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OCDコラム

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わかりやすいOCD講座 3
加減がわからない


強迫症/強迫性障害(OCD)では、手洗いや確認において「ほどほど」という加減がわからなくなり、強迫行為を繰り返してしまうことがあります。患者さんが、強迫行為をしている最中に、周囲の人がそれをやめさせようとすると、かえって洗浄や確認がますます過剰になってしまうこともあります。今回のコラムでは、そのようなOCDの特性の1つ「加減がわからない」ということについて知り、その対処について考えていきます。


目次
§1 ほどほどがわからなくなる
§2 OCDではない人の行動を知りたい
§3 強迫行為を止めるコツはあるのか



§1 ほどほどがわからなくなる

OCDの症状が重くなると、洗浄や確認などの強迫行為がなかなかやめられなくなることがあります。強迫行為を一度行っても、どこか不十分な気がして、ミスがあるように思うと、強迫行為を繰り返したくなってしまいます。
そして、“繰り返しのパターン”にはまってしまうと、患者さんが「もう終わらせたい」と思っても、「どこで終わらせればいいのか」がわからなくなり、困ってしまうのです。
強迫行為を終わらせるタイミングとして、ルールや回数を決めて、それを目安にしている患者さんもいます。しかし、症状が重くなると、そのタイミングで終えることも難しくなり、当初のルールや回数が改変され、強迫行為の時間や回数が増えてしまうことがあります。

そのような状態に対し、周囲の人は、次のような疑問をもつことがあります。


§2 OCDではない人の行動を知りたい

OCDの患者さんのなかには、強迫行為をどこまで行えばいいのかわからなくなると、他の人はどうしているだろうと考える人がいます。そこで、インターネット検索などして調べることもあるようです。

ちなみに、入浴にかかる時間について調べると、総務省による調査(平成23年[1])では、平均値が男性27分、女性34分でした。しかし、OCDのために入浴時間が長い人が、この時間を目安にして、時短を図っても達成は難しいでしょう。

OCDではない人は入浴時間が短いというわけではなく、なかには長風呂の人もいます。入浴時間が長いからOCDということではないのです。
OCDの強迫行為であるかどうかの区別は、行為にかかる時間よりも、行為をする動機によります。つまり、入浴中に強迫行為を行っている人は、「体についた嫌なものを落としてすっきりさせたい」という動機によって体を洗います。しかし、OCDではない人でも、暑い時期やスポーツの後に「汗をかいたから、さっぱりしたい」という動機で入浴することはあるので、それだけではOCDといえません。

そこで、「帰宅したときには入浴する」という行為について考えます。もちろん、OCD以外の人でもそのような習慣の人はいるでしょう。
しかし、OCDではない人は何らかの事情によって、帰宅後の入浴ができない場合でもそれほど苦痛ではありません。一方、OCDで、帰宅後の入浴が強迫行為となっている人が、入浴できない場合には苦痛を感じるはずです。
つまり、不快なものをなくすための行為ができないときに、精神的な苦痛がどれほど強いかが、強迫行為かどうかを区別する一つの指標となります

したがって、平均的な入浴時間を知って、それに近づけていくよりも、強迫行為をしないことで生じる苦痛にどう対処していくかが、治療のポイントとなります。


§3 強迫行為を止めるコツはあるのか

強迫行為のコントロールが難しくなったときに、やめるコツを知りたいという人がいます。
お酒が好きな人のなかには、いったん飲み始めるとコントロールが難しくなってしまう人がいるように、OCDの人も、強迫行為が始まると、コントロールが難しくなって、やめるタイミングを逸してしまうことがあります。

そのような特性があるため、強迫行為が始まる前に対処できないかを考えてみます。
とはいえ、外の汚れが気になる人が、汚れを回避するために外出を避けていても、根本的な解決にはなりません。むしろ、そのような回避も強迫行為と同様に、続けていれば、よけい汚れへの苦手度が増し、症状が強化されてしまいます。

次の方法は補助的なものですが、強迫行為を妨害する手段としていくらか役に立つことがあります。
強迫行為が現れるきっかけとなる戸締りや手洗いなどの行動をする前に、自分の体に注意を向けて、深呼吸などによって緊張をほぐして落ち着かせると、いくらか強迫行為にはまりにくくなることがあります。焦っているときは強迫行為のコントロールが難しくなりやすく、自分の体に注意を向けることで、強迫観念から注意をそらすことができるのです。

強迫行為に使用する洗剤や除菌用品の買い置きを少なくしたり、強迫行為の際に使用するものの購入金額に上限を設けて、それを守るようにすると、強迫行為に必要なものの消費量を減らせることがあります。結果、強迫行為を妨害することにつながります。

とはいえ、症状の根本的な改善のためには、薬物療法や認知行動療法などの適切な治療が必要です。OCDへの標準的な認知行動療法では症状に応じて段階的に課題を設定しますが、課題ごとに強迫行為をしないでいることが当たり前になるくらいまで曝露療法を続けて、脳の中での強迫的に警戒した反応が弱まることを目指します。
そのような状態にまでなると、通常は自然に「ほどほどの感覚」が戻ってくるのです。そうすれば、誰かが行為の加減を教える必要もなくなります。



*参考資料
[1]総務省「平成 23 年社会生活基本調査 詳細行動分類による生活時間に関する結果 要約」p9 http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/pdf/houdou3.pdf