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OCDコラム

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こだわりとOCDの違い



強迫症/強迫性障害(OCD)の強迫行為と、自閉スペクトラム症(*1)のこだわりとは、どちらも同じような行動、習慣などを過剰に繰り返し行う点が共通しています。おおむね、自分の意思に沿っているのであれば自閉スペクトラム症のこだわり、自分の意思に反している思いがいくらかでもあればOCDという傾向が見られます。しかし、近年の診断基準では、両者が区別できずに重なる部分もあることがわかってきました。
今回のコラムでは、自閉スペクトラム症とOCDとの関係や、どのように対処すればいいのかを考えてみました。

目次
§1 こだわりが問題となる場合
§2 自閉スペクトラム症でのこだわりとOCD
§3 病気か性格の延長か?
§4 治療への考え方



§1 こだわりが問題となる場合



「こだわり」とは、国語辞典[1]によると、「ちょっとしたことを必要以上に気にする。気持ちがとらわれる。物事に妥協せず、とことん追求する。」という意味だそうです。
これは悪い意味とは限りません。職人や技術者が、これまではあまり注目されなかった材料や技法にこだわって、完成度の高い作品をつくりあげることもあります。これは自分がこだわった結果が、社会的にも意義のあるものだと認められたり、評価される場合です。

次にこだわりが、評価されず、問題となる場合を、外出前の行動で時間がかかる人の例から考えてみましょう。

例1 外出前の洗面、メイク、髪形や身なりを整えるための手順やこだわるところが多くて、時間がかかる。

これは病気でない人でも、あることです。身なりを整えることに時間がかかるのであれば、その分、準備を早くから始めるなどして、登校や出勤の時間に間に合うようにできれば社会的には支障がありません。
社会的に問題となるのは、こだわりによって支障をきたしているのに、行動や習慣を変えられずに、支障が繰り返される場合です。
また、周囲の人にはこだわりと見える行動でも、それを行う心理状態によっては精神的に問題となることがあります。たとえば、髪型をおしゃれに見せたいというような肯定的な動機でも、細かい部分の完璧さにとらわれ過ぎているとか、「少しでもおかしなところがあると周囲の人に変に思われそう」というような否定的な動機が高じると、精神的に負担になってきます。

例2 毎朝、排せつ後、完全にきれいになったと思えるまでトイレットペーパーで拭かないと外出できないため、トイレットペーパーを大量に使ってしまう。学校や職場のトイレで、このようなことをすると不審に思われるため、外出前に完璧に済ませようとするとトイレの時間がかかる。

例2のようなケースは、OCDの患者さんからよく聞きます。典型的なOCDの症状では、被害や汚れなどの悪いことが現実的ではない範囲まで気になり、その考えが繰り返し思い浮かび、それを打ち消すために強迫行為を行います。周囲の人から見れば、完璧に拭くことにこだわっているように思えるかもしれませんが、OCDの患者さんは何か悪いことが起こることを避けるために行っています。ただし、最近の診断基準では、OCDの患者さんが、現実的におかしいと思っている不合理感があるかどうかは個人差があり、不合理感がほとんどないケースもOCDに含まれます。

§2 自閉スペクトラム症でのこだわりとOCD



こだわりは、発達障害の1つである自閉スペクトラム症でも現れることがあります。
自閉スペクトラム症の特性は、アメリカ精神医学会が作った診断基準[2] (*1)を簡略化すると次のようになります。

コミュニケーションでの障害
同じ行動、習慣、会話へのこだわり(常同性*2)
興味をもつものが著しく限定されること
感覚の過敏性もしくは鈍感性


例3 食事は、決まった時間と場所で同じメニューでないといけない。さらに、ホットケーキを食べるときは、ホットケーキが出る前にメイプルシロップが用意されていて、爪ようじを使って食べることにしている。
例4 あるチェーン店で売っているボクサーパンツ以外の下着を拒む。

例3、4は、映画「レインマン」(1988年公開のアメリカ作品)で、自閉症をもつレイモンドが、同じ行動にこだわる(常同性の)シーンです。自閉症は、現代の診断基準では、自閉スペクトラム症に分類されます。この映画はフィクションですが、レイモンドを演じたダスティン・ホフマンさんは、演技をするにあたって、発達障害をもつキム・ピークさんという実在の人物を参考にしているため、障害の特性がよく表現されています。

例 5 同じ服をボロボロになっても着続け、家族が別の服を勧めても拒む。

例5の行動は、自閉スペクトラム症でもOCDでもあり得るので、その背後にある心理状態を聞かないと判別ができません。たとえば、OCDで汚染/洗浄が気になる人では、きれいな服と、汚い服とを強迫観念によって区別しているため、その日の着られる服が限定されてしまうことがあります。

自閉スペクトラム症の人は、コミュニケーションや感覚で認識や適応できる範囲が限られるので、その範囲で安心して過ごせるために、このような行動やルールが生じたのではないかと推測されます。しかし、自閉スペクトラム症のこだわりでも、OCDの強迫行為でも、行為をするときのルールが増えていくと、次第に当初の意味とは違うものへと広がっていき、他の人にとっては、意味がないことにこだわっているように思えることがあります。
また、自閉スペクトラム症でも、嫌な感覚(雑音、ねばねばしたもの、濡れたものに触れるなど)を徹底的に避けたり、除去したくなるという強迫性を持つ人はいます。このような回避や除去が儀式的で生活に支障をきたすようになると、OCDの診断基準を満たすこともあります。
そして、自閉スペクトラム症でも、OCDでも、こだわりや嫌悪の対象が、歳月がたつうちに変化することがあります。
これらの理由から、近年では、自閉スペクトラム症のこだわりと、OCDの強迫行為とは、異なることもあれば、重なる部分もあると考えられるようになりました。[3]


§3 病気か性格の延長か?

典型的なOCDでは、強迫観念が頭の中によぎり、それがどこか自分の意に反したものだという違和感(自我違和感)があります。しかし、それは個人差が大きく、発症後の時期や年齢によっても異なることがあります。たとえば、発症した当初は違和感が強くても、長い年月が経つと、強迫観念、強迫行為が当たり前に思えてしまうことがあります。
また、OCDの発症時期が明確でないこともよくあります。また、OCDがある程度苦痛になってから過去を振り返ると、強迫的な出来事があったと気づくこともあります。このように、自分の性格や癖の延長なのか病気なのか本人にとっては、わかりにくいことがあります。
自分の抱えている悩みは、病気によるものであるという意識(病識)がないと、医療機関に受診するという動機にもつながりにくくなります。また、インターネットで、自分の癖だと思っていた状態がOCDと似ているとわかっても、本人の不安感などの理由で、その状態を変えたいと思わなければ、治療には踏み切れないのは無理もありません。

§4 治療への考え方


元々、自閉スペクトラム症である人、そうでない人でも、OCDの治療の基本は薬物療法と認知行動療法(行動療法を含む)です。
また、自閉スペクトラム症で問題となるこだわり行動に対しては、行動と心理状態を分析して、介入方法を見つけていく、行動療法、応用行動分析(*3)が用いられます。

自閉スペクトラム症は、他人や社会と関わる面での障害であって、病気ではありません。しかし、自分一人の力で障害を克服することが困難であれば、他者の支援が必要となります。診療を受けることは、病気の治療というより支援の延長くらいに考えてもいいと思います。
視力が低下し、メガネやコンタクトを作ろうと思ったときに、眼科を受診し、処方箋を出してもらうように、医療機関では、障害の診断、支援を行うこともあります。病気の治療であれ、障害の支援であれ、その人の抱える精神的な負担と社会的な支障を軽減するためという目的は共通しているので、困ったときには相談されてはいかがでしょうか。

*注釈
*1 自閉スペクトラム症―――発達障害の一つで、かつて自閉性障害(自閉症)、広汎性発達障害、アスペルガー障害と呼ばれていた障害を、新しい診断基準(DSM-5)では、特性が関連した1つの障害として自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害と呼ぶようになりました。自閉スペクトラム症については、次のコラムにまとめてあります。
「第135回OCDとの併存が多い発達障害② http://ocd-net.jp/column/c_135.html

*2常同性―――同じ行為、言葉、ルールを、不自然に繰り返すこと。

*3応用行動分析―――人や動物の行動を分析し、原理や法則を導きだす行動心理学を、問題となる行動の解決に利用したもの。次のコラムで紹介しています。
「第175回 OCDに関連した問題に応用行動分析を用いる http://ocd-net.jp/column/c_175.html
*参考
[1]「デジタル大辞泉」小学館
[2] American Psychiatric Association[著]日本精神神経学会[日本語版用語監修] (2014)
[3] 岡田俊(2017)「強迫,常同,反復―強迫症と自閉スペクトラム症」精神科治療学 Vol.32 No.1 Jan.星和書店,103-106.