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セロトニンとOCD との関係


強迫症/強迫性障害(OCD)の薬物療法で用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンに働きかけます。セロトニンは、さまざまな働きをもっていますが、その働きのうちOCDに関連する話題についてご紹介し解説します。


目次
§1 血液中にあるセロトニンと神経伝達物質としてのセロトニンとの違い
§2 セロトニンはさまざまな体の働きを調整する
§3 自閉スペクトラム症とセロトニンの関係



§1 血液中にあるセロトニンと神経伝達物質としてのセロトニンとの違い

セロトニンには、脳内の隣接しあう神経と神経とが情報のやりとりをするときに使われる神経伝達物質として働くものと、身体のいろいろな部分をコントロールするホルモンとして働くものとがあります。
神経伝達物質のセロトニンに働きかけるタイプの薬剤がOCDに対して効果をもたらすことはわかっています。しかし、OCDとセロトニンの関係性などのくわしいメカニズムは、実はよくわかっていないのです。

私たちの体の中にあるセロトニンのうち神経伝達物質として使われているのは約2%です。その他のセロトニンは約90%が腸にあり、約8%が血液中にありますが、これらが直接、神経伝達物質として使われることはありません。これは脳内の血管に、脳を守るための血管脳関門というしくみがあるためです。血管脳関門は血液を通して脳へ不要な物質が入り込むことを制限します。この血液脳関門にブロックされるため血液中のセロトニンは直接、脳内の神経伝達物質にはなれないのです。したがって、セロトニンそのものを服用しても神経伝達物質として使われることはありません。神経伝達物質として働くセロトニンは、脳にあるセロトニン神経という神経細胞の中でトリプトファンから合成され、、隣の神経細胞との接続部分であるシナプスから放出されます。


そこで、1960年代には欧米で、うつ病の患者さんにセロトニンそのものではなく、その元となるトリプトファンという物質を投与することが試され、うつ症状の改善に効果がみられました。しかし、トリプトファンを投与すると身体に重い有害な作用を引き起こすことがわかり、以後行われなくなりました。
しかし、現在でも、インターネットには、うつ病やOCDに対してトリプトファンを過剰に摂取することを推奨するような間違った情報がありますので、注意してください。

欧米では1980年代に、抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) が認可され、うつ病やOCDなどの治療に使われるようになりました。SSRIは、神経細胞のシナプスから放出されたセロトニンが再び神経細胞に取り込まれることを妨害すると考えられています。[1]
SSRIという薬は、効果が現れるまでに数週間かかり、特にOCDでは1日の服薬量を最大にしないと効果が現れない人もいるため、効果の判定には3カ月程度かかることもあります。

§2 セロトニンはさまざまな体の働きを調整する

神経伝達物質としてのセロトニンの役割については、まだわかっていないことも多いのですが、体内時計と睡眠、体温調整、食欲などの摂食活動の調整、攻撃性の抑制、感情の調整など、動物としての基本的な働きを調整することに関わっていることがわかってきました。
これらの機能のうち、OCDでは、感情の調整が難しくなることで、不安、不快、あいまいさのような嫌な感情に敏感になってしまうのです。

セロトニンの睡眠や体温、摂食、攻撃性などへの影響については、マウスを使った実験で調べやすいのですが、うつ病やOCDにみられる症状をマウスに生じさせること自体が難しく、うつ病やOCDに対してセロトニンがどう作用するかというくわしいメカニズムはまだわかっていないことが多いのが実情です。

もし神経伝達物質のセロトニンが不足しているのなら、感情の調整以外にも睡眠や体温調整などの機能がすべて影響を受けるはずですが、OCDの症状として、直接、睡眠、体温、摂食、攻撃性に問題が必ずしも生じるわけではありません。つまり、OCDは、セロトニン以外の要因も関連していると考えられます。そこで、近年は脳画像を用いて脳内の神経のネットワークを調べる研究が多く報告されています。
しかし、OCDの患者さんでも、睡眠、体温、摂食、攻撃性に二次的な問題が生じることがあります。


セロトニンの役割の一つである睡眠についてですが、成人では7~8時間寝る人がもっとも抑うつとなる割合が低いという報告があります。睡眠不足が積み重なると、脳の前頭葉の機能を低下させ、恐怖に反応しやすくなるような情動反応が増すといわれています。[2]
心身の健康を保つためには、OCDの患者さんに限らず、十分な睡眠時間が必要です。睡眠不足が度重なると睡眠負債といい、借金のように溜まっていく性質があるため、十分に寝られなかった日は、昼寝、もしくは早めに就寝につく、あるいはその後の休日の起床時間を遅くするなどして、不足した睡眠を補えるといいのです。

また、セロトニンは、1日24時間の生活リズムに心身の機能を合わせる働きにも関係しています。体内のリズムは、起床した後、日光を目で感じること(太陽を直接見るのではなく、屋外の光の明るさを感じます)で、体内時計の位相(*1)の修復が行われ、その14~16時間後に眠気が訪れ、体が睡眠しやすい状態になります。また、睡眠、食事、外出などを毎日、同じ生活リズムで続けることで、うつ症状の改善につながるともいわれています。学校や職場に決まった時間に通っている人は、自分では意識していなくても、そのような生活リズムが健康維持に役立っているといえます。しかし、うつ病やOCDが重くなり自宅に引きこもるようになると、日光を浴びることもできず、そのバランスを取ることが難しくなり、悪循環になってしまいます。したがって、家族以外の人との接点をできるだけ保ち、日中に起きて行う日課をつくって守るようにするとよいでしょう。

§3 自閉スペクトラム症とセロトニンの関係

自閉スペクトラム症の人のなかには、こだわりによる反復行動や嫌な感覚を敏感に感じて回避するなど、OCDと似た症状を元々もっている人もいますし、一方で二次的にOCDやうつ病を発症する人も少なくありません。
2017年、理化学研究所では、自閉スペクトラム症は、発達期におけるセロトニンの働きが関係するという研究結果を発表しました。自閉スペクトラム症の一部の人には、15番染色体に異常がみられ、そのような染色体の異常をもつマウスも、自閉スペクトラム症と似た行動をすることがわかっています。そこで、そのマウスの脳で神経伝達物質の量を調査したところ、発達期にセロトニンの量が減少していたことがわかりました。さらに、そのマウスが成長後、セロトニン量を回復させることで、異常行動も改善したと報告されています。[3]
これまで自閉スペクトラム症とセロトニンがどのように関係するのかはわかっていなかったのですが、この研究によってその一端がみえてきました。自閉スペクトラム症のすべての人が同じ染色体異常をもつわけではありませんが、将来、この改善につながる研究になるのではないかと期待されます。


*注釈

(*1)体内時計の位相――体内時計によって、体の各部位の働きの24時間のリズム(概日リズム)がコントロールされています。そのリズムは、睡眠や食事の時間や時差などの環境の変化によって影響されます。位相というのは、リズムのような周期的な現象の一時点での状態のことで、体内時計の位相には、起きる時間や寝る時間などが含まれます。起床後の時点で、目が屋外の光をキャッチすることで、その14~16時間後に睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌され、体が睡眠に移行できるように体内の時計がリセットされるしくみがあります。このしくみが働くためには、一般に、家庭での室内照明では、光の照度が足りず、雨天でも屋外の明るさを目で感じることが必要とされます。


*参考文献
[1] 鈴木映二[著]「セロトニンと神経細胞・脳・薬物」星和書店(2000)
[2] 元村祐貴「睡眠・概日リズム機構が気分調節に及ぼす影響とその神経基盤」時間生物学 Vol.22,No.1(2016)
[3]プレスリリース:理化学研究所、日本医科大学「発達期のセロトニンが自閉症に重要-脳内セロトニンを回復させることで症状が改善-」2017年6月22日
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170622_1/