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OCDコラム

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小平先生インタビュー(全2回)
Vol.1~さまざまな子どもへの対応

愛育クリニック
小児精神保健科
部長 小平雅基 先生


今回、インタビューでお話をうかがった愛育クリニックの小平 雅基 (こだいら まさき)先生は、長年、小児の精神医学をご専門にされ、さまざまなお子さんの診療、親御さんの相談を経験されてきました。子どもの強迫症/強迫性障害(OCD)は、どのような特徴があり、どのような診療をされているのかをお聞きしました。小平先生へのインタビューは、今月と来月の2回に分けてご紹介します。


目次
§1 子どもが症状を言葉で表すには
§2 子どもの強迫症について
§3 親子の関係もさまざま



§1 子どもが症状を言葉で表すには

小平先生が小児の精神科医療をご専門にされたきっかけを教えていただけますか。


小平:大学では薬物療法を中心に教育する教室にいたのですが、教室の中には専門医師があまりいなかった小児の精神医学をやってみたいと思い、児童精神科を専門にしている病院に出ることにしました。
実際に小児の精神医学をやってみると、たいへん興味深く感じました。治療がうまく進むとかなり重症だったお子さんでもかなり変化がみられます。治療を行っていく際に遊びの要素を入れる必要があったり、そういったものを通しての子どもとの同盟関係(信頼関係)が築かれる瞬間を体験出来たり、そのうえ症状の改善がみられると、とても達成感を得られます。また、お母さんやお父さんの時代から、現在のお子さんまで、ご家族の歴史的なつながりやそれゆえの問題が見えてくることもあり、そのような点でもとても興味深いです。

病院へ来たがらないお子さんは多いのでしょうか。

小平:病院に来ても、あまり話さない子は時々います。入院治療が必要なレベルのお子さんですと、外来を受診することが難しく、親御さんだけで相談にいらっしゃることもあります。愛育クリニックには入院施設がありませんので、あまりにも重症のケースは入院施設のある病院へと繋いでおります。
OCDに限って言えば、OCDが沈黙の病(サイレント・ディジーズ)と言われるように、実は様々な不都合が起きているけれど、あまり話したがらない疾患ですので、当初はOCD症状のことを語らないお子さんは結構います。そのため、本人が症状について全く話そうとしなくても、それ以外の話をしたり、場合によってはしばらく親御さんとの相談を中心に行うケースもあります。しかしOCD症状のことを色々話しているとだんだんお子さん自身が興味を持ってきてくれる印象はあります。

家では結構症状がひどいものの、学校ではOCDの素振りをまったく出さない子もいます。また、学校でもOCDの症状が止まらなくなってしまっているお子さんもいらっしゃいます。一番多いタイプは、学校へはちゃんと通っているが、自宅などで何か不思議な行動を繰り返していて、親御さんが心配して子どもと一緒に来るという場合でしょうか。

なかなか心を開いてくれないお子さんに、先生が心掛けていることはありますか。

小平:そうですね。私が、子どものカルチャー全般(ゲーム、漫画やアニメなど)にわりと興味があるので、そのような共通の話題をしていて信頼関係が深まる場合もあります。技術的には可能な限り共感的なコミュニケーションスキルを用いるようにしています。あとは、やはり強迫症状のことをよく知っているということで興味を持ってくれるようになる場合が多いように思います。

言葉で考えをうまく伝えられないお子さんの場合、親御さんの話と本人からの話とでは違いがあることはないでしょうか。

小平:明確に強迫症状があって、知的に能力が高いようなお子さんだと、初診時はあまりしゃべらなくても、しばらく面接していくことで、いろいろ話してくれるようになる気がします。
しかし、なかなか表現能力が乏しいタイプのお子さん、例えば知的な問題があるお子さんや自閉要素が強いお子さんなどですと、なかなか内面で何が起きているかを説明できず、結果としてOCDの治療を進めにくくなったりします。そもそも、何となくイライラしていたり、ネガティブな感情があっても、まったく言語化してくれないと、それらを強迫症状と評価できるかどうかという問題にもなりますので、本人が多少とも言語表現してくれることで、OCDの診断と治療は進むという側面があるかと思います。

§2 子どもの強迫症について

小児のOCDの患者さんの割合はどのくらいでしょうか。

小平:正確な数字ではありませんが、子どもの精神疾患が専門の病院の調査では、初診患者の1,000人のうち40人ぐらい(4%から5%ぐらい)という値でした。よって外来初診では決して多くはないのですが、児童精神科病棟に入院されている患者さんの中で見るとOCDは決してまれではないと思います。非常に重症になって、強迫的な行動が止まらなくなって入院してくる子が一定数います。

OCD以外の病気を併存している場合はいかがですか。

小平:年少のうちの主な併存疾患は、チック症、トゥレット障害です。それと、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)のお子さんもいます。統合失調症の発症前にOCDがみられる方もいます。

自閉スペクトラム症のこだわりと、強迫行為とはどのように違うのでしょうか。

小平:自閉症スペクトラム症の子のこだわりは、こだわっていることが阻害されると怒るけど、こだわっていること自体に怒りなどのネガティブな感情はないんです。こだわって並べていたものを崩されたことには不快さを覚えますが、こだわっていること自体には不快さはないですね。
一方、OCDの子のこだわりは、ネガティブな感情が伴っているので、こだわっているときも、怪訝(けげん)な表情をしたり、不機嫌そうな感じを呈しています。手を洗っていても不快なので、嫌そうな表情をして手を洗っているのです。その点で、こだわりの質は違うと思っています。もちろん併存しているケースもあるので、これらの境目が難しいケースはたくさんあります。

精神症状には、成長に伴う言語の習得も関係があるのでしょうか。

小平:年齢による言語化できる能力に違いもあるので、一概には言えません。幼稚園児で自らの強迫観念をはっきりと違和感をもって表現してくれる子もいますし、中学生になってもなかなかはっきりと表現してくれない子どももいます。先ほども話したように、発達障害の併存例などでその傾向は強いかもしれません。一般的には、幼少期のほうが、チックや発達障害の併存の割合は高いと考えられていますし、成長して思春期になるに従い、自分の中に感じる違和感みたいなものを言語化できる子どもの割合は高まってきます。

年齢によってOCDの現れ方に違いはありますか。

小平:OCDの強迫観念と強迫行為の症状をカテゴリーに分類して、それぞれの症状の関連性を整理した研究が報告されています。ため込み癖に関連した強迫観念と強迫行為とは、他のカテゴリーから独立した分類にした方がよいと結論付けられています。また、対称性希求の強迫観念と整理整頓といった強迫行為が一つのカテゴリーとして分類され、宗教的、あるいは性的なこと、攻撃的なことなどを中心とする強迫観念と確認の強迫行為が1つのカテゴリーに、汚染の強迫観念と掃除洗浄の強迫行為が1つのカテゴリーに、と4つのカテゴリーに分類できることが分かってきました。
私の印象ですが、幼少時にチックの症状があり、小さい時からOCD様の症状をもつ人は、「整理整頓」などを主訴に来院することが多く、思春期の頃にOCDが発症してきたケースでは、自分の攻撃性や性衝動などについて悩んでいることが多いように思います。

子どものOCDで特徴的なものはありますか。

小平:もっとも特徴的なものは、「巻き込み行為」でしょう。ひどくなると、確認が止まらなくて、自分の思ったように周囲が反応してくれないと興奮してしまうようなレベルにまで至ってしまいます。
大人のOCDでは、巻き込み型の方のほうが、病態水準が重いと理解されてきましたが、子どもでは、巻き込み型のほうが必ずしも病態水準が重いと一概にはいえません。むしろ甘えられない、あまりしゃべらずに一人でもんもんとしている子の方が、意外と治療が難しいという印象もあります。

§3 親子の関係もさまざま

親子関係が診察や治療に関係することはありますか。

小平:親子関係自体がOCD発症の原因というわけではありませんが、治療にあたっては考慮に入れる必要はあります。
お子さんと距離を取って眺めている感じの親御さんもいれば、一方で不安になってお子さんの強迫に巻き込まれている親御さんもいます。
すごく不安気なお子さんで、お母さんも不安気で、本人がお母さんにしがみつくようなタイプは、母親から離れるのが大変だなと思います。ただ慣れてくるといろいろ心配なことを教えてくれたりもします。
一方、お子さんが甘え下手で、一人で強迫症状にもんもんとしている感じで、お母さんも堅くあまり介入的でないタイプですと、大騒ぎはしないのですが、一方で頼ってくることもあまりしないので、ちょっと時間がかかるかなと思ったりもします。

虐待や夫婦喧嘩が絶えないなど、家庭の状況が病気に影響することはありますか。

小平:虐待されている子に強迫が多いかというと、印象的には決して多くないと思います。親との関係が安定的な場合の方が感情も落ち着いている傾向にあるとは思いますが、強迫症状が悪化したことで、親子の関係が悪くなったケースもあるので、一概に親子関係と病気の悪化を関係づけるかは難しいところです。ただ時々トラウマ的な体験をしていて、トラウマ記憶に対処するために強迫的な儀式をしている子どももいます。そのようなケースもありうることを理解しておくことは大事です。

子どもがOCDなどの病気になると、育て方に問題があったのではと自分を責めてしまう親御さんはいらっしゃいますか。

小平:基本的に育て方でOCDの発症が促進されるということはないと思います。親がOCDでも子どもはOCDではないということもたくさんあります。ただ親御さんもOCDあるいはその周辺の問題を持っていて、お子さんもOCDというケースが少なからずいらっしゃいます。そのような場合に、子どものOCDの発症に親の行動が影響しているのか、遺伝子的な影響なのか、両方が関係しているのか、はたまた何ら関係ないのか、という議論は難しいところです。
しかし、親子でOCDの症状を強めあってしまっているような関係になると、治療は難しくなってしまいます。そのため、愛育クリニックでは、親御さんもお子さんと一緒に認知行動療法に参加してもらっています。
心理教育などを親子が一緒にやっていると、最初はお子さんの強迫症状ばかりが注目されていますが、強迫の心理教育を受けているうちに、「あれ、ママも、ああいうところ強迫だよね」と子どもが言い出すような場合が結構あります。

次回のOCDコラムは、小平雅基先生インタビューの2回目を掲載する予定です。治療に必要な心理教育、成長の時期による特徴と対応などのお話を伺いました。