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第155回 わかりやすいOCD講座2 強迫観念の特性と対処法を知ろう


強迫症/強迫性障害(OCD)では、強迫観念という嫌な考えに襲われます。前回のコラムで、OCDの人を悩ます「嫌な感情」について解説しましたが、その原因となるのが強迫観念です。強迫観念は、OCDではない人からすれば何も問題がないことを、OCDの人にはあたかも警戒が必要であるかのように思わせてしまう性質があります。強迫観念の特性を知って、惑わされないための対処法をお伝えします。


目次
§1 なんでもないことを問題があると思わせるOCD
§2 どこからが過剰なのか、その範囲がわかりにくい
§3 プログラムを改ざんする悪質なウィルスのようなOCD



§1 なんでもないことを問題があると思わせるOCD

火の元や電気器具のスイッチが消えているか、過剰に確認してしまう人は次のような強迫症状にとらわれています。
【例1】


【例1】からは、火事への恐怖という強迫観念だけではなく、点火スイッチを閉めたという行動の記憶が不確かなために、確認を繰り返したくなっていることがわかります。
強迫観念と強迫行為にとらわれていると緊張状態が続き、点火スイッチを見ているのに、「見えた」という認識があやふやになってしまうことがあります。たとえば、同じ漢字を何度も何度も書いているうちに、見え方がおかしくなって、「本当にこれで正しいのか」と戸惑うことがありますが、それと似ています。したがって、自分の判断に自信がもてず、何度も確認したくなってしまうのです。
万が一、コンロの火が付いたままであれば、すぐにわかります。火が消えているにもかかわらず、その「確信」がもてないのは強迫観念のせいです。


不潔強迫の人の場合も、緊張のあまり、汚いと思う場所を触ったわけではないのに、触ったような気がしてしまうことや、点のような極小のゴミや服についたわずかなシミに対しても、何度も見ているうちに、非常に重大なことのように思えてきてしまうことがあります。


OCDは、問題のないことまで大問題であるかのように思わせる特性があり、それに対して過剰に反応すると、強迫観念のウソにますます騙されてしまいます。

§2 どこからが過剰なのか、その範囲がわかりにくい

不潔強迫の人にみられる強迫観念の例を紹介します。
【例2】

強迫行為が終わるまでは、強迫観念が頭をよぎり続けます。
しかし、お父さんが触れた照明のスイッチやリモコンは、本当に汚いですか。肉眼で汚れがついていれば、誰しもが汚いと思いますが、 OCDの人は、肉眼で確認できなくても、「汚い」と思ってしまいます。そこが、病気による過剰な部分です。

お父さんにしてみれば、ちょっと道路にペンを落としても、泥や水がついたわけでもなければ、その後も使うことに抵抗はなかったのでしょう。
私たちの生活している環境では、空気中に目には見えない細かい物質が漂っています。つまり、あらゆるものの表面には何らかの物質がついているわけで、通常の生活環境で無菌ということはあり得ません。それに対して、不潔強迫の患者さんの多くは、改めて意識することのない空気などはOCDの対象とはなりにくく、「道路にペンを落とした」という記憶や想像によって、特定の対象を汚いと思ってしまう傾向があります。
【例2】の患者さんは、道路にペンを落としたことを知らなければ、そのペンもペンを使っているお父さんも汚いとは思わなかったといっています。【例2】の場合も、実際には問題がないのに、強迫観念が「あれは汚い」と思わせてくるわけです。

ここまで強迫観念の特性について説明してきましたが、患者さんにとっては、実感が得られにくいかもしれません。OCDになる前は、ドアノブやリモコンに平気で触っていたはずですが、「問題を感じていなかった当時の記憶」を思い出してもらっても、やはり現在の感じ方、考え方を変えることは難しいようです。OCDではない人が、石けんを使わずに手を洗う様子を見せても、不潔強迫の人は、それでは洗った気がしないといいます。


このようなOCDの特性から、認知行動療法では考え方に働きかける技法よりも、行動から変えていく曝露反応妨害が中心に行われます。


§3 プログラムを改ざんする悪質なウィルスのようなOCD

OCDは、パソコンに侵入した悪質なコンピューターウィルスに似ています。頭の中に入り込んで、本人が望んでいない考え(強迫観念)をもたらします。それは正しいプログラムが改ざんされて誤作動を起こしている状態です。
ただし、コンピューターが悪質なウィルスに感染して故障したのとは異なり、OCDでは発症したきっかけが定かではない、もしくは症状と性格との区別が難しい場合があります。


OCDがもたらす感情は、不安や嫌悪など好ましくないもので多いため、それを打ち消したくて強迫行為を行うことになります。この強迫行為は、OCDが重度であるほど「しないではいられない」という感覚が強いのですが、それでも勝手に思い浮かんでくる強迫観念とは異なり、自分の意思によって「行為」をしている部分もあります。
つまり、パソコンのメールに添付された不確かなファイルを開けるかどうか、選択することができるように、強迫行為を行うかどうかは自分の意思で変えられる部分があるのです。OCDを改善するには、強迫観念に逆らって「強迫行動をしない」という意思と、変えられそうな行動を見つけていくことが求められます。

OCDが重度であるほど、変えられることの範囲は限定されるので、その部分をいかに見つけられるかが大切です。
たとえば、入浴時間に90分かかる人が60分に短縮することは、実現可能なように思われますが、実は達成が難しいのです。したがって、OCDの認知行動療法では、手を洗わないという反応妨害とともに、あえて自分から汚いものへ触れるという曝露療法とを組み合わせて行います。

曝露療法では、患者さんに触れてもらう汚いもののレベルを、症状に合わせて調整していきます。たとえば、【例2】の不潔強迫の人の場合では、触れることに躊躇する「ドアノブ、照明のスイッチ、リモコン」のなかから、触れることができそうなものを見つけ、十分に時間をかけ何回も触れることを課題とします。

「リモコンが汚いと思うのはOCDのせいだ。だから、手を洗う必要はない」と、納得できなくても、リモコンに触れるという行動を続けていきます。
曝露反応妨害を行っていくと、時間とともに不安が減るというよりは、不安の勢いが徐々に鈍くなる感じがします。そのような反応が十分に得られるまで、汚いと思うものに触り続けるようにします。

強迫観念は、実際には警戒の必要がないことまで警戒させる性質があります。
強迫観念をとり去るために強迫行為をすることが習慣になると、そこから抜け出すことが困難になります。これは前回のコラム「嫌な感情のしくみを知ろう」でも述べましたが、OCDは、嫌な感情を消し去ろうと必死になるほど脳に居座るという特性があるからです。OCDは、意地悪な天邪鬼(あまのじゃく)のようなものです。

OCDは天邪鬼でウソつきです。そして、強迫観念が生み出す不安を執拗に強いてきます。そう簡単にはウソとは思えない部分があっても、強迫観念だと感じたら、断固としてOCDのささやきに耳を傾けないようにしてください。怪しい商品のセールスを断るときに断固とした態度で応じなければいけないのと同じです。
OCDに支配されずに、自分という主体性を保つことが何よりも求められるのです。


100%強迫観念だとは思えなくても、不安や恐怖から強迫行為をしないようにすることが大切です。できそうな段階からでよいですから、強迫行為を行わないことを実行してみましょう。