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OCDコラム

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海外の映画やドラマに登場するOCDの主人公たち
『恋愛小説家』『名探偵モンク』


前回のOCDコラム ⇒(OCDコラム:映画『アビエイター』で甦った伝説の大富豪ハワード・ヒューズ)でご紹介した映画『アビエイター』は、OCDという病気が病気として認められる前の時代にOCDと闘った実在の人物が主人公でした。むしろこの映画は、主人公がOCDであるということを知らないと、ストーリーの意味がつかみにくいかもしれません。

『アビエイター』に限らず、なぜか近年のアメリカでは、OCD患者を主人公とした作品が目立ちます。


●OCDの小説家が主人公の映画、『恋愛小説家』

1997年に公開された映画『恋愛小説家』は、ベストセラーを映画化した作品で、主演のジャック・ニコルソンとヘレン・ハントが、ともにアカデミー主演男優賞・主演女優賞を受賞し、世界的にヒットしました。

公開当時、主演のジャック・ニコルソンの実年齢は60歳。いわば中年男女の恋愛物語と言ってよいストーリーですが、悲劇的ともいえるストーリー展開の『アビエイター』に比べると、こちらはとても後味のよい、心あたたまる作品に仕上がっています。

【物語】
ニューヨーク・マンハッタンの高級アパートで暮らす売れっ子の恋愛小説家メルビンは、人間嫌いの偏屈者。気ままな一人暮らしで、朝食にはいつも近所の決まったカフェに行きます。ところがあまりの偏屈ぶりに、相手をしてくれるウエイトレスは、しっかり者のシングルマザー、キャロルだけ。

実はメルビンはOCDで、不潔を恐れ、カフェにも毎朝プラスチックのナイフとフォークを持参します。座る席はいつも決まった席だけ。その席がふさがっていると、座っているお客に難癖をつけ、店長に注意を受ける始末。また、線を踏んではいけないという強迫観念があるため、カフェへの行き帰りにも、コンクリートブロックの境界線やひびをいちいちまたいで歩きます。お店や他人の家のドアノブ、タクシーのドアなどには直接手を触れることができず、自分のアパートに帰れば、必ず「1、2、3、4、5」と確認をしながらカギを締めます。

こんなふうに、物事すべてに強いこだわりと強迫観念をもつメルビン。メルビンの強迫症状は、清潔、確認、順番、境界線へのこだわりと多様です。そんなある日、なじみのキャロルが店を休んだことから、彼の日常生活が変化をしはじめます。どんな変化だったかは、DVD、ビデオを見て確かめてみてください。ここでは、OCDであるメルビンの、「決まりきったことをしないと強いストレスを感じてしまう」という傾向が、人間関係を変える大きなポイントになっています。

最終的に、メルビンは、お気に入りのウエイトレス、キャロルを愛しはじめていることに気づくのですが、その気持ちをキャロルに告白するときの台詞を紹介しましょう。

「僕は病気なんだ。医者には、この病気は薬を飲めば50%か60%の確率で治ると言われている。ところが僕は薬が大嫌いでね。でも、君にあんなふうに言われたときから、僕は薬を飲み始めたんだよ」

愛する女性の心をつかもうと奮起したOCDの中年男、メルビンはどうなるでしょうか。ラストシーンで、二人は明け方、一緒にパン屋に朝食用のパンを買いに行きます。キャロルと手をつないで歩くメルビンは、線だらけのレンガブロックの歩道を、無意識のうちに、自然に歩いていたのでした。

DVD、ビデオ発売元:ソニー・ピクチャーズ


●元殺人課の刑事がOCDに。ちょっとコミカルな推理ドラマ『名探偵モンク』

メールマガジン読者の方にはすでに昨年ご紹介しましたが、NHK BS2の海外ドラマで、OCDの元刑事が主人公の連続ドラマ『名探偵モンク』が放映されています。昨年放映された第1シリーズに続き、現在、毎週火曜夜10時から放映されているのは『名探偵モンク2』です。

主人公エイドリアン・モンクは、元サンフランシスコ市警殺人課の刑事。妻が殺害され、事件が迷宮入りしたショックから、OCDを発症してしまいます。細菌や暗闇、高い所を恐怖するようになり、仕事を休職したものの、刑事としての才能と勘はますます研ぎ澄まされ、現役の仲間と連携プレイで事件の解決に当たります。

細菌汚染への恐れから、電話をするときはハンカチで受話器をつかみ、初対面の人に手を差し出されても、握手もできないモンク。高所恐怖のため、飛行機に乗るにも大決心がいります。

そんなモンクをサポートするのは、モンク専任の看護師、シャローナです。しっかり者のお姉さんタイプという設定は、どこか『恋愛小説家』を思わせますが、『モンク』はぐっとくだけたコミカルな推理ドラマ。他人には理解しがたい強迫観念に襲われたときに見せるモンクの困った表情が、キャラクターの魅力にもなっています。


●OCDという病気が広く知られているからドラマが成り立つ?

人気の連続ドラマに、ある病気の主人公が登場することによって、その病気が広く世間に認知されるという現象は、日本でもよくありますね。逆に言えば、まだその病気がまだ広く知られていないので、ドラマの題材になりやすいという一面もあります。

日本では、まだまだOCDという病名自体、広く知られてはいません。そのため、適切な治療を始めるまでに回り道をしてしまう患者さんもいるのが現状です。しかし実は、OCDは「50人に1人がかかる」とも言われるほどありふれた病気なのです⇒(OCDコラム:OCDの患者さんは世界に1億人いる)。軽度のOCDなど予備軍も含めると、「20人に1人」という説もあります。

アメリカの厚生労働省にあたるNIH(国立衛生研究所)の一部門、NIMH(国立精神衛生研究所)のホームページでは、「約330万人の成人アメリカ人がOCDに悩まされている」と書いてあります。一方、日本では厚労省による平成14年度の調査で、精神疾患総患者数が250万人。うち「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」と区分された患者が50万人。OCD患者はこの中に含まれているものと考えられます。

もしかしたら、こうしたドラマのなかで強迫症状が誇張されて表現されるのを、好ましく思わない患者さんやご家族の方もいるかもしれません。また、誰もが映画のようにスムーズに症状が治まるわけでもないでしょう。それに、メルビンもモンクも、社会生活を普通に送っているのですから、OCDのなかでも軽度の例といえるでしょう。

しかし、家から外出することができないほどの強迫症状がある人でも、適切な治療によって、病気とつきあいながら日常生活を支障なく送ることができる程度まで回復する例は多数あります。メルビンやモンクの姿を、そうした前向きなOCD患者のモデルととらえてみてはどうでしょうか。

OCDが誰にでもかかる可能性のある病気だとすれば、OCDの小説家や刑事だって、いてもいいはずです。OCDはありふれた病気である、そして治療の方法がある、ということを広く知ってもらうには、こうした映画やドラマが一役買ってくれるのかもしれません。


アメリカNIMHホームページ
http://www.nimh.nih.gov/HealthInformation/ocdmenu.cfm

厚労省ホームページ(精神障害者の現況について)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/s0921-11j.html