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清水栄司先生インタビュー(全2回) Vol.1

不安の認知行動療法の推進


千葉大学大学院医学研究院では、強迫症(OCD)や不安症、うつ病への認知行動療法に早くから取り組み、認知行動療法を行うことができる専門家の育成を行っています。千葉大学大学院医学研究院教授でいらっしゃる清水栄司先生は、千葉大学医学部附属病院の認知行動療法センター長の精神科医として、子どものこころの発達教育研究センター長として、不安症、うつ病への認知行動療法の研究および普及で中心的なお仕事をされています。清水先生に、不安症や子どもの心の問題への認知行動療法について、お話をうかがいました。


目次
§1 強迫症、不安症、うつ病への認知行動療法
§2 子どもの不安と認知行動療法



§1 不安症、うつ病への認知行動療法


千葉大学大学院医学研究院 認知行動生理学教授
千葉大学子どものこころの発達教育研究センター長
清水栄司先生 


●清水先生が不安障害(不安症や強迫症)に関心をもち、ご専門にされたのはどのような経緯だったのでしょうか?

2000年に、アメリカ留学から帰ってきたのですが、千葉大学の精神科では、伊豫雅臣(いよ・まさおみ)先生が教授として着任されたときで、認知行動療法を精神療法の中心としてやっていこうという機運がありました。
文献的に最も認知行動療法の効果が期待できるのが、パニック症(*1)だったため、私がパニック症の患者さんに対して、集団での認知行動療法を行うことになりました。

●パニック症での認知行動療法は、いかがでしたか?

すごく効果的でしたね。これはどんどん推進していくべきだろうと思いました。
それまで電車に乗れなかった人が乗れるようになって旅行まで楽しめるようになったり、会社に再び通うことができて社会復帰を果たしたりと、非常に喜んでいただきました。

次にOCDの患者さんに対して行うようになりました。パニック症の患者さんは、症状がほぼ同じパターンであることが多いため、集団で効果的でしたが、OCDは、洗浄、確認など、さまざまなサブタイプ(*2)があり、症状にバラエティーがあるため、集団では難しいところもありましたが、効果はありました。

そして、OCDの次は、社交不安症(*3)の個人認知行動療法に取り組みました。

私自身が小学生の頃から学生時代にかけて、大勢の人の前で話をしたり発表するときに、強く不安を感じるほうでした。自分自身が不安に対する感受性が高いこともあって、不安症について研究しようと思ったのだと思います。

●認知行動療法を始められた当時は、外来でどのように行っていたのですか?

最初のパニック症は、集団認知行動療法で始めました。外来で患者さん5、6人に集まっていただき、週1回行っていました。

次にOCDでも、当初、集団療法を行いましたが、先ほどもお話ししたとおり、OCDは症状の内容が患者さんによってさまざまなため、個人療法でやったほうがいいと考え、そこからOCD以外の精神疾患も含め、個人療法による認知行動療法を重視するようになりました。

集団での認知行動療法は、うつ病のリワークプログラム(*4)などでとり入れられるようになり、普及も進んでいくように思えました。一方、日本では、個人認知行動療法の普及は難しいのではないかと考え、だからこそ個人療法に力を注いでいこうと思いました。

●実際に行う立場としては、個人療法と集団療法とでは、どのような点が異なりますか?

個人療法では、本人の得意なところと苦手なところを十分理解し、その人の症状に合わせたオーダーメイドの治療ができるという強みがあります。
集団療法は、「みんなでやれば怖くない」のように、集団で取り組むことで参加者の治療のモチベーションを上げていくよさはありますが、認知行動療法の目標が、集団の最大公約数的なところになってしまいます。そのため、個人療法では可能な個々の症状に治療目標を合わせるオーダーメイドの治療が難しくなります。

●うつ病の認知行動療法もやっていらっしゃるんですよね。

はい、やっています。集団療法に比べ、個人認知行動療法では、どのような症状の患者さんに対しても対応できますから、うつ病の人や慢性疼痛の人も受けられるようになりました。
摂食障害を専門にしている先生も、われわれのチームに入っていただきましたので、当院における認知行動療法の対応疾患も広がってきています。

●千葉大学医学部附属病院の認知行動療法センターの外来では、どのように認知行動療法を行っているのですか?

今は、集団療法はやっておらず、個人療法で提供しています。

また、千葉大学病院認知行動療法センターでは、薬物療法をせずに、認知行動療法だけを提供しています。代わりに、薬物療法などは、かかりつけ医*5)のところで受けていただいています。認知行動療法は、16から20セッションですので、半年もしくは1年くらいで終結します。認知行動療法が終わった後も長くかかりつけ医の先生にフォローしていただきたいという趣旨からです。

§2 子どもの不安と認知行動療法

●千葉大学では「子どものこころの発達教育研究センター」を設立されましたが、子どもの精神疾患と認知行動療法について教えてください。

OCDも社交不安症も、小学校高学年、中学校くらいの思春期から問題を生じていたものの、5年、10年、15年と診療を受けることなく時が過ぎてしまい、実際にセラピー等を受けるのは20歳を過ぎてから、なかには30歳を過ぎてからという人も少なくありません。
子どものこころの発達教育研究センターとしては、OCDや社交不安症を発症した方へ、なるべく早いうちに、認知行動療法を提供することを目指しています。
その一環として、子どものこころの発達教育研究センターでは、小学校の授業の中で「不安症予防のための認知行動療法」のワークショップの実践をお願いしています。


●それはどのようなものですか?

「勇者の旅 ワークブック」

浦尾悠子特任助教が制作した「勇者の旅」という、小学校の高学年を対象にしたプログラムを使って行います。ロールプレイングゲームふうに展開するワークブックを用いて、認知行動療法の課題をステージごとに一つひとつ克服していきます。ステージ10のお城というゴールに向かって、お子さんが、楽しみながら不安を克服する方法を体験できる内容です。

人前での発表が苦手、犬がとても怖い、一人で寝るのが怖いなど、お子さんによって、いろいろな不安を感じていると思いますが、このプログラムでは、不安という感情のとらえ方、リラックス法*6)、段階的曝露療法*7)などのスキルが学べます。実際に「勇者の旅」を続けていくことで、「不安を感じていたものに段階的に慣れていける」ということに気づいてもらいます。そして、最終的には「不安に対して、こうすれば克服できるんだ」という実感を得て、自信を持つことができるのです。

私も子どもの頃、不安が強いほうでしたが、1クラスに3人くらいは不安のスコアが基準より高いお子さんがいます。クラス全体で、このプログラムを受けると、1クラスに1人くらいに減らすことができるようになります。ゼロにはなりませんが、その1人のお子さんは、担任の先生が注意して見守っていただければいいわけです。
今後は、小学校で取り組んだ後に、できれば中学校、高校、大学、社会人と発達段階に応じて、認知行動療法を継続して学んでもらえるといいですね。
このような取り組みについて、子どものこころの発達教育研究センターでは、「心の健康づくり」と呼んでいますが、病気になる前に基本的な不安に対する対処法を勉強してもらうことで予防につなげたいと思っています。

●この取り組みはどのくらい行っているのですか?

今年で5年目だと思います。最初は、当センターのスタッフが研究として、放課後教室のようなかたちで行い、実際にお子さんの不安が下がるという効果を確認しました。
その後、賛同してくださる小学校の校長先生がいらっしゃったので、その学校で行うことになりました。
今は、小学校の先生向けに、1日の研修会を行い、スタッフが相談に乗りながら、学校の先生が行っても同じ効果が得られるかたちを目指しています。多くの小学校で取り入れていただけるように、広めていきたいと思っています。

●研修会などに参加されるのは養護教諭の先生が中心ですか?

心の健康づくりに取り組ん
でいる清水先生

そうですね。やはり関心をもってくださるのは養護教諭の先生が多いです。保健室登校をしているお子さんは、不安の問題を抱えていることが多いので、私たちが行う「心の健康づくり」などに関心をもってくださいます。養護教諭の先生に限らず、クラス担任をしている先生が参加してくれることもあります。










●実際に行って、評判はいかがですか?

親御さんからは「子どもが毎朝、学校へ行くときに暗い顔していたけれど、元気な顔で行くようになった」とか、学校行事が不安なお子さんは「運動会を乗り切れた。次は遠足を乗り切る」という声をいただきます。いろいろ寄せられた感想を見る感じでは、評判はよいと思います。

※※※
次回のOCDコラムは、清水栄司先生インタビューの2回目を掲載する予定です。
OCDや不安症への認知行動療法が、健康保険の診療報酬として認められるようになりましたが、その意義や不登校や外来への受診が困難な患者さんの問題についてのお話をうかがいました。


【関連ホームページ】
■千葉認知行動療法
http://chibacbt.net/
■千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/rccmd/

*注釈
*1パニック症――動悸や発汗、窒息感、死ぬのではないかという強い不安などを伴うパニック発作を起こす精神疾患です。パニック障害とも呼ばれ、不安症/不安障害に分類されます。詳しくは、次のコラムをお読みください。
第69回OCDコラム「パニック障害、それと誤解されやすい病気」
*2サブタイプ――OCDの汚染/洗浄、被害/確認、縁起、位置・厳密性、ため込みというような強迫観念や強迫行為の内容のタイプによる分類。
*3社交不安症――人前に出る場面では、緊張して、不安が強く、生活にも支障をきたす精神疾患。社交(社会)不安障害、対人恐怖などとも呼ばれ、不安症/不安障害に分類されます。詳しくは、次のコラムをお読みください。
第68回OCDコラム「OCDと社交不安障害(SAD)」
*4リワークプログラム――うつ病などで長期間、休職していたり、再発と休職とを繰り返している人が、復職と再発予防のために行うプログラム。施設によってプログラムの内容は異なりますが、認知行動療法、コミュニケーション訓練、軽スポーツ、PC作業などが行われ、医師と職場の担当者、患者とが相談し、勤務先の状況や制度に合わせ復職がスムーズに進むよう支援が行われます。リワークでの認知行動療法は、集団での認知再構成、ストレスマネージメントなどの技法を行っている施設がありますが、OCDの治療で一般に行われる認知行動療法とは異なった内容です。
*5かかりつけ医――地域のクリニック、診療所などで、患者さんが診療を受けている医師。一般に、大学病院や専門病院は、高度で専門的な治療を必要とする患者さんを、かかりつけ医の紹介によって診療する役割を担っています。ただし、OCDや不安症での認知行動療法について、地域のクリニック、診療所と専門医療機関とが連携しているケースは少なく、千葉大学医学部附属病院での取り組みは先進的です。
*6リラックス法――認知行動療法で使われる技法。筋肉に力を入れて、その後、力をだらりと抜く筋弛緩法、息を吐くときにゆっくり細く長く吐き出す呼吸法が子どもの心の発達教育研究センターがまとめたプログラム「勇者の旅」で紹介されています。
*7段階的曝露療法――曝露療法(エクスポージャー)は、認知行動療法の技法の一つで、不安、不快などの嫌な感情をもたらすものを避けずに、十分な時間と頻度をかけて向き合うようにしていくもの。段階的曝露は、症状に合わせて、不安や不快の低い刺激のものから段階的に曝露療法を行っていきます。詳しくは、当サイト>OCDの治療>OCDの認知行動療法 をお読みください。