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第163回 OCDの治療へと踏み出すには


OCDお話会世話人・ももこころの診療所カウンセラー 有園正俊

強迫症/強迫性障害(OCD)を抱えつつも、受診をためらってしまう、受診してはみたけれど治療がうまくいかずに困っているという人は少なくありません。OCDの自助グループや患者会には、そのような人たちが多く参加しています。
今回は、OCDの患者会「OCDお話会」の世話人を務める有園正俊さんに、治療へ一歩踏み出せない患者さん、治療がうまくいかないと感じている患者さんたちは、どのような事情や思いを抱えているのかをまとめていただきました。そこからどのようなことがみえてくるでしょうか。


目次
§1 受診に踏み出せないのには理由がある
§2 患者さんの問題だけとは限らない
§3 受診することにも恐怖が伴う
§4 家族への依存
§5 まとめ



§1 受診に踏み出せないのには理由がある

OCDお話会は、東京都三鷹市を主な活動拠点としているOCDの患者さんと家族のための会です。 第136回OCDコラム「診療につながらない患者さんの状況と家族の対応」 には、これまでOCDお話会に参加された方にアンケートを取り、調査した結果をグラフにして掲載しています。会に参加した方のほとんどは、過去に精神科関係の医療機関への受診経験がありました。

当会のような患者会に初めて来られる人の多くは、医療機関を受診したにもかかわらず、症状の改善がうまくいっていないという悩みをかかえています。「お話会」への参加申し込みの際には、メールに「当日、聞きたいこと」を書いていただいていますが、そこには「改善のためにきっかけをつかみたい」「他の人はどうしているのでしょうか」といった声が寄せられます。

OCDが重症になるほど、患者さんの苦痛もご家族の苦労も増していくため、患者さんは治せるものなら治したいという気持ちをもっています。しかし、それが実行に移せないということは、何らかの事情があると考えられます。そこに目を向けないで、家族が「受診してほしい」といっても、事態の進展は難しいと思われます。

§2 患者さんの問題だけとは限らない

受診に踏み出せない事情は人によって異なりますが、「過去に受診したが、症状が改善しなかった」ことが受診をためらう理由の一つになっている場合もあります。症状が改善しなかった理由についても、人によって異なりさまざまなケースが考えられます。

精神科に限らず、国の制度では、患者は地域に主治医(かかりつけ医*1)をもつように勧めています。精神科のクリニックや病院に受診し、OCDと診断されると、通常、薬物療法が始まりますが、OCDの薬物療法は、効果の実感に個人差があり、なかには効果が実感できずに治療を中断してしまう人がいます。
しかし、そこで治療をあきらめずに、他の手段を探してほしいのです。
OCDの治療経験が豊かな医師のもと、薬を調整したことで効果が得られたり、認知行動療法を行うことで、症状が改善したという話を聞きます。

精神科以外の診療科では、必要に応じて、かかりつけ医が専門的な治療を行う医療機関を紹介することがありますが、精神科では、そのような連携を行う医療機関はまだ少なく、患者さんは自力で専門的な治療を行う施設を探しているようです。

OCDお話会にこれまで参加した方のなかには、発達障害を併存している人がある程度の割合でいらっしゃいました。発達障害の診断をするためには専門的な検査が必要なため、専門医がいる医療機関を探し、そこへ転院して、ようやく診断が確定したという話を聞きました。

現状では、OCDや発達障害にくわしい専門家が周辺にいない地域もあるため、遠方まで、列車や車を利用して、家族に付き添ってもらったりして受診している人もいます。そのような場合、治療費以外にも交通費や場合によっては宿泊費など費用もかかりますが、家族にも現状を理解していただき、症状の改善につなげていただければと思います。

§3 受診することにも恐怖が伴う

OCDの患者さんが受診に抵抗する理由の一つに受診に伴う恐怖や不安があります。
OCDの患者さんはOCDにとらわれる場面以外でも、普段と違った行動をする場合や、何か新しいことを始める場合にも、恐怖や不安を強く感じてしまうことがあります。
そのため、医療機関を受診すること自体が恐怖を伴うことがありますし、治療に用いられる薬、医療機関へ行くために利用する交通機関等についても不安を感じてしまいます。細かいことのように思われる方もいるでしょうが、受診を検討している医療機関ではスリッパに履き替えないといけないのか、などに対しても恐怖や警戒感が先立ってしまうという話を聞きます。

受診に伴う恐怖を解消しようとして、治療法や医療機関についてインターネットで検索して調べたり、悪い場面を想像して対処法をあれこれ考えたりして、受診を先延ばしにしていると、よけい恐怖を増してしまうことがあります。
ある行動によって、いいことが得られる、もしくは悪いことが防げられた場合(成果)、その行動は繰り返されます。これを行動療法では、行動の強化と呼びます。
しかし、強化されるほど、そのような行動をしたくなる状況への不安も増してしまいます。



その結果、受診という新しいことをするくらいなら、今までの強迫行為をする生活を続けたほうがいいと考えてしまいがちです。

OCDお話会で、「緊張している人?」と聞くと、初参加の方はほとんど手を上げますし、何回か参加している方でも手を上げる人はいます。
しかし、不安や緊張を抱えつつも、参加という行動に踏み出すことは大事です。
OCDお話会では、緊張している人が多いときは、ゆっくり息を吐いて、肩の力を抜く呼吸法を教えることがあります。

§4 家族への依存

OCDが重度になると、学業や仕事、家事を行うことが困難になる人がいます。
そのため、衣食住などについて、家族が支えてあげる必要が生じることもあり、家族のサポートが不可欠な面もあります。その間、患者さんは、治療に努めるようにしてください。家族のサポートを受ける場合でも、一時的な期間で済めばいいのです。

しかし、治療の効果がなかなか得られず、家族のサポートが長期化すると、そのような生活に慣れてしまう人もなかにはいます。すると、医療機関の受診など新たな行動を踏み出す勇気が、ますますもてなくなることがあります。

自分の病気を受け入れ、医療機関を受診するということは、自分が抱える問題に向き合うことになります。これには勇気がいります。しかし、この勇気こそが改善への第一歩でもあるのです。
逆に、家族が生活のサポートをして、家族によって守られていると、本人は問題に向き合う必要性を感じにくくなります。ましてや、家族が強迫行為に巻き込まれているケース、本人に代わって家族がしてあげていることが多いケースでは、患者さんの回避を強化させてしまいます。すると、OCDという病気は嫌だけれど、治療に挑む恐怖のほうが上回ってしまうことになるのです。

むしろ、「自分が働かないと生活費が続かない」という切迫した事情を抱えていた人のほうが、症状を改善した人が多い印象があると、患者会のメンバーからは聞いたことがあります。

§5 まとめ

患者さんが、踏み出すことが苦手な理由は、先に紹介した 第136回コラム にも書いてありますし、恐怖や現実に向き合うための考え方には、 第147回コラム「OCDという観念と別れて現実に向き合う」 も参考になるかと思います。

OCDにくわしい治療者を探すには、インターネットのほかに、地域の自助グループや患者会に参加してみることで、情報が得られることがあります。
しかし、OCDの自助グループは、治療等に悩みをかかえている参加者が多く、症状が改善した人は、参加しなくなってしまうことが多いため、知りたい情報が得られないこともあると理解しておいてください。また、それぞれの会の状況や当日の参加者によっても得られる情報は異なってくるでしょう。

OCDお話会を10年以上開催してきて、1、2回参加したのみで、その後の経過がわからない参加者が大半ですが、経過がわかっている人では、症状が改善し、社会復帰した人が少なからずいます。
症状を改善した人は、私も含め、それぞれ自分の置かれた状況のなかで、現実的な解決策を見つけ、それに挑戦していったという点が共通していると思います。
先入観や嫌な感情にとらわれずに、現実的な方法を一つ選び、試してみることだと思います。現実的な方法が100パーセント確実ではないとしても、一歩踏み出すことが大事なのです。


注釈
*1かかりつけ医――通常の診療では、患者の生活背景を知り、適切な診療、保健指導、相談を行い、自己の専門性を超える場合には、専門の医師、医療機関を紹介、もしくは地域の医療機関と協力して解決策を提供する医師。