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齊藤万比古先生インタビュー(全2回) Vol.1

ガイドラインから考えるひきこもり支援


2007年に、齊藤万比古(さいとう・かずひこ)先生(当時:国立国際医療研究センター国府台病院)が研究代表者となって、「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」[1]が発表されました。ひきこもりの背景には、強迫症/強迫性障害(OCD)をはじめとする精神疾患があることが多く、そのような特性を踏まえて、支援していくための指針がまとめられました。齊藤先生は、児童思春期の精神医学がご専門で、不登校の問題にも長年、関わってこられました。OCDコラムでは、齊藤先生に、不登校、ひきこもりとその支援についてインタビューさせていただき、今月と来月の2回に分けてご紹介します。


目次
§1 児童精神科と不登校の問題
§2 ひきこもりの社会問題化とガイドラインの誕生
§3 ひきこもりの多軸評価
§4 パーソナリティ傾向の評価



§1 児童精神科と不登校の問題
社会福祉法人恩賜財団母子愛育会
愛育研究所 児童福祉・精神保健研究部長
愛育相談所・所長
齊藤万比古先生 
●齊藤先生は、児童思春期の精神医学がご専門ですが、不登校の支援も大事なテーマの1つとうかがっています。どのような経緯で不登校の支援が大事だと思われるようになったのでしょうか。

齊藤:私が精神科医になったのは1975年で、最初の4年間は成人患者を診ていました。その頃、出身校の医局で週に2日ほど児童精神医学と精神分析を専門にした先生の研修を受けていました。私は児童精神医学のほうに親和性を感じ、4年後、国立精神・神経センター国府台病院(現:国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国府台病院)の児童精神科に移りました。そこは、渡辺位(わたなべ・たかし)先生という不登校に関して有名な方が医長をされていました。隣接している精神衛生研究所(現:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)には、上林靖子先生もいらっしゃって、そちらの児童部とも共同で臨床を行っていました。

全国から不登校の子どもたちが渡辺先生のもとへ訪れるため、私も診察する機会が多くなったわけです。当時、不登校は入院治療が基本で、入院している子どもたちは、強迫性障害も含めたさまざまな精神疾患を背景に抱えていました。そして、「これは不登校という大きなくくりだけでは抱えられない面もあるのではないか」「実は不登校は重層的な現象で、親が悪い、子どもが悪い、学校が悪いという論理では対応できない世界じゃないだろうか」と、若いながらに思ったんです。それで不登校に焦点を定めた仕事をしてきたわけです。当時、不登校の子どもをもつ親が対処に困って入院を求めてきても、不登校であること以外は入院が必要なほどの精神症状を持っていない場合も多く、だからといって、そのような子どもが自ら不登校・ひきこもり状態を解消できるかというと、それは難しいのが現状でした。また、当時は、ほかに受け皿もない時代でした。

1992年に文部科学省が、「学校不適応対策調査研究協力者会議報告」を発表し、「不登校はすべての子どもに生じうる」という見解を出しました。当時、「登校拒否」という言葉から、「不登校」と呼ぶようになり、教育界が不登校に積極的にかかわるようになってきていました。そして、適応指導教室(*1)などが置かれるようになり、「不登校イコール学校教育の周辺では支えられない世界」というわけではなくなってきたのです。

国府台病院の児童精神科では、不登校の子どもたちを入院治療の対象としていたのですが、入院患者は減っていきました。そのころ、渡辺先生から私へ医長の交代があり、不登校ではなくても、病院のある市川市とその周辺の地域で生じる子どもの精神の問題に関しては、広く受け入れるという方針に変えていきました。


§2 ひきこもりの社会問題化とガイドラインの誕生

齊藤:90年代後半からひきこもりが注目されるようになりました。不登校の児童の10%くらいがひきこもりに移行し、高校生、大学生くらいからひきこもりになる人も増え、社会問題化されていきました。

イギリスで、ニート(*2)という言葉が使われ出したころ、日本では精神科医の斎藤環さんが『社会的ひきこもり――終わらない思春期』(PHP新書、1998年)を著し、「ひきこもり」という言葉が非常に注目されました。当時、内閣府は、若者の支援ということを非行から始めて、非行の周辺領域まで広げてきたところでした。ただし、これらは基本的に、社会問題としてのひきこもり論で、どちらかというと就労支援を中心としたニート対策がとられました。

実際に、ひきこもりの人の多くが社会の矛盾を抱えている面がありますが、同時に、個人的にも追い詰められていて、健康な心でひきこもり生活を送っている人はほとんどいないわけです。そんな苦しみをもたらす精神疾患に対しても支援が必要ではないかと、精神科医療で仕事している人間として考えたわけです。

また、ひきこもりの人は、社会との関係を閉ざしている人が大半であり、この人たちの社会参加を支援するには、病院だけではなく、保健所や、それを指導する精神保健福祉センターの担当者が公的な立場からかかわっていくしかないわけですね。90年代の終わりから、かなり盛んに精神保健(*3)の人たちによる支援が行われるようになりました。

ところが、そのような支援を行うための指針がないわけです。当時は、ひきこもりの問題に精神保健がかかわると、「社会的な問題を病気にするのか」という批判がある時代でしたが、2003年、伊藤順一郎先生たちによって厚生労働省の最初のガイドライン「『ひきこもり』対応ガイドライン」が発表されました。それによって、ひきこもりは精神保健による支援の対象であることが宣言されました。その影響もあり、全国の保健所、精神保健福祉センターがかかわるようになり、NPOもたくさんできました。精神保健の分野での活動が行われていくうちに、2005年前後に、ひきこもり支援の専門家たちから、もっと具体的な指針が欲しいという声があがり、私が中心となり、伊藤順一郎先生にも斎藤環先生にも加わっていただき、ガイドラインを作成することになりました。

§3 ひきこもりの多軸評価

●ひきこもりへの支援について、ガイドラインでも「多軸評価」が採用されています。精神的疾患と多軸評価についてお聞かせください。



齊藤:ひきこもりをもたらす精神疾患の一群に統合失調症などの精神病がありますが、ひきこもりの背景となる精神疾患はほかにもあります。強迫性障害、社交不安障害、全般性不安障害、うつ病性障害などが比較的よく聞く疾患です。そこで第1軸として、どのような精神疾患を背景に抱えているのかを評価します。

一次性の精神疾患が背景にあり、その症状の一環として、社会的回避行動が出てきて、不登校・ひきこもりが起きることがあります。つまり、不登校・ひきこもりの原因となる精神疾患です。一方、不登校、ひきこもりの人は、そうすることでいったんは楽になりますが、すぐに挫折感やさまざまな苦悩が襲いかかってきます。その結果、二次的に抑うつ状態になったり、不安が強まってきたりするのです。強迫性障害でも、不登校やひきこもりになって何か月間か経ってから、強迫症状が現れてくるケースも少なくありません。

実際、ひきこもりという社会的回避の悪循環が起きている背景には、一次性であれ、二次性であれ、精神疾患の影響があることが多いので、「今のこの心の苦しみに、どのようなお手伝いや治療ができるか一緒に考えていきましょう」という提案は、やみくもに「ひきこもっていないで外に出ましょう」というよりも、支援者にとっては、アプローチしやすいものだったんですね。それで精神疾患を多軸評価の中心に据えたわけです。

実際に、精神疾患の症状が和らいでくると、悪循環が改善されることが結構あります。たとえば、不安が減ることで、落ち込んでいた気持ちが改善されたり、きちんと自己と直面できるように支援してくれる人がいれば、防衛的に肥大した自己愛的な部分にも目を向けることができるようになるかもしれません。幼児返りして、母親を思い通りに動かすことで自分の挫折感や自信のなさを埋めようとしている退行的な心性が目立つケースでも、支援者が信頼を得ることで徐々に母親離れしてくれるかもしれません。ひきこもりという大きな出来事とは別に、OCDにはOCD、うつにはうつの診断法や治療法があるわけで、背景にある精神疾患を1つの軸に据えることは、問題を改善する重要な手掛かりを与えてくれるという点で重要です。

第2軸として、あえて発達障害を精神疾患の軸とは別軸にしました。精神疾患は後天的に発症するものと考えられています。素質を生物学的にもっていたとしても、環境との相互作用の悪循環がなければ発症しないで済むかもしれないというのが、今のところ多くの精神疾患の発症仮説です。ところが、発達障害は別で、もって生まれた脳の特性を意味しているのです。この特性をもって、不登校やひきこもりになっている人たちへの支援は、発達障害ではない人とはアプローチが異なることを、不登校支援で感じてきました。

不登校やひきこもりの人のうち約1/4が、発達障害といわれていますが、その人たちに、発達障害を考慮しない支援を提供していたら、おそらくドロップアウトしてしまうでしょう。ひきこもりの背景にある発達障害はきちんとみつけだすことが必要と考え、発達障害を1つの軸にたて、区別して示しました。

§4 パーソナリティ傾向の評価


齊藤:不登校・ひきこもりの重要な背景要因であるパーソナリティの傾向を第3軸としました。支援の大きな枠組みは同じでも、個々のケースにどう付き合うかという点では、パーソナリティによっても、支援する側の姿勢や提供する支援の質が変わってくるためです。


たとえば、人に弱みを見せない自己愛的なパーソナリティの人がいて、対極には、おそらく人とのかかわりをあまり必要としない、もしくは人とのかかわりを望ましいと思えないスキゾイドパーソナリティ(*6)の人がいます。前者は、他者との関係を強く意識するタイプで、境界性(ボーダーライン)、依存性、回避性のパーソナリティも、それに近い位置づけになります。後者のスキゾイド性は、他人への関心がほとんどなく内閉的で、強迫性パーソナリティは内閉性についてはどちらかというとそれに近いかもしれません。このように当事者のパーソナリティによっても、支援は微調整すべきだと考えられます。

不登校の場合、児童、思春期であるため、それほど分化したパーソナリティはみえませんが、その優勢な心性の特徴から、次のように不登校のタイプを分類しました。

第1のタイプは、過剰適応型です。強がって弱みをみせずに学校に通っているうちに、あるところでポキンと心が折れるような挫折を経験し、通学できなくなるというパターンです。このタイプは、支援を受けて、久しぶりに学校へ顔を出すことになっても、昨日まで学校に来ていたような顔をして背伸びしないといられないんですね。これが不登校では一番多いタイプです。

2番目に多いタイプは、受動型です。すごく不安そうに委縮して集団のなかにいる、消極的な面が強まってしまったタイプで、過剰適応型よりやや少ないです。

この2つを比べただけでも、支援法はまったく異なります。過剰適応型に対しては、背伸びした面も認めてあげながら、本当は自信がなかったことに直面できる心を育てていくようなアプローチが必要でしょう。このような子どもたちのプライドをつぶしたら、たちまちに支援の場からドロップアウトするのが目にみえていますから、プライドをつぶさないように配慮します。一方、受動型の委縮した子どもには、自分が通用する場所や適応法があるという気持ちにさせるような支援が必要になってくるのです。受動型の子どもには、怖がらせないようにしながら、優しく背中を押してあげなくてはいけません。一方、過剰適応の子どもは背中を押されることには直ちに拒否をします。

第3のタイプは、これら2つに比べて圧倒的に少ないのですが、非常に衝動性が高いタイプです。発達障害の子の多くはここに入るかもしれません。ほかの子どもからみると自分中心的で、場の空気を読まない自分勝手な人物にみえます。思春期の子どもにとって、そういうタイプは仲間に入れにくいものです。仲間が得られず、孤立のなかから不登校になってしまうケースがあります。

第3のタイプには、大人でいえば、ボーダーライン、境界性パーソナリティ障害に近いタイプもあり、女子に多い傾向があります。このタイプの多くに虐待の経験があります。本当に親離れが必要となる年齢になったとき、自立できるほど自分が充実していないこと、空っぽであることを思い知らされるのです。この子たちは、対象にしがみついたり、対象を振り回したりする動きを示し、ほかの子どもたちからは、非常に自己中心的で、自分勝手な人間とみえるのです。だから、このタイプも集団からはじき出されやすい。

これら第3のタイプは、拒絶されることを、何度も経験してきた子どもたちですから、第1と第2のタイプの支援の枠組みではなかなかうまくいきません。支援にのってこないどころか支援の枠を壊してしまいがちです。自分勝手なことをいい始め、思い通りにならないと乱暴することも起こり得るわけです。このタイプは、他者を傷つけるという名目で、結局は自分を傷つけていくという悪循環のなかにいます。この悪循環を止めてあげなくてはいけない。彼ら彼女らを受け入れてくれるのが、ときに非行グループや反社会的な集団であることがあり、女子であれば、性非行に陥ることもあります。そのようなことにならないように、医療や学校・教育がかかわれるうちに、不登校の枠のなかで、ちゃんと支援ができないだろうかと考え、優勢な心性の特徴による分類を不登校支援に据えることを考えました。


次回コラムでは、斎藤先生のインタビューの後編をお届けします。


*注釈
*1適応指導教室――不登校児童のために、教育委員会が学校の空き教室や学校外に設置し、学校と共同で、相談、学習指導などの活動を行っている。
*2ニート――就学、就労、職業訓練についていない若者(15~34歳)。Not in Education, Employment or Trainingの略称。
*3精神保健――精神的な健康の保持、精神疾患の予防、回復・リハビリテーションのための活動。
*4パーソナリティ――人格。気質(人が元々もっている感情や気分の傾向)、性格(後天的に形成された感情や行動の表現、態度など)、能力からなるその人の心理的な傾向。
*5パーソナリティ障害――パーソナリティの際立った偏りによって、対人関係、社会生活、職業において重大な支障をきたしているもの。
*6スキゾイドパーソナリティ――家族も含め他人と親密な関係を持ちたいと思わない、参加しても楽しいと感じない、ほとんどいつも孤立した行動を好む、親しい友人がいない、情動の平坦さなどの特性を青年期早期までにもつようになるタイプのパーソナリティ。



*文献
[1] 研究代表者 齊藤万比古「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(H19-こころ-一般-010)」