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第158回 OCDの患者さんと家族のコミュニケーションを考える


強迫症/強迫性障害(OCD)が重度であるにも関わらず、適切な診療を受けられずにいると、本人だけではなく家族も悩ましい思いをすることがあります。しかし、本人に受診の意向がなく、家族が受診するように説得しても受け入れてもらえないことがあります。なぜそのようなことになるのかは、第136回OCDコラム「診療につながらない患者さんの状況と家族の対応」 をご覧ください。
今回のコラムはその続編として「家族間のコミュニケーション」について考えます。
なお、コラムで提示できるのは一般的な話に限られますことをご承知おきください。


目次
§1 家族との会話が難しいのは脳が関係している?
§2 受診するかどうかは本人の領域
§3 依存的ではなく自立を考える
§4 お互いの気持ちを知る提案をしてみる
§5 家族だけでは改善が難しいこともある



§1 家族との会話が難しいのは脳が関係している?

OCDは、適切な治療によって症状が改善して、学校や職場へ復帰する人も少なくない病気です。症状が改善すれば、本人は非常に楽になりますし、家族も巻き込みや摩擦が減ります。
しかし、治療が必要であるにも関わらず、患者さんが受診を拒むことがあります。家族との話し合いにも応じずに自分の部屋にひきこもることがあります。
患者さんの態度に家族は悩みを深めますが、このときの患者さんの反応も脳のはたらきと関係していると考えられます。前回のOCDコラム(⇒第157回「脳のしくみとOCD 」)で説明したように、OCDの人の脳では、大脳皮質、大脳辺縁系、大脳基底核にあるいくつかの部位が働きすぎる状態にあります。

大脳辺縁系にある部位では、感情や記憶をつかさどりますが、OCDの人の脳では嫌な感情や、自分を脅かすものへの記憶に敏感になっていると考えられます。そのため、OCDでは大脳皮質が司る理性の部分ではわかっているのに、脳の中心部の反応が強くて、コントロールが難しい状態になるのです。

脳の中心部の反応が強くなると、どちらかというと動物的な防衛反応があらわれやすくなるので、外で起こったこと、他者の行為を過剰に警戒します。そのために、OCDでは、外からくる汚れ、病気、不吉なものを怖れ、それらを自分のテリトリーに侵入させないよう、強迫行為があらわれると考えられます。

OCDの人では、動物的な脳の中心部が過剰に反応してしまっているので、家族が病気や治療について話し合おうとしても、今の自分の生活を脅かす圧力のように感じ、警戒してしまいがちです。そのため、話し合いを避けようとする、もしくは話し合ったとしても対立しがちで、建設的な会話が難しい状況にあります。病気になる前とあまりに異なる反応に驚くこともありますが、それはこのような脳の変化によると考えられます。


§2 受診するかどうかは本人の領域

思春期は自己が形成される時期です。思春期以降、親であっても子の考えを変えることは簡単なことではなく、どこまで話を踏み込んでいいのかわかりにくいことがあります。そのようなときには、相手の領域と自分の領域を区別するようにします。(⇒第86回OCDコラム「家族が出来る支援・してはいけない手助け」
また、話をするときは「家族ではなく他人だったら」と考え、適度に距離を置くようにするとよいでしょう。


受診に抵抗感がある患者さんに対しては、これまでの対立をいったん解く必要があります。先ほども説明しましたが、OCDの人の脳では、圧力を過剰に感じることがあり、警戒してしまうからです。

ただ、このように家族が伝えても、患者さんの警戒感は簡単に解けないかもしれません。家族間の会話は病気に関係のない話題にとどめ、穏やかな関係づくりを目指すとよいでしょう。ただし、成人している子どもに対しては、過干渉を避けるためにも会話を必要最低限に留めたほうがよい場合もあります。親子ともども、親離れ子離れを意識しましょう。

§3 依存的ではなく自立を考える

次に、家族の関係に依存的なものがないかを見直します。子どもが小さい頃は親が多くのことをしてあげますが、成長するにつれて、子は就学、就労、家事などの役割を果たすことが必要とされます。
夫婦の場合も依存的ではない関係を築きましょう。仕事や家事の役割分担し、どちらかの負担が過重になっていないか見直します。

しかし、OCDのような病気が重い場合では、本来の役割をこなすことが困難になるため、依存的な関係性が生じます。一時的に家族が援助する割合が増えることもありますが、その分、患者さんは、治療に努めることが役割になります(⇒第87回OCDコラム「OCDによるひきこもりと未受診」 )。
家族間においてもできるだけ役割の分担を同等にし、自立した関係を目指すべきです。


§4 お互いの気持ちを知る提案をしてみる

家族は正当な理由がなく行っている援助を見直します。
家族は病気だからと過剰に援助していることがありますが、一方で患者さんは病気の自覚がないこともあります。
これまで行っていた援助は本当に必要なことだったのかを、不明瞭なままにせず、患者さんに聞いてみることも大切です。


上記に挙げたような援助を家族がやめたら、患者さんはどのような気持ちになるかを聞いてみます。
また、このような話し合いをする場合には、一対一ではなく、定期的に家族全員で会議するという家庭もあります。話し合いの際は勝ち負けの議論にならないよう心がけてください。お互いに批判をすることは避けましょう。
なかには家族会議を開くことに抵抗がある方もいますが、お互いの考えを率直に話し合う場をもつことは、患者さんが受診に至らない場合であっても、家族が問題を避けずに向き合えたことになり、意義があります。

また、OCDというのは、脳のなかの動物的な部分が過剰に反応するため、自宅の中でもきれいな場所と汚い場所のテリトリーにこだわりがちです。しかし、それに家族が譲歩してしまうと、かえって症状が悪化してしまうので、自宅の中で、家族が自由に使える部分はできるだけ確保すべきです。

そのようなことを伝える際にも、相手を変えようとするのではなく、「自分がここに持ち物を置けないのは不便だ」というように、自分を主語にした言葉で伝えます。
また、患者さんのなかには、正当な理由がないのに「今はダメ」と言い、話し合いを先延ばしにするケースがあります。一方的な要望に対しては無条件に譲歩すべきではありません。1週間以内などと具体的な締め切りを提案して、それでも応じない場合は、家族がしてあげていた部分を見直し、役割分担のつり合いを考えます。


§5 家族だけでは改善が難しいこともある

OCD以外にも、対人関係やコミュニケーションでの問題や発達障害のために、引きこもっている人は少なくなく、そのような家庭では、家族もコミュニケーションが苦手なことがあります。しかし、長年、家族だけで問題に向き合っていると、改善を妨げるそのほかの要素や特徴に気づかないことがあります。

そのような場合、できれば精神や心理、ひきこもりの問題の専門家に関わってもらえるとよいのですが、実際には、そのような専門家を探すのは容易なことではありません。
専門家が探し出せない場合でも、家族だけでは対応が難しいと感じたら、親戚や地域の相談・支援のサービス機関の人など、信頼できそうな人に関わってもらう方法が考えられます。