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OCDになりやすいタイプってあるの? OCDと性格の関係


映画『アビエイター』についてのインタビューで、主演のレオナルド・ディカプリオは、ハワード・ヒューズの実業家としての成功は、「彼の強迫的な資質のなせるものだ」と語っていました。 ⇒(OCDコラム:映画『アビエイター』で甦った伝説の大富豪ハワード・ヒューズ)
OCDの患者を主人公にした映画やドラマを見ていると、主人公はとても几帳面だったり、ものごとに大変こだわる人物のように描かれていたりします。世間一般的にも、OCDの患者には、几帳面、完全主義といった、共通の性格があるのではないかと思われている節があるかもしれません。

それでは、「OCD特有の性格」や、「もともとOCDになりやすい性格」というものはあるのでしょうか? 実は、そういう性格は「ない」というのが、現在の精神医学の共通認識なのです。それなのに、なぜそういう性格があるかのように思われているかというと、いまの中高年の方々が、昔、保健体育や心理学の授業で習った心の病気に関する理論の影響が、まだ続いているからかもしれません。


●精神分析学と強迫神経症

かつて、OCDは「強迫神経症」と呼ばれていました。神経症というのは、心理的な問題が原因となって生じる心身の病気を言います。「ノイローゼ」も、ほぼ同じ意味です。「仕事が忙しすぎてノイローゼになりそう」などと、今でもよく使われますが、OCDも一種のノイローゼの仲間として、心理的な問題が原因になって起こる病気と理解されていたわけです。

この「強迫神経症」という病名を初めて使用したのは、有名な精神病理学者のジーグムント・フロイト(1856~1939)でした。フロイトは19世紀末から20世紀の前半に、神経症などの心の病気の原因を、体系立てて理論化した人物です。生まれてから大人になるまでに人間の心理や性格が形づくられるプロセスを、性の発達と結びつけて理論化したことでも知られます。

フロイトの理論では、人間の性の発達は、母親の乳首を吸う「口唇期」(1歳頃まで)、排泄が自由にできるようになる「肛門期」(3歳頃まで)、それ以降の「男根期」と三段階で行なわれるとされます。強迫神経症は、このうち「肛門期」と関係が深いとされました。

肛門期は、幼児が、それまでおむつの中に垂れ流しだったうんちを、自分で自由に溜めたり排泄したりできる時期にあたります。ちょうど、親からトイレット・トレーニングを受ける時期でもあるわけですが、この時期に厳しすぎるしつけを受けると、親との愛情関係に対する不安が生じ、禁欲的で攻撃的、厳格、几帳面、頑固、といった性格が形成されるとされました。つまり、<強迫的な性格>と<強迫神経症>は、同じひとつの原因に起因するもの、と考えられたのです。

こうしたフロイトの理論は、精神分析学として確立され、長い間、治療にも応用されてきました。精神分析医は、カウンセリングにより、患者が無意識の領域に追いやっていた子どもの頃の出来事や、両親との関係などにさかのぼり、患者に病気をもたらすに至った原因を突き止めます。心理的な原因が明らかにされたところで、症状が改善される方向に持っていくわけですが、強迫神経症には、この治療法はあまり有効ではありませんでした。OCDが、なかなか治らない難治性の病気とされてきた理由のひとつは、こんなところにもあったようです。


●セロトニン仮説の登場

その後、1980年代に入り、脳神経科学が進歩するにつれて、脳内にはさまざまな物質が存在して働いているということがわかってきました。人間が五感で物事を認知して、適切に反応したり、「楽しい」「憂うつ」などの気分を持ったりするメカニズムも、これらの物質との関係で、少しずつ解明されてきました。心の病気も、心理的なものだけに原因があるのではなく、特定の脳内物質の働きが悪くなるなどの、生理化学的な原因があるということがわかってきたのです。

そこで、フロイトに始まった精神分析学は大幅に修正されることになりました。OCDの原因も、脳内神経伝達物質のひとつ、セロトニンの減少に関係があるとする「セロトニン仮説」 ⇒(OCDとは?:OCDの原因)が有力になり、セロトニンに特定的に作用する薬物による治療が有効であることが証明されると、肛門期に原因があるとするフロイトの強迫神経症に関する理論は、過去のものとなりました。

精神医学の世界で、OCDという病名が使われるようになったのは、1980年代以降のことです。いま中高年の方々には、きっとOCDという病名よりも、「強迫神経症」という言葉のほうが、なじみがよいことでしょう。こんなところからも、OCDには特有の性格があるという誤解が生じやすいのかもしれません。

それにしても、人間は複雑な生き物です。人間の心身に起こる現象のすべてが、化学式で解明されているわけではありません。心の病気については、生理的・物質的な要因のほかに、家庭環境や人間関係のトラブルといった心理的なストレスが影響している場合も多く、精神分析的な治療法は、病気を治さないまでも、症状を軽減するのに役立つとして、現在も取り入れている病院がたくさんあります。

OCDについては、少なくとも、生まれ持った性格のためにOCDになるわけではないし、親の教育が悪いからOCDになるわけでもない、ということは覚えておきたいものですね。


参考文献:
スチュアート・モンゴメリー、ジョセフ・ゾハー著 OCD研究会訳『強迫性障害』
松永寿人「強迫神経症から強迫性障害へ」 『こころの科学 104』2002年7月(日本評論社)
藤澤大介・白波瀬丈一郎「強迫性障害の心理的成因仮説」 『こころの科学 104』2002年7月(日本評論社)