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OCDコラム

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「強迫神経症」が「強迫性障害」になったのはいつから?


OCDはかつて、「強迫神経症」と呼ばれていました。いまでも「強迫性障害」という名前や、英語名の略称である「OCD」という名前には違和感を感じる、また意味がわかりにくい、という感想をもつ人もいるようです。


●アメリカの診断マニュアルが国際的に普及

かつてOCDは、神経症の仲間のひとつとして分類とされていました。 ⇒(OCDコラム:OCDになりやすいタイプってあるの? OCDと性格の関係)それが「強迫性障害」と呼ばれるにようになった背景には、精神医学が進歩し、心の病気の分類が、より精度の高いものになったことがあります。

1980年ごろまで、精神医学には、国際的な診断基準というものはありませんでした。心の病気は、おもに原因別に分類され、日本も他の国も、その国の精神医学に独自の基準で患者を診断していたのです。

しかし、心の病気の原因は、判別がとても難しいものです。事故や病気によって脳がなんらかの損傷を受けたために起こるものは「器質性の精神疾患」といわれ、たとえば脳血管障害による認知症など、その原因ははっきりしていますが、ストレスなどの心理的な原因によって起こる「心因性の精神疾患」と、原因のよくわからない「内因性の精神疾患」との判別は困難です。症例によっては、両者がまじりあっている場合もあります。

そこで登場したのが、原因論に基づく病気の分類をやめ、症状のあらわれによって病気を分類するほうが、より合理的であるという考え方です。アメリカでは、1952年以来、精神医学会が『精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders=DSM)』を発表していましたが、1980年に発表した第3版(DSM-III)以降、この、症状のあらわれに基づいて病気を分類し診断するという考え方をとりました。ここで、それまで神経症のひとつに分類されていた強迫神経症は、強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder=OCD)という診断名に分類されたのです。

DSMを使えば、国による言葉の違い(概念の違い)を越えて精神疾患を診断することができるため、この診断マニュアルは世界的に普及し、診断標準として採用されるようになりました。現在は、1994年に発表された第4版のDSM-IV、また2000年に発表された新訂版のDSM-IV-TRが、アメリカだけでなくイギリスやドイツ、また日本でも診断の際の中心的な基準として採用されています。


●世界保健機構(WHO)の基準も日本に

このほかに、心の病気の診断の国際基準となっているものに、世界保健機構(WHO)が定めた国際疾病分類(International Classification of Diseases=ICD)があります。WHOは統計を取るために、1960年から疾病の分類をしていましたが、1992年に出された最新版の第10版(ICD-10)では、第5章の「精神および行動の障害」で、DSMとよく似た考え方で心の病気を分類しました。

日本では1993年に、当時の厚生省がICD-10を採用し、それ以来、診断基準として推奨されています。2つの国際基準は、長期的に見直しがされ、共通化が図られていますが、DSM とICDでは、OCDの位置づけが微妙に違っています。

表[1]と表[2]を見ていただけばわかるように、DSM では、「気分障害」「身体表現性傷害」「解離性障害」などと並ぶ中項目「不安障害」の中に分類されています。ICDでは「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」として大きく括ったなかに、「恐怖症性不安障害」「恐怖<パニック>障害」「重度ストレスへの適応障害」「身体表現性傷害」「解離性障害」などと並ぶ中項目のひとつとしてOCDがあります。

ここで思い出したいのは、どちらも、元は英語でつけられた診断名であるということ。「気分障害」は「Mood Disorders」、「不安障害」は「Anxiety Disorders」が原語です。これらを日本語に直訳したために、私たちにはちょっと意味のつかみにくい日本語の病名となってしまった……というわけです。

参考文献:
スチュアート・モンゴメリー、ジョセフ・ゾハー著 OCD研究会訳『強迫性障害』
町沢静夫『こころの健康事典』(朝日出版社)
『新版 精神科ポケット辞典』(弘文堂)