有病率とがあります。生涯有病率は、調査時点までに対象疾患を経験した人の割合で、疾患が既に改善した人も含まれます。12カ月有病率は、調査前の1年間に対象疾患を経験した人の割合で、調査のときに疾患を抱えていた人の割合に近い値になります。
OCDの有病率に関する研究は、海外では数多くありますが、時代や調査方法などによって、結果が異なります。その中で、参考になりそうな結果を紹介します。
1994年にアメリカのワイズマン先生たちは、一般人口に対するOCDの有病率についてアメリカ、カナダ、プエルトリコ、ドイツ、台湾、韓国、ニュージーランドの7つの国・地域での調査結果を比較しました。
この研究によると、台湾での12カ月有病率は0.4%、生涯有病率は0.7%でしたが、 それ以外の6カ国ではOCDの12カ月有病率は1.1~1.8%、生涯有病率は1.9~2.5%で、国、地域による大きな違いは見られませんでした。[1] そのため、日本も、台湾以外の6カ国とあまり違いはないと推測されています。台湾で有病率が低かったのは、当時の台湾の人々は、精神科の問題を社会的に話しにくかったことが一因と考えられています。 [2]

このような調査で、OCDかどうかを判断する基準となるのが診断基準です。通常、アメリカ精神医学会によるDSMという診断基準が用いられます。DSMは1980年にⅢ版に改訂され、強迫神経症から強迫性障害(OCD)と呼ばれるようになり、診断基準も現代の5版に近いものとなりました。DSMは1994年にはⅣ版に改訂され、OCDの診断基準も少し変更されました。DSMがⅣ版に改訂されたことによるOCDの有病率の変化を、オーストラリアの先生方が調べた報告があり、それによると有病率がⅢ版に比べⅣ版ではやや低い傾向が見られました。[3]

§2 アメリカでの有病率と重症度、受診率との関係

アメリカでは、1990-92年に国内全域での精神疾患についてDSM-Ⅲの有病率などを調べるための国内併存疾患調査(National Comorbidity Survey:NCS)が行われました。その後の2001-03年には、アメリカで英語の話せる18歳以上の9,282名に面接した調査(NCS-R)が行われました。NCS-Rのデータを用いて、アメリカのルシオ先生たちがOCDの疫学について調べた研究では、OCDの12カ月有病率は1.2%、生涯有病率は2.3%でした。また、OCDの発症年齢の平均は19.5歳で、発症年齢は男女で異なり、男性の方が発症年齢の早い傾向が見られました。[4]
この研究では、12カ月有病率でOCDを経験したと回答した人に対し、重症度についても調べています。この調査では、Y-BOCSというOCDの重症度を評価する尺度の点数が20点未満の人を軽度、20~29点を中等度、30点以上を重度と区分しました。

OCDを経験したと回答した人のうち軽度の割合は3.7%、中等度は65.6%、重度は30.7%でした。[4]


Y-BOCSの点数と重症度の分類は研究によって異なりますが、おおむね20点未満は苦痛がいくらかあり、日常生活や就労就学での効率が低下する程度、20~29点は苦痛がかなりあり、家事、就労、就学が難しくなり、欠席や遅刻などの支障が生じることもある程度、30点以上では家事、就労、就学が非常に困難で、自宅に引きこもったり、周囲からの多大な支援が必要となる程度です。
12カ月有病率でOCDを経験した人のうち、約半数の49.2%が治療を受けていました。診療を受けている人の割合は、重症度によっても異なり、重度では93.0%、中等度では25.6%で、そのうち専門的な治療を受けた人は、重度では30.9%、中等度では2.9%でした。 [4]アメリカでは日本と医療のシステムが異なり、プライマリーケア(総合的に診療、健康相談が受けることができるかかりつけ医などを含む医療)で精神的な問題も診てくれるところがあり、そこを受診してから精神科やOCDの専門医を紹介される人もいます。

§3 厚生労働省の患者調査

日本では厚生労働省が「患者調査」という統計を3年ごとに発表しています。それをもとに厚生労働省障害保健福祉部が作成した資料[5]によると、精神疾患をもつ患者の総数は、1999(平成11)年に204万人であったのが、次第に増え、2014(平成26)年には392万人と、15年間で1.9倍となりました。
OCDは、「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」に分類されます。「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」の患者の総数は、1999年に42万人であったのが、2014年には72万人と1.7倍に増えていました。同じ15年間で、気分障害(うつ病、双極性障害など)は44万人から112万人と2.5倍に増えた一方、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」は67万人から77万人と1.2倍でした。精神疾患によって増加率が異なります。


「神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害」には、OCDのほかに社交不安症、パニック症、心的外傷後ストレス障害、適応障害などの精神疾患が含まれているため、このデータだけでは、OCDの受診者数が増えているのかはわかりません。



厚生労働省 患者調査[5]より


また、前述の海外での有病率の調査研究は、広く一般の人を対象としたものですが、厚生労働省の「患者調査」は、医療機関の外来、入院病棟で診療を受けている人の数です。地域の保健所が、調査対象となった医療機関に調査票を配布して、その施設の管理者が記入する方式で行われました。そのため、この調査には、精神疾患をもっていても医療機関に受診していない人の数は含まれません。OCDでは、過去に受診して、症状が改善していなくても治療を中断している人、いまだ受診していない人も少なくないと思われます。したがって、実際の患者さんの数は調査よりも多いと考えられます。

§4 日本でもOCDの有病率の調査を

前述のアメリカでのルシオ先生たちの研究では、OCDの12カ月有病率は1.2%、そのうち中等度、重度の人の合計は96.3%でした[4]。おおむね中等度以上だと、専門家に相談したくなるレベルと考えられていて、それに該当するのは一般人口の1%程度と考えられます。
日本の有病率が、このアメリカの結果と同様かどうかはわかりません。また、有病率の調査は、調査対象となる人数も多く、一人一人面接していくため、時間も費用もかかります。しかし、OCDの人を支援し、診療を受けやすい環境を整えていくためには、重症度が増すと深刻な状況な人もいることを、社会の多くの人に知っていただくことが大切です。そのための根拠をより確実にするには、将来、日本でのOCDの有病率について調査が行われることが望ましいと思います。


*参考
[1] Weissman MM, Bland RC, Canino GJ, Greenwald S, Hwu HG, Lee CK, Newman SC, Oakley-Browne MA, Rubio-Stipec M, Wickramaratne PJ, et al.(1994) The cross national epidemiology of obsessive compulsive disorder. The Cross National Collaborative Group. J Clin Psychiatry. Mar;55 Suppl:5-10.
[2]Joseph Zohar.2000 New approaches to OCD treatment-The role of SSRIs-.「強迫性障害の研究1」星和書店,p97-110.
[3]Crino R, Slade T, Andrews G. (2005) The changing prevalence and severity of obsessive-compulsive disorder criteria from DSM-III to DSM-IV. Am J Psychiatry. May;162(5):876-82.
[4]Ruscio AM, Stein DJ, Chiu WT, Kessler RC. The epidemiology of obsessive-compulsive disorder in the National Comorbidity Survey Replication. Molecular Psychiatry (2010)jan;15, 53–63.
[5] 厚生労働省障害保健福祉部「参考資料0000108755_12」