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OCDコラム

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過剰な回避は苦手な思いを強める



嫌なこと、苦手なことを避けたくなることは、誰にでもあるものです。しかし、回避を続けていると、向き合うことがより苦手になってしまう傾向があります。強迫症/強迫性障害(OCD)に関連したことでも同様で、回避はOCDが重症化してしまう一因となります。今回のコラムでは、そのような嫌な感情、苦手な思いと回避のしくみについて紹介します。

目次
§1 誰もが経験する嫌な感情と回避のしくみ
§2 OCDでの回避
§3 不登校、ひきこもりでの回避
§4 まとめ



§1 誰もが経験する嫌な感情と回避のしくみ

災害、事故、重い病気のように、生命を脅かすような出来事は、誰もが避けたいと思います。そして、そのような脅威に出合えば、不安や恐怖を感じることは当然ですし、危険を避けることも必要です。
しかし、人は、生命の危険に関わらない日常的なことでも、不安、恐怖、不快、おっくう、憂うつなどさまざまな嫌な感情を抱き、それらをもたらすことを避けたくなることがあります。


日常生活で避けたくなる例
・仕事帰りに苦手な人に出会うことを避けたい。
・朝、起きて、学校に行く準備をするのがおっくうで、起きることを避けたい。
・部屋が散らかったままになっているが、片づけるのがおっくうでやりたくない。

このような場面で、人はどう行動するかを選択します。苦手な人と出会っても構わないと思って、いつも通りに帰宅する選択もあれば、苦手な人との出会いを回避して、帰宅する時間をずらしたり、別の道を通って帰るという選択もあります。回避した場合、感情との間には、次のような関係があります。

回避と感情との関係



ある行動によって、一時的でもメリットが得られれば、再び同じ状況となったときに、同じ行動をとりたくなります。それを続けているうちに、その行動の頻度が高まることを行動心理学では強化と呼びます。強化をもたらすメリットには、お金やご褒美のように好ましいものが得られる場合と、嫌なものに出合わなくて済む場合とがあります。回避は、嫌なものに出合わなくて済むことで強化され、頻度が高くなっていきます。[1]
先の苦手な人の例では、帰宅時間をずらしたことで、苦手な人に会わずに済んだというメリットを経験すれば、翌日も時間をずらして帰りたくなりますが、それを繰り返すことで、その人を避けたい衝動が増し、より苦手に思えていきます。
しかし、一般に苦手かどうかは、その人の能力・結果、身体や精神の健康状態なども関係していて、次のように避けることが無理もない場合があります。

能力・結果に関係して回避したくなる例
・ある生徒にとって、学校での授業が難しく、内容がわからなければ、発言することを避けたり、先生にあてられないように後ろの席で目立たないようにするのは無理もありません。この場合は、勉強についていけるように学力を高める支援が必要だと考えられます。
身体の健康状態に関係して回避したくなる例
・風邪を引いて学校へ行くのがつらい場合、登校を避けて、休むのは無理もありません。
この場合は、風邪の症状の改善が必要と考えられます。

精神的なものとして問題となる回避のケースは、能力・結果と身体の面では回避する必要がないのに、過剰に回避を繰り返してしまう場合です。過剰な回避が続くと、苦手なことに向き合おうとしたときに葛藤が強まり、本来するべき活動に支障をきたしてしまうことがあるためです。[1]

§2 OCDでの回避

OCDの患者さんも、強迫症状をもたらすものを避けます。OCDでない人なら気にしないことを、過剰に避けることを繰り返すことは、「強迫行為」になります。[2]

OCDでの回避の例


このほかにも、OCDの患者さんの中には、医療機関を受診する、専門家に相談する、精神科で処方された薬を飲むことに、不安や恐怖を感じ、避けたくなることがあります。このような行動も長期間避けるほど、取り組むことが苦手になります。このような場合についての解説は、第163回OCDコラム「OCDの治療へと踏み出すには」で解説しているので、ご覧ください。

また、人は、実際に不安や恐怖をもたらす出来事に出合わなくても、「もし出合ったらどうなるか」と想像しただけで、不安や恐怖を感じて、頭の中で不安や恐怖をできるだけ避ける方法を考えることがあります。このような頭の中で意図せずに思い浮かぶ考え(侵入思考)は精神疾患を持っていない人でも経験しますがOCDの人の強迫観念では、思い浮かぶ頻度や強度が増します。そして、侵入思考をなくそうとしたり、コントロールしようとしたりするほど、逆に思い浮かぶ頻度が増え、コントロールが難しくなるという研究報告があります。[3]
そのため、苦手なことに取りかかることを先延ばしすると、そのような考えに費やす時間も長くなるという悪循環をもたらします。

§3 不登校、ひきこもりでの回避

不登校、ひきこもりになった原因は、人によってさまざまですが、結果として学校、職場など社会との接触を避けていることになります。このような状態が、長期にわたっている場合、当事者は何らかの困難を抱えていると考えられます。そこで、能力・結果、身体や精神の健康状態について困難となっていることがないか本人に質問していきます。


たとえば、その人の現在の能力・結果として、他の人と関わることが非常に苦手で、話せる相手や場所が限られるケースがあります。ただ、人と関わる能力というのは、変わるのが難しい面と、変わる可能性がある面との両方が考えられます。そのため、このようなケースでは、まずその人にあった他人との関わり方、学校、職場の環境を関係者と相談して調整していく支援が考えられます。そして、精神的な健康状態として、社交不安症(*1)という精神疾患が疑われる場合は、精神科での診療が必要となることがあります。
社交不安症の他にも、OCDやうつ病のような精神疾患のために不登校やひきこもりになっている場合があります。また、深刻ないじめを体験し、適応障害などの精神症状をもたらしている場合もあります。
いずれの原因による場合でも、社会との接触を回避していると、よけいに苦手に思え、問題が長期化してしまうことがあります。

§4 まとめ

嫌なことを避けたくなることは、多かれ少なかれ誰しもあることなので、上図の「回避と感情との関係」について知っておくことが大切です。
ただ、その関係を知っても、自分一人の力では解決が困難な場合、その人の抱えている問題に応じて、家族以外にも相談できる人がいると望ましいです。
しかし、そのような人に相談することも、決断や実行を先延ばしして、家族が相談を促しても、「いつか」「そのうち」などと具体的な計画を言わないことも、苦手なことを避けるために行われているのであれば、回避になります。そのような期間が続く場合は、家族が学校や職場の関係者や精神・心理の専門家に相談する方法が考えられます。


*注釈と関連コラムページ
*1社交不安症―――以前は、社交不安障害と呼ばれていました。第68回OCDコラム「OCDと社交不安障害(SAD)」で取り上げています。



*参考
[1]三田村仰[著] (2017)「はじめてまなぶ行動療法」金剛出版 p79,136,278,279, 298,308
[2] American Psychiatric Association[著]日本精神神経学会[日本語版用語監修] (2014)「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[3]デイビッド・A・クラーク[著]丹野義彦[監訳/訳]杉浦義典、小堀修、山崎修道、高瀬千尋[訳](2006)「侵入思考 雑念はどのように病理へと発展するのか」星和書店p196-198,323-324