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齊藤万比古先生インタビュー(全2回) Vol.2

ひきこもりのガイドライン


齊藤万比古先生(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会愛育研究所 児童福祉・精神保健研究部長、愛育相談所・所長)に、不登校とひきこもりについてとその支援についてうかがったインタビューの2回目です。
齊藤先生が研究代表者となって、2007年「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」[1]がまとめられ発表されました。今回は、ひきこもりと、発達障害、強迫症/強迫性障害(OCD)との関係、医療や社会へ橋渡しするための支援、家族の関わり方などについてお聞きしました。


目次
§1 発達障害とひきこもり
§2 思春期の心理特性とOCD
§3 子どもが受診するには
§4 社会への橋渡し役となるコーチを探す



§1 発達障害とひきこもり

●発達障害を抱えた人のひきこもりについて、お聞きかせください。
社会福祉法人恩賜財団母子愛育会
愛育研究所 児童福祉・精神保健研究部長
愛育相談所・所長
齊藤万比古先生 


齊藤:全般的に発達障害の人たちは、学校のなかで適応感がもちにくいという面がありますが、とくに大人になってから社会を回避して、ひきこもりになりやすいのは、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)の人たちです。以前の診断基準では、アスペルガー症候群、広汎性発達障害と呼ばれていた人たちも含まれます。

彼らは、思春期になっても通常発達の人に比べて、他者の心がわかりにくいという特性をもっているため、そこから生じる対人関係の葛藤に直面すると、「自分は正当に評価されていない」「意地悪ばかりされる」「迫害される」と被害的な思いを他人や社会に抱きやすいのです。また、ASDの人たちは他人と親しくなりたいという欲求が少ないため、ひきこもることにあまり苦痛を感じない側面があります。そのため、ひきこもりへの親和性がASDでは高くなると思われます。支援が非常に困難な例もASDでは多く、「今の生活(ひきこもり)は、私にあっているのに、なぜ社会に出ていく必要があるんですか」と、真顔で聞かれることがあります。このようなケースでは、社会復帰への動機付けが難しいことがあります。

注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(ADHD)の方も、環境への適応がうまくいかなくなり、不登校やひきこもりになることはありますが、彼らは本質的に人に受け入れられたい人たちですから、不登校中であっても自分を受け入れてくれる人間関係には、一生懸命になるところがあります。不登校が長期化しても、ASDの人より支援の手が届く可能性が高いと思われます。


§2 思春期の心理特性とOCD

齊藤:発達障害は脳の器質によるものですし、強迫性障害(OCD)も昔は心因性疾患と考えられてきましたが、最新の脳科学の研究によって、脳の生理学的な面が関係することがわかってきました。

強迫症状はOCDの人を苦しませていますが、本来、強迫の心理作用というのは、有効な心理的防衛(*1)でもあり、衝動をめぐる葛藤の苦しさを打ち消す方法の一つとして、優れている面もあります。発達障害のように脳の生理学的な要因が優勢な強迫症状もありますが強かったり、親との距離が近すぎたり、親に侵入的に支配され過ぎたりしている場合には、そのような状況を一時的に中和する手段として強迫的な症状が現れることは、幼児からあり得ることです。また、攻撃性や性的な衝動が内的に高まってくる思春期に、それらをうまく抑え込むための心理的努力のプロセスが、強迫症状として現れることがあります。そのため、3歳、4歳、5歳ぐらいの幼児期と、思春期の入り口である10代前半の5年間とは、一般に強迫症状が現れやすい年頃です。

10代に入ると性衝動が高まるのですが、対象はまずは身近な異性の家族に向かいます。それを意識しそうになると、途端に強烈な不安と恐れに襲われます。そのとき、心理的な防衛として、本当に困っている問題から対象を無意識のうちに別のものに置き換えることがあり、それが強迫症状となることがあります。たとえば、身近な異性として、母親や姉、妹などへ性的なものを含んだ関心が高まっていると、その男子は、自分の中のそのような衝動を外の人やものに置き換えて、次のような思考をもつことがあります。
・教室で偉そうに命令したり、集まって不快なことをいいまくっている女子は汚い。
・女子たちが触った教科書も汚い、だから持てない。
・隣に座っている女子は、いやがるのをわかっていて、わざと僕の教科書に触ろうとする。
・女子に触られた教科書は洗わなくてはいけない、アルコールで消毒しなくてはいけない。

このように異性の同級生への不潔感に置き換えて、家に帰ってくると過剰に手を洗うという儀式を続けている男子がいますが、このようなケースでは、家族関係のなかで高まる衝動を抑え込みたいという思いが、同級生の女子への不潔感へ置き換えるという、強迫的な防衛が作動しているのです。

これは、女子にもあることで、10代前半は「お父さんは不潔」という年頃ですよね。これは自分のなかで高まってきた衝動のコントロール手段として、「お父さん、離れていて!」という心の叫びを父親への不潔感に置き換えていると思われます。このように、思春期の子どもは、家族との関係からさまざまな刺激を受けていて、強迫症状の出やすい環境にいるわけです。

強迫症状が強くなると、母親まで強迫症状に巻き込み、学校にも外にも出ていけなくなることがあります。実際に、不登校となると、母親は心理的にも物理的にも、さらに近い存在になるので、ますます依存しつつ否定しなくてはいけないという悪循環に陥り、強迫症状が強まることになります。

§3 子どもが受診するには

●児童・思春期の患者さんでは、受診できない本人に代わって、最初は家族だけが相談に訪れることもあるかと思いますが、いかがでしょうか。

齊藤:親のいうことに割と素直に応じて、あるいは親に逆らえないで受診するのは、小学校の3、4年生くらいまでで、それ以上の年齢の子どもでは、よほど苦しくない限りは、おとなしく親についてくることはないですね。したがって、子どもの精神医学的な支援は、親を介して、スタートすることが多いのです。

医療機関では、初回だけでも、本人に来てもらわないと診療ができません。しかし、本人の受診が難しくて、医療以外の相談機関しか利用できない家族もたくさんいます。また、医療機関を受診したとしても、思春期の患者さんが2回目以降も通院するという保証はありません。

子どもにとって不登校は罪悪感を刺激する行動のようで、「不登校している自分を、大人はみんな怒るだろう」と警戒しています。学校に行けなくなって、膨れ上がってきた自己愛を打ち砕かれることへの恐れがとても強くなっているため、ますます受療は難しくなります。

そのため、思春期の患者さんのケースでは、児童精神科医は、初めて子どもと出会ったときに、いかに子どもにこちら側のメッセージを伝えていけるかを工夫します。本人に会えない場合は、親御さんを支えることを通じて、メッセージを届けるようにしていきます。

ガイドラインでは「ひきこもり支援の諸段階」の定義として、最初の段階を、家族支援的なものが中心になる「出会い・評価段階」としました。最初は、家族を支えることを確立する段階で、これは思春期の不登校もまったく同じです。まず親が現実をしっかり受け止めて、腹を据えて関わる決意をしないと、子どもの社会行動が変化しないことは、よくあることです。

親に抵抗できなくて、連れられて来た子どもはほとんどといってよいくらい、イヤイヤ来ているという態度を露骨に示しますし、初期は話をしても続かないですね。子どもと話したとしても5分か10分、残りの時間は親と話すことになります。親を中心にした支援になりますが、2回目以降は親だけが来てくれても、意義があると感じてくれれば、それで構わないです。30分の診療時間のうち、本人と20分、25分と話していけると、治療がかみあい始めてきますが、そうなるまでに長い期間を要します。教育相談所や教育センターの相談部門、そのほかNPOが主宰するフリースクールなどの支援や相談の現場でも同様のようです。

●親への支援から始めて、それを本人へつなげていくのが難しいケースもあるかと思うのですが、いかがでしょうか。

齊藤:不登校の子どもは、学校に行っていないという罪悪感に加え、親のそばにいる時間が長くなるため、強迫症状が強くなってくることがあります。すると、たいてい母親を強迫症状に巻き込みます。その結果、母子の関係性が非常に近いものになり、幼児返り(*2)を起こします。

本来、思春期は幼児的な心が浮かんでは消えることを繰り返す時期ですが、このような状態になると、幼児的な心が消えずに、持続する退行(*2)が生じます。たとえば、「1年間、学校に行っていないんです」と、連れられてきた子どもは、中学2年生であっても、一般的な中2の心の状態にはないわけです。

これは思春期の子どもに限ったことではなく、大人のひきこもりも同じです。30代の大人でもひきこもりが長期になると、母親への依存的な心性が露骨になっています。このような場合も退行が生じていることが多く、他者に対する恐れが、まるで幼児が大人を恐れるかのように強まっていることがあります。しかし、それ以外の面は成人ですので、あの手この手で理屈と強がりを誇示します。

このような点が、不登校、ひきこもりの支援の難しいところです。OCDにおいても、社会を回避し、親との密着が進んでいるケースでは、同じような現象が起きており、そこが治療を進める上で最初の難関になると考えられます。その部分を支援のなかに組み込んで考えないと、うまくいきません。

§4 社会への橋渡し役となるコーチを探す

●「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」に関して、補足していただくことはありますか。
ひきこもりの人は深く傷つ
いていることが多いと語る
齊藤先生

齊藤:ガイドラインに書かれている内容を、実際の支援で行う際に、注意してほしいことが2つあります。1つは不登校、ひきこもりの状況にいる人は、社会へ適応できなくて、家庭のなかにいるという単純なことではありません。かつての社会的に適応していた頃と同じ人だとは信じられないくらいに、深く傷つき、家庭のなかに沈潜しているわけです。そのように傷ついた人と社会との間を埋めてゆくための支援は、腹を据えて、患者さんと歩調を合わせる覚悟が必要です。非常にデリケートな作業を辛抱強く行わなければなりません。そのような方法の大筋を示したものがガイドラインですので、周囲の人や支援のチームとともに、これを基に一人ひとりにあった具体的な方法を考えていく手掛かりにしていただきたいと思います。

もう1つは、このようなガイドラインが必要とされるということ自体が、ひきこもりという問題の難しさを語っています。ですから、当事者も親も、その気になればすぐに以前の生活に戻れると楽観視せずに、社会に参加するために、一緒に歩んでくれるコーチや支援者をもつことをお勧めします。一人では難しくてもコーチや同じ経験をした仲間と一緒ならば、社会や学校は、手が届く世界になっていくということをわかっていただけたら嬉しいです。

●社会への橋渡し役となるコーチをどうやって見つけたらよいでしょうか。

齊藤:ひきこもりも不登校も、長い期間にわたって、社会的に注目されつづけています。そのため、現在は、コーチ役になってくれる人は、決して少なくはないと思います。辛抱強くコーチを探すことです。しかし、本人自らがアクションをとることが難しいのが、ひきこもり、不登校の特徴ですから、親がある程度、見当をつけてあげることが必要です。コーチや支援者が見つかれば、その後は彼らが、本人とご家族を含めて社会との橋渡し役を担うことになるだろうというイメージです。

社会への橋渡し役となるコーチを探すためには


以下の機関に相談してみましょう。ただし、継続的にコーチをしていただける人材がいるとは限りません。以下には、社会への橋渡し役となるコーチや支援者の情報を得るために相談する機関も含まれます。ひきこもりや不登校の人たちの背景には、精神疾患や心理的に困難な問題がある場合が多いので、精神科医療や臨床心理の専門家と連携できる機関・人材が望ましいと思われます。



*注釈
*1心理的防衛――自分の中から沸いてくる欲求、衝動、あるいは外からのストレスから心を護るために、それらを自我が調整していく作用。
*2幼児返り、退行――つらい状態に陥ったときに、通り過ぎてきた幼い時期の発達段階に戻った行動や表現をすること。心理的な防衛機制の1つ。


*文献
[1] 研究代表者 齊藤万比古「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(H19-こころ-一般-010)」