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第146回 個人情報への過剰な心配とOCD


パソコン(PC)が普及したこともあり、個人情報の漏えいなどが、社会的な問題として報道されることが増えました。そのため、個人情報の取り扱いに対する意識が高まり、以前よりも厳重に管理されるようになってきています。しかし、強迫症/強迫性障害(OCD)の人の中には、個人情報の漏えい等の問題を過剰に心配して、それらが強迫症状として現れることがあります。今回のコラムでは、個人情報に関連したOCDの人の悩みと、その対処法を紹介します。


目次
§1 個人情報への過剰な不安
§2 心配する範囲が過剰
§3 精神科を受診した情報
§4 悪循環から一歩踏み出す


§1 個人情報への過剰な不安

個人情報とは、特定の個人を識別することができる情報を指します。名前や住所、電話番号、生年月日、顔写真等々、これらはすべて個人情報です。個人情報に関連したOCDでは、次のようなことがあります。



自分や家族の情報が流出することなどによってもたらされる被害を気にする人がいる一方、自分のミスによって職場で扱う他者の情報が流失して、悪用されたりしないかと気にする加害タイプの人もいます。OCDでは、被害の内容が、情報の流出のように特定している人もいれば、何か漠然と悪いことが起きないかが気になるタイプの人もいます。いずれも重症になると強迫行為のために、作業に時間がかかります。職場では自分だけゆっくり作業をするわけにもいかず、仕事に支障が及びます。

§2 心配する範囲が過剰

個人情報の管理には注意が必要ですが、OCDでは、ときに不安と警戒する範囲が過剰となることがあります。

たとえば、PCやスマホ、携帯電話で、うっかり違うキーを押したことで、書きかけの文章を消してしまったり、途中のメールを送信してしまったりということは、誰しも経験することです。しかし、OCDの人では、そのような操作ミスによって、重要なメールを見ず知らずの人に送ってしまわないか、誤送信が原因で多額の料金を請求されないか、個人情報が洩れたりしないかなど、非常に悪い事態を連想してしまいます。

しかし、よくよく考えてみると、うっかりミスくらいでは、OCDの方が心配しているような状況には、簡単にはならないことがわかります。
また、PCに、ウィルスやスパイウェアなど悪意のあるソフトウェアが侵入することによって、情報が脅かされることはありますが、それは、ネット上の怪しいサイトを見たり、不審なメールに反応してしまったことをきっかけに生じることが多く、通常は、セキュリティソフトによって守られます。

このように、うっかり違うキーを押すことと、個人情報が脅かされることとは、操作の種類が異なるものなのです。そのあたりの区別がわかりにくいこともあるのですが、OCDの人は、怖さや不安によって、それらを区別することが難しく、混同しやすくなってしまいます。これは、ゴミやリサイクル物に、大事なことが書かれた紙が紛れてしまうのではないかという強迫観念でも同様です。

しかし、頭で考えていても、どういう操作なら安全なのか、絶対的な安心が得にくいものです。「万が一」の心配が頭から離れずに、インターネットで安全性に関して調べていると、よけい気になる情報を見つけて、ますます安心できないという悪循環になりがちです。自分がした行為が安全かどうか考えたり、調べたりすることが、強迫観念による不安を打ち消したいために行っているのであれば、それは強迫行為です。

§3 精神科を受診した情報


OCDに限らず精神疾患の患者さんの中には、病院へ提示する健康保険の情報を通じて、精神科を受診したことが勤務先に知られることで何か悪いことが起こるのではないかと心配している人がいます。しかし、医師をはじめ医療に従事する人、健康保険に関する業務を行う職員には、守秘義務が厳重に課せられています。

今でも、精神疾患の患者さんへの偏見はゼロではありませんが、精神科を受診する人は、増加の傾向にあり、現在では300万人を超えています。企業や社会にとっても、うつ病などの精神疾患によって生じる人材の損失をできるだけ減らそうとする意識が高まっています。そのため、労働安全衛生法が改正され、労働者が50人以上いる事業所では、1年に1度「ストレスチェック」を実施することが義務化され、中間管理職など多くの人がメンタルヘルスの研修を受けるようになりました。また、精神疾患といっても、昔に比べ、治療によって症状が改善したり安定する可能性が広がり、症状による苦痛や支障が一時的で済む人も少なくありません。したがって、精神科を受診したことで、不利が生じること自体おかしいのです。現代では、OCDの患者さんのほとんどが、精神科や心療内科を受診した経験があります。(⇒参照:OCDコラム第136回「診療につながらない患者さんの状況と家族の対応」)

情報の流失などを心配することなく、心の不調に気づいたら病院を受診するようにしてください。なかには、OCDに限らず精神症状やパーソナリティの特性によって、病的に猜疑心が強い人もいます。家族だけでは受診への説得が難しい場合は、症状に詳しい専門家を探してご相談ください。

§4 悪循環から一歩踏み出す

PCやスマホ・携帯電話は、ついつい長時間、使ってしまいます。そのため、PC等の機械の操作に強迫行為が現れると、OCDに費やされる時間や頻度も増えてしまい、OCD全体が悪化してしまうケースがしばしば見られます。また、PCやスマホでミスをした場合、他の人ならすぐに対応できることでも、OCDのために時間がかかったり、さまざまな事情から新しい機種に買い替えができないことで、精神的な悪循環になることがあります。

やはり、どのような経緯で発症したOCDであっても治療が大事になります。治療方法は、一般的なOCDと同様、薬物療法と認知行動療法です。ただし、併存疾患や発達障害を抱えていると治療法も変わることがあります。

個人情報の管理やPCの操作時に生じる症状のために、仕事に支障をきたすようならば、上司など職場の担当者に、そのことを伝える必要があります。しかし、OCDであると告白することは勇気がいりますし、どの程度理解してもらえるのかという問題もあります。また、どの程度なら、話すべきかという判断も難しいかもしれません。しかし、仕事に時間がかかると、他の人にも支障がありますし、不審に思われることもあるでしょうから、それらの点を含め総合的に判断してください。職場の人たちに伝える前に家族や主治医に相談する方法も考えられます。

いずれにせよ、OCDの治療は恐怖や不安の中に閉じこもるのではなく、できるだけ他の人や職場の状況に合わせて、一歩進む勇気を出すことがポイントです。