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OCDコラム

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映画「幸せの1ページ」での汚れと外出への恐怖



アメリカ映画「幸せの1ページ」(2008年制作)に登場する女性小説家は、汚れと外出を極端に嫌い、洗浄を欠かせない症状をもっています。彼女の症状は、映画の中で強迫症/強迫性障害(OCD)かどうかは明らかにされていませんが、汚れや外出に恐怖をもつ人がいることを、映像を通して多くの人に知ってもらえる作品になっています。また、そのような困難を抱えた女性小説家が、勇気を出して、一人の少女を助けに向かいます。今回のコラムでは、映画を通してOCDの症状を分かりやすく解説するとともに、勇気をもって踏み出すことの大切さについて考えてみました。


目次
§1 映画でOCDと思われる場面
§2 自宅の外に踏み出す
§3 勇気は日々の選択の中で学ぶもの



§1 映画でOCDと思われる場面

映画「幸せの1ページ」は、ウェンディー・オルーの児童向けの小説『秘密の島のニム』を原作にした作品です。
主人公は、太平洋のある火山島で、海洋生物学者のお父さんと二人で暮らすニムという11歳の少女です。
ニムが大好きな冒険小説『アレックス・ローバー』シリーズを書いている作家が、映画「羊たちの沈黙」などでも有名なジョディ・フォスター演じるアレクサンドラ・ローバーという女性です。しかし、アレクサンドラ自身は、冒険どころか自宅から外に出ることにも恐怖を感じ、汚れに対し過剰に洗浄してしまう行為を繰り返していました。

アレクサンドラは、自宅で小説を書いているときに、いつのまにか室内に入ってきたクモに気づき、驚愕します。そして、肩にかけていたストールを振り回して、追い払おうとします。とっさの判断から、このような行為をしてしまったのかもしれませんが、実際のOCD患者さんの中には「私なら、こういう行為はしない」と思う人もいると思います。つまり、アレクサンドラのように洗浄行為を行う患者さんの中には、もしクモがストールに触れたら、汚れがついたと思い、徹底的に洗浄するかまたは捨てたくなるため、クモを追い払うのに、着ている衣類は絶対に使わないと思う人もいるためです。

クモを追い払った後、アレクサンドラは、机の上で位置がずれたものを元に戻し、消毒用ジェルで、手をきれいにしようとします。そのとき、消毒用ジェルがなくなっていることに気づき、薬局に電話をかけて、大量に取り寄せます。しかし、配達してくれた人が自宅に来ても、インターフォンで対応するのみで、玄関を開けずに、ドアの外に商品を置いていくように頼みます。これらの行為は、実際のOCDの患者さんでも行うことがあります。


§2 自宅の外に踏み出す

アレクサンドラは、小説の取材のために、インターネットで知ったニムのお父さんに、火山について問い合わせをします。しかし、その頃、ニムのお父さんは不在で、ニムがアレクサンドラにメールで返信し、そこから二人の交流が始まりました。そんなある日、お父さんの乗った船でトラブルが発生し、自宅に戻れなくなってしまい、ニムは一人きりになってしまいます。さらに、ニムは足にケガをするなど、災難が重なり、アレクサンドラにメールで助けを求めます。

このとき、アレクサンドラは、広場恐怖のために外が怖く、16週間もアパートから出ていないとニムに伝えています。また、アレクサンドラは飛行機も苦手で、機内で暑さを感じ、落ち着かない状態になります。そのため、彼女が自宅の外を苦痛に感じるのはOCDによるものだけではないと思われますが、映画では明らかにされてはいません。

それでも、アレクサンドラはニムを助けるために、旅立つ決意をします。しかし、いざ自宅の玄関を出ようとすると、「できない」という思いと葛藤します。このような葛藤は、OCDの患者さんも、経験することがあると思います。
自宅のドアの前にいる彼女の頭の中では、外が怖い自分と、外へ出ることを促す冒険小説のヒーローが対立しています。ヒーローは、「ドアを開けるんだ」「ノブを回せ」と具体的な行動を指示し、「できる」と励まし、ようやく彼女はドアを開けます。このように頭の中では、いろいろな感情や思いが渦巻いていても、自ら行動していくことが大切です。

しかし、アレクサンドラはドアを開けたものの、そこで立ちつくしてしまいます。映画では、ヒ―ローが、そんな彼女を見かねて、外に引っ張り出そうとしますが、それに対し、彼女が抵抗するというシーンがあります。このように周囲の人が、良かれと思ったことでも、無理強いをすると、逆効果になることがあります


§3 勇気は日々の選択の中で学ぶもの



ニムはお父さんに、冒険小説のヒーローであるアレックス・ローバーの性格について「生まれつき勇敢なの?」と質問します。その質問に対して、お父さんは次のように語ります。
「勇気というものは…生活全体で繰り返し学んでいく何かだな。(The thing is courage is… it’s something that we have to learn and relearn our whole lives.)」
「日々のあらゆる場面で、私達が選択していくことだ。(It’s every choice we make, each and every day.)」と答えます。
(注:お父さんのセリフは、英語の字幕を直訳したため、DVDの日本語字幕とはやや異なります。)

一般に、人は、苦手なことに出合ったときに、避ける必要がないことまで過剰に避けていると、よけい苦手意識が増してしまう性質をもっています。しかし、OCDの患者さんにとっては、避けることが過剰か現実的なものかの区別が、非常に難しく思えてしまうことがあります。そのような思いがあっても、日常生活のさまざまな場面で、少しずつ本来の自分の目的に沿って、勇気を出した行動をしていくと、自信にもつながります。
たとえば、苦手なお店に入ろうか迷ったときに思い切って入ってみたり、連絡を先延ばししようか迷ったときに、すぐに連絡してみるように、勇気を出す方を選んでみます。
そんな小さな決断の積み重ねが、あなたの幸せの1ページを開いてくれるかもしれません。


*出典
映画「幸せの1ページ」原題:Nim's Island[監督]マーク・レヴィン、ジェニファー・フラケット(2008年制作)