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第157回 脳のしくみとOCD


研究によって、強迫症/強迫性障害(OCD)という病気が脳のどの部分と関連しているかが、次第にわかってきました。OCDの人の脳では、複数の部位が働き過ぎています。今回のコラムでは、なぜそのようなしくみになるのか、OCDに影響を与える神経伝達物質セロトニンは脳内でどのような作用をするのかについて、わかりやすくまとめました。


目次
§1 OCDでは脳の一部が過剰に働いている
§2 セロトニンと脳の部位
§3 OCDは脳による間違った指令



§1 OCDでは脳の一部が過剰に働いている

OCDを発症すると、実際には汚れていないものやきちんとできていることでも、問題が残っていて、このままでは大変なことが起こってしまうと不安になります。このようなとき、患者さんの脳の中はどのような状態になっているのでしょうか。

OCDによって起こる脳の変化は、一般的な画像検査で用いられるCTやMRIで見つけられるものではありません。しかし、研究用の特殊な画像解析機器ならば、脳内の代謝(エネルギー消費)の度合いや細部の体積の増減などを調べることができます。
そのような研究の積み重ねによって、OCDの患者さんの脳では、いくつかの部位が共通して、通常と異なった状態になっていることがわかってきました。

PET(ポジトロン断層法)やSPECT(単一光子放射断層撮影)を使った脳の画像研究から、OCDの発症には、大脳の前頭葉皮質から基底核、視床への回路の機能異常が関係している可能性が示唆されています。

症状があるときには、脳の特定の部位の糖の代謝が異常に高まったり、血流量が増えたりすることから、OCDでは、神経回路の機能に異常がみられるととらえる報告もあります。脳の機能については現在、詳細な仕組みの解明が進んでいます。

OCDでは、脳のこれらの部位が連動して、状況を察知して嫌な感情が生じるために、悪い予測をしてしまいます。悪い予測を避けようとする強迫行為によって、体を動かす指令を出していると考えられます。アメリカの精神医学者で、OCD治療に造詣が深いジェフリー・M・シュウォーツ博士は、OCDの人の脳は、線条体での切り替えができなくなり、意思に応じた運動・操作が円滑に運ばなくなると考えました。前頭眼窩面や線条体などの部位がそれぞれロックされた状態になるために、強迫症状が続くと考え、これをブレインロックと呼びました。ロックされている間、脳は間違った指令を送り続けてしまいます。[1]

また、別の研究からはこれらの部位のほかにもOCDによって脳に異常がみられる部位が報告されていますが、結果はすべて同一というわけではなく、研究によって異なる部分があります。それは、OCDでは不潔恐怖や不完全恐怖のように病気の現れ方が、患者さんによってさまざまであるため、脳が過剰に働く部位も、同一とはならないと考えられています。[2]

§2 セロトニンと脳の部位

OCDは、脳の中のセロトニンという神経伝達物質と関連があることがわかっています。


そこから脳内のセロトニンに働きかけるタイプの抗うつ薬SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が、ある程度の割合の人に効果があることがわかっています。しかし、なかには抗うつ薬に反応しない人もいます。そこからOCDの発症は、どうやら単純に脳の中のセロトニンが足りないことだけが原因というものではないと考えられています。

神経伝達物質であるセロトニンは、脳の中のセロトニン神経でつくられます。セロトニン神経の細胞体は、脳の中心部の縫線核(ほうせんかく)という部位に集まっています。その細胞体から、脳内のいろいろな部位に神経線維という細い糸のような配線を張り巡らせています。そのため、セロトニン神経は、先ほど説明したOCDで過剰に働く部位にも作用します。[3]

抗うつ薬を服用することで脳のシナプスに残るセロトニンが増えると、OCDによって過剰に働いている部位にブレーキがかかります。ブレーキといっても、通常は完全に止めるほどではなくいくらか衝動が和らぐ程度です。シュウォーツ博士は、OCDの治療では行動療法と併用して用いる抗うつ薬は、ブレインロックをゆるめる「浮き輪」としての作用があると述べています。[1]

ただし、OCDに関連する神経伝達物質はセロトニンだけではありません。グルタミン酸という神経伝達物質がOCDと関連していることがわかっています。現在、グルタミン酸に作用する薬剤の研究が行われています。

§3 OCDは脳による間違った指令

第155回OCDコラム(わかりやすいOCD講座2)で解説しているように、脳をパソコンにたとえると、OCDはプログラムを改ざんする悪質なウィルスとなります。
つまり、パソコンのウィルスのように、OCDは脳の中で、実際とは異なった嫌な考えを引き起こし、強迫行為をするまではそれが治まらないような仕掛けをつくってしまいます。そのため、OCDにとらわれると、上記の脳の特定の部分ばかりが、過剰に働いてしまうのです。


OCDが脳に間違った指令を下していることを理解して、上記のようにOCDに抵抗していけるといいのです。
OCDによって誤作動をもたらされた脳は一部であり、多くの部分は正常であるため、それらの部位によって、これまでの経験から「強迫症状が過剰で不適切である」ということがわかっています。その点を尊重して、十分に自信がもてなくても、行動に移してください。

適切な治療によってOCDの症状は改善することは脳画像の研究からも確かめられています。


*参考
[1]ジェフリー・M. シュウォーツ[著]吉田利子[訳]「新装版 不安でたまらない人たちへ やっかいで病的な癖を治す」草思社(2017年、原著は1996年)
[2] 阿部能成「強迫症の脳内メカニズム─最近の画像所見を中心に─」精神科治療学Vol.32,No.3(2017年)
[3] ダンJ. ステイン[著] 田島治、荒井まゆみ[訳]「不安とうつの脳と心のメカニズム」星和書店(2007年)