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第143回 これって強迫症?⑥感覚的なOCD


OCDの強迫観念には、「茶色いシミを見ると血液かもしれないと気になって、感染症を心配してしまう」や「ガスの元栓が閉まっていなくて、火事になったらどうしよう」などのように、具体的なことを恐れるタイプがあります。一方、少数派になりますが、恐れる対象が具体的ではなく、ただ嫌な感情や嫌な感覚を打ち消したくて強迫行為をしてしまうタイプもあります。今回は、そんな感覚的なOCDを紹介します。


目次
§1 感覚的な強迫観念
§2 症状の内容は個人差が大きい
§3 感覚的なOCDに関連しやすい障害・似ている病気
§4 治療のポイント


§1 感覚的な強迫観念

感覚的な強迫観念として、例を挙げて2つのタイプを紹介します。



たとえば、「道路の舗装の切れ目を踏まないようにする」といった強迫行為でも、線を踏むことは縁起が悪いと、「縁起」に関連付けていることがあります。テーブルに食器を置く動作を繰り返す場合も、食器の裏に何か大事なものが張り付いていないかが気になって、何度も確認をしてから置くという人もいます。しかし、強迫行為をする理由が自分でもよくわからず、あっさりと済ませるのが困難で、何度も繰り返したくなる衝動が強いタイプの人もいます。


嫌なものが思い浮かんだとき、なんとなく嫌なタイミングのときに行動をすると、その行動がどこか不十分に思えてしまいます。また、そのときに使った物まで嫌なイメージがついてしまい、その後不快に思えてしまうため、そうならないように行動を起こすタイミングを図るなどの強迫行為を繰り返してしまいます。

感覚的なOCDの症状もほかのOCDと同様に、重症化するほど強迫行為をしたいという衝動が強くなり、止めることが難しくなります。その結果、多くの時間を強迫行為に奪われ、学業や仕事に支障をきたし、非常に苦痛で疲れてしまうため、治療が必要となります。

§2 症状の内容は個人差が大きい

子どものOCDでは、手洗いや動作の繰り返しなどの強迫行為をしていても、それをしたくなる理由が定かではなく、言葉による強迫観念があまりない場合があります。理屈で考えるのではなく、ただ嫌な感覚や感情を打ち消すために強迫行為をしているタイプが少なくありません。しかし、成人でも、このようなタイプの強迫症状に悩む人はいます。

このようなタイプのOCDでも、症状の詳細な内容は、患者さんによってそれぞれです。いくつか紹介いたします。



§3 感覚的なOCDに関連しやすい障害・似ている病気

OCDに関連しやすい障害や似ている病気を理解することで、その後の治療に生かすことができます。

発達障害

OCDに関連しやすい障害に「発達障害」があります。先天的な脳の発達の特性によって現れる障害で、二次的にOCDを発症することがあります。主な発達障害で、OCDとの関連しやすい特性を紹介します。

自閉スペクトラム症――自閉スペクトラム症は、もともと特定のものにこだわる、特定の感覚が気になるといった特性があり、同じことをずっと続けたり、繰り返したりする人がいます。しかし、こだわる対象やルールは、年齢とともに変わっていくため、特性によるものか、二次的なOCDなのか判別が難しいことがあります。(*1)

注意欠如・多動症(ADHD)――注意の欠如によって、うっかりミスをした経験が多いために、不安を感じやすく、多動性によって落ち着いて行動することが苦手な人がいます。そのような人が、ミスをしないようにと指摘されると、ほどほどの対応ができずに過剰にやり直したり、行動をした後に、そのまま終えることが耐えられずに繰り返してしまうといった二次的な強迫行為を抱えてしまうことがあります。

動作のコントロールが困難な精神疾患

特定の動作を繰り返してしまいます。しかし、これらの行為は、強迫観念のような嫌な考えにかられて行うものではありません。

チック症、トゥレット症――自分では意識しないのに、手や顔の一部が勝手に動いてしまいます。これは反射的な動きで、OCDの強迫行為が自分の動きをある程度意識して行っている点とは異なります。チックは、一過性のものも多いです。(*2)

抜毛症(ばつもうしょう)、皮膚つまみ症――自分の健康な毛を抜いたり、皮膚をむしったりする行為を頻繁に繰り返します。(*3)

§4 治療のポイント


感覚的なタイプのOCDの患者さんは、成人では割合が少ないため、精神科医によっては、このタイプの患者さんに出会った経験があまりない人もいます。そのため、できるだけOCDにくわしい専門医に相談することをお勧めします。

基本的な治療方針は、ほかのタイプのOCDと同じで、薬物療法と認知行動療法になります。
強迫観念に不安や恐怖といった感情があまりない患者さんでは、強迫行為をしないでいる間のもやもやした不快感から逃れて、すっきりした状態になりたくて強迫行為をすることがあります。そのような患者さんでは、すっきりしようとすると、強迫症状の悪循環に陥ってしまうことを「心理教育」を通して知ってもらいます。

そして、認知行動療法の曝露反応妨害を行う場合は、不安や恐怖よりも、強迫行為をしないでいるときのもやもやした不快な感情に曝露療法をしていくような課題を考えます。モヤモヤをなくすのではなく、あえて自分からモヤモヤを抱えて行動するようにします。

また、患者さんによっては、発達障害の特性を抱えているかどうかの診断が重要な場合があります。診断には、特別な検査が必要な場合もありますが、それによって自分が元々抱えていた特性がわかれば、それに応じた対処の方法を考えやすくなります。

たとえば、自閉スペクトラム症によって、他人が指示する内容や意味を誤解しやすい人や、注意欠如の特性のためにうっかりミスが多い人は、自分の理解が正しいか確認をしたほうがいい場合があります。自分の特性を知らないために、子どもの頃は問題なくできていたことに対しても、これでいいのか不安に感じて1回で済ませてはいけないような強迫症状が現れてしまうなど、OCDの症状にも影響があるためです。そして、治療する側の医師も、発達障害の特性を踏まえておかないと、治療の効果が得にくかったり、一旦、強迫症状が改善しても、再発しやすい場合があります。


*関連するOCDコラム
*1 発達障害のこだわりとOCDとの違い――第106回「これって強迫性障害? それとも、ただのこだわり?①順序・対称・完璧主義」
*2 チック症・トゥレット症――第118回「金生先生インタビュー(全3回) 子どものOCDとは? Vol.1 チック、発達障害と子どもの精神症状の特徴」
*3 抜毛症、皮膚つまみ症――第125回「 抜毛症と皮膚むしり症」