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OCDコラム

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OCDに関連した問題に応用行動分析を用いる


応用行動分析は、心理学での行動の分析方法をさまざまな問題の解決に応用したものです。応用行動分析は、強迫症/強迫性障害(OCD)に関連した医療機関への受診の回避、家族への巻き込みなどの問題にも用いることができるため、その概要をご紹介します。ただし、応用行動分析を患者さんやご家族が一人で行うのは難しいため、このような分野にくわしい専門家を探すヒントにしていただければと思います。



目次
§1 応用行動分析とは
§2 OCDによって不登校になっている場合
§3 嫌なことは避けるほど苦手になる
§4 家族への巻き込みにも応用できる



§1 応用行動分析とは

行動分析とは、1930年代にアメリカの心理学者バラス・フレデリック・スキナーによって創始された、行動を分析する心理学の体系の一つです。また、実験を通して得られた行動の原理を、人や動物の問題行動の解決に応用したものが応用行動分析(ABA)(*1)です。
OCDの治療として行われる行動療法・認知行動療法も、行動の原理を基礎にしたもので、それを治療に用いたものです。しかし、行動療法・認知行動療法も、精神疾患以外のさまざまな問題解決に用いられるため、応用行動分析と重なる部分も多いのです。

行動分析は、行動する直前と直後とでは、状況がどう変わるかを調べます。つまり、何らかのきっかけ(先行条件:A)があって、行動(B)した後にどのような結果(C)になったのかを調べるわけです。これをABC分析、三項随伴性(さんこうずいはんせい)などと呼びます。(*2)

そして、結果によって、そのような行動が再び起こる回数が増えるか、減るかを調べます。

きっかけ:手が汚れている→行動:手を洗う→結果:汚れが落ちる

「汚れが落ちる」という結果が得られると、また同じような場面に出合ったときに、その行動が繰り返されます。このような行動が繰り返されて、行動の回数が増えていくことを強化と呼びます。

強化が、何かを得られた結果によって生じた場合、その得られたものを好子(こうし)、何かを減らせた結果によって生じた場合、その減らせたものを嫌子(けんし)と呼びます。
応用行動分析では、他人が観察できる行動から判断し、内面の思考や感情は観察できないため、この定義には含まれません。しかし、人の行動では、
何らかのよい体験、メリットをもたらすものを好子、不快な体験、デメリットをもたらすものを嫌子と考えるとわかりやすいです。

強化には、好子を得るための行動が増える正の強化と、嫌子を減らすための行動が増える負の強化とがあります。正の強化とは、ご褒美(ほうび)がもらえるので、行動が増えるような場合です。先の例は、汚れという嫌子が、手洗いの行動によって減らせたので、負の強化になります。逆に、行動の頻度が減ることを弱化と呼びます。弱化は、結果で好子が得られなくなるか、嫌子が増えた場合に起こります。

これらの原理を用いて、行動を分析することが行動分析の基本です。この考えは、行動療法でも応用行動分析でも共通しています。
応用行動分析は、OCDや発達障害に関連した問題行動の改善に役立ちます。基本となる原理はシンプルなのですが、それを個々の問題に当てはめて、改善に導くには技術と経験が必要なため、応用行動分析や行動療法・認知行動療法にくわしい(臨床)心理士(*3)を探して、相談できるといいでしょう。

§2 OCDによって不登校になっている場合

OCDのために、手洗いという行動が強化されると、強迫行為となってしまいます。強迫行為に費やされる時間が増すほど、OCDの重症度が増します。強迫行為は、頭の中での確認も含まれます。
行動分析での行動は、「死人にはできないこと」と定義されています。
また、行動の直前と直後はその人の認識なので、行動ではない思考や、物事の感じられ方も含まれます。

きっかけ:学校が汚く思える
→行動:帰宅すると体や持ち物を洗浄する強迫行為を行う
→結果:自宅の物が汚れないと思う


このような行動を繰り返すほど、汚れ(嫌子)を自宅に持ち込みたくないという思いも強まり、強迫行為が強化されていきます。そのようにして、 OCDが悪化すると、強迫行為に費やす時間やエネルギーが増して、その結果疲れ果てて、不登校になってしまうこともあります。

きっかけ:学校に行った後の強迫行為が非常に疲れる
→行動:学校を休んで自宅でマンガを読んだり、ゲームをしたりする
→結果:強迫行為をしなくて、楽に過ごせる


「学校に行かない」「自宅にいる」というのは死人でもできるので、行動とは呼べません。そのため、「マンガを読む」「ゲームをする」というように、能動的で、しかも具体的な動作を表現します。

実際のケースでは、好子や嫌子が複数あり、それがどう作用しているかを総合的に見ていく必要があります。
このケースでは、強迫行為でとても疲れるという嫌子があっても、それよりも汚れを自宅に持ち込むという嫌子の方が強力であるために、OCDが持続してしまっていると解釈します。OCDの改善には、専門家による治療が必要となります。しかし、もし学校にも行かず、治療も受けていない場合は、マンガを読む、ゲームをするという行動が、本人にメリットをもたらしているため、ここが見直すポイントとなります。

§3 嫌なことは避けるほど苦手になる

OCDの患者さんが、何らかの理由で、受診や相談を拒んでしまうことがあります。患者さんの中には、過去に相談したけれど、うまくいかなかったので、その後、受診していないという人もいます。しかし、次のような人もいます。

きっかけ:初めての場所に行くのが不安だ
→行動:予約をキャンセルする
→結果:一時的な安堵感


不安のような嫌な感情をもたらすものを避けるという回避行動は、嫌子がなくなるために負の強化によって頻度が増します。 そのため、悪い状態を想像して実行することを避けたり、予約の先延ばしを繰り返していくと、さらに苦手意識が増してしまいます。乗馬では「落馬したらすぐ馬に乗れ」と言われますが、不安や恐怖を克服するには、理にかなった方法です。しかし、過去の受診でうまくいかなかった人が、再び医療機関を探す場合、次のように専門的な診療を行っている機関の情報を見つけてから、受診することが望ましいです。


きっかけ:過去の受診でうまくいかなかった
→行動:新たに医療機関の情報を集めてから受診した
→結果:自分の状態をわかってもらえて、
以前とは別の治療法をすることになった


§4 家族への巻き込みにも応用できる

OCDのために、周囲の人が強迫行為を手伝ったり、便宜を図ってあげる行動は巻き込みとなり、OCDを悪化させる要因となります。しかし、周囲の人が、これまで巻き込まれていた行為を止めようとすると、患者さんが抵抗したり、混乱してしまうため、家族はどうしていいか困ってしまうこともあります。

きっかけ:患者さんが家族に「大丈夫か」と聞いても、いつものように回答してくれない
→行動:大きな声を出して回答を要求し続ける
→結果:家族が大丈夫だと回答する


このような行動をしてしまう患者さんも、OCDが重く、精神的な余裕がないのかもしれません。しかし、 ここで得られた結果は、患者さんにとって一時的には安堵(あんど)感をもたらすため、今後も繰り返され、強化される可能性があります。そして、巻き込みの頻度が増せば、患者さんは不安に対してさらに敏感になり、家族を巻き込みたいという衝動も増してしまう傾向があります。
できれば患者さん自身が、このような問題解決のためのカウンセリングに家族とともに参加し、行動分析を行えるといいのです。しかし、それが難しく、家族だけでカウンセリングを受ける場合では、本人ではなく家族の行動を調べ、変えられそうな部分を見つけていくようにします。


*応用行動分析についてわかりやすく書かれた書籍

[1] 杉山尚子「行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由」集英社新書 2005年
[2] 奥田健次「メリットの法則 行動分析学・実践編」集英社新書 2012年


*注釈

*1応用行動分析(ABA)―――ABA:Applied Behavior Analysisの略。実験での行動を分析する実験的行動分析に対して、現実的な問題への対処に応用したものを応用行動分析と呼ぶ。

*2 ABC分析、三項随伴性―――先行条件(Antecedent)、行動(Behavior)、結果(Consequence)のつながりを調べるためABC分析と呼ぶ。また、行動にともなって起こることを随伴と呼び、先行条件、行動、結果の3項のつながりを三項随伴性と呼ぶ。

*3(臨床)心理士―――心理学を元に、相談、援助などを行う専門職。臨床心理士などの民間資格をもつ心理士が活躍していて、そのような専門家を抱えた医療機関、心理相談センターで、応用行動分析、行動療法を行っている施設を探す方法が考えられる。今後は、公認心理師という国家資格の登録が始まる。