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第154回 わかりやすいOCD講座 1 嫌な感情のしくみを知ろう


強迫症/強迫性障害(OCD)の患者さんは、嫌な感情に悩まされています。嫌な感情には、不安や恐怖だけではなく、不確かでもやもやした感じや嫌悪感、怒りなどさまざまなものがあります。そのような嫌な感情がどうして消えないのか、嫌な感情にどのように向き合えばよいのか、嫌な感情の特性を説明するとともに、OCDの治療とどのような関係があるのかをわかりやすく解説します。


目次
§1 OCDによって悩まされる嫌な感情
§2 嫌な感情はなぜ続くのか
§3 感情の特性を踏まえた治療



§1 OCDによって悩まされる嫌な感情

頭の中(意識)に思い浮かぶものを、次のように区別します。
「考え」は、思い浮かぶ言葉や文、それらを使って、想像や記憶、判断などをすることです。
「映像・イメージ」は、頭の中で見えるもの、過去に見た記憶を指します。
「感情」は、喜び、悲哀、怒り、不安、憂うつ、驚きのように、そのときどきの気持ちをいい、「うれしい」「悲しい」など、主に短い単語で表されます。感情は言葉や映像・イメージのような形はなく、水面に立つさざ波のように心の中に起こる動きです。

これら3つは、お互いに関係しあっています。日本語では「考え」も「感情」も、言葉では「思う」と表現することが多く、あまり区別されていませんが、精神医学や心理学の分野では区別します。
これをOCDに当てはめてみましょう。駅で汚いものを見た場面を想定して考えてみます。

このように繰り返し思い浮かぶ「考え」や「映像・イメージ」が強迫観念です。そして、強迫観念は「嫌な感情」をもたらします。

OCDによって喚起される「嫌な感情」には、不安や嫌悪以外にも次のようなものがあります。


その他の場面での感情―――恐怖、罪悪感、悔しい、驚き、もやもや、落ち着かない……。


悪口を言われたり失恋したりと、ショックな出来事に出遭うと、誰しも嫌な感情が芽生えますし、その動揺が大きいと何日間も嫌な感情を抱えることがあります。しかし、通常は次第に落ち着いて日常生活を取り戻していきます。
一方で、OCDのような精神疾患では、重症度が増すほど、このような嫌な感情が強くなり、自分ではコントロールが難しくなり、悩まされる時間も長くなってしまいます。


§2 嫌な感情はなぜ続くのか
このような嫌な感情は、いますぐにでもなくしたいと思うことでしょう。ですが、嫌な感情を無理に打ち消そうとしても、容易に消えるものではありません。

試験に合格したとかあこがれの人に会えてうれしいという良い感情は、その感情がもたらされた瞬間が最高で、その後は徐々に薄れていきます。悲しい感情の場合も、涙はいつか止まります。
「嫌な感情」であっても、その感情をもたらした出来事を「しかたがないこと」とわりきり、受け入れることができれば、徐々に薄れていくのです。しかし、受け入れることができず、その出来事を思い出しては、「許せない」「こんなことは最低だ」「何とか元通りにならないだろうか」などと思っていると、「嫌な感情」はぶり返します。
つまり、出来事へのこだわりをもっている間は、感情は放置されないため、「嫌な感情」が続いてしまうのです。

そして、OCDでは、こだわりへの考え方だけ変えようとしても、強迫行為が続いている間は、変えることが難しいものです。OCDで不潔恐怖のある方では、重度になるほど、汚れを警戒して、洗浄する時間も長く、頻繁になります。すると、嫌な感情もそれだけ生じやすくなります。手洗いのような強迫行為をすることで、一時的に嫌な感情が治まっても、OCDを引き起こす汚れへの警戒がなくなるわけではなく、こだわったままなのです。
また、強迫観念は、あたかも本当に被害が起こってしまうかのような錯覚をもたらすため、受け流すのが難しく、したがって、強迫観念と強迫行為の症状が続けば、当然、嫌な感情が繰り返されてしまうわけです。

§3 感情の特性を踏まえた治療
直接、感情を意識して変えることはできませんが、考え方や行動を変えることで、感情を間接的に変えることはできます。とはいえ、OCDでは、それが難しいことが多いので、治療が必要となります。そのため、OCDでは、むしろ感情を自分でコントロールすることはあきらめたほうがよいのです。だからといって、感情のままに強迫行為をしていいわけでもありません。

OCDの治療では、コントロールが困難な感情の特性を利用しています。

【薬物療法】
OCDの治療で使われるSSRIというタイプの薬は、抗うつ薬ですので、抑うつ、不安などの感情に作用します。SSRIを服用して、効果が現れたという患者さんからは、「強迫行為をしたいという衝動がいくらか和らいだ」という声を聞くことがあります。薬によって、強迫観念の考えを直接、変えられるわけではありませんが、薬の効果が少しでも得られたタイミングで、今までの強迫観念と強迫行為の悪循環を変えていけるとよいのです。

【認知行動療法】
OCDの治療では、嫌な感情を打ち消すために行う強迫行為をできるだけ省く反応妨害が用いられます。
強迫行為をしないでただ我慢して、嫌な感情を放置し続けるのは難しいため、曝露療法という自分から率先して嫌な感情を抱える技法とを組み合わせます。これを曝露反応妨害(ERP)といいます。嫌な感情を頻繁に、しかも長い時間、抱えていくことで、最初に覚えた感情の勢いが減り、感じられ方が鈍くなってきます。

ERPの詳しい解説は、第92回OCDコラム「強迫性障害(OCD)の行動療法に取り組みたいあなたへ~2つの学習とその解除」 を参考にしてください。

OCDは、嫌な感情を消し去ろうと必死になるほど脳に居座るという特性をもっています。それは、意地悪な天邪鬼(あまのじゃく)のようです。


OCDは天邪鬼ですから、ERPを行って、患者さんが嫌な感情を自ら抱えるようになると、かえって居座ることがつまらなくなり、去っていくのです。汚れや不用心なことは気にならない、問題なし! という人には、OCDは寄り付きにくいのです。

このようなOCDの特性を知ることは、治療をしていくうえで大切です。どうぞ、意地悪なOCDに惑わされないようにしてください。

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次回のコラムでは、わかりやすいOCD講座 2として、「強迫観念の特性と対処」をお届けします。OCDの天邪鬼な特性がもたらす強迫観念について、わかりやすく解説する予定です。