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第153回 OCDへのアウトリーチとインターネット通信を利用した支援


有園正俊(OCDサポート、認定行動療法士)


OCD(強迫症/強迫性障害)では、症状が重くなると、公共交通機関の利用が困難である人が少なくなく、外出そのものができないということがあります。そのような状況でも治療を続けるためには、入院もしくは訪問による診療が考えられるのですが、このような診療を行っている医療機関は非常に限られています。
OCDの患者・家族に対して、自宅に訪問し、もしくはインターネット通信を利用して、カウンセリングや認知行動療法を行ってきたご経験のある有園正俊さんに、その特徴を教えていただきました。


目次
§1 OCDへのアウトリーチ
§2 介入の難しさと家族・周囲との関係調整
§3 インターネット通信を利用した遠隔診療



§1 OCDへのアウトリーチ
アウトリーチとは、「医療、保健、福祉の専門家が、地域の患者宅を訪問し、診療、支援を行うこと」をいいます。往診、訪問診療、訪問看護、精神障害へのホームヘルプもアウトリーチとなります。現状では、OCDや不安症に対して、精神科医療や心理の専門家がアウトリーチをしているところは、ごく少数です。

私が代表を務める「OCDサポート」(東京都武蔵野市)は、医療機関ではありませんが、OCDの方の相談・支援を行っています。
「OCDサポート」の利用者は、すでに医療機関での受診経験がある人がほとんどです。医療機関にかかっている人が「OCDサポート」を利用する場合は、担当医の許可を得ることを条件としています。そして、薬物療法は、原則としてその医療機関で継続してもらいます。

訪問によるOCDへの相談や認知行動療法は、2008年から行っています。アウトリーチは、患者さんが「OCDサポート」の相談室に通うことが無理な場合に限定しています。ただし、ここ数年、訪問時間の確保が難しく、実際にアウトリーチを行うことは稀になっています。したがって、外出する前に強迫行為に何時間もかかってしまう人であっても、予約の時間に何とか間に合うならば、通っていただきます。家族の援助があれば通える人も同様です。OCDサポートにおけるアウトリーチの対象となるのは次のようなケースです。

上記のようなケースでは、家族による援助が多大になります。家族は、患者さんが困って苦しそうにしていると、やむをえず手助けをしてしまいがちですが、患者さんが強迫行為を行う時間や範囲が広がるため、かえって悪化してしまうことがあります。
家族は、再三、通院を勧めているでしょうし、家族に強迫行為を強要しないよう訴えていると思われます。しかし、家族間では、建設的な話し合いが難しいことがあり、そのようなケースでは、専門家の支援が必要となります。

しかし、地域によっては、OCDにくわしい専門家がいないため、通常の訪問看護や精神障害向けのホームヘルプを利用する人もいます。そのような場合、心理教育(参照:当サイト>OCDの心理教育)として、家族と支援する人の全員が、OCDに巻き込まれたり、過剰に援助をしてしまうと、かえってOCDの悪化につながることを知ることが必要です。

また、一人暮らしで自活している人のほうが、OCDによって外出が苦痛なことはあっても、長期間、家から出られなくなるほどには悪化しにくい傾向にあります。

§2 介入の難しさと家族・周囲との関係調整

私が自宅に訪問をした患者さんのなかには、治療につなげていくことが難しいケースも少なからずありました。
患者さんは、今のつらい状態を何とかしてほしいという願望はあるものの、家族以外の人が自宅に入ることを警戒します。初めて自宅を訪れる人ならばなおさらです。以前、帰宅後、着ていた服を脱いで入浴するようにと、家族に強いる患者さんの自宅を訪問したことがあります。私にまで入浴を求めるわけにはいかないのですが、やはり家の中に上げることもできないため、玄関先での対面となりました。

また、本人に治療意欲はなく、家族に頼まれたからと、嫌々応じているというケースもありました。

一般に、OCDの患者さんは、新しいことを行う際に、不安が強くなりがちです。新しい精神療法や支援を受けて改善を目指すよりも、それまでと同じように強迫行為をして、家族の援助に頼り続けることを選んでしまう人もいます。つまり、訪問をする際には、OCDの症状だけではなく、家族への依存度を調べ、その対処を考えていかなくては進まないケースが目につきました。

OCDの治療は、患者さん自身が現実や病気に向き合っていくことが基本です(参照:第147回 OCDという観念と別れて現実に向き合う )。そのためには、楽ではないこともありますが、それを避けていては改善できません。家族への依存性が高い患者さんですと、つらい思いをしてまで、病気と向き合うことを避ける傾向があるため、家族との関係から改善していく必要があります。

家族への依存を修復する場合には、家族と関わる場所、時間、お金といった物理的なもののうち、部分的に改善できそうなところから提案していくことがあります。たとえば、成人の患者さんの世話をするために、パート仕事を辞めていた母親に対しては、仕事を再開してもらい、お小遣いや強迫行為に使う物を、正当な理由もなく与えないようにと提案しました。
そして、依存的な家族関係があるご家庭に対しては、コミュニティ強化と家族訓練(CRAFT)(参照:第136回診療につながらない患者さんの状況と家族の対応 )を用いて、家族間のコミュニケーションや関わりを変えていくことがあります。

どのような方法でも、家族に対しても継続的に面談を受けるよう求めることはよくあります。なぜ病気でもない自分が変わらなくてはならないのかと、不審に思うこともあるでしょうが、対人関係のカウンセリングでは、患者さんと関わる人の関係を調べて、変われそうな部分を見つけ、介入していくことが基本となるためです。

また、医療機関に通うことができないほど症状が重い患者さんでは、OCDの背景に発達障害や何らかの併存疾患の診断歴があったり、そのような疾患が疑われた人の割合が、多いと思われます。そのような患者さんに対しては、発達障害や併存疾患がこれまでの苦難の原因であるかもしれないこと、改善を困難にさせる一因であるかもしれないと説明することがあります。
ただし、発達障害の正確な診断のためには、専門的な検査ができる医療機関を受診することが必要となります。アウトリーチでできることは、アセスメントの範囲です。

§3 インターネット通信を利用した遠隔診療

2015年8月に厚生労働省は、離島やへき地以外でも遠隔診療(*1)という情報通信機器を利用した診療を認める通知を発表しました。そのため、精神科も含めインターネットのような通信機器を利用した診療が、まだ実験的な段階ですが試みられています。

「OCDサポート」では、遠い地域や海外に住んでいて、地元で認知行動療法を受けることが困難な人向けに、2009年からスカイプ(*2)というインターネットの動画通信を利用して認知行動療法を行っています。時間の確保が難しくアウトリーチができない分、スカイプで対応する患者さんの割合が増えました。

電話など音声だけでOCDの認知行動療法を行うのは難しいのですが、スカイプは動画で患者さんの表情や動作が見えるため、かなりきめ細やかな対応が可能です。たとえば、外出するときの戸締りの確認が過剰な患者さんの場合、医療機関や相談室で認知行動療法をしても、そこでは強迫観念が生じないので、課題はホームワークとして自宅で行ってもらうことになります。したがって、治療者の目は届きません。
しかし、スカイプならば、患者さんは自宅にいますから、「過剰な確認をせずに外出してください」と、リアルタイムで課題を出すことができます。強迫観念が生じた状態で課題を行ってもらい、その後パソコンの前に戻ってきた患者さんに感想を聞くのです。医療機関で行うよりも治療者と患者さんが同じ時間を共有することが可能です。このように、通信機器を上手に利用することで、治療にメリットをもたらすことがあります。将来的には、さらに有効な手段になると期待されます。

OCDは認知行動療法を行うにせよ医師の診療が欠かせません。また、アウトリーチも遠隔診療も今後期待される分野ではありますが、現状では普及していません。望んだからといって、いますぐ誰でもが受けられるわけではありませんが、「症状が重いから」「近隣にOCDにくわしい専門家がいないから」と、改善への希望をなくさないでほしいと思います。

将来は、このようなサービスが、精神科医、心理士、訪問看護師とともにチームで行われるようになることを望んでいます。

なお、インターネットには、訪問や通信機器を利用したカウンセリングのサービスを謳った広告もみられますが、有資格者以外のカウンセリングであることが少なくなく、精神医学や心理学に基づいたものか区別が難しい場合もあるので、ご注意ください。


*注釈
*1遠隔診療―――通信技術を用いた健康増進、医療、介護の助けとなる行為です。医師法(昭和23年)によって、医師は、自ら診察しないで治療をしたり、診断書や処方せんを交付してはならないとされています。しかし、その後の通信手段の発達によって、2015年8月、厚生労働省は、遠隔診療について、現代医学として一定の診療水準を得られるのであれば、この法律に抵触しないという判断を通知し、実施できる範囲が拡大しました。
*2スカイプ―――インターネットを利用した通信手段。無料でビデオ通話や音声通話ができるサービス。