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第147回 OCDという観念と別れて現実に向き合う


OCDは、強迫観念という現実とはかけ離れた思い込みによって振り回される病気です。そのため、対処の基本は、どこかの段階で現実と向き合っていくことになります。
また、OCDになると、汚れや被害のようなことに対して敏感になります。そして、これらOCDの症状を直接もたらすこと以外にも、予想外の出来事に出遭うのではないかという不安や新たなことに踏み出す不安などが強まり、実際に行動することを躊躇したくなります。そのため、外出や医療機関への受診を敬遠する人がいます。しかし、このように新しいことや嫌なことを回避していると、悪循環に陥ることがあるのです。OCDや自分をとりまく状況や受診や治療、家族との関係といった現実に向き合うことが必要であり、それが改善へつながります。今回は、観念と別れて現実に向き合うためのポイントをご紹介します。


目次
§1 観念は現実と異なる~OCDの特性
§2 逃げるか戦うか~恐怖への反応
§3 独力での症状改善には限界がある
§4 治療でも行動や体験が大切


§1 観念は現実と異なる~OCDの特性



「観念的」という言葉を国語辞典で調べると「具体的な物事について観察することをしないで、自分の頭の中だけでそうだと決め込む様子」となっていました。つまり、思い込みです。OCDの症状である強迫観念も、現実とはずれがあります。





つまり、不安や嫌悪を感じる範囲や度合いが、OCDの人は必要以上に広がってしまっているのです。OCDは現実とかけ離れた強迫観念に振り回されてしまう病気です。だからこそ現実を踏まえる必要があるのです。


ただ、OCDの人にとっては、現実に向き合おうにも、どこまでが普通でどこからが過剰なのか、その境界がぼやけてわかりにくいものです。発症前はそのような境界など意識したことはなかったと思いますし、病歴が長くなるほど、発症前の感覚が薄れていくため、ますます境界がわかりにくくなります。そこで、安心を得るために「どこまでなら大丈夫か」と身近な人に聞くことがありますが、それを頻繁に行うと強迫行為への巻き込みになり、症状の悪化につながりかねません。

OCDの人が強迫行為のために時間がかかっていることを、ほかの人はあっさり済ませているのは事実です。その事実に気づいたからといって、ほかの人と同じようにあっさり済ませられるようになるわけではありませんが、それでも、事実、現実を受け入れることは大切です。

§2 逃げるか戦うか~恐怖への反応

OCDの重症度が増すと、自分の意思でコントロールすることが難しくなり、日常生活に支障をきたし、人間関係にも悪影響が及ぶことがあります。しかし、それはOCDという病気がもたらしているのであって、人格とは切り離して考えるようにします。これを病気の外在化と呼びます。
人格と症状を混同して、「○○さんが悪い」というように、人の良し悪しを裁かないようにしていただきたいのです。また、「OCDが悪化したのは親のせいだ」というように家族間でもめるケースでも、どちらがいい悪いというよりも、できれば家族以外の人や専門家を交えて、建設的な話し合いになれば理想的です。



アメリカの生理学者のウォルター・B・キャノン博士は、情動と中枢神経の関係を研究しました。キャノン博士の報告によると、動物は恐怖に出遭うと「逃げるか戦うか(fight-or-flight)」の反応が生じるそうです。この反応はOCDの人にも当てはまります。恐怖から逃げて強迫行為を行い続けるか、強迫症状に向き合って改善のために努力するかのいずれかなのです。

一般に、OCDの患者さんは不安や嫌な感情に敏感になる傾向があります。そのため、新しいことに踏み出すのが苦手で、今まで通りの日常を続けることに意識が傾きやすいのです。そのため、急な予定変更を嫌がる人がいます。ただし、このような傾向はOCDだけが原因というわけではありません。元々、発達障害を抱えているために、変化への対応が極端に苦手という人もいます。

しかし、OCDの悪循環から抜け出すためには、嫌な感情による避けたいという気持ちよりも、OCDという病気に向き合うことを優先することが必要です。

§3 独力での症状改善には限界がある

OCDの患者さんのなかには、医療機関を受診することや薬物療法に不安を感じている人がいます。そのため、病院に通わず自分一人で改善できないかと、一般向けの認知行動療法の本などを頼りに症状の改善を試みることがあります。

行動療法の権威であるエドナ・B・フォア博士の共著『強迫性障害を自宅で治そう!』[1]には、自分で治すためのプログラムが紹介されています。しかし、本にはそのプログラムを選ぶかどうかの判断は重症度によるとも書かれています。

そして、「強迫観念や強迫行為に1日に2時間以上かかっている」「それ以下の時間でも深刻な症状に苦しんでいたり、恐れる出来事が現実化してしまう信念が強い人」、このような重症度の人に対しては、OCDにくわしい専門家に支援を仰ぐことを勧めています。

原著(英語版)は1991年に出版されたもので、アメリカでは、その後も一般向けのOCDの認知行動療法に関する本は何冊も出版されていますが、現実には、独力での病気の克服は難しく、症状が重い人ほど専門家の支援が必要となるそうです。アメリカには、OCDの専門療法で有名な医療機関がいくつかありますが、各地からそのような施設を訪れる人が今でも後を絶ちません。なかにはOCDが重度であっても独力で症状を改善できたという人もいるでしょうが、それはごく一部です。

OCDのために働けず、生活の援助を家族から受けている方も、その現実を受け止めてください。治療に努めることが患者としての役割と気づくのではないでしょうか。働けないことを悩むだけではなく、いまできる最善策を考え、事実に向き合ってください。

§4 治療でも行動や体験が大切

OCDは、現実とかけ離れた観念に支配される病気であるため、OCDへの認知行動療法では、考え方よりも、実際の行動や体験を通して症状に働きかける曝露反応妨害(ERP)という技法が中心となります。その際には、どこかからが過剰でどこまでが安全なのか不明瞭なまま、嫌な感情を打ち消さずに向き合っていきます。そして、時間を十分にかけて、繰り返し行動していくことで、徐々に嫌な感情が変化していくことを体験するのです。

このようなアプローチは、薬物療法の場合でも当てはまります。薬剤による効果がいくらか感じられて、強迫行為をしたいという衝動が少し和らいだときに、強迫行為を少し省いてみたり、今まで避けてきたことを行うといった体験ができるといいのです。


OCDの薬物療法で効果が得られるまでには、早い人で2、3週間、通常はもう少し期間がかかるものですが、患者さんのなかには、早急に成果を求める人もいて、十分な期間を待たずに、「効果がない」と決めつけたり、かえって不安感や焦燥感が募らせて効果を妨げてしまう人もいるのです。そのような場合では、結果をあせらずに、じっくり体験していくことが必要なこともあります。

いずれの治療も、くわしい方法は患者さん個々の様態によって異なるため、一概にアドバイスできるものではありません。しかし、症状が改善した患者さんたちは、どこかの段階で嫌なことを避けずに、現実に向き合ってきた経験をもっていると考えられます。


文献:
[1]エドナ・B・フォア、リード・ウィルソン[著]片山奈緒美[訳]「強迫性障害を自宅で治そう!」(原題Stop Obsessing!)VOICE、2002年