トップOCDコラム > 第166回
OCDコラム

OCDコラム

小平先生インタビュー(全2回)
Vol.2~子どもへの心理教育とその共有

愛育クリニック
小児精神保健科
部長 小平雅基 先生


小児の精神医学がご専門である小平 雅基 (こだいら まさき)先生へのインタビューの後編をお届けします。
前編「さまざまな子どもへの対応」では、子どもの強迫症/強迫性障害(OCD)の特徴と診療についてお聞きしました。今回は、強迫症/強迫性障害(OCD)の治療で行う心理教育の必要性、OCDのお子さんやその親たちが病気をどのようにとらえているのか、また、再発について、成長時期に応じた課題と治療との兼ね合いについて、お話を伺いました。


目次
§1 頭の中ではどんなことが思い浮かんでもいい
§2 病気への訴えと再発への対処
§3 成長に必要な課題のクリア



§1 頭の中ではどんなことが思い浮かんでもいい

お子さんがなかなか治療に参加したがらない場合には、どのようなアプローチをされますか?

小平:まず、心理教育として、「OCDとは何なのか」ということを伝えることを意識しています。心理教育のなかで心掛けていることとしては、OCDのお子さんに対して、「OCDのA君」なのではなくて、「A君の中にOCDがいる」と考えてもらうようにしていることです。
このようにOCDを外在化(*1)することによって、OCDの強迫症状が高まったときに、ご家族がそれに対して、「A君の中にいるそれを何とかしようね」という会話を親子で共有してもらえるとよいと思っています。
外在化する際に、「それ」は、何にたとえてもかまいません。「バイキンくん」とたとえたら、「バイキンくんがまた頭の中で暴れだしてきちゃったね」「バイキンくんを弱らせるようにしていこうね」と、親御さんに声掛けをしてもらうようにしています。そのような声かけに、子どもが「そうそう」と返事をするようになると、治療は進めやすくなるように感じています。

外在化することで、問題なのはその子ではなく、病気だということが明確になりますね。心理教育の次の治療は、子どもさんの場合も薬物療法と認知行動療法が中心になるのでしょうか。

小平:薬が必要な患者さんには薬物治療を行いますが、軽症の患者さんに対しては、正直以前よりもあまり薬を使わなくなりました。
やはり、先ほどお話しましたように、OCDを外在化するところが始まりだと思います。先ほどのように、親子の会話の中で自然に病気を「バイキンくん」「強迫くん」などと呼べるようになるとよいですね。認知行動療法は心理教育の後に出てくるものではなくて、一連の作業だと思っています。

話が少し逸れますが、患者さんに対してOCDを外在化させるように関わっていくべきなのか、逆に内在化(*1)させるように関わっていくべきなのか、私自身が悩んでいた時期がありました。
治療の際に、OCDによってつらい思いをしている子どもたちの話を聞いていると、子どもたちは強迫的なことを考えること自体に苦しんでいるのです。「そんな変なことを考えてしまってもいいんだよ」と、内在化させていくことが重要なのではないかと考えたのですが、認知行動療法では常に「外在化させること」が求められていたので、よく分からなくなり悩んでしまったという次第です。

結論としては、雑念的な強迫観念が思い浮かんでしまうこと自体はそのまま内在化して、「頭の中にどんな雑念があってもいい」と伝えるようにしています。一方で、ある考えに突き動かされて問題となる行動が強まっていき、止まらなくなってしまう状態は「強迫くん」という病気ですから、その病気自体は外在化して、「うまくコントロールできるようにしましょう」と概念化しています。子どもたちには、「君と『強迫くん』は別のものだから、上手にコントロールしていけるようになるといいね」と話しています。「頭の中は自由だから、どんな考えがあってもいい」ということと、「強迫くんはいなくなったほうがいい」ということが矛盾しないで、お子さんに感覚的にわかってもらえると、次の治療プログラムを進めやすくなるように感じています。

そのようなやりとりを重ねることで、子どもさんは、先生は自分のことを分かってくれたと思えるのではないでしょうか。

小平:医師とつながったと感じてくれると、治療にも積極的になってくれることが多いです。「頭の中にはどんな考えがあってもよくて、考えるのは自由」という話をすると、子どもでも妙に腑に落ちるというか、納得することがしばしばあります。それだけで随分と落ち着く子どももいるように感じます。「『あいつなんか死んじゃえ』と思ってしまった」と苦しんでいるお子さんに、「死ねとか先生も思うことがあるけれどもね」と話して共感すると「そうなんだ」と妙に納得するような感じです。「でも、考えたからといって、実際に殺すわけじゃないよね」と続けると、それにも妙に納得してくれる気がします。

ある程度でしたら誰もが強迫的な考えはもっていますが、強迫的な考えをコントロールできずに苦しくなるとOCDということなのでしょうか。

小平:コントロール出来ずに、強迫行為(繰り返し考えるといった行為も含めて)が止まらなくなってしまうとOCDということになるのだと思います。強迫的な考えを持っていてはいけないというところで縛られてしまうことで、逆にOCDが悪化していくこともありますから、どんな考えでも持っていていいと保証してあげ、OCDを外在化していくことが重要と思います。結局先に述べた、「強迫的な観念を持つこと」と「観念に突き動かされ強迫行為をしてしまうこと」は別物ということに尽きるように思います。

§2 病気への訴えと再発への対処

インターネットなどで病気やその治療について調べる方が増えてきましたが、得た情報が偏っていたり、誤解してしまったりすることはありませんか。

小平:最近思うのは、OCDのお子さんをお持ちの親御さんは、病気のことをとてもよく勉強されています。病院に来てすぐに「先生、○○を出してください」と薬の名前を言われる方もいらっしゃいます。一方で、薬による治療を躊躇している親御さんもいらっしゃいます。
親としては、極力、薬を使いたくないと考える方が安全ですし、医師のほうも心理療法から提供するほうが基本的には望ましいと考えています。

今の苦しい気持ちを早く取り去ってほしいと、患者さんから懇願されることはありますか? 

小平:「症状を早く取ってほしい」と訴えてくるOCDのお子さんは決して多くはありません。つらそうではあるけれど、そこで悶々とし続けていることが多いです。巻き込み行為で「何とかして!」とお母さんにお願いしているお子さんは少なからずいますが、だからといって治療のはじめから主治医に「何とかしてほしい」と懇願する子はまずいません。苦しんでいるのに、隠したがるというのが典型的です。
あまり成人期発症のOCDの患者さんを診る機会がないのですが、大人になってからOCDを発症した人は、症状のなかった頃の記憶があり、その頃に戻りたいと思うことが多いのではないかと思ったりします。かなり幼少時から強迫症状をもつお子さんは、物心ついたときから、そのような症状や考え方と付き合ってきているため、ご質問のような言葉は出て来にくいのではないでしょうか。

いったん症状が軽減した後に、再発の心配はありますか。

小平:再発の心配はあります。ずいぶん長い期間落ち着いていたお子さんが、急に再発してしまうこともあります。再発のきっかけは、「ゴキブリが出た」とか「地震が続いた」とかいう、ほかの人にとってはささいなことなのですが、それを機に、急に精神状態がぐらついてしまうこともあるので、再発についての心配はしています。しかし、再発したとしても、以前に症状を乗り越えた経験をしているお子さんのほうが、改善しやすいように感じています。

心理教育を受けた経験があるお子さんでは、再発したとしても悪化しにくいということはありますか。

小平:再発した場合には、また通院してもらうことになりますが、認知行動療法を受けた経験のあるお子さんは、何回か診療の中で話を聞いていると、落ち着いてくることが多いように思います。繰り返しの心理教育が治療を行っていく上で非常に重要であることがよくわかります。お子さんと病気についての考え方が共有できているかどうかが大事だと思います。
小児、思春期のOCDでは、悪化する時期と落ち着いている時期とを繰り返すタイプや、急に悪化してしまうタイプなどさまざまですが、受験や就職などといった人生の節目で強迫症状がひどくなる方は多少いると思います。

§3 成長に必要な課題のクリア

子どもさんにとって、強いストレスというと受験期ですか。

小平:子どものストレスといってもさまざまです。学校に入ってルールや規則に縛られることでストレスを感じるお子さんもいますし、先生に「字はきれいに書きなさい」と厳しく指導されたことでストレスを感じ、強迫的になってしまうお子さんもいます。
ただ、とりわけ思春期は、攻撃的な衝動や性的な衝動が高まってくる自分とどう向き合うかという課題を有しているので、そのことでストレスを感じるお子さんは少なくないと思います。また、受験や就職など、社会でセレクションされていくことで、とても緊張を強いられる時期でもあります。子どもの精神科を専門としている身からすると、思春期はとてもハラハラする時期といえます。

成人のOCDの患者さんの半数が小児期、児童期に発症していて、治療しないまま成人したという報告がありますが、やはり児童期に治療していたほうがよいのでしょうか。

小平:成人のOCDの人の約半数は、子ども、思春期ぐらいから発症しているといわれています。
たとえば、チック症状も大変な症状ではありますが、経年である程度症状が軽減していくと考えられています。しかしそれとは対照的にOCD症状は時間経過だけでは軽減しにくいものです。
そのため、OCDの症状に気づいたら、受診・治療を行い、早い時点で症状を軽減したほうが、人生において積算する苦しみは少なくてすむと思います。しかし、受診のタイミングは正直なかなか難しいものでもあるので、遅れてしまったからといって後悔すべきではないと思います。
治療を始める時期がどの年齢であっても、心理教育をきちんと受け、サポートしてくれる人とつながることができればよいと思います。

心身が発達する時期に、病気で長い間、学校に行けないということは、その子の発達に影響しますか。

「小児の精神医学では病気そのものの
治療とともに、一人ひとりのお子さ
んの成長も考えていかなくてはなり
ません」


小平:心の発達段階として、各年代の課題があります。例えば小学生は「ルールを覚え保護者に頼りながら集団生活を送ること」ですし、中学生は「保護者から少し分離(反抗)し、同年代との関係性を深めていくこと」、高校生では「自分のアイデンティティーの形成をしていくこと」といったように、本来クリアしていかなくてはいけない課題があるわけです。しかし、あまりにも早い時期からOCDを抱えていると、発達に応じたそういった課題をうまくクリアできなくなってしまうことがあります。
なので、OCDの治療をしていくにあたっては、治療とともに発達の課題をクリアしていくという大事な問題もあります。
よって例えば中学生では、学校行事に参加するとか、集団の中でグループ的な活動をするとかいったことを多少とも意識しないといけないわけです。OCDの治療だけをしていればよいということにはならないかと思います。そういった課題をクリアしていけないと、例えば中学生くらいの男の子は、ギャングチームみたいな感じで、みんなで悪乗りしてちょっとルールを破ったりすることが割りと容易に出来ますが、そのようなグループ活動を30歳を過ぎてからしようとするとなかなか大変です。女の子でも、同性同士でとりとめのないおしゃべりをするという体験が発達過程で重要になりますが、そういった体験がないままに成長して、大人になってそういった仲間を見つけるとなると一苦労です。

反抗期というのはどうなのでしょうか。

小平:反抗期は反抗だけが問題なわけではありません。それならただ自立すればいいわけです。自立したいという欲求と、それと同時にまだ甘えていたいという願望とが、入り混じっているのです。そのため保護者の方からすると、「言うこと聞くのか、自分でやるのかどっちかにして!」と思うような状況になってきます。でもそういったそのアンビバレント(両価性)に、保護者が付き合っていってあげることが大事ですし、それを経て子ども自身も自分のアンビバレントを受け止められるようになることが、思春期の課題といえます。本来は「お母さんは、好きだけれども嫌い、うっとうしい」という対立する二つの感情があっていいわけですが、OCDのお子さんの中には、お母さんのことを「嫌い」と思っただけで強い罪悪感を抱いてしまい、悩んでいるという方もいます。
友だち関係においても、仲がいい子に対しても、ときには悪口を言うことはありますよね。そういったことを通して友だち関係が修復されていくといいのですが、「誰かが悪口を言っていた」と聞いて、「もう信じられない」と思い、そのまま関係修復できないと、問題になってきます。

最後に、このコラムを読んでくださっているOCDの方、そのご家族に何かメッセージをお願いします。

小平:OCDという病気は、放っておいてもなかなかよくはなりません。しかし一方で病気に向き合って治療を頑張るととても症状が軽減されるという側面もあります。簡単によくなるとはいいませんが、病気との向き合い方によって、よい結果が生まれ結果として未来が変わってくると思います。やはり、いい情報を知り、専門家とも、よい関わりを築くということが大事だと思います。


*注釈
*1 外在化、内在化―――患者さんの内面にある人格に問題があるわけでなく、病気によって問題となる行動をさせられているというように、人格と病気を切り離し、病気を人格の外に位置付ける考え方が外在化です。内在化は、患者さんの中で自然に思い浮かんでしまう考え、感情、身体症状を肯定する考え方です。
OCDでは、強迫観念と強迫行為という2つの症状があり、頭に自動的に思い浮かんでしまう強迫観念は、浮かんでも構わないと内在化しますが、問題となるのは強迫行為(頭の中の強迫行為も含む)なので、それを変えることを治療の目標にします。