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第149回 動作がゆっくりな強迫性緩慢


強迫性緩慢(かんまん)とは、強迫症/強迫性障害(OCD)の症状の現れ方の一つで、他人からは、動作が止まっている時間が長かったり、非常にゆっくり見えます。そのとき、本人の頭の中では、強迫的な考えにとらわれていて、それが済まないと実際の行動が進まない状態にあります。 強迫性緩慢はあまり知られていない症状であるため、本人も、自分の症状に戸惑うことがあります。また、家族にも理解してもらいにくく、専門家でも他の精神疾患との判別が難しいなどの問題があります。今回のコラムでは、あまり知られていない強迫性緩慢について紹介します。


目次
§1 強迫性緩慢とは
§2 理解してもらうことが難しい
§3 外見が似ていて誤解されやすい病気
§4 治療のポイント


§1 強迫性緩慢とは

強迫性緩慢は、英語ではObsessional Slownessと呼ばれています。これは強迫観念によって行動がゆっくりになってしまうという意味です。
周囲の人からは次のような状態に映ります。
・長い時間立ち尽くしている、動作が止まっている
・少し動いては、しばらく止まるなど、進行が非常にゆっくりしている


しかし、このとき患者さんの頭の中では常に強迫観念がよぎっており、考えによる強迫行為をしています。緩慢という言葉からは、のんびりした印象を受けますが、精神的には悪いことを食い止めようと必死で、「早くしないといけない」というプレッシャーを抱え、忙しくもがいているのです。

不潔恐怖や確認強迫など強迫性緩慢以外のタイプのOCDでも重症度が増すほど、強迫行為に時間がかかりますし、一時的に動作が止まってしまうことも経験します。しかし、この場合は強迫性緩慢とは呼ばれません。強迫性緩慢の定義は明確にはなっていないのですが、OCDにとらわれているときの主な症状として、動作がゆっくりと見える状態になっているものです。強迫性緩慢の状態が大半で、いくらか目に見える強迫行為を行っている場合も含まれます。

強迫性緩慢は、1974年に、OCD研究で有名な心理学者のスタンレー・ラックマン博士[1]によって報告され、その後、多くの症例や研究が発表されました。そして、強迫性緩慢による強迫観念と強迫行為の詳しい内容がわかってくると、当初の想定よりも多様であることがわかってきました。いくつかご紹介します。


強迫性緩慢は、OCDとしては少数派で、患者さんは男性がほとんどです。イギリスのモーズレイ病院での調査(1991年)では、過去665名のOCD患者のうち、強迫性緩慢の症状がみられる人は22名(3.3%)であったという報告があります。

§2 理解してもらうことが難しい

強迫性緩慢は、頭の中の思考と感情が主な症状であるため、病気への理解を得るためには、専門家や家族など理解してほしい人に、患者さんがいかに伝えるかによります。治療の場面でも、患者さんが医師にどのように伝えるかは非常に大切なことです。
しかし、頭の中の強迫観念と強迫行為にとらわれているときはそのことに夢中なので、気が付きにくいのですが、いざ他人にそれらを説明しようとすると、漠然としていたり、一貫性がなかったり、現実離れしていたりと、どう表現したらよいのか戸惑うことがあります。たとえば、どのようなタイミングで動作に移ることができるのかといったルールを、患者さん自身が言葉ではっきり決めておらず、その時々の感覚で判断していることがあります。

一方、家族は、何をするにも時間がかかって日常生活に支障をきたしている状態を、何とかしてほしいと思いますが、そのときに本人がどのような気持ちでいるのかまでは聞けないことがあります。そのため、行動が緩慢な理由がわからず、非常にじれったい思いをします。

強迫性緩慢は、OCDだけでなく精神疾患全体を考えると、患者さんの割合が非常に少ないため、精神科医でも、そのような症例に出会ったことがない人もいます。患者さんによっては、過去の受診で医師から誤解された経験がある人もおり、専門家に自分の症状を正しく説明できるかを不安に思うことがあります。しかし、あまり不安に思わずに、治療の際には、動作がなかなか進まないでいるときに、自分の頭の中ではどのような考えがよぎっていて、どのような感情なのかを、なるべく具体的に話せるとよいでしょう。

§3 外見が似ていて誤解されやすい病気

強迫性緩慢と状態が似ていて、判別が難しい病気がいくつかあります。

精神疾患で動作がゆっくりなもの
緊張病(カタトニア)は、単に緊張しすぎる病気という意味ではありません。
発達障害、統合失調症、双極性障害、うつ病などを抱えた人にみられる症状です。
精神や運動の活動が極端に低下し、動きや会話がごくわずかになります。同じ姿勢のまま止まってしまう、周囲から話しかけられても反応しないなど、周囲とのつながりもほとんどなくなってしまいます。

また、緊張病以外でも、統合失調症やうつ病になると、自宅でじっとしている時間が長くなり、外見上、動作や表情が乏しくなることがあります。また、洗面や着替え、外出の準備などの日常の動作に取りかかるのがゆっくりで、するかどうかの決断に時間がかかる人がいますが、このような状態も、強迫性緩慢とは別のものとなります。

運動障害によるもの
筋肉や脳神経の障害によって、手足の運動機能がスムーズではない場合、外見上は強迫性緩慢と似たような状態に見えることがあります。
先天的な発達性の運動障害では、スムーズな動作が困難であることが多く、(若年性)パーキンソン症状(*1)では、手足の動く範囲が限られたり、少し動いては止まるといった動作を繰り返し、行動を終えるまでがゆっくりになってしまうことがあります。

強迫性緩慢は、OCDですので強迫観念、強迫行為という症状を抱えています。その点が、緊張病や運動障害による疾患とは異なります。そのため、外見でわかる動作だけではなく、そのときに、頭の中でどのような考えにとらわれているのかを聞く必要があります。また、強迫性緩慢は先天的な障害ではありませんから、人生のある時期から発症します。

§4 治療のポイント

強迫性緩慢の治療の基本は、ほかのOCDと同様に薬物療法と認知行動療法です。
ただし、強迫性緩慢といっても、強迫観念、強迫行為の内容はさまざまであるため、治療法は同一ではなく、個別の症状に応じたものになります。
強迫性緩慢では、OCDの認知行動療法でよく用いられる曝露反応妨害(ERP)で効果がみられる場合と、残念ながらそうではない場合があります。曝露反応妨害だけでは効果がみられない場合に、認知行動療法の技法のうち、次のものを組み合わせて治療に用いたという報告があります。[1,2]


これらは、適切な行動ができるように学習していくための方法です。患者さんの症状をくわしく調べて、それに合った技法を行えるとよいのです。
薬物療法のみでは症状の改善が難しい場合は、認知行動療法にくわしい専門家に相談するとよいでしょう。


*注釈:
*1(若年性)パーキンソン症状―――パーキンソン病は、脳神経の異常によって、体が硬直して、手足の動きが小刻みになったり、スムーズに動かすことが困難になります。50歳代以上で発症することが多いのですが、40歳までに発症する若年性もあります。動作がゆっくりで、表情も乏しいため、外見からは緩慢と似た状態に見えることがあります。


文献:
[1] Rachman S. Primary obsessional slowness. Behav Res Ther;12(1):9-18.1974.
[2] David V. Classification and treatment of obsessional slowness. The British Journal of Psychiatry162 (2) 198-203.1993.