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第144回 OCDで困っていることとICF分類


有園正俊(OCDお話会世話人、認定行動療法士)

OCD(強迫症)の当事者と家族のサポートグループである「OCDお話会」では、2012年に会に参加されている方々に「OCDによってどのようなことに困っているのか」をアンケート調査しました。その結果を踏まえて、OCDお話会の世話人で認定行動療法士でもある有園正俊さんに、OCDの当事者への支援に足りないもの必要なものについて考察してもらいました。国連の世界保健機関(WHO)の国際生活機能分類(ICF)に沿って紹介してもらいます。そこからOCDの患者さんやご家族が抱える問題と望まれる支援がみえてくるのではないでしょうか。なお、回答者のプライバシー保護のために、個人的な情報は排除し、一般的な内容の範囲で掲載しています。


目次
§1 患者と家族が困っていること
§2 WHOによる障害の分類
§3 OCDでの障害分類と望まれる支援


§1 患者と家族が困っていること


2012年8月、9月にOCDお話会(東京都三鷹市)に参加した人たちに、OCDで困っていることは何かを質問し、紙面で回答してもらいました。以下、その回答の一部をWHOのICFに則って紹介します。「ICF」については、次項で詳しくお話します。


OCDお話会に参加されている方は、何らかの強迫症状を抱えていますが、必ずしも医師によってOCDと診断された人とは限りません。また、回答者には併存疾患を抱えた人や、強迫症状を抱えた人の家族も含まれます。以下、「 」内は、実際に寄せられた声です。

1 健康状態と心身の機能
OCDの症状である強迫観念強迫行為は、WHOが定めたICFでは精神機能のうち思考に支障をきたすものとして分類されています。以下、この項目に分類される声を紹介します。
精神機能に関連した回答
・「毎日が苦痛」
・「○○が気になってしかたない」
上記のような思いが情動精神的な活力にまで影響を及ぼして、次のような思いを抱くことがあります。
・「楽しさや充実感が味わえない」「リラックスできない」
・「今の自分に自信がなく、自分で判断や決断ができない。または先送りにしてしまう」
身体の状態に関する回答
・「疲れる」
・「強迫行為のし過ぎで皮膚が荒れて出血することがある」

2 活動の障害
OCDの症状は、日常でのセルフケア(入浴、洗面、着替え、掃除、ゴミ捨て)、移動、交通機関の利用、買い物、読み書き、物の受け渡し、日課の達成など、さまざまな生活の動作に支障を及ぼします。
・「入浴時間が長い」「入浴する回数が減った」
・「ゴミの処分に時間がかかる。部屋の片づけが億劫になる」
・「大事なものを落としたような気がして、歩くときに地面ばかり見てしまう」
・「気になり過ぎて、てきぱきと行動ができない」
・「医療機関の予約日に受診できない」

OCDにおける生活動作の障害は、重症度によって異なります。一般に重症になるほど、強迫症状に逆らって動作をコントロールすることが難しくなり、効率的に行動することが難しくなります。その結果、強迫症状に時間がとられ、やりたいことがあっても時間を確保できなくなってしまいます。さらに、OCDが重度から極度の方では、社会活動や社会参加ができずに自宅に引きこもるようになり、家族の支援に頼るようになることがあります。

3 参加の障害
OCDの症状によっては、社会や人とのつながりがもてなくなることがあります。その結果、孤立したり、経済的な自立ができずに困窮したりと厳しい環境に置かれることがあります。
仕事・学業
・「大学に行けない」
・「仕事中、症状に気をとられて、ミスをしてしまう」
・「これまでどおりの働き方ができず、休職している」
家族や友人との関係
・「友だちや家族とのコミュニケーションがなくなる」
・「自宅に人を呼ぶことができない」(不潔恐怖、もしくは部屋が片付かないため)
・「家族との接し方が難しい」
・「家族を巻き込んでいて申し訳なく思う」
・「家族へ強迫行為の協力を強制する」「母親に何でも確認を求める」
・「ときおり暴力的になる」「親にどなってしまう」
・「OCDの原因は、親のせいだと言ってしまう」
経済生活
・「強迫行為によって光熱費などが高額になる」
・「本人が働けないため、経済的な自立ができない」
・「家族が生活費や年金などの支払いも含め負担している」
このようなお金に関する回答も複数ありました。

4 社会・環境による困難

患者さんやご家族を取り巻く環境・社会的な問題としては、医療に関する回答が多く寄せられました。
医療に関して
・「OCD専門の病院や相談先が地元にない」
・「精神疾患の相談先はあるのですが、OCDのことをわかっている方が少ない」
・「認知行動療法を受けたいが、どこに行けばいいかわからない」
・「認知行動療法の費用が高い」

これらの背景には、健康保険などの医療制度、専門的な医師や心理士の研修や人材配置などの社会的な事情が影響していると考えられます。

§2 WHOによる障害の分類

世界保健機関(WHO)では、世界のあらゆる人の健康とそれに関連した状態を系統的に分類する枠組みとして国際生活機能分類(ICF)を作成し、2001年のWHO総会で採択されました。ICFでは、生活するための機能に困難がある状態を障害としています。生活機能と障害は、大きく次のように分類されます。「§1 患者と家族が困っていること」でご紹介した声も、この分類に沿って整理しました。



上記の表を図式化したのが次の図で、人の生活機能と障害は、健康状態(疾患)と背景因子(環境、個人)との相互作用によってもたらされると考えます。この分類は、内科や精神科などさまざまな領域の健康状態の人について、生活機能を判断するときに適用できます。[1]



それでは、上の図に照らして、脳卒中になられた方について考えてみましょう。

◆脳卒中によって歩行が不自由な人の例◆
体の疾患(健康状態)については、医療機関で診療を受け、症状の改善や悪化の防止を目指します。神経機能の一部がはたらかなくなり、「歩く」という活動に障害が生じた場合、車いすの利用やリハビリテーションで歩行訓練を行うことによって、自力で移動できるようになるかもしれません。しかし、外出した際に、階段やトイレに手すりがない、車いすで利用できるエレベーターがないという環境であれば活動の障害はまだ残ることになり、それらを環境因子といいます。社会的にバリアフリー化されることで環境因子も改善し、この人の活動範囲が広がります。

§3 OCDでの障害分類と望まれる支援

脳卒中の方の例では、歩行困難という障害は周囲の人に伝わりやすく、具体的な改善策が検討できます。実際にバリアフリー化することはすぐにはできなくても、改善の方向性はみえてきます。次に、OCDの人が抱える問題に、ICFの分類を当てはめて考えてみましょう。

◆OCDの患者さんの例◆
たとえば、OCDのために「予約した日時に病院に行けない」という問題を抱えている患者さんがいるとします。強迫症状によってよけいなことが気になるため精神機能がうまくはたらかず、外出のための準備や電車に乗るといった活動に支障をきたします。ここにかかわる環境因子としては、自宅から遠い病院にしかOCDに詳しい医師がいないとか、診療時間や予約のルールが厳密で遅刻すると診療が受けられないなどがあり、これらによっても制約を受けます。

OCDでも、精神機能、活動・参加、環境因子の3つの分野で、改善できる部分をみつけていけるといいのですが、たとえば、予約時間に間に合わなくても医療機関で融通をつけて受診してあげると、次回以降、遅刻することへの危機感が薄れ、強迫行為を止めて時間を守るということがより難しくなってしまうことがあります。このように、患者さんの強迫症状へ過剰に巻き込まれないような配慮が必要とされることが、OCDの支援での難しい点です。

しかし、OCDが重症で学校や職場に行けなかった人でも、治療によって症状が改善し、学校や職場に再び通えるようになった人はたくさんいます。OCDは「強迫症」と呼ばれるようになりましたが、つい最近まで「強迫性障害」といわれていました。「障害」といっても一生涯続くというわけではありません。病状は、一時的で済んだり、適切な治療で悪化を防止することが可能なため、まず患者さんの抱える症状に応じて、適切な診療のできる専門家に出会い、精神機能の改善を目指すことが大切です。

環境要因については、調査の回答から次のようなニーズがあることが明らかになりました。
① 薬物療法のみでは治療効果が得られない場合、認知行動療法などより専門的な治療を受けるにはどこに行けばいいのかが、患者・家族にもわかるようにしてほしい。
② 地域によっては、OCDにくわしい専門家がおらず、飛行機や新幹線を使って通院している現状があるが、各地域にOCDの専門機関や専門家がいるようになってほしい。
③ OCDの認知行動療法は、自由診療で経済的に負担が大きい。OCDへの認知行動療法にも健康保険が適用になってほしい。
④ OCDや併存疾患が重いために外来通院が困難な患者に、入院もしくはアウトリーチのようなサービスでOCDへの専門的な対応が可能なところが増えてほしい。

このような患者さんやご家族が適切な治療を受けやすい環境づくりを、社会を挙げて支援していただきたいと思います。


参考文献:
[1]世界保健機関(WHO)「ICF 国際生活機能分類 -国際障害分類改訂版-」中央法規2002年