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OCDコラム

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石﨑優子先生インタビュー(全2回)
Vol.1子どもの成長とOCD

関西医科大学
総合医療センター
小児科診療部長 教授
石﨑 優子先生


成長期にある子どもの強迫症/強迫性障害(OCD)は、大人のOCDと同じではありません。今回お話をうかがった石﨑優子先生は、成長の過程で出てくる強迫症状は、それが困ったことであっても、将来は“宝物”に変貌することがよくあるといいます。子どもの成長の過程でOCDをどうとらえ、どのような考え方で治療をすれば、その子らしさを伸ばしてあげられるのかについてうかがいます。


目次
§1 成長の過程であらわれるOCD
§2 子どものOCD治療の特徴
§3 “困ったこと”が“宝物”になる



§1 成長の過程であらわれるOCD

●子どものOCDは大人のOCDとは違うということですが、その特徴について教えてください。


石﨑:OCDの症状は小学校中学年くらいからが出始めることが多いのですが、そもそもその年齢は、物事をきちんとするという能力が育ってくる時期です。
当事者である子どもや保護者にOCDという病気を説明するときには、「几帳面」という言葉を使うことがあります。几帳面とは物事をきちんとするということです。
つまり、OCDとは、几帳面な性格の度が過ぎて自分自身がつらくなったり、家族を巻き込んでしまうなど、日常生活に支障をきたしている状態のことをいい、「強迫」という文字の通り、きちんとすることにまつわる思いや衝動が強く迫ってくる状態だと説明します。

心理学用語には「正常(健常)な強迫」という言葉があります。それが強く出過ぎるために、OCDになってしまうのです。
几帳面という性格は、遺伝的にもっている人ともっていない人がいますが、「正常(健常)」と「度が過ぎた状態」には境目がありません。そのことを理解していただくことが、子どものOCDでは重要です。

●お子さんの年齢や性別によって症状は異なりますか。


石﨑:小学生と、思春期の中学生では少し異なります。
中学生での発症は女の子に多いのですが、この時期の女の子は全般的に不潔恐怖が増えるという特徴があるので、そのことを理解した上で診断や治療を行う必要があります。
また、思春期の女の子は、体重や食へのこだわりが強くなって摂食障害を発症することがあります。普通の子はダイエットを始めてもすぐに挫折しますが、OCDの子はやり遂げ、体重が減った後も食事制限をやめられず、「体重が増えたら悪いことが起こる」などの強迫観念がわいて食べられなくなってしまうことがあります。このように、強迫が摂食障害としてあらわれる可能性もあるのです。
一方、男の子の場合は、自閉スペクトラム症の症状の一部として、「こだわり」の延長のような感じでOCDがあらわれる場合が多いようです。その子の症状を詳しく聞き取りながら、年齢や性別も考慮した説明をします。

§2 子どものOCD治療の特徴

●子どものOCD治療は、どのように大人とは違うのでしょうか。


石﨑:子どものOCDの治療として、認知行動療法があげられますが、大人と同じ方法で行うのは困難です。
OCDの認知行動療法は、たとえば不潔恐怖がある人に対して、あえて汚いものにさわって手洗いをしないことを繰り返す方法(曝露反応妨害法)が代表的ですが、子どもの場合はむしろ気晴らしや、別のことに気持ちを向けさせる方法が有効です。気をそらす行動をすることでひととき強迫を忘れることができ、その間は強迫行動がおさまります。これも行動療法の1つです。
子どもの場合、たとえば汚いと思うものが変わっていくこともあるので、症状の対象が別のものになっても効果のある気晴らしの行動療法のほうがよいといえるでしょう。

しかし、それだけでは対応できないこともあります。強迫の度が過ぎて家族を巻き込み、本人も家族も疲弊しているときには薬物療法を行います。使用するのは、主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)というタイプのお薬です。もともとは抗うつ薬として開発されましたが、SSRIの薬のうち、OCDにも効果が認められ、子どものOCDにも保険適応が広がったものがあります。
保護者のなかには、お薬の情報をたくさん集めて、この薬を試してみたいと希望される方も時折いますが、子どものOCDに効果があると科学的に認められているのは、現在のところSSRIというタイプの薬の1つだけです。

●SSRIを使った薬物治療について、もう少し詳しく教えてください。



石﨑:お子さんの場合には、SSRIを長期間使い続けることはあまりありません。ほとんどの子で数カ月、短ければ数週間で症状が落ち着くからです。
また、環境の変化の大きい春先にだけ症状が強く出る子や、雷が多い時期になると傘を忘れていないか心配になってしまう子、運動会が近づくと症状の出る子などがいます。季節の変わり目や天気、体の疲れやストレスなどにより一時的に症状が悪化する場合は、その期間だけお薬を処方することも少なくありません。数年間、同じ季節にだけ症状が出ることもあります。症状が強く出る時期を、お薬の力を借りてやり過ごすことができると、本人も「その後は気にならなくなる」といいます。

当院の場合、治療が年単位に及ぶ子はほとんどいません。ほかの子よりも少し几帳面ではあっても、安定して普通の生活を送ることができています。
子どものOCD治療で大切なのは、几帳面な性格によってもたらされる行動をすべて抑えるのではなく、OCDの症状によって本人や保護者が困る場面をなくすことです。お薬も、日常生活に支障がなくなれば必要ないという考え方で治療をしています。

●薬物療法を受ける際、保護者はどのようなことに気をつければよいでしょうか。



SSRIというタイプの薬は、飲み始めに吐き気などの胃腸症状が出ることがあります。どんなお薬にも副作用はあるので、どのような副作用が出やすいか、もし副作用が出たらどうすればよいのか、担当医や薬剤師から十分な説明を受けましょう。自己判断でお薬をやめてしまうのは危険なので、心配な症状がある場合は必ず担当医に相談してください。

もう1つ知っておいていただきたいのは、お薬を飲んだからといって、症状が急になくなるわけではなく、徐々に改善するということです。SSRIはとくにOCDに対する効果が出る前に副作用で中断してしまう人がいますが、副作用がおさまる頃に効果が出現しますので、勝手に中断せず、担当医への相談が大切です。
保護者と子どもさん自身が、十分にお薬について理解することによってアドヒアランス(患者さんが治療方針の決定に積極的に参加し、その決定に従って治療を受けること)が向上し、それがお薬の効果を引き出すことにもつながります

●子どものOCDにカウンセリングは効果がありますか。



カウンセリングを望む保護者は多いのですが、その効果は限定的です。たとえば、運動会の前に症状が強く出る場合、カウンセリングによってストレスが発散されれば、ある程度効果は得られますが、本質的な治療にはなりません。

§3 “困ったこと”が“宝物”になる

●子どものOCDは治るのでしょうか。


石﨑:「治りますか」という質問は、保護者からも最も多く寄せられます。
子どものOCDは最初にお話ししたように、成長期にあらわれる一過性のものも多いので、物事をきちんとすることへのこだわりが強く出る時期が過ぎれば、楽になりますと保護者には説明します。
物事をきちんとする几帳面な性格は、強く出過ぎると困った行動になりますが、上手にコントロールすれば“宝物”です。几帳面な人の仕事は正確で信用されますから、OCDの子は将来、「この人になら任せられる」「この人と仕事をしたい」と思われるような社会人に成長する可能性が高いのです。

OCDのお子さんのお母さんやお父さんにもOCDの傾向がみられることがありますが、そんなお母さんやお父さんのなかには、几帳面で質の高い仕事で周囲から高く評価されている人もいらっしゃるのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、成長の過程で出てくるものに関しては、適切に方向付けをしてあげれば、将来の宝物になります。そのことを忘れずにお子さんを見守っていただきたいと思います。

次回は、「家庭や学校で気をつけたいこと」として、保護者や学校の先生のかかわり方についてお伝えします。